ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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IF ダリアが代表選手

ドラゴン「グアアアア!」⇒ダリア「アバダ」⇒ドラゴン「」
マーメイド「お兄さん攫ったった」⇒翌日のカルパッチョ
スフィンクス「問題を解けばここを、」⇒ダリア「アバダ」⇒スフィンクス「」


ファーストコンタクト

ハリー視点

 

もう意味が分からなかった。

僕は昨晩まであれだけ『代表選手』が誰なのかを楽しみに……同じグリフィンドールから選ばれるのを楽しみにしていたはず。聞けばアンジェリーナが『炎のゴブレット』に名前を入れたとの話だ。彼女なら優秀だし、それにグリフィンドールらしく勇気も満ち溢れている。きっと彼女が『代表選手』に選ばれるに違いない。ダリア・マルフォイが『年齢線』を越えたなんて噂もあったけど、たとえ奴が本当に名前を入れたのだとしても、アンジェリーナの方を『炎のゴブレット』は選ぶ。同じグリフィンドール生が選ばれれば、これ程嬉しいニュースはない。そう昨晩まで僕は思っていたのだ。

それなのに……

 

「よ! 我らの英雄の登場だ! まったく、本当にどうやって『年齢線』を越えたんだよ!?」

 

「……フレッド。昨日も言ったけど、本当に僕は名前を入れていないんだ……」

 

「またまた~憎いぜ兄弟! まぁ、いずれは教えてくれよな! ほら、朝食をしっかり食え! 体力をつけないと試練は乗り越えられないぜ!」

 

何故僕はこんな目に遭っているのだろう。

一夜明けたというのに、グリフィンドールの興奮が収まることはない。余程僕の名前が『炎のゴブレット』から出てきたことが嬉しくて仕方がない様子だった。名前を実際に入れたアンジェリーナでさえも、

 

「ハリー! 頑張ってね! これで私が出られなくても、少なくともグリフィンドールからは代表選手が出たんだから! ディゴリーに勝って、この前のクィディッチ戦のお返しをするのよ!」

 

そんなことを僕が大広間に現れた瞬間言い出す始末。他のグリフィンドール生も似たり寄ったりの反応だ。

一方他の寮の反応はと言えば、

 

「……何が代表選手だ。ただの目立ちたがり屋なだけだろ。セドリックがあんな卑怯者に負けるわけがない」

 

「……どうせ周りにチヤホヤされていい気になっているだけさ。ホグワーツの代表選手はセドリック一人で十分だ」

 

グリフィンドールとは打って変わって冷たいものでしかなかった。ハッフルパフに至っては軽蔑してすらいる視線を送ってきている。スリザリンはこちらに意味ありげな視線を送るだけに留まっているけど、皆でコソコソ集まって何かを話し込んでいる様子から、今後僕に何かしらの嫌がらせをしてくることは確実だ。

つまりグリフィンドールだけではなく、ハッフルパフやレインブンクロー、そして僕の敵であるスリザリンに至るまで反応こそそれぞれ違っても、僕自身が『炎のゴブレット』に名前を入れたのだという認識を持っていることだけは共通しているのだ。

事態を未だに理解しきれていないこともあるけど、突然陥ったこの状況に憂鬱な気分を抑えることが出来ない。

何より僕の現在の状況を、真の意味で理解してくれる人間が数人しかいないことが心細くて仕方がなかった。

状況を正しく理解してくれているのは、先生で言えば、

 

『……ポッター、ワシはお前が名前を入れたわけではないと分っとる。敵はおそらくお前の名前を四校目として提出したに違いない。そして『炎のゴブレット』を騙すには、並外れた強力な『錯乱の呪文』をかける必要がある。そんなことが出来る奴……そしてそんなことをする動機がある人間は、この学校でも数人しかおらん。ポッター……カルカロフとダリア・マルフォイには十分気を付けるのだ。奴らはお前の命を狙っているに違いないからな。『炎のゴブレット』から名前が出た以上、お前は魔法契約によってこの対抗試合を戦い抜かねばならない。おそらく奴らはそれを逆手に利用してお前を殺そうとしているのだ』

 

試合説明後、僕に助言をくれたムーディ先生。そして最後まで心配そうな瞳で僕を見てくれていたダンブルドアくらいのものだ。

そして生徒は、

 

「おはよう、ハリー。……これ持ってきてあげたわ。ちょっと散歩しない? ……ここは今の貴方にとって辛いだけだと思うから」

 

僕の親友の一人であるハーマイオニーくらいのものだった。

憂鬱な気持ちで朝食を摂ろうとする僕に、ナプキンに包まれた数枚のトーストを抱えた彼女が話しかけてくる。

……もう一人の親友であるロンの姿はどこにもありはしなかった。

昨晩ロンと交わした会話が夢でも何でもなかったことを再確認した僕はより一層憂鬱な気分になったが、それ以上にようやく現れた僕の味方に嬉しくなり、僅かに明るい声音でハーマイオニーに応えた。

 

「うん! 勿論! ……ありがとう、ハーマイオニー」

 

僕ら二人は素早く大広間を後にすると、湖に向かって急ぎ足で芝生を横切る。そして湖の上にダームストラングの船が繋がれているのを眺めながら、僕はハーマイオニーに昨晩名前を呼ばれてから何が起こったのか、その()()()()()()をハーマイオニーに話したのだった。

呼ばれた先で、僕はそこに集まっていた人達に自分が名前を入れたのではないと主張したこと。それを信じてくれたのはおそらくダンブルドアとムーディ先生くらいのものであり、それ以外のカルカロフ校長やマダム・マクシーム、そして他の三人の代表選手も信じてはくれなかったこと。……僕自身が名前を入れていないにも関わらず、僕は命懸けで試練を乗り越えなければならないことを。

案の定彼女は何の疑問も差し挟まずに僕の話を聞き終えると、さも当然であるかのように話し始めた。

 

「えぇ、私も貴方が名前を入れたんじゃないって分かっていたわ。あの名前が出てきた時の貴方の表情……とても自分で入れたとは思えない」

 

ハーマイオニーの言葉に僕は心が洗われるような気持ちだった。

やはり彼女なら僕が話す前から事情を分かってくれると思っていた。……こんな時にあんなことを言い始めたロンの方がどうかしているのだ。彼女なら必ず僕の力になってくれる。

そう一点、

 

「それに昨日ダリアも同じことを言っていたわ。貴方が『ゴブレット』に名前を入れたんじゃない。貴方は誰かに狙われているって」

 

ダリア・マルフォイに関することを除いて。

ハーマイオニーは僕に笑顔を向けながら、今この学校で最も警戒しなければならない人間の名前を口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

ハリーの名前が呼ばれた直後、騒然とする大広間の中で、

 

「ダリア、ダフネ! い、今いいかしら?」

 

私は人混みをかき分けてスリザリンの一団に近づくと、目的の人物達にそっと話しかけた。いつもであれば邪魔をしてくるスリザリン生達も、

 

「まったく、なんでポッターの名前が出てくるの! あんな奴が代表選手に選ばれるなんて……それに『年齢線』をあいつが越えられるはずがないわ! きっとずるをしたのよ! ダンブルドアが依怙贔屓したのよ!」

 

今はハリーに対する罵詈雑言を吐き出すばかりで、私が近くにいることにすら気が付いていない。同じグリフィンドール生も悪口こそ言っていないものの、同じくハリーのことに夢中であり、私が警戒すべきハリーはそもそも今隣の部屋に行くよう指示されている。ロンも険しい表情でどこかに行ってしまった。結果私は難なくダリア達に声をかけることに成功したのだった。

しかも当の声をかけられたダリア達も、

 

「グレンジャーさん……。えぇ、いいでしょう。私も貴女に聞きたいことありますから」

 

「それじゃあ、この前の倉庫がいいと思うよ。あそこなら誰も来ないはずだから。今は誰にも邪魔されないだろうしね。行こう、ダリア、ハーマイオニー」

 

私に話がある様子だった。私達はダフネの提案を受けるとすぐに人垣からすり抜け、そっと倉庫の中に潜り込む。

するとダリアは開口一番に私のしたかった話題を上げた。

 

「グレンジャーさん。貴方のしたい話は、先程のポッターの件で間違いないですか?」

 

「え、えぇ、そうよ」

 

「……ではまずこちらから質問です。彼は自分で名前を入れた素振りを見せていましたか?」

 

まるで前提条件を確認するような質問。私はダリアの質問に即答で応える。

 

「いいえ! 私はずっと彼と一緒にいたけど、そんな素振りは少しも見せなかったわ! それにあの名前が呼ばれた時の表情……あれが演技だとは思えない。彼はそんなに演技の得意な人間ではないもの」

 

「……そうでしょうね。えぇ、貴女がそう言うのだから、それは間違いないでしょう。……()()()()()()()

 

「そうだね、ダリアの言う通りだよ。そもそもポッター()()()『年齢線』を越える方法が思いつくはずがないもの」

 

いやにあっさりとした返答。案の定ダリア……そしてダフネさえも私の返答をある程度予想していたのだろう。しかしダリアは最後に何かを呟いたきり、暗い無表情で黙り込んでしまった。ダフネもどこか心配そうな表情でダリアを見るばかりで、続く言葉を中々発しようとはしない。しばしの沈黙の後、私はそんな彼女達に恐る恐る尋ねた。

 

「ねぇ、二人は一体ハリーに何が起こっているのだと思う?」

 

「……」

 

今度の返答はそうあっさりとしたものではなかった。私の質問を受けてもダリアはすぐに答えようとはせず、答えてくれたとしてもどこか悩むような声音でしかなかった。

 

「……分かりません。彼が何者かに名前を入れられた……何者かに狙われていることだけは確かですが、その目的がいまいち判然としません」

 

……正直私もダリアが答えたことくらいのことは分かっている。ハリーは毎年と言っていい程誰かに狙われていた。トラブルに巻き込まれやすいハリーのことだから、今年もその例に漏れなかったということだろう。でも分かっているのはそれだけ。誰が何を狙ってハリーの名前を入れたのか。それを私は全く見通すことが出来なかった。だからこそ私より遥かに賢いダリアに尋ねたのだ。この学校で現状を真に理解出来ているとすれば、それはおそらくダンブルドアを除けば彼女しかいない。グリフィンドール生達は彼女も『炎のゴブレット』に名前を入れたかもと馬鹿なことを言っていたけど、実際はこのイベントに大した興味を持っていない彼女であれば、きっとこの状況に対しても冷静な意見を言ってくれるはず。

そう考えて真っ先にダリア達に尋ねたわけだけど……やはり彼女でも無理であったようだった。

でも勿論それで彼女に失望することはない。自分に出来ないことを彼女が出来なかったからと言って、それに文句を言うなんてお門違いだ。私はただ彼女にも分からない事態にハリーが直面していることに対する不安のみを感じながら、

 

「そう……。そうよね。ごめんなさい、貴女にばかり質問してしまって。本当に……何が起こっているのかしらね」

 

小さくダリアに返答し、黙り込むしかなかった。

その後は誰も何も話そうとはしない。相変わらずダリアは何かを考え込むように黙り込み、ダフネはそんな彼女に寄り添うように立ち尽くすばかり。私も私で折角二人をここに呼び出したというのに、将来の不安で何も言葉をかけることなど出来なかったのだ。

今何が起こっているのかさっぱり分からない。ダリアにも分からないものが私に分かるわけがないのだから当たり前だ。

でも……これだけは分かる。

私の予想通り、そしてダリアの言う通り、ハリーはまた誰かに狙われている。それだけは間違いなかった。

 

 

 

 

結局この後私達が倉庫から出たのは就寝時間間直になってから。

私達がこれ以上話すことはなかった。

言葉を発したとしても、地下に向かう直前に、

 

「……やるべきことは一つだけ。私は何が何でも大切な人達を……今の生活を守る。考えうる限りの手段を……たとえ()()()()()()使()()()()()()()

 

ダリアが私にも聞こえない小さな声音で、何かを呟いただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンブルドア視点

 

静まり返る校長室の中。ワシは今しがた報告し終えたアラスターに思わず問い返す。

 

「……アラスター。今の話は……本当なのかの? ダリアが……『年齢線』を越えていたというのか?」

 

「あぁ、間違いない。この目でしかと見たからな。それに大勢の生徒もそれを目撃しとる。……どんな手段を使ったのかは分からんがな」

 

眩暈がしそうな報告じゃった。何故今年はこのように問題ばかりが起こるのじゃろうか。ヴォルデモート復活の兆しに、死喰い人達の活発化。そんな状況の中ただでさえカルカロフという不安要素を抱えているというのに、今年もまたダリアが……。

警戒しておらんかったわけではない。寧ろ強い警戒感を覚えていたのが、先日の事件によって更に強まったとさえ言える。このヴォルデモート復活の兆しのある中、ダリアの警戒を解くことなどできようはずがない。じゃからこそ本来なら退学のダリアにチャンスを与えたのじゃ。

しかし……こんなことが起こるとまでは正直想像もしておらんかった。

『年齢線』は本来17歳以下の人間に越えられるはずがない。それは間違いない。抜けられる手段として上級生に名前を預けるという手もあるにはあるが……それでも本人が『年齢線』を越えることは決してできぬ。そしてそれは人間以外の種族であっても変わらぬ。他校の生徒には人間以外の血が混じっている生徒もおる。その子達のことも考え、ワシは人間以外もこの『年齢線』によって選別できるよう設定しておった。当に盤石の守り。これを越えられるとすれば、ワシを遥かに超える実力を有する魔法使い。ワシすら知らぬ手段……『闇の魔術』を有する魔法使い。もしくはそもそも()()()()()()()()()……。

ダリアに当てはまるのが最初と最後の選択肢でない以上、彼女がワシも知らぬ『闇の魔術』を有しているのは間違いない。それ以外に彼女が『年齢線』を越える手段など持っておるはずがない。

つまり彼女はワシの今までの予想通り、現段階においてホグワーツ内で最も警戒しなければならぬ生徒であることに間違いはなかった。正直カルカロフ以上に問題じゃと言える。

 

じゃがその事実を再確認したところで、今はどうすることも出来ぬこともまた事実じゃった。

もはや賽は投げられた。ハリーの名前が『ゴブレット』から出てきたということは、ヴォルデモートの何かしらの作戦が始まったということを意味する。敵の目的が何であれ、今はハリーが少しでも安全に試練を乗り越えることを考えねばならない。だからと言ってダリアの警戒を解くわけにはいかぬが、今彼女のみに注視しておれぬことも確かじゃった。退学にしようにも、彼女はただ『年齢線』を越えただけ。明確に彼女が今回の事件を引き起こしたと言えぬ以上、彼女を今更退学にすることなど出来ようはずがない。

それに何より……

 

「……すまぬな、アラスター。こんな夜分遅くに。お主ももう部屋に帰って休んでくれてよい。明日からもハリーと……ダリアの監視を頼んだぞ。あの子らをどうか導いてやってほしい。ハリーが安全に試練を乗り越えられるように。……ダリアが闇に堕ちてしまわぬように」

 

「ふん……言われるまでもない。ワシはそのためにここに呼ばれたのだからな」

 

ワシはアラスターに校長室から退出するようさとしながら考える。

ダリアが危険な、それこそワシの『年齢線』を越える程の『闇の魔術』を扱う。それが間違いない以上、彼女をより警戒せねばならぬのは間違いない。

 

じゃが彼女への警戒感を強めても尚……何故かワシにはどうしても、()()()()()()()ハリーの名前を入れたのが彼女だと()()()()()()()()()()()()

 

この学校で『年齢線』を越え、尚且つハリーの名前を入れる動機と実力を兼ね備えた人間がいか程おるじゃろうか。そんな人間はカルカロフとダリアしかおらん。カルカロフは如何に裁判の時にヴォルデモートを裏切っておろうとも、奴は生き残るためならなんでもする。ヴォルデモートから過去を許す代わりに指示を受けたなら喜んで従うじゃろう。そしてダリアは今まで見てきた中で、トムと並ぶほどの危険な潜在能力を持った生徒。謎の力で『吸魂鬼』の影響を逃れ、おまけに今年は『年齢線』を越えたのじゃ。本来ならこの二人をハリーの名前を入れた容疑者と考えてもおかしくはない。

じゃが何故じゃろうか……。ワシは何故かダリアに関しては……どうしても今回の犯人と思うことが出来んかった。

彼女が二年の時ワシは彼女を疑っておったし、今でもあの時の判断は間違っていなかったと思っておる。あの時の彼女は決定的な証拠こそ残しておらんかったが、あまりにも疑わしい人間じゃった。じゃから疑っておった。それは今でも変わらない。リーマスが何と言おうと、ワシのあの時の判断に後悔はない。

じゃが今はあの時とは違う。アラスターを躊躇いなく攻撃する残虐性、『年齢線』を越える実力、何をとっても状況証拠から彼女がハリーの名前を入れたとしか思えぬ証拠が揃っておる。本来なら彼女こそを犯人と疑うのが筋なのじゃろう。二年生の時以上の証拠が揃っておる。

 

じゃが同時に思うのじゃ……あまりにも証拠が()()()()()()()。寧ろ揃いすぎておることが不気味じゃと……。

 

ダリアは二年生の時ほとんど証拠を残さんかった。ワシが掴んだ証拠と言えば、彼女が夜な夜な歩き廻っていたということだけ。それはあまりにも証拠として扱うには弱すぎる状況証拠じゃった。そのせいでルシウスこそ理事から追放することに成功しても、未だに彼女の事件への関わり、そして彼女が一体どんな少女かという部分が一向に見えてはこぬ。当に八方塞がりじゃ。

じゃからこの証拠のあまりにも揃いすぎた状況でワシは思う。

あまりにも証拠が()()()()()()()。まるでワシにそう判断しろと言わんばかりに。……まるで誘導されてすらいるように。あれだけ証拠を残さんかったダリアが、こんなヘマをするとは思えぬ。何よりアラスターの話では、ダリアは()()()()『年齢線』に触れ、大勢の生徒の目の前で越えたという。もし彼女が実際にハリーの名前を入れたとすれば、彼女がそんなことを人のいる前でするじゃろうか。

少なくともワシには、この一連の流れがダリアによって作られたものとは思えんかった。

可能性があるとすれば、彼女が何らかの作戦における囮になっておるということくらいじゃ。それが彼女の()()()なものなのか、それとも誰かに誘導されたものなのかは定かではないが……。

 

全てが想定を超える勢いで進んでおる。ハリーのこと、トムのこと、そして……ダリアのこと。どんなに『今世紀最高の魔法使い』と持て囃されようと、ワシには一切先のことが見通すことが出来ておらん。全てが後手。今この時ですら、おそらくヴォルデモートの思い通りに事は進んでおることじゃろう。3年前のクィレルの時とは違い、今回は奴の方が上手じゃ。いずれにせよ今はハリーの安全を第一に考えるしか術がない。じゃがそのことがワシにはとてつもなく不安で仕方がなかった。

 

「本当に……トムは一体何を狙っておるのじゃろうな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セドリック視点

 

あれから数日たったのに……まるで夢を見ているような気分だった。自身が選んだ結果だというのに、未だにどこか信じ切ることが出来ずにいる。

しかし僕がどんな心持でいようと、

 

「セドリック頑張れよ! ポッターなんかに負けるなよ!」

 

「セドリック! お前はホグワーツ唯一の代表選手だ!」

 

決して現実が変わるわけではない。

すれ違いざまに掛けられた声に顔を上げると、同じハッフルパフの生徒達が僕に笑いかけている。胸に妙なバッジをつけているのは気になるけど、彼らは彼らなりに僕のことを真剣に応援してくれているのだろう。僕は彼らに応える笑顔がぎこちないものになっていないか心配しつつ考える。

どうしてこんなことになってしまったのだろうか?

いや、僕自身が『炎のゴブレット』に名前を入れたからに違いない。でも正直、自分でも本当に選ばれてしまうとは心の底からは思っていなかったのだ。

それはほんの小さな出来心だった。自慢ではないが、僕はこの学校の中でもそこそこ有名な生徒だと思う。成績も上から数えた方がいい位置を維持しているし、クィディッチもそこそこの名選手だと思っている。全てはいい成績を残せば残す程喜んでくれる両親のためとはいえ、少しだけ自分に酔っている部分がなかったかと言えば嘘になる。だからこそ、僕は三大魔法学校対抗試合の話を聞いた時思ったのだ。

この学校でゴブレットに選ばれるとしたら、一体誰だろうか。

おそらく皆最初に思い浮かべるのは、あのスリザリンの女の子のことだろう。一昨年学校を恐怖のどん底に陥れた後輩。誰もが忌み嫌いながら、しかしこの学校で最も優秀だと思われるスリザリンの美しくも冷たい女の子。実力だけで言えば彼女以外に代表選手として相応しい生徒はいないことだろう。しかし彼女は僕より遥かに年下だ。年齢基準を満たしてすらいない。だから彼女が代表選手になることは絶対にない。

ならば次に思い浮かぶのは誰だろう。

そう考えた時、僕は自信過剰になっている自己に気付きながらも、それは自分ではないだろうかと思ったのだ。確かにこの学校には僕以外にも優秀な生徒達は少なからずいる。でも僕程ホグワーツ代表として相応しい他者からの評価を備えた人間がいるだろうか。

だから僕は『炎のゴブレット』に名前を入れた。選ばれなくても駄目で元々だ。でも選ばれ優勝さえすれば一千ガリオンと……永遠の名誉を手にすることが出来る。それらを手に入れれば、きっと両親は心の底から喜んでくれる。そして今まで以上に、自分自身に自信を持つことが出来る。両親や生徒達からだけではない、もっと広い世界からの評価を受けることが出来る。そうすれば今まで自分が必死になって身に着けてきた実力が本当のものだったと、真の自信を手にすることが出来るのだ。そう僕は内から湧き上がる情熱と……そして執着を胸に、喜び勇んで代表選手に名乗りを上げたのだった。

そんな一時的な気の迷いによって。

 

……でもいざ選ばれてしまった僕が感じたのは、実際はとてつもなく大きな()()()だった。

 

ダリア・マルフォイが『年齢線』を越え名前を入れたのではと聞き、これは自分が選ばれる可能性はなくなったかも……そう思っていた矢先の選出。年齢基準を満たしていない彼女が本当に名前を入れたのかは分からないが、もし彼女が本当に名前を入れていたのだとしたら、『炎のゴブレット』は彼女より僕の方を選んでくれたこととなる。それは大変名誉なことであり、それはそれで喜ぶべきことなのだろう。

でも実際自分の名前が出てきた時、僕はそんなことを喜んでいる余裕などなかった。ハリー・ポッターの名前が後から出てきたことに対する疑念だって、正直この恐怖感に比べれば些細なことだ。

ただただ、本当に選ばれてしまった。僕はダンブルドア校長が言うように、命の危険がある試練を三つも、しかも独力で乗り越えなければいけない。そんなマイナスの思考と共に、僕はとてつもなく大きな恐怖感を感じていた。

 

今なら思う。何故僕はあの時『炎のゴブレット』に名前を入れてしまったのだろう。

何が成績優秀だ。何がクィディッチのシーカーだ。そんなもの三大対抗試合に対して何の役に立つというのだろうか。周りが僕を持ち上げてくれるのだって、僕がそういう理想の姿を演じていたからに他ならない。周りが()()()()()()から……両親が喜んでくれるから、僕がそうなろうと努力していた、()()()()()()()()()()()。本当の僕は……今こんなにも恐怖感を覚える程臆病な性質を隠し持っている。

それに周りは僕をどんなに応援してくれたところで、今回の試練に関して僕を手伝ってくれるわけではない。試練の内容は分からず、ただ周りの応援の中不安をひた隠しにし続ける。名前を自分で入れたわけではないと主張するハリーが惨めな気持ちを味わっているのも分かっているが、それを助けようと思える程僕にだって余裕はない。勝つとか負けるとかではなく、ただ試練に生き残れるのか。それだけが不安で仕方がなかった。

 

僕は皆の笑顔に囲まれていながら……心の奥底でどうしようもない孤独と戦っていたのだ。

 

 

 

 

だからだろう。僕は本来なら警戒しなければならないというのに、

 

「こんにちは。セドリック・ディゴリー。こうして話すのは初めてですね」

 

ある昼下がり、偶々一人でいる廊下で、

 

「あぁ、警戒しているのですね。ですが大丈夫ですよ。私は貴方の恐怖感が()()()()()()()分かる」

 

()()の冷たい声音に一瞬耳を傾けてしまったのは。

今まで誰もいなかった廊下に突然、しかしまるで最初からそこにいたかのように現れた彼女。流れる様な白銀の髪に、まるで陶器のような白い肌。どこまでも美しくありながら、どこまでも冷たい後輩。そのホグワーツ生なら一度は噂を聞いたことのあるスリザリン生が、その薄い金色の瞳で僕の()()()()までのぞき込む。

そして彼女、

 

「ご安心ください。私は貴方の味方です」

 

ダリア・マルフォイが、突然の出来事に声も出ない僕にそっと囁きかけるのだった。

 

「私はただ、貴方に助言を言いに来ただけですから。第一の課題の内容、知りたくはありませんか? それさえ知れば、少しでも安心することが出来るでしょう?」

 


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