ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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越えられないはずの線(前編)

()()()()()視点

 

つい最近まで、私は世界で一番運のいい男()()()

純血の家に生まれ、何不自由ない生活を送る。そして闇の帝王が台頭し始めた時には、死喰い人として高い地位を確保することに成功した。当に順風満帆な人生。

闇の帝王が倒れアズカバンに収監された時はどうなるかと思ったが……かつての仲間を売ったことで何とか事なきを得た。

……恨みを買ったことは分かっている。しかしあのままアズカバンにいればいずれ死んでしまうのは明白だった。ならばその難を逃れるために仲間を売るのは当然ではないか。私は生き残るために当然の行動を取ったに過ぎない。それに仲間と言っても、元々闇の帝王に組した方が出世できると見込んでいただけのことだ。彼らがどうなろうとどうでもいい。いずれアズカバンで朽ち果てる人間達のことなどどうでも……。

そしてそんな私の考えは正しく、それからはまたとんとん拍子に物事がうまく進んだ。

ルシウス・マルフォイ達の様に身の潔白を証明したわけではないが、アズカバン行きを逃れることは出来た。それどころか死喰い人として純血主義を標榜していたのが功を奏し、ダームストラングの校長に推薦されさえした。元通りの生活どころか、より輝いているとさえ言える人生。ダームストラングは古巣であるホグワーツ程豪華な建物ではなかったが、子供が私に傅いてくるのはとても素晴らしい気分だ。汚らわしいマグル生まれがいない学校というのも実にいい。私はつくづく運のいい男なのだと私は確信して()()

そうつい先日、

 

「何故今頃になって……」

 

今まで消えていたはずの闇の印が腕に浮かび上がるまでは。

予想もしていなかった闇の帝王生存の報に、私の勝利者としての人生はいきなり暗転することとなったのだ。

暗い()()の中で腕を見つめながら考える。一体どこで何を間違ったのだろうか。

やはりかつての仲間を裏切った時か?

いや、だがあの時あぁしなかったら私は死んでいたことだろう。()()()()()()()を売ることで、当時裁判官だった奴を失脚させることも出来た。お蔭で私の追及が柔らかくなったのだ。他にどうすれば良かったと言うのだ。

だがあの時のせいで私が今窮地に立たされているのも否定しようもない事実。闇の帝王が本当に帰ってくれば彼らは解放される。私が売ったクラウチの息子はアズカバンで()()()()()が、他にも私に恨みを持っている死喰い人は大勢いる。きっと奴らは私を許しはしないだろう。そして何より……闇の帝王が私を許さない。あのお方が復活すれば、真っ先に私を殺しに来ることだろう。

腕に浮かび上がりつつあるどうしようもない事実に頭がどうにかなりそうだ。

自分が生き残るにはどうすればいいか。出来ることなら闇の勢力に戻りたいが、闇の帝王が私を許すはずがない。私が一人で何かを訴えたところで意味はないだろう。何やら活発に動き始めているルシウス・マルフォイに取り入れば何とかなるかもしれないが、奴も私を庇うことの危険性を承知しているのか、私がいくら手紙を送っても返事すらない。残された闇の勢力に戻る方法は、ホグワーツに在籍しているというルシウス・マルフォイの娘に取り入ることくらいのものだ。齢14の小娘でありながら純血貴族の中でも有名な人物だ。取り入ることが出来れば僅かな可能性が生まれる。今はその可能性にかけてホグワーツに行くしかない。

それにホグワーツには、

 

「セブルス……お前はどうするつもりなんだ?」

 

私と同じ立場のセブルス・スネイプがいるのだから。

あいつは私とは違い嘗ての仲間を売ったわけではないが、今では完全にダンブルドアの手先に成り下がっている。闇の帝王が復活した時にあいつも無事でいられるはずがない。きっと今頃は私と同じく恐怖で恐れおののいていることだろう。奴ならば私の相談にも乗ってくれるはずだ。もし闇の勢力に戻れなくとも、いざという時ホグワーツで匿ってくれるようダンブルドアに提案してくれるはずだ。ダンブルドアのことを信じているわけではないが、ホグワーツには闇の勢力とて()()()()()()()()()()()以上、奴がいるホグワーツこそがこの世の中で一番安全な場所であることも事実。いざという時のために利用しない手はない。そのためだけに態々『三大魔法学校対抗試合』などに参加することを許可したのだから。

生き残る可能性が見えてきたことで、僅かに気持ちが再び明るさを取り戻してくる。

しかもタイミングのいいことに、

 

「……校長、もうすぐホグワーツに到着します」

 

「あぁ、ビクトール。もうそんな時間か」

 

私にとって()()可愛い生徒であるビクトール・クラムがホグワーツ城への到着を知らせに来たのだった。

子供など私に傅く以外に存在価値などありはしないが、この生徒だけは違う。この子は世界的に有名なクィディッチ選手なのだ。この子を可愛がっておけば、私の将来も更に明るいものになる。ただ可愛がっているだけで、私には自動的に超有名シーカーの恩師という立場が与えられるのだ。可愛く思わないはずがない。

私はビクトールの肩を親し気に抱きながら船室の外に出る。外では帆を張る準備などとあくせく働いている生徒達がいるが、私はそんな無価値な生徒達に一瞥もすることなく階段を上がり……遂にその城を再び目にしたのだった。

 

「懐かしいな……昔と少しも変わっていない」

 

満点の星空の下に巨大な城の影が浮き上がっている。

当に難攻不落の城と言ってもいい佇まい。その嘗て通っていた学び舎に、私は期待感を込めた視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

三大魔法学校対抗試合。

『三校対抗』と言うからにはホグワーツ以外の二校も参加する。ダームストラングにボーバトン。二つともホグワーツと並び立つ世界的な魔法学校として有名だ。

だがお互い名前自体は知っていても、その実他校がどこにあるかだけではなく、どのような生徒が通っているかさえ定かではない。ダームストラングは純血主義であり闇の魔法も教えることがあるという程度の情報しかなく、ボーバトンに至っては知られていることは本当に名前だけだ。

だからこそ当然、

 

「凄いぞ! 見たかあのボーバトンが乗ってきた馬車! ほとんど屋敷だったぜ、あの大きさ! 引っ張っていた天馬も相当大きかったし!」

 

「ダームストラングも凄かった! なんだよあの船! 湖の中から突然浮かび上がってきたぞ! それにまさかビクトール・クラムがいるとは!」

 

いざ彼らが本当にホグワーツに現れる段となれば、ホグワーツ内は完全にお祭り騒ぎとなる。

マダム・マクシーム校長も含めて何もかも巨大なボーバトンに、突然湖に浮かび上がったダームストラングの船。そして世界的に有名なクィディッチ選手。実に話題の尽きないメンバーと登場の仕方だ。

しかし私にとってそれだけのことだった。

多少彼らの登場の仕方には興味を抱いたが、特段周りとその話で盛り上がる程の興味は持ち合わせていない。対抗試合に参加するつもりも、ましてや観戦するつもりさえ薄い私にとっては彼らのことなどどうでもいい。ただでさえ初回の『闇の魔術に対する防衛術』の()()()()狭苦しくなったホグワーツが更に狭くなるだけ。挙句の果てに彼らが来たことで私のクリスマスが奪われたのだ。別に二校の生徒が悪いわけではないのだが、家族との時間を奪われたと考えればそんな理不尽な怒りを覚えずにはいられなかった。

そしてそれは、

 

「ダ、ダリア! ビ、ビクトール・クラムだ! こ、こっちに来るぞ!」

 

「す、すごいよ! 本物だよ!」

 

「……お兄様、ダフネ。二人とも落ち着いて下さい。そんなに引きつった表情を浮かべていると、来るものも来なくなりますよ」

 

話題の中心であるクィディッチ選手がこちらに近づいていても変わらない。

ダームストラングの気質……というよりあちらの校長の意向なのか、ダームストラングの生徒は大広間に入るなり全員が全員スリザリン寮の机を目指して歩いてくる。その中には当然噂の人物もいるわけで、彼に至っては何故か私達の方に真っすぐに向かっている。最初は勘違いかもと思ったが、視線に気が付いた私が見つめ返しても方向が変わらないことから間違いないだろう。

しかも開口一番、

 

()()()()()ダリア・マルフォイですか?」

 

などと口にするものだからもう確実だ。

……当然のことだが、入学するまで家にほぼ引きこもっていた私の知り合いにクィディッチ選手などいない。このややぶっきらぼうな表情を浮かべている世界的有名選手も例外ではない。お兄様も彼にお熱であることから私も知っているだけで、向こうが私の名前を知っている理由などあるわけがない。

 

「そ、そうだ! と、隣に座っているのが僕の妹のダリアだ! ほら、ここに座りなよ!」

 

「そ、そうだね! ほら! 早く早く!」

 

「……二人とも何度も言いますが落ち着いて下さい。どうぞ、私の傍なんかでよろしければ」

 

私は大興奮するお兄様達を尻目に、僅かに警戒心を露にしながら有名選手に答えた。

だがそんな二人も、

 

「カルカロフ校長が言ってました。ヴぁなたの傍に座るようにと。ヴぁなたも何かで有名な方なのですか?」

 

いざビクトール・クラムがこちらに来た理由を聞けば、先程とは打って変わり緊張した表情に変わっていた。

 

「……おい、なんでお前がダリアのことを知っているんだ?」

 

「……ダームストラングの校長が言っていた? 詳しく話してもらえるかな?」

 

どうやら今年の一年は外部生にすら油断するわけにはいかないらしい。

私は出来る限りの愛想笑いを浮かべながら、目の前に座る他校選手に応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

今日まで『三大魔法学校対抗試合』があるという認識はあまりなかった。

クィディッチの練習はないが、変化という変化はそれだけ。正直な話、今日まで『三大魔法学校対抗試合』が今年開催されるという実感はそこまでなかった。白イタチ事件やダリア・マルフォイの笑顔などいくつかの事件があっても、それらは全て対抗試合には関係ないものなのだから実感のしようがない。

しかし今は違う。

玄関ホール前に整列させられたと思えば、突然現れる空飛ぶ天馬に引かれる巨大馬車に、湖を潜航する巨大船。マグルの世界では決して見ることのできない光景が繰り広げられたのだ。

ここに来てようやく試合が行われるのだと実感できた生徒は僕だけではないだろう。

そしてそれは二校の生徒を大広間に迎えてからも変わらない。

少し見渡すだけで、昨日まで大広間では見られなかった光景がいくつも散見することが出来る。教員席を見ればダンブルドアの隣に見慣れぬ三人の人物。ハグリッドより大きいのではと思われるマダム・マクシームに、少し痩せた体格の山羊髭を蓄えたイゴール・カルカロフ校長。そして最後に唯一見覚えのある人物、おそらく魔法省から監督役として派遣されたであろうクラウチ氏が座っていた。

変化はそれだけではない。教員席から生徒達の席に目を向ければ、こちらにも見覚えのない人たちがいたる所に座っている。

薄物の絹の様なローブを着たボーバトン生はレイブンクローの席に固まって座っており、その中でも一際目立つ美少女が辺りの生徒の視線を集めている。長いシルバーブロンドの髪がさらりと腰まで流れており、大きな深いブルーの瞳がまるで輝いているようだ。まさに文句のつけようのない美少女。正直造形だけならダリア・マルフォイも同じくらいなんだけど……あちらには表情が絶望的にないため、僕にはボーバトン生の方が遥かに美少女に見えた。

そしてもう一つの変化であるダームストラング生。深紅のローブを身にまとう彼らは、スリザリン寮の席で興味津々な様子で星の瞬く黒い天井を眺めている。しかもその中にはボーバトンの美少女より注目を集めている人物がおり、

 

「ふん、何だよあのおべんちゃら野郎。クラムが目の前に座ったからっていい気になりやがって。でもどうせ無駄な努力だぜ。彼はいつでも誰かにじゃれつかれてるんだ。あいつの腐った性根もお見通しだろうさ」

 

その人物は何を思ったのか、スリザリン寮の中で端っこに座るダリア・マルフォイ達の目の前に座っていたのだった。

いつもであれば、同じスリザリン生ですらダリア・マルフォイの近くに座ることはあまりない。いてもスリザリン内で地位が高いと思われるお坊ちゃま連中だけだ。特にあの事件があってからはより一層それが顕著だった。クラムが座るまでは誰一人としてあいつの近くに座ろうとはしなかった。でも今ではクラムが何故かあいつの前に座ることでちょっとした人だかりが出来上がっているのだ。それもある意味でクラムと同じくいつもと違った光景と言えるだろう。

そんなあり得ない光景に、僕の前でソーセージに齧り付くロンが悪態をつく。彼の目からはクラムにダリア・マルフォイ……はいつも通りの無表情に見えているだろうけど、ドラコの方は彼に纏わりついているように見えているのかもしれない。でも僕とハーマイオニーは違う意見を持っていた。

 

「……ロン、私にはそんなにドラコが彼に纏わりついているようには見えないわ。寧ろドラコとダフネの表情が硬い気がするわ。それに、どちらかと言うと彼の方からダリアに近づいていたような……。彼、ダリアのことを以前から知っていたのかしら? ただ美人だから近づいただけだといいのだけど……」

 

先程までクラウチ氏を忌々しそうに見ていたのに、今ではダリア・マルフォイの方に心配そうな表情を浮かべるハーマイオニーに僕は首肯する。僕もハーマイオニーの意見に同意見だったのだ。

あの世界的シーカーが目の前にいて、あまつさえ自分に話しかけてきているのだ。いつものドラコであれば得意げな表情を浮かべてこちらを見ていることは間違いない。でも今の奴はそんなに楽しそうにクラムと話しているようには僕に見えなかった。奴の取り巻きであるダフネ・グリーングラスも同様だ。

一体クラムは何を思ってあんな人を何とも思っていないような無表情の奴に近づき、本来喜ぶはずのドラコ達は嬉しがっていないのだろうか。

僕は少しだけそんな疑問を抱きながら、()()()()何かされるのではないかと心配してスリザリン席を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

ダリアは大丈夫かしら?

それがダフネとドラコの反応を遠目から見た時、私の中にまず最初に浮かんだ思考だった。

ドラコは勿論、クィディッチにそれなりに興味を持っているダフネが、果たしてビクトール・クラムが近くに来てあのような表情を浮かべるのだろうか。

ここからでは何を話しているかは分からないけれど、決してダリアにとっていい話をしていないのは間違いない。彼らがあんな警戒した表情を浮かべるのは、いつだってダリアが関わる時だけ。今この瞬間においても彼女にとって何かよからぬことが起きているのかもしれない。

私はそんな不安を込めて、いざという時今度こそダリアのために動き出せるよう身構えていたのだけど、

 

「さてホグワーツの生徒諸君! そして遠方から来られたダームストラングとボーバトンの生徒諸君! 皆存分に食事を楽しんでくれたことじゃろう! それではこれから、いよいよ『三大魔法学校対抗試合』を始めるにあたりいくつか説明させていただくとしよう」

 

その不安は杞憂に終わることとなる。

突然大広間に響き渡ったダンブルドアの声によって全員の注意が教員席に集中する。勿論ダリア達も例外ではない。未だにクィディッチ選手の方をチラチラ見ている様子ではあったけど、とりあえずダンブルドアの話を聞く姿勢にはなっていた。私はそんな彼女達の反応にホッとしながら、自身も教員席の方に耳を傾けた。

 

「皆も知っての通り、試合を競うのは各校から選出された三人の選手じゃ。三人は()()()()()()()()()()()()()()()課題を潜り抜けることで様々な面を試されるじゃろう。魔力、勇気、論理的な推理力、そして危険への対処能力をじゃ。代表選手は一つ一つの課題をどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が優勝杯と……一千ガリオンと永遠の名誉を手にする。これらを審査員であるカルカロフ校長、マダム・マクシーム、ホグワーツ校長であるワシ、そして態々今回のことで魔法省から来てくださった『国際魔法協力部部長』バーテミウス・クラウチ氏が行う」

 

……やっぱりあの人は今回の審査員として来たのね。何故あんな『屋敷しもべ妖精』を奴隷労働させるような……ダリアに謂れのない言いがかりを吹っかける人を審査員に選ぶのかしら。

私はワールドカップにおける一件以来嫌悪感を抱いていた人間を僅かに睨む。しかし私が審査員にどんな感情を抱いているかなどに関係なく、ダンブルドアの話は続いてゆく。

そして、

 

「さてここまで話し終えたが、皆未だに気になっておることじゃろう。一体どうやってこの代表選手を選ぶのか。それは公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ!」

 

遂にそれが私達の目の前に現れたのだった。

ダンブルドアが宣言と共に杖を振ると、大広間の扉が突然開き、玄関ホールの方から何か木箱の様な物がゆっくりと姿を現す。そして生徒達の視線を一身に受けながら大広間の中央を進み、ダンブルドアの手元に到着した時、今度は箱から木のゴブレットが現れたのだ。

それは何の変哲もない、ただ木を荒削りして作ったゴブレットの見た目をしていた。ただ普通のゴブレットと違う点は、その縁から溢れんばかりの青白い炎を躍らせていることだった。

一体あれは何かしら?

そんな生徒の疑問の視線を受けながら、ダンブルドアは実に楽しそうに説明を再開する。

 

「これこそが最初の『三大魔法学校対抗試合』から使われ続けてきた『炎のゴブレット』じゃ。このゴブレットが名乗りを上げた者の中で、最も代表選手に相応しき者を選出するのじゃ。皆、我こそはと思う者は、羊皮紙に名前と所属校をはっきりと書き、このゴブレットに入れるのじゃ。期限は明日のハロウィーンパーティーまでじゃ。これから24時間の内にその名を提出するように。このゴブレットは今から玄関ホールに置いておくとしよう」

 

ここまでの説明で大広間は大興奮に包まれていた。皆声こそ上げていないけど、ランランとした瞳でゴブレットを見つめている。

優勝杯を手に入れれば、得られるのは永遠の名誉。皆欲しくてたまらないのだろう。

しかしそれもダンブルドアの次の言葉で、()()()は鎮静化されることとなる。

 

「……最後に、これは最初にホグワーツ諸君に言ったことじゃが、17歳に満たないものは出場禁止じゃ。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』に選ばれた者には試合を最後まで戦い抜く義務が生じる。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されるということじゃからのぅ。安全対策が十分考慮された課題とはいえ、一歩間違えれば死んでしまいかねぬ危険な試練じゃ。しかし途中で気が変わったなどということは許されぬ。その点を十分考慮した上で、自らは本当に課題を耐えきる能力があると判断出来れば名乗り上げるのじゃ。17歳未満の者に対しては、諸君らがそれでもと思わんようにワシ自らが『年齢線』を引くことにする。これは()()()()()()使()()()()、17歳に満たない者が越えられぬ強力な魔法じゃ。諦めるのじゃな」

 

そして最後に解散を宣言することで、『三大魔法学校対抗試合』開始の宴は終わりを告げたのだった。

今日一日で一気に数の膨れ上がった生徒達が一斉に動き出す中、比較的近くにいたフレッドとジョージの声が聞こえてくる。

 

「はん! 何が『年齢線』だ! そんなことで諦めると思うなよ!」

 

「そうだな! それに『老け薬』でどうにでも()()年齢は誤魔化せるんだ! いったんゴブレットに入れてしまえばこっちのものさ!」

 

二人はダンブルドアの宣言を聞いても諦めていない様子だった。

私はそんな本当に危険に飛び込みそうな二人を諫めるべくことをかける。しかし、

 

「でも、17歳未満じゃ誰も戦い遂せることは出来ないわ。ダンブルドアも言っていたでしょう? とても危険な課題だって。私達じゃ圧倒的に勉強不足よ……。戦えるのはダリアくらいのものよ」

 

「……ハーマイオニー、君は俺たちがあんな奴にも劣るっていうのかい? 俺たちだってやれるさ。ハリーもやるだろう?」

 

どうやら私は諫めるための言葉を間違えてしまったらしい。

私はぶっきらぼうに返事をした後、今度はハリーを誘い始める二人を止めようと更に声をかける。

だから、

 

「は、初めまして、ミス・マルフォイ。わ、私はイゴール・カルカロフと申します。以後お見知りおきを……」

 

「……初めまして。態々ダームストラングの校長自ら……ご丁寧なことですね」

 

人混みの向こうでダリアにカルカロフ校長が近づいていることや……それをムーディ先生がジッと見ていることに、私が気付くことはなかったのだ。

 


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