ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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長くなりそうなので分割です。


優しき少女の殺意(中編)……主人公挿絵あり

 ダリア視点

 

また言ってはならないことをグレンジャーさんに言ってしまった。

そんな気まずい気持ちで倉庫を出た私が最初に見たのは……マッド-アイが白イタチを地面に何度も叩きつけ、それを周りの生徒が笑いながら見ているという摩訶不思議な光景だった。

最初は何が起こっているのか理解出来なかった。何故この新任教師は白イタチを執拗に打ち付け、

 

「この、卑怯者が! 二度と、こんなことを、するな!」

 

その光景を周りの生徒が楽しそうに囲んでいるのだろうか。マッド-アイの頭がおかしいのは周知の事実だが、何故生徒までもが彼と同じわけの分からない行動を?

私には彼らの頭も可笑しくなったようにしか見えなかった。隣にいるダフネやグレンジャーさんも訝し気な目で謎の集団を眺めている。

しかしそんな玄関ホール中央を占拠している彼らに近づいた時、私は見てしまったのだ。

何度も地面に打ち付けられる白イタチの近くに……新聞記事が落ちているのを。それはお兄様が先程まで持っていたものに間違いなかった。

よく見ればおかしな点がまだいくつかある。笑っている生徒達の中に、幾人かただオロオロとしているだけの生徒がいるのだ。しかもそれは全員私の良く知る人物だった。クラッブにゴイル。そしてお兄様に記事を手渡したパーキンソンにブルストロード。私が良く行動を共にするメンバー達だ。

そんな中、そこにいるべきはずのお兄様の姿だけがなかった。

そこまで考えた瞬間、私はこの場で起きていることの全てを理解する。

あの白イタチこそがお兄様であり……そのお兄様は今、他寮の笑い声が響く中ムーディに晒し者にされているのだ。何度も何度も地面に打ち付けられ、それを他者に笑いものにされているのだ。

 

それを理解した瞬間、私の理性は一瞬にして焼き切れる。

ムーディに……あの老害に弱みを握られるとか、そんなことはもはやどうでもいい。最初に感じたのはただ純粋な殺意。私はただ……この虫けら共を苦しめぬいて殺さなくてはならない、そう考えていた。

 

「……一体何をしているのですか?」

 

私の口から知らず知らずの内に冷たい声音が漏れる。

その瞬間今まで笑っていた生徒とマッド-アイ、そして隣にいるダフネ達までこちらに恐怖を覚えたような視線を送ってくるが関係ない。

私はこいつらを、必ず殺さなくてはならないのだから。

一斉に向けられた恐怖の視線に私は義務感と共に、僅かに今から人を苦しめぬいた後殺せるのだという()()を感じ始めながら宣言する。

 

「全員……楽に死ねると思わないで下さいね」

 

そして私は未だに事態について来れていないダフネ達を後ろに追いやり、

 

『コンペース、閉じ込めろ』

 

完全に愚か者共の逃げ場をなくすのだった。

これで全ての舞台は整った。()()()殺戮の舞台が。

まず事態の変化に対応したのはやはり新任教師。だてに数多くの修羅場を潜ってはいない。ただ恐怖の視線を送るだけの生徒達の中、まるで構っている暇はないと言わんばかりにお兄様を放り出しながら、私に杖を向けて言う。その行動自体が私の怒りを更に燃え上がらせているとは気づかずに……。

 

「このような『闇の魔法』を使うとは。何のつもりだ、小娘。いや、ワシはお前のことも知っておるぞ。……お前がダリア・マルフォイだな。ふん、ルシウス・マルフォイの娘なだけはある。その人を見下すような目つき……。お前のような人間が真面な魔法使いであるはずがない。ダンブルドアに()()()()()()()()()、ワシには分かるぞ。だがワシはお前の様な小娘のことなど恐れはせん。お前の様なマルフォイ家の小娘のことはな。この小僧とてそうだ。ワシはこやつの根性を叩きなおすためにも、」

 

何か御託を並べ立てているが、こいつが何を話そうと関係ない。お兄様を傷つけた段階で、こいつは全くの無価値な存在になったのだ。私は放り投げられると同時にこちらに駆け寄ったお兄様イタチを抱きかかえると、必死に何かを仕草で訴えているお兄様に顔を向けながら呟く。

 

「大丈夫ですよ、お兄様。こいつらがこんなことをしていた理由なんてどうでもいい。ご安心ください、必ずこいつらに自分の行いを死ぬほど後悔させた後……殺してあげますから」

 

私はこの時、自分がどんな表情を浮かべているかなど分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

事態にようやく頭が追いつき始めた時には、既に全てが遅かった。

透明な()の中、白イタチを抱えるダリアが目にもとまらぬ速さで杖を掲げたかと思うと、

 

『インクネイト、ひれ伏せ』

 

ムーディを除く全員が地面に倒れ伏したのだ。全員がまるで背中に何か巨大な重しでも乗せられたかのような苦悶の表情を浮かべている。

しかもムーディも別に魔法がかかっていないわけではないらしく、何かに耐えるように片膝をつき、傷だらけの顔を苦痛に歪ませながら声を上げた。

 

「……このような強力な魔法まで使うとは。やはりお前のことは看過できんようだな。今すぐこの呪文を解くのだ!」

 

ムーディの声音は最後に大きなものに変わっていた。しかしそんな奴の言葉に怒り狂ったダリアが怖気づくはずもなく、

 

「……虫けらが。もう少し魔法力が弱ければ苦しまずに済んだものを。やはり愚か者はどこまでいっても愚か者ということですね」

 

やはりどこまでも冷淡な声音で一人呟くのだった。

私はここに来てようやく事態を完全に理解する。これはあの時と……ロックハートの初回授業でピクシーを皆殺しにした時と同じだ。ダリアの反応から、あの白イタチが実はドラコであることは間違いない。ならばダリアはドラコを傷つけられたことでここまで怒り狂っているのだ。

あの時と違うのは……あの時の相手はピクシーだったのに対し、今回は人間だということのみだった。

その事実に思い至った瞬間、私はダリアを止めなくてはと思い駆け出す。私と同じく壁のこちらにいるハーマイオニーは、

 

「ダ、ダリア、一体どうしちゃったの? あ、あのイタチはドラコなの? で、でも、それにしたって……」

 

未だにダリアの変化に戸惑っている様子だけど、彼女に一々ダリアの現状を説明している暇などない。今すぐダリアを止めなくては、彼女は必ず後悔してしまう。目の前には先程ダリアが張った魔法の壁があるため私の歩みは数歩のみで終わってしまったが、私は思いっきり、それこそ手から血が出そうな程壁を叩きながらダリアの後ろ姿に叫ぶ。

 

「ダリア! 駄目だよ、そんなことしちゃ! 前にも言ったでしょう!? 落ち着いて、一度深呼吸しよう!?」

 

しかしダリアの反応は芳しくなかった。こういう風にダリアの理性が消し飛んだことは以前にもあったが、その時はいつも私が彼女に飛び付くことで止めていた。それが今回は出来ていない。私の声だけでは彼女の行動を止めることは出来ないのだろう。私の叫び声が響く中、相変わらず冷たい声音で、

 

「ではお望み通り、苦しみながら死になさい。『パテンバス、傷よ開け』」

 

今度こそ決定的な呪文をムーディに放った。ダリアの最初の呪文に僅かに抵抗できてはいたものの、奴が身動きすら出来なくなっていることには変わりない。聞いたこともないダリアの呪文に当たり、彼の体中にある傷が一斉に()()()

 

「ぐあぁ! き、貴様!」

 

「ふふふ。あはははは! 苦しいのですか? いえ、苦しいのでしょうね! ですがお兄様を傷つけたのです! これくらい当然ですよね! まだまだ足りないくらいです! この呪文はただ傷を開くだけ! 本当の苦しみには程遠い! だからもっと苦しんで、私を()()()()()ください!」

 

目の前には壮絶な光景が広がっている。体中から血を流すマッド-アイ・ムーディに、彼の苦痛をまるで楽しんでいるような笑い声を上げるダリア。しかもこれだけのことをしでかしているというのに、ダリアは一向に止まる様子を見せないし、止めることが出来る人間もいない。地面に倒れ伏している生徒達は、今のムーディの姿が次の自分だと思っているのか顔を青くするだけで何も出来ない。

だからダリアを止めることが出来るとすれば、

 

「さて、次と行きましょう。クルーシ……お兄様? 何故止めるのですか?」

 

彼女の腕に抱えられたドラコに他ならなかった。

今まで必死にダリアに何かを仕草だけで訴えていた白イタチが、突然彼女の杖を引っ叩くことで注意を惹く。流石に理性を失ったダリアも杖の軌道を変えられれば意識を向けざるを得なかったのだろう。僅かに理性の戻った声音でドラコに尋ねたところで、

 

「な、何をしているのですか!」

 

ようやく事態を収束させることが出来そうな援軍が来たのだ。

声の方に振り向けばそこにはマクゴナガル先生。丁度階段から降りてきた様子の先生は、一目で異常事態だと分る光景に青ざめながら続けた。

 

「ム、ムーディ先生! 一体その怪我はどうなさったのですか!? そ、それにこの魔法は……。ミ、ミス・マルフォイ! これは貴女のしたことなのですか!? 今すぐにこの呪文を止めなさい!」

 

そこで初めてずっとムーディの方を向いていたダリアが振り返る。そして私が見たその表情は……やはりあの時と同じ表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

今しがた降りてきたマクゴナガル先生が驚愕したように……どこか恐怖したように足を止め、こちらを振り返るダリアの顔を見つめる。そこには先程まであった勢いは全くない。

 

でもそれもそうだろう。だってダリアは今……こんな光景を創り出したというのに、いつもの無表情ではなく()()を浮かべていたから。

しかも普通の笑顔などではなく、見る者を震えがらせる笑顔を。残酷な笑顔。まるで人を傷つけるのが楽しくて仕方がない……そんな感情を思わせるような笑顔を。

いつもの薄い金色の瞳でなく、真っ赤な色に変わった瞳を確かに楽しそうに歪ませていた。

 

壮絶な笑顔にマクゴナガル先生は勿論、私を含めた生徒全員がその場に凍り付いたように動けなくなる。そんな中動いていたのは、

 

「ダリア! お願い、止まって!」

 

ダリアの杖を叩いたドラコと、事態をすぐに理解したらしいダフネだけだった。

ドラコはダリアの杖を更に叩き落そうと必死に動いており、ダフネは相変わらず必死な形相で魔法の壁を叩いている。ダリアの注意がムーディ先生からマクゴナガル先生に向いた今こそ、彼女を止めるチャンスなのだと考えているのだろう。

そしてその判断は間違ってはいなかった。

ダリアは数秒の間は自分の邪魔をしたマクゴナガル先生を睨むように見つめていたけど、その内ようやくダフネの姿を認めたらしく、

 

「……分かりました。『フィニート、終われ』」

 

小さく呟いた後魔法を解除したのだ。その表情にはもう先程までの笑顔はなく、いつもの無表情に戻っていた。目だけはまだ……僅かに赤い色をしていたけど。

 

「ダリア!」

 

「ダフネ……。私は……」

 

「うん、大丈夫。大丈夫だよ、ダリア。全部分かっているから……。どんなことがあろうと、私はダリアの味方だよ」

 

魔法を解除したことで魔法の壁も消える。その瞬間ダフネが勢いよくダリアに飛び付き、何やらお互いに囁き合っていた。周りの地面に倒れ伏していた生徒達も、表情を青ざめさせながらもノロノロと立ち上がり始めている。そんな中、ダリアに警戒心を露にしながらマクゴナガル先生が血だらけのムーディ先生の元に駆け寄った。

 

「ムーディ先生! 大丈夫なのですか、その怪我は!? 今すぐ医務室へ! 事情はそこで聞きますので! ミス・マルフォイ! 貴女もついてきなさ、」

 

「いや、その必要はない。見た目は派手だが、大した怪我ではない。傷自体は全て浅いものだ。後で自分の薬で治す」

 

しかしムーディ先生はマクゴナガル先生の言葉を遮ると、ダフネと白イタチ越しに抱き合うダリアを睨みつけながら続ける。

 

「小娘……。よくもやってくれたな……。まさかお前の様な小娘に、ここまでいいようにやられるとは。お前の根性も叩きなおす必要がありそうだな」

 

再び緊迫した空気が玄関ホールに満ちる。放っておけば先生は今度はダリアをイタチに変えてしまいそうな空気を醸し出しており、ダリアはダリアで抱き合った恰好なものの、視線だけは剣呑に先生の方を睨み返している。ダフネが必死に抱き着く形で止めていなければ、ダリアは再度呪文を放っていてもおかしくはない空気があった。周りにいた生徒達は僅かに悲鳴を上げながら後ずさっている。

そんな中、マクゴナガル先生はゆっくりと自分の杖に手を伸ばしながら尋ねた。

 

「ムーディ先生、では事情を説明していただけますか? 私にはミス・マルフォイが一方的に貴方や生徒達を襲っているように見えましたが、その認識であっていますか?」

 

「忌々しいことにな。ワシがその小娘の兄を教育している最中に、不意を突かれてしまったのだ」

 

その瞬間、今までダリアを宥めすかせるように抱いていたダフネが声を上げる。

 

「違います! ダリアは悪くありません! 何が教育よ! あんなのは教育でも何でもないわ! 貴方はドラコをただ痛めつけていただけよ! そしてこいつらはそれを笑ってみていただけ! ダリアが怒って当然のことをしただけよ!」

 

「……それはどういうことですか、ミス・グリーングラス。ムーディ先生がミスター・マルフォイを痛めつけた? その彼は一体どこにいるのですか?」

 

マクゴナガル先生の質問に、ダフネが白イタチになっているドラコを差し出す。すると少しぐったりしている白イタチを見て、先生は驚愕の表情を浮かべながら続けた。

 

「ま、まさか! こ、これがミスター・マルフォイだと言うのですか!?」

 

「そうです。そいつがドラコをイタチに変えて、地面にずっと叩きつけていたんです! そんなの、ダリアでなくても怒りますよ!」

 

「そ、そんな! ム、ムーディ、貴方は何をしているのですか!?」

 

発覚した事態のあまりの大きさに、ダフネがムーディ先生のことを『そいつ』と呼んでいることにも気付かず、マクゴナガル先生は慌てた様子でドラコに杖を向けた。すると次の瞬間、今まで白イタチに変わっていたドラコが姿を現す。滑らかなブロンドの髪はバラバラになり、いつもは青白い顔色を赤色に変えながら彼はその場で立ち上がった。しかしいつもであれば自分をこんな目に遭わせたムーディ先生に罵倒の言葉を吐きそうなものだけど、彼はただダリアの方に振り返りながら声を上げる。

 

「ダリア、落ち着け。僕は無事だ。ちょっと痛かったが……怪我自体は大したことはない」

 

そうしている間にもマクゴナガル先生のムーディ先生への言葉は止まらない。いつの間にかムーディ呼ばわりに変えながら、マクゴナガル先生は大声で続ける。

 

「ムーディ、ダンブルドアからもお話があったはずです。本校で懲罰に変身術を使うことは絶対にありません! 居残り罰を与えるだけです! さもなければ寮監が生徒に話をするだけです!」

 

「あぁ……そんな話もあったな」

 

しかしムーディ先生の反応はあまり芳しいものではなかった。明らかに上の空な返事。先生は何かを考え込むようにダリアの方を見つめるだけで、マクゴナガル先生の言葉にあまり注意を向けようとしなかったのだ。マクゴナガル先生はそんなムーディ先生の反応に僅かに眉を顰めたが、今はそれだけが問題ではないと今度はダリアの方に振り返りながら言った。

 

「……この件はまた校長の方から貴方に言っていただきましょう。さて、しかしミス・マルフォイ。大まかな流れは解りましたし、ムーディ先生が行った指導も適切ではなかったのでしょう。ですが、だからと言って貴女が先生や周りにいた生徒を攻撃していい理由にはなりません! 先生は傷は浅いと仰っていますが、これは明らかに『闇の魔術』です! 大人しく私についてきなさい! スネイプ先生もお呼びして、ダンブルドアと話していただきます! 大人しくついてこない場合は……」

 

そう言って先生は今度こそ杖に手をかけ、ダリアに先をさとすように語り掛ける。

もはや生徒に語り掛ける様な態度では決してない。そしてその態度は、

 

「な! 何を言っているんですか、マクゴナガル先生! ダリアは何も悪くありません! そりゃ()()()()だけ、そいつの傷を開いたかもしれませんけど……。元はといえばそいつがドラコに怪我をさせたからです! 連れていくならそいつもです!」

 

「そうだ! こんなことして、父上が黙っていないぞ! ダンブルドアみたいな依怙贔屓野郎に公正な判断なんて出来るものか! 馬鹿も休み休み言え!」

 

ダフネやドラコの抗議があっても決して変わることはない。

 

「お黙りなさい、ミス・グリーングラス、ミスター・マルフォイ。……最後にミス・マルフォイの進退を決めるのは校長であるダンブルドアです。さぁ、ミス・マルフォイ。ついてきなさい。ムーディ先生は部屋で治療してからすぐに校長室へ」

 

誰もが固唾を飲んだように動けずにいる。生徒達が顔を青くしながら立ちすくむ中、マクゴナガル先生はダリアを睨みつけるように立ち、ドラコとダフネはまるでダリアを守るような立ち位置にいる。

そしてようやく事態が動いたのは、

 

「……分かりました。これ以上マルフォイ家に迷惑をかけるわけにはいきません。今回は私個人の問題です。お兄様は関係ないということであれば、私は大人しく校長の所についていきます」

 

ダリアが先程までとは違い、どこか悲しみすら感じさせる声で同意した時だった。

マクゴナガル先生はダリアが大人しくついてこない可能性も考慮していたのだろう。明らかにホッとした様子でダリアについてくるよう先をさとす。

そんな中やはり納得していない様子のドラコ達が声を上げる。

 

「ダリア、本当に行くの! だってダリアは何も悪くないのに!」

 

「そうだ、こいつらの言いなりになる必要は、」

 

「いいえ、お兄様、ダフネ。何が理由であれ、私が先生達を攻撃したのは事実です。これ以上ここで争って、マルフォイ家の迷惑になるわけにはいきません……」

 

しかしダリアの意見は変わらない。ドラコ達は言葉を遮られたことで、ダリアの決意の固さを感じたのだろう。数瞬黙り込んだ後、今度はドラコが違ったアプローチを口にする。

 

「……分かった。だが、僕もお前と一緒に行くぞ。僕は当事者だ。僕は事情を説明しないといけないからな。そうでしょう? マクゴナガル先生」

 

「ええ……。そうですね、ミスター・マルフォイもついてきなさい」

 

ダリアとマクゴナガル先生、どちらの意志も変えられないのなら、なるべく被害の少ない選択肢を選ぼうという作戦。そしてドラコの作戦は思いの外上手くいったようだ。傍から見てもダリアに都合のいい事情しか話さないのは明らかだが、ついてくるなと言えるほどの根拠もマクゴナガル先生は提示できなかったのだろう。でもドラコにはそれだけしか目的がないわけではないらしく、

 

「わ、私も、」

 

「いや、お前はここに残れ。事情説明だけは僕だけで十分だ。それにお前には、やることがあるだろう?」

 

自分以上にダリアを擁護しそうなダフネの同行は許可しなかったのだった。

ダフネの言葉を遮ったドラコは、静かな口調でダフネに語り掛ける。

 

「大丈夫だ。ダリアは必ず帰ってこれる。マルフォイ家をなめるな。お前はダリアが帰ってきた時、少しでも不快な思いをさせないよう努力しておけ」

 

そして、

 

「お兄様……。お兄様は今回の件とは、」

 

「何度も言わせるな、ダリア。ではマクゴナガル先生? 行くとしましょうか」

 

「……えぇ。では、私についてきなさい」

 

ダフネの反論を許すことなく、今度こそマクゴナガル先生とダリアに続いてこの場を後にしてしまったのだった。

 

 

 

 

残されたのは、

 

「……何がやることがあるよ。貴方だって、()()が心配ないことくらい分かっているでしょうに」

 

無力さを噛みしめる様にその場で俯くダフネ。そんな彼女の周りで相変わらず青ざめた表情の生徒達。

……そしてダリアの優しさを知りながら、徹頭徹尾彼女の変化に驚くだけで一切具体的な行動を取ることも、ましてや声を上げることすら出来なかった()()友人の私だけだった。

 

私は知っていた。いや、知っていると思い込んでいた。

私だって彼女がピクシーを大量虐殺した事件は知っていたし、ハリーからも何度か彼女の笑顔について聞いていた。去年のホグズミードで見せたような笑顔ではなく、人を傷つけることを喜んでいるような笑顔について。

でも、私は知っていただけ。決して理解はしていなかったし、理解を拒み続けていたのだ。

 

だからこそ、私は彼女が優しい人間であると知っていながら、彼女のいざ違う面が出てきた時には咄嗟に行動することが出来なかったのだ。





【挿絵表示】


イラストレーター、ジンドウ様が描いて下さった挿絵です!

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