ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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いよいよゴブレット開始です。
……そして連載開始2周年です(ぼそ)


炎のゴブレット
不気味な夢


 

 ()()()視点

 

夢を見ているような気がする。

僕は確かにダーズリー家のベッドで眠っていたというのに、今は見たことも聞いたこともないような場所にいる。意識がいまいちハッキリしない。僕が誰なのか、いまいちハッキリしない意識の中で……気が付けば、僕は()()()()()()()()()

どこか暗い屋敷の中、埃の厚く積もった床を這いずり、僕は()()()を目指す。

 

彼はあそこにいる。昔の力を失い、あの一噛みで殺せそうな小男の助けが必要な程弱ってしまった彼は、この時間は大抵暖炉の前にある椅子に座っている。

今だって、

 

「何度言えば分かるのだ……。俺様が力を取り戻すには、()()()()()()()()()()()()()()()()! ……他の者では代用できぬ。これは決定事項なのだ! ……確かにお前は俺様の下に最初に現れ、俺様に恐怖心からとはいえ献身的な世話をしている。お前が捕まえたあの憐れなバーサ・ジョーキンズによって、俺様は完璧な計画と()()()()()()()()を取り戻すことが出来る。俺様が復活した暁には、お前にも特別な褒美を与えることもやぶさかではない」

 

あの人の声が、彼のお気に入りの部屋から聞こえてきている。

僕は長細い体を波打たせ、彼の待つ二階の部屋を目指す。その間にも、彼と小男の会話は続く。

 

「ご、ご主人様。ですが、その……バーサを殺す必要はあったの、」

 

「くどい! 貴様は俺様の命令に黙って従えばよいのだ! ……この臆病者め! あの女は用済みであった! お前はあの女に『忘却術』でもかければよかったと、そう言いたいのか? お前は忘れたのか? あの女を尋問した際、奴には()()『忘却術』がかけられていた! だがそれでも俺様はあの女から情報を聞き出した! 強力な魔法使いであれば、呪文を破り情報を聞き出すことなど容易いのだ! それに今の魔法省は、魔女が一人消えようが気にもすまい。今はなにせクィディッチ・ワールドカップ中なのだからな。魔法省も警備で手一杯なことだろう。お前が心配するようなことは何もない。あぁ、もうすぐだ……。もうすぐ俺様はかつて以上の力を手に入れることが出来る」

 

響いてくる声音から、最初は彼の機嫌は悪いものだと思っていたが……どうやら別に全くの不機嫌だというわけでもなさそうだ。今は寧ろその声音に喜びの感情すら伺える。

よかった。彼の喜びは、()()喜びでもある。彼の今発している言葉は、()()()()()()()()()()()()()()……それでも彼が喜んでいることが声から分かる。

私がついに階段を登り切っている間にも、彼の嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

「すべては俺様の手中にある。ダンブルドアが必死に守っているハリー・ポッターとて、計画が上手くいけば……俺様の忠実なる僕が戻り、仕事を完遂すれば……必ず俺様の下に()()()()()。実に……実に愉快なことだ。全ては俺様の計画通り。バーサの献身により、晴れて()()になったことだしな……」

 

「む、六つとは一体?」

 

「それこそお前の知るべきことではない。……ワームテールよ。恐れることなど何もない。何、お前に一人でやれと言っているわけではないのだ。我が忠実な僕は、戻り次第()()()()()()()()予定だ。それに、ホグワーツには()()()()()()()のだ。必ずや、俺様の役に立ってくれることだろう」

 

あぁ、本当に今日は機嫌が良さそうだ。

そして彼は遂に、

 

『ん? この音は……ナギニ、戻ってきたか』

 

()()()()()()()()で話しかけてきたのだった。

ようやく彼のいる部屋の目の前までたどり着いていた私は、()()()()()()()()()()()()()()を無視し、中に滑り込みながら応える。

 

『ご主人様。機嫌が良さそうですね。下の階まで声が響いておられましたよ。何かいいことでもあったのですか?』

 

『お前にも分かるか? あぁ、俺様は今とても気分がいい。初めはこの無能な小男の力を借りねばならんのかと、自身の不幸な境遇に絶望もしたが……やはり俺様は特別な存在だった。全ては俺様に都合のいいように動き始めている。それに今日は特に体調が良いのだ。ここまで話を続けられたのはいつ以来であろうか……。全てはお前がいたためだ、ナギニ。もはや()()()()()()()であるお前の毒があったからこそ、俺様はここまで力を取り戻すことが出来た。お前の献身には感謝しているぞ』

 

彼の言葉で、ただでさえ気分が良かった私の心も更に浮き立つ。やはり彼に出会えたことは素晴らしい幸運だった。どこか()()()()()()()()()()()をしている彼と出会えたことで、私はより強力な存在になることが出来た。

彼と半ば()()()()……特別な存在に。

森の中でも最強の個体であった私が、外においても最強の存在になることが出来た。私に力を与えてくれた存在に尽くせる。これ以上の喜びがあるはずがない。

 

『いいのです。ご主人様のお力になれたのなら、それだけで私は嬉しいのです』

 

『……やはりこの世で信用できるのはお前だけだ。お前だけは、この俺様に尽くすことを真の喜びとしている。やはり俺様が信用できるのは、俺様自身だけ……ということなのだろうな』

 

彼はそう言って、彼特有の冷たささえ感じさせられる笑い声を上げる。私はそんな彼の笑い声が好きだが、周りの人間にとっては違ったらしい。彼の傍に控える小男……そしてドアの外にいる老人が体を震わせているのが私には分かった。

そんな彼らの反応で、私は思い出したように彼に報告する。彼に会うことで頭が一杯であったため一度は無視したが、そういえば外にいる老人は不審者であることに今気が付いた。人間の顔など、彼以外は特徴的な顔などしていないから分からないが……確かにあんな老いた人間はいなかったと思ったのだ。

 

『そういえば、今この部屋の前に見たことのない……年老いた人間がいるのですが、ご主人様の僕ではないですよね? 私には人間の顔など判別出来ませんが、あれは初めて見た顔の様な……それに、ご主人様や、そこにいる小男の様な力を感じることも出来ませんでした』

 

『ほう……ということはマグルか。確かこの屋敷には庭番がいるという話だったが……その男であろうな。愚かなことだ。こんな夜更けに屋敷に踏み入るなど……。大人しく寝ておけば、ここで死なずに済んだというのに……』

 

やはり私の予想は正しかったらしく、彼は不敵に笑った後、

 

「ワームテールよ。ナギニが面白い報せを持ってきたぞ。こやつが言うには、どうやらこの部屋のすぐ外に老いぼれたマグルが立っているらしい。さぁ、ワームテール。中にお招きするのだ」

 

再び私には分からない言葉を発し、小男に侵入者を中に連れ込ませるのだった。

小男は急いで部屋の外に飛び出すと、すぐに引きずるような形で老人を中に入れる。連れ込まれた老人は、酷く怯えた様子で震えるばかり。そしてそんな彼に、

 

「あぁ、可哀想にな、そんなに震えて。よほど俺様のことが恐ろしいと見える。それもそうだろう。力が衰え、このような姿になれ果てようとも……マグル如きにはこの俺様はやはり強大な存在に見えるのだろう。……喜べ、マグルよ。俺様は寛大だ。こんな夜遅くに眠れなかった老人に、俺様は永遠の眠りを与えてやろうではないか。……アバダケダブラ!」

 

彼は緑の閃光を浴びせた。

年老いた人間が、床に倒れ伏す。息はもうしていない。彼が倒れ伏すことで、その濁った瞳に()の姿が映りこむ。

 

 

 

 

その移りこんだ姿が蛇ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ところで……僕はハッと目を覚ましたのだった。

……何百キロも離れた場所にいるはずの、当のダリア・マルフォイと同時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

「っが! は! う、うぇぇ!」

 

あまりにも生々しい夢を見てしまった私は、こみ上げる吐き気を何とか抑え込みながらベッドに突っ伏す。

そして何とか荒い息を整えた私は、近くにあった水差しから水を呷り、今見た夢のことを思い出すのだった。

 

何だったのだろう、今の夢は。いや、夢……というにはあまりにも生々しかった。夢から覚めた今だって、私はハッキリと()()()()()()()から見た光景や会話を思い出すことが出来る。あれが普通の夢であるはずがない。

暗い廊下。暖炉前の椅子に腰かける『何か』と、その横に侍る小男。そして……『死の呪文』を受け息絶えた老人。

全てがあまりにも生々しく、まるで私が本当にその場に……その場にいた蛇だったかのような気分だった。本当に今の夢は何だったのだろうか……。

 

水を飲み終えた私は重い体をベッドから起こし、カーテンに遮られた窓を見つめる。カーテンは閉められているが、その明るさからまだ外が夜中であることだけは分かる。まだ起きる様な時間ではなく、まだまだ家族が起き始めるまでには時間があることが伺えた。

しかし、私はどうしても再びベッドに戻るような気分にはなれず。何とはなしにカーテンを開け、丁度月に照らされる位置に置かれた椅子に腰かけながら、再び夢のことについて考える。

 

あの日。あの私がホグワーツから帰省した日、

 

『な、何故今頃になってこれが……。ま、まさか、い、生きておられたのか? 闇の帝王が!』

 

と、お父様が腕に浮かぶ『闇の印』を見て叫んだ時から、私はうなされる夜が度々あった。ダンブルドアに鏡を見せられてから時折見る様な、漠然とした不安による悪夢などではない。もっと具体的な恐怖を投影したような悪夢。そう、あの私を造り上げた闇の帝王に関する悪夢。

私は決して突然もたらされた闇の帝王生存の報を喜ぶことが……受け入れることが出来なかったのだ。突然生きていると言われても、すぐに信じ切るなど出来るはずがない。

だから私は何度も夢を見た。自身を帝王の()()だと名乗るあの少年が出てきて、

 

『ダリア・マルフォイ……と名付けられたのだったな。道具には大層な名前だ。……だが、そんなことはどうでもよいことだ。さぁ、迎えに来たぞ。お前はこれから僕の右腕として、マグルや穢れた血、そして血を裏切る者を皆殺しにするのだ。それが僕がお前を()()()目的なのだからな』

 

などと言ってくるのだ。私を愚かな人形と呼んだその口で。それは悪夢以外の何物でもない。

 

しかし……今回の夢は違う。今回の夢は、いつもの具体的……でも本当に起こったわけではない夢とは違い、まるで今現実に起こったかのようなものだった。

しかもその夢の中では、

 

「あれが……闇の帝王。ヴォルデモート卿……。本当に生きていた……ということなのでしょうか?」

 

本物の闇の帝王が出てきていた。

私には分かる。蛇の視界で見た時、一瞬椅子の上に奴が見えた。たとえあそこに見えたものが、()()()()()()()のような姿形をしていようとも……私にはあれが闇の帝王その人であると分かったのだ。

髪の毛はなく、まるで鱗に覆われたようなどす黒い体からは、痛々しい程に細い手足が生えている。しかし、あの赤い目だけはギラギラと力強く……。

どんなに弱弱しい姿をしていようとも、嘗て魔法界に君臨していた程のオーラは隠しきれてはいない。去年見た奴の記憶が行きつく先……。あれを闇の帝王と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。

夢の中だというのに……確かに私は、あの闇の帝王の姿や醸し出す空気に恐怖を感じていたのだ。

 

「何故あんなものを見たのかは分からないですが……もし本当に闇の帝王が生きていて、あれが本当にあったことだとしたら……私はどうすればいいのでしょうか」

 

漠然とした不安感で、ただでさえ無くなっていた眠気が更に消えていくようだ。

何故遠く離れた場所の光景を私が見たのかという理由も分からないのに、それがただの夢と断じることも、だからと言って完全に現実のことだと断言することも出来ない。闇の帝王が復活した根拠とて、お父様の腕に再び浮かんできた『闇の印』以外にはないのだ。お父様の、

 

『……何とかせねば。このままでは、私はただの裏切り者として処罰される可能性もある。それだけは何とか……』

 

日々書斎から垂れ流される不安な声音に、私もつられて不安を感じていたために見た()()()()()()()()()()妄想という可能性を、どうして否定しきることが出来るだろうか。考えれば考える程、何が正しくて、何が間違っているのかも分からなくなってくる。

私の生きる意味は、私を造った闇の帝王などにではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でもそのマルフォイ家のために、私はどう行動すればいいのかが全く分からなかった。

 

ただ一つ分かることは……私の与り知らない所で何かが進行しており……私が行動しなければ、この()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうということだけだった。

 

猛烈な不安感を感じた私は、まるで助けを求めるような手付きでベッド脇のテーブルを探る。

手に触れたのは二枚の手紙。お守りの様に大切にしていた手紙を持ったことで少しだけ気分が落ち着いた私は、更に精神を安定させるためにまず一枚目の手紙を見直す。

一枚目の手紙には……去年私にずっと『守護霊の呪文』を教えてくれたルーピン先生の名前が刻まれていた。

 

『やぁ、久しぶりになるのかな? 教員を辞めて以来色々目まぐるしかったから、何だかホグワーツにいた頃が酷く懐かしく感じるよ。()()闇祓い局を紹介されてから、私はとても充実した日々を過ごしている。君には本当に、いくらお礼を言っても言い足りないくらいだ。私はあまり立派な教師ではなかった上、君を教えることが出来たのも一年という短い期間だった。それなのに、君は狼人間である私を笑顔で送り出してくれたばかりか、こうして仕事まで斡旋してくれた。この恩は決して忘れない。君はおそらく、これからも多くの困難に直面するかもしれない。何せ君はとても誤解されやすい人間みたいだからね。そんな時に、少しでも君が助けを欲するなら、私は必ず駆け付けたいと思っている』

 

大変お世話になった恩師の近況報告。ルーピン先生からの手紙など、本来であればお父様が私に届く前に燃やしてしまうのだろうが、内容が私への感謝の言葉ということで渋々ながら私に手渡してくださったのだ。お蔭でこうして、この手紙を読む度に先生が無事でいること……そして先生が私に言ってくださった、

 

『それがなければなかったことや、それがなければ出会えなかった人達がいはしないかい?』

 

あの時、私の心を少しだけ軽くしてくれた言葉を思い出すことが出来るから。

 

「先生……結局最後の試験は失敗してしまったけど……貴方の教えてくださったことは、今でも私の中で生き続けています。どうか……これからも貴方の未来に祝福を」

 

私はもう一度だけルーピン先生からの手紙を撫でると、今度はもう一枚の手紙を開く。

開くだけで、先程以上に幸せな感情が私の無機質な魂に流れ込んでくるようだ。私は自身の表情が僅かに動くのを感じ、ダフネ・グリーングラスと書かれた文字を撫でながら、手紙に書かれた文字を視線で追う。

 

『ダリア! 昨日ぶりだね! 毎日のように手紙を書いているから、何だかいつもダリアと一緒にいるような幸せな気持ちです。でもそろそろ直に貴女に会いたいという思いもあります。ダリアも知っての通り、今年はクィディッチ・ワールドカップの年! イギリスが開催地になるのは30年ぶりなんだから! クィディッチにあまり興味のないダリアも、ワールドカップなら楽しめるはずだよ! そこで是非一緒に観戦しましょう! 大丈夫! 行くとしたら、ダリアはおそらく貴賓席に座るのだろうけど、私も何とか貴賓席を取ることに成功したよ! 滅多に使わないんだけど、パパが珍しく魔法省のコネを使って手に入れてくれたんだ! やっぱり持つべきものは権力だね! あとここだけの話だけど、ハーマイオニーも同じ席に来る可能性があるみたいだよ。出来れば三人で観戦したいね!』

 

ダフネから最新の手紙。彼女からは毎日のように手紙を送られているが、少しもその有難味が薄れることはない。彼女は私と一緒にいることを幸せだと言ってくれたが、それは私も同じことだ。私にとって、ダフネとこうして交流することこそが幸せの形なのだ。決して薄れはしない……決して失いたくはない幸福の形。

手紙を見直したことで少しだけ不安感を取り除けた私は、再度手紙を握りなおしながら呟く。

 

「大丈夫……。やるべきことは分かっている。ただマルフォイ家と……ダフネを守る。彼らの幸せを私が守る。そのために、私は……たとえ何を犠牲にしても……」

 

夜が更けてゆく。

耳をすませば遠くから家族達の寝息まで聞こえてきそうな静かな夜。

そんな静かな空間に響くのは、

 

「ハリー・ポッター……。忠実な僕……。……ホグワーツから()()()()()?」

 

私の漏らした、小さな呟きだけだった。

 




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