ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダフネ視点
一言でいえば酷い試合だった。
レイブンクロー対グリフィンドール。スリザリン生である私が言うのもなんだが、2チームとも選手の質は素晴らしく、正直どちらが勝ってもおかしくはない試合だった。勝敗のカギを握るシーカーにしても、レイブンクローで一番の美人と名高いチョウ・チャンと、業腹ではあるが
でも、実際の試合は予想とは違っていた。
結果はグリフィンドールの圧勝。ものの数分で両シーカーがスニッチを見つけ、それを
チョウ・チャンの箒はクリーンスイープ7号。かたやポッターの乗っていた箒は最新型である『ファイアボルト』。しかもファイアボルトはニンバス2000どころか、去年までの最新型であるニンバス2001すら及びもつかない性能を誇っている。箒の腕など関係ない、まさに性能差を見せつける様な試合模様だった。
「こ、これは酷いね……」
「……」
私とドラコはやや茫然としながら、曇り空の中飛び続けるポッターを見上げる。
グレンジャーの言葉から、ポッターがニンバス2000に代る箒を手に入れていることは知っていた。シリウス・ブラックから贈られたと思しき箒。ポッターが今使っていることから何も魔法がかかっていなかったことは分かるが……まさかファイアボルトだとは思わなかった。
「スリザリンも去年、シーカー含めて全員が最新型の箒に変えたからあまり人のことは言えないわけだけど……ちょっとこれは狡いんじゃないかな? というより、去年あれだけ私達を批難しておきながら、自分たちも同じ手を使うんだね……」
「……」
あまりの衝撃にドラコから返事が返ってこない。
それもそうだろう。去年は箒の性能が勝っていたから互角の勝負を挑めたのだ。それが性能が勝っているどころか、もはや超越してすらいる箒を持ち出されたのなら言葉も出ないことだろう。人のことをとやかく言えないが、正直卑怯どころの話ではない。どんなにシーカーがへぼでも、ファイアボルトさえあれば楽々と勝利を掴むことが出来る。
しかし、そんなことを思っているのはスリザリンの生徒だけであるらしかった。
勝利したグリフィンドールは勿論、どちらのチームも応援していたハッフルパフ、そして負けて悔しいはずのレイブンクローですら、
「グリフィンドール! グリフィンドール!」
グリフィンドールの圧倒的な勝利を讃えている。
これならスリザリンに勝つことが出来ると。これなら去年卑怯な手を使ったスリザリンに、さらなる屈辱を与えることが出来ると。
特にハッフルパフはつい先日スリザリンに負けたばかりなことから、声援の大きさも一入だ。選手もチーム全員が肩を組みながら喜び合い、笑顔で握手を求めるチョウ・チャンにポッターが顔を赤らめているのが見えた。
「……折角ダリアも来てくれたのに、こんな試合じゃ正直あまり楽しめなかっただろうね」
「……」
相変わらず茫然としているドラコを放置し、私は教員席の方に双眼鏡を向ける。
今回はドラコが出場するわけではないものの、次の試合に向けての重要な試合と言うことで、前回のハッフルパフ対スリザリンの試合に続きダリアが観戦しに来てくれているのだ。どうも理由はそれだけではなさそうだけど……。
私はこちらに
談話室で『守護霊の呪文』の練習をしていたかっただろうに、それでも態々ここまで来てくれたのだ。それならば、せめてドラコの試合ではないとはいえ、少しでも見ていて面白い試合運びになってほしかった。
でも、それももう叶わぬことだ。結果は酷いものだったのだから。
折角ダンブルドアが近くにいることを我慢してまで来てくれたのに、見せつけられたのは箒の品評会紛いの試合。次の試合に不安しか残らない。双眼鏡から見えるダリアの表情も、無表情の上からどこか白けたものを窺わせるものだった。
私はため息を吐きながらダリアから視線を外し、ようやく意識が回復し始めた様子のドラコに声をかける。
「流石にいつまでも談話室に籠っているわけにはいかないから、ダリアも私も今回の試合に来たわけだけど……。あの子にとって、本当に見たい試合は次の試合だよ。言うまでもないけどね。だから……勝てるの?」
私の言葉に対し、ドラコの応えは簡潔なものだった。
「……勝てるかではない。
試験期間が近づき、いよいよ今年の終わりも見え始めている。
しかし試験直前に予定されている最後の試合、レイブンクロー対スリザリン戦は……ひどく不安要素を抱えたものでしかなかった。
ダリア視点
私は試合開始一秒からここに来たことを後悔していた。
何故なら、
「ほっほっほ! こうしてダリアと試合を観戦できるのはいつ以来じゃろぅかのぅ?」
態々私の隣にやってきた老害が、頻りに話しかけてくるから。
声音とは裏腹に、老害の瞳だけはいつも通りどこか私を観察するものだった。
私は舌打ちしたい気持ちを必死に抑えながら応える。
「……去年のお兄様の試合以来ですね。去年ロックハート先生が私を日向へと連れ出そうとした事件がありましたから、ここに来るのが怖くて仕方がなかったのです。誰があんな人を任命したのかは知りませんが、碌に私のことも伝えてなかったみたいでして。彼を連れてきた人間は余程人を見る目がなかったのでしょうね」
「……そう言わんでくれ。去年のことは本当にすまなかったと思っておる。じゃが、老人をあまりいじめんでくれ」
私はもはや礼儀をかなぐり捨てたような返答を繰り返す。
正直こんな所に来たくはなかった。いくら天気が曇り空とはいえ、お兄様の試合というわけでもなく、近くには不愉快極まりない老害までいる。普段であれば観戦には来ず、いつも通り談話室で『守護霊の呪文』の練習でもしているところだ。
でも、今回に限りそういうわけにはいかなかった。私自身は談話室に籠っていても良かったのだが、
『マ、マルフォイ様……少しお話よろしいでしょうか? グリーングラスの件なのですが……あいつが『マグル学』を受講していることは、マルフォイ様はご存知ですか?』
ダフネをこれ以上私に付きっきりにさせるわけにはいかなかった。
ここ最近、ダフネがトイレに行っているなど私が一人になった時を見計らって、スリザリン生が私にダフネのことについて忠告してくるのだ。
私は、勿論ダフネ自身も周りには『マグル学』受講のことを言ってはいなかったが、半年以上経ってようやくダフネが『マグル学』を受けていることに気が付き始めたらしい。
勿論私の答えは、
『勿論知っております。彼女は『マグル学』を通して、マグルの愚かさ、そして純血の偉大さを再確認すると言っていました。それがどうかしたのですか? それとも……私の
『い、いえ、マルフォイ様が御存知なら何も……』
予め決められたものだった。
ダフネがマグル学を受講すると決めた段階から予定していた言い訳。このスリザリン生受けしやすい言い訳と共に、ダフネが夏休みの間ずっと純血貴族コミュニテイーに顔を出していたことから、今のところ表立った問題には発展していない。しかしダフネの立場があまりいい方向に向かっていないことも確かだった。ほとぼりが冷めるまで、もう少し友好的な態度を取る必要がある。
そのため試合に来ていないことがあまり快く思われていないことをお兄様から聞いていた私は、今回の試合はダフネを談話室に縛り付けておくことは出来ないと、私が残ればダフネも必ず談話室に残ってしまうと判断してここに来たわけだが……
「それはそうと、最近ルーピン先生と個人的授業をしておるそうじゃのう? なんでも『守護霊の呪文』について学びたいと、お主が随分熱心に頼んだとか。勉強熱心なことは感心じゃのぅ。他の生徒もお主のように好奇心旺盛であってくれたらよいのじゃが」
「……はぁ」
やはりこの判断は失敗だったかもしれない。
ここに来た瞬間からずっと非友好的な対応をしているというのに、老害がそれにもめげずに声をかけ続けてくる。
「しかし
「……教えてくださる先生がいいからです」
鬱陶しいことこの上ない。
しかもこの老害は、
「それにしても、ワシの守護霊は不死鳥の形をしておるんじゃが、ダリアの守護霊は一体どのような動物か気になるのぅ? それに、お主はどのような記憶で守護霊を形作ろうとしておるのじゃ?」
チョコチョコと探りのような質問を投げつけてくるのだ。
帰りたくなるのも仕方がないと思う。
私は老害の方を一瞥もすることなく応える。
「……何故貴方に私の幸福について話さなくてはならないのですか?」
「いやなに、ただ気になっただけじゃよ。ただの知的好奇心じゃ。思えばダリアと話すのも久しぶりじゃからのぅ。少しでも生徒のことを知りたかったというだけじゃ」
こんな苦しい時間など早く終わってほしいと願い続けながら、私は両チームのシーカーを睨みつける。何だかんだ言ってクィディッチが好きなダフネ辺りは、折角私がここまで来たのだから楽しい試合になってほしいと思っているのだろうけど、正直私の願いは一刻も早くこの試合が終わってくれることだった。
そして……その願いはすぐに叶えられる。
「おぉ、どうやら試合終了のようじゃのぅ」
ポッターが凄まじいスピードでスニッチをつかみ取ることで、試合は過去最速と思える程早く終了する。
試合内容自体は相当つまらないものだったが、今はそんなことを言っている場合ではない。私は未だに空中でスニッチを見せびらかしているポッターを一瞥した後、
「もう次の試合には間に合いませんか……。しかし、これで
隣の老害に最後まで顔を向けることなく宣言した。
「では校長先生。私はこれで」
返事など聞く必要がない。私は宣言すると同時に、すぐさまこの場を離れるために行動を開始する。
そして後ろから感じる視線を振り払いながら階段を降り切り、丁度こちらに向かってきていた大切な人達と合流した。
「ダリア! 大丈夫だった!? 隣にあの爺がいるように見えたのだけど! ごめんね、こんな試合に連れ出してしまって! まさかこんなしょうもない試合になると思ってなくて……」
「……ご想像通り、ずっと愚にもつかない話をしてきましたが……ですが大丈夫です。貴女を見て、今疲労はなくなったので」
私の無事を確認するように抱き着くダフネをあやしながら、今度は後ろで暗い表情を浮かべているお兄様に声をかける。
「……お兄様はどうでしたか、今回の試合は?」
「……ふん。箒の性能に頼りっきりじゃないか。あんな奴がシーカーなんて、グリフィンドールの底が知れるな」
他寮の人間がいればさぞ突っ込まれるだろう発言であるが、去年のお兄様が何だかんだ言って箒の性能に頼り切ってはいなかったと知っている私は、ただ苦笑いを浮かべながら応えた。
「そうですね。確かにただでさえ強力だった敵のシーカーは、ファイアボルトを手に入れたことで更に強力になりました。ですが、まだ勝ち目が完全に消えたわけではありません。そうでしょう? お兄様」
「……あぁ、勿論だ。次の試合、僕は必ず勝つからな。見ていてくれ、ダリア」
ハリー視点
グリフィンドールの談話室はお祭り騒ぎだった。
今回倒したのはレイブンクローであり、怨敵スリザリンを倒したわけではないというのに、最早クィディッチ優勝杯を勝ち取ったかのような空気だ。
「あっという間に決着がついたな! これならスリザリンも一ひねりさ!」
「今からでもあいつ等の悔しがる表情が目に浮かぶよ!」
「今年のクィディッチ優勝杯も決まったな! 去年に続いて今年もグリフィンドールがいただきさ!」
多くの生徒がもはや勝鬨としか思えないような声を上げている。
勿論反対に、
「いや、まだ勝ったわけじゃない」
「そりゃシーカーに関しては、箒はファイアボルトだし、相手は
懸念の声を上げている生徒もいたけど。
僕も彼らの意見に賛成な部分はある。シーカー対決では、おそらくほぼドラコに負けることはない。去年はドラコの箒が勝っていたからこそ苦戦させられたが、今度はこちらが勝っている以上、僕があいつを恐れる必要はない。
でも試合で勝っても、優勝レースに勝てるとは限らないのが現実だった。
ハッフルパフに一敗を喫しているグリフィンドールと違い、スリザリンは今の所全ての試合で勝利を収めている。そんな彼らを抑えて優勝杯を手にするためには、必ず次の試合で80点以上の差をつけて……つまり、80点以上のリードを許す前に、スニッチを掴まなくってはならないのだ。
しかしそれでも、
「心配すんな! ハッフルパフ戦の前、俺たちはしっかりとスリザリン対策の練習をしていたんだ! それこそ死にそうになる程な! それに、我らが優秀なシーカーが必ずスニッチをつかみ取ってくれるさ! さあ、そんなことよりしっかり飲み食いしようぜ! ほら、お菓子もこんなに取って来たぞ!」
僕の中にあまり不安な気持ちはなかった。
「いったいどこからこれを?」
「ちょっと助けてもらったのさ! 先代の『悪戯仕掛け人』にね! ハリーも今度行ってみるといいぜ! 地図にはちゃんと厨房の場所も載っているからな!」
いつも通りテンションの高いフレッドと話しながら思う。
大丈夫だ。僕等なら絶対に勝てる。僕もいくらファイアボルトという最高の箒を手に入れたからといって、必ず相手が80点未満の時にスニッチを取れると慢心するつもりはない。でも、僕にはグリフィンドールの最高の仲間たちがいる。去年の様な試合運びになることは絶対にない。僕らグリフィンドールの絆があればスリザリンなんて恐れるに足りない。たとえ吸魂鬼がなだれ込んできたって、彼らとさえ一緒にいれば守護霊で追い払うことだって出来るだろう。
今回の試合で完全に自信を取り戻した僕らの宴会は、その後夜遅くまで続いた。
結局宴会がお開きになったのは、
「今何時だと思っているのですか! もう夜中の1時ですよ! まったく、私もグリフィンドールが勝ったのは嬉しいです! ですが、これはいくらなんでもはしゃぎ過ぎです! さ、もうベッドに行きなさい! 今すぐに!」
部屋着のマクゴナガルが怒鳴り込んできた時だった。
しかし興奮しきっていた僕らがすぐに寝付けるはずがなく、僕とロンは寝室に戻っても尚、ベッドに腰掛けながら話し合った。
「そう言えば、さっきの宴会にハーマイオニーの姿が見えなかったけど、彼女はちゃんと試合に来てくれたのかな? 何だか忙しすぎて切羽詰まってるみたいなんだよね……。大丈夫かな?」
「……ふん、あんな奴知るもんか! あいつ、スキャパーズにあんなことがあったっていうのに、まだあの怪物を野放しにしてるんだぜ! しかもあんな状況でも、まだ状況証拠でしかないとか抜かすんだ! あいつが謝るまで、僕は絶対に口をきかないからな!」
「……もう許してあげなよ。少なくとも箒に関しては、ハーマイオニーは僕達のことを考えてくれていたわけだし」
二人になったことで何だかもう一人の親友のことを思い出し、話は若干暗いものになってしまったが、まだまだ眠くない状況に変わりはない。
僕は気分転換兼、ハーマイオニーがちゃんと生きているかを確認するため『忍びの地図』を開く。
「……うん。無事みたいだね。ちゃんと寝室にいるみたいだ」
ハーマイオニーの名前はちゃんと女子寮の寝室の中に確認できた。周りに彼女のルームメイトの名前もあることから、ちゃんと生きた状態で寝ているのだろう。
ロンが地図をのぞき込みながら言う。
「ハーマイオニーはともかく、本当にこの地図は凄いよな。城中の秘密通路と隠し部屋だけじゃなく、こんな風に城にいる全員の名前まで載ってるんだからな。しかもそいつがどこにいるかも分るときた」
僕はロンの言葉に素直に頷く。
ロンの言う通り、見れば見る程素晴らしい道具だと思う。ホグワーツのありとあらゆる部屋や廊下、それどころか今ホグワーツにいる人間がどこにいるかも映し出す素晴らしいアイテム。これがあるからこそ、僕はホグズミードにだって行くことが出来るのだ。そう思えばこの地図が素晴らしい道具であること以上に、まるでこれこそが自分に幸運を運んでくれたように思えて愛しくて仕方がなかった。
僕らは飽きることなく地図を見つめ続ける。
校長室ではダンブルドアがこんな時間であるにも関わらず動き回っており、去年は夜中に外で悪だくみをしていたダリア・マルフォイも、今は地下の寝室にいるのが分かる。
そんな時だった。
「あれ? こんな時間に外を歩き廻っている奴がいるな。一体誰が……ん?
僕らがその名前を見つけたのは。
「え? ピーター・ペティグリュー? その名前は確か……」
それは紛れもなく、死んだはずの人間の名前だった。
シリウス・ブラックの裏切りに気が付いたことで、奴に指一本だけ残して吹き飛ばされた……かつての父や母の親友の名前。
ルーピン視点
それは私が夜中の警備のため、ホグワーツの中を巡回している時のことだった。
シリウスがグリフィンドール寮に侵入しようとした事件以来、ホグワーツの教師には交代で夜の警備が義務付けられている。去年の警備体制がどんなものだったかは分からないが、今年のものも相当なものなのだろう。先程も警備担当と思しきゴーストとすれ違っている。
この警備を見ているだけで、いかにシリウスの侵入が重く見られているのかが分かるようだった。
私はかつて親友だと思っていた男のことを思い出し、僅かに憂鬱な気分になりながら廊下を歩き続ける。
そんな時だった。
「あれ!? 地図ではここにいるはずなのに! なんで誰もいないんだ!?」
「ロ、ロン! 声が大きい!」
本来こんな場所、そしてこんな時間に聞こえるはずのない声が聞こえたのは。
私はその声を認識した瞬間、まず何故という疑問を持ち……その後、激しい怒りを覚えていた。
今の声、聞き間違えでなければ
彼らの素行がお世辞にもよろしくないことは、ここに着任した時から聞き及んでいた。たとえそれが様々な事件解決につながっており、そもそも彼らの義憤から始まった行動だったとしても、教師の立場からしたらあまり褒められたものではないことは確かだ。動機が全く違うとはいえ、父親そっくりの行動に苦笑いを浮かべたものだ。
しかし、今回は……今年は違う。
今年は今までと違い、ハリーは完全に犯人に狙われているのだ。そもそもこの警備も、半分はハリーを守るために敷かれているものなのだ。彼はこの期に及んで、未だに自分の置かれている立場を理解していない。
私は声のした方に急いでかけてゆく。あの子を叱りつけるために……あの子を今夜も侵入しているかもしれないシリウスから守るために。
私が駆け付ける音が聞こえたのだろう。暗闇の向こうから息を呑む音、そして慌てたように
そして案の定と言うべきか、駆け付けた先には人影一つなかった。他の教師ならこれで騙されるのだろうが、彼の父親が持っていたマントのことを知っている私にはこの手の手段は通じない。寧ろこの誰もいない空間を見たことで、より彼らがここにいることを確信した。
私は怒りを露にしながら、一見誰もいない空間に声をかける。
「
私はダンブルドアのように『透明マント』を見通すような力はないが、彼らが隠れている大体の位置なら判断できる。そして……どうやら間違ってはいなかったようだ。
今まで何もなかった空間から、気まずげな表情をしたハリーとロンが現れる。二人ともここまで言われれば、流石にこれ以上隠れても無駄だと思ったのだろう。
ハリーが表情同様気まず気な声を上げる。それを私は、
「ル、ルーピン先生。す、すみません、僕ら……」
「いや、それ以上はいいよ、ハリー。君がどんな動機で出歩いたか、私は知りたいと思っているわけじゃないんだ」
内心の怒りのまま遮った。
「ハリー、ロン。君達が去年や一昨年、夜な夜な学校内を出歩いていたことは知っている。勿論、それがフレッド君やジョージ君のように悪戯心から来たものでないこともね。でも、今年は駄目だ。君達はシリウス・ブラックに狙われている。だからこそハリーはホグズミードに行かせてあげられず、私達教師がこうやって夜の見回りをしているんだ。ハリー、君には辛い思いをさせているかもしれないが、君も私達が何故そんなことをしているか理解していると、私はそう思っていたんだ」
でも、と私は続ける。
「でも、どうやら君は理解していなかったようだ。色んな大人に説明されただろうに、君はそれでもシリウス・ブラックのことを深刻に受け止めてはいないらしい。いや、それだけじゃない。君は両親が亡くなった意味も、真には理解していないのだろうね。いいかい? 君の両親は、君を生かすために自らの命を捧げたんだ。それを『吸魂鬼』が近づいた時、君は理解したはずなんだ。君ならそう思って、それに報いるためにも命を粗末にすることはない。両親の犠牲の賜物を、決して危険に晒したりしないと……待て、もしかしてそれは!?」
そこで私は、ハリーが何か羊皮紙のようなものを片手に持っていることに気が付く。
私達『悪戯仕掛け人』が作り、悪戯の限りをつくすために愛用した……どこか懐かしさすら覚えるものを。一見ただの羊皮紙にしか見えないが、製作者の一人である私が見間違えるはずがない。
私は再度燃え上がった怒りを感じながら、唖然とするハリーの手から『忍びの地図』を奪い取った。
「……これもそうだ。これが何年も前にフィルチさんに没収されたこと、そしてこれが実は地図だということを私は知っている。勿論これの使い方すらね。でも、これがどうやって君の物になったかなど聞きたくない。ただ君がこれを私達に提出しなかったことに大いに驚いている。これさえあれば、シリウス・ブラックは君の居場所をいとも簡単に見つけ出すことが出来る。まったく危機感が足りていないじゃないか」
ここまで言うと、流石にハリーもロンも自分たちが如何に愚かなことをしていたかを悟った様子だった。
最初はどこか私が笑って見逃してくれるだろうとでも思っていたのだろうが、今はそんな考えは一切見せず、ただ打ちひしがれた様に項垂れている。
言い過ぎたとは思わないが、こんな表情をされると流石に怒りを保つのは難しい。
私は中の熱を吐き出すようにため息をつくと、今度は少しだけ優し気な声音を意識しながら言った。
「……私の言いたいことを理解してくれたようだね。なら、ベッドにもう戻りなさい。先程も言ったが、君達に罰則も減点もするつもりはない。ハリーも次の個人授業はちゃんとやるから、何も気にせず来なさい。でも、この次はもう君達を庇ったりしないよ。このまま真っすぐに戻らないと……私には分かるからね」
「はい……ごめんなさい、ルーピン先生」
「ご、ごめんなさい」
二人は私に謝罪の言葉を述べてから、トボトボといった足取りで寮への道を歩いてゆく。
しかし、
「先生……その地図、どうやら完全に正確な物じゃないみたいです」
最後の最後に、特大の爆弾を落としていくのだった。
「その地図に……さっきあるはずのない名前が書いてあったんです。それを確かめに僕らはここまで来たんですけど……来てみても、その人の姿はどこにもありませんでした」
「……ほう? その名前は誰だったんだい?」
「……ピーター・ペティグリューです。それはもう死んだ人の名前ですよね?」
スリザリンとの点数は80点。
クアッフルは10点。スニッチは150点。
スリザリンが60点リードでスニッチを掴めば、グリフィンドールの勝ち。
スリザリンが70点リードでスニッチを掴めば、同点になるが、スリザリンにグリフィンドールが勝ったと言うことでグリフィンドール勝利。
スリザリンが80点以上リードでスニッチを掴めば、スリザリン勝利。