ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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蛇語

お茶会から2年。

ドラコとダリアは8歳になっていた。

クラッブとゴイルはお茶会で無事二人に挨拶をすることができ、今ではすっかり双子の取り巻きと化している。

 

……と言っても、彼らがよく行動を共にしているのはドラコだけであり、二人がダリアの傍にいるということはあまりなかった。

 

二人にとって重要なのはドラコよりもダリアに気にいられることであったが、やはりダリアが醸し出す冷たい雰囲気が恐ろしかった上、ダリアが基本的にいる場所が書庫だったため中々近づけなかったのだ。

本を読むなんて習慣がない二人には、本を読んでいるダリアの傍ですることなどなかったのである。書庫でお菓子を食べることはダリアが一度激怒したことがあったので、彼らもそれ以来したことがない。次の日にはもう色々忘れている彼らだが、その時のことは流石に忘れていないらしい。

 

いつも冷たいオーラが、殺気のように更に冷たくかわり……いつもの薄い金色の瞳も、()()()なものに変わる。

その時二人はまったく生きた心地がしなかった。

本が好きなダリアは、本の横でぼろぼろお菓子をこぼす二人が許せなかったのだ。

 

一方、ダリアにとっても二人はあくまでドラコの取り巻きであり、

 

『お父様に紹介された以上、純血貴族として最低限の付き合いはしておこうかな』

 

という程度の認識だった。

彼女にとって彼ら二人はあまりにも頭がお粗末すぎて、会話が全くかみ合わない相手でしかなかった。

 

 

 

 

ダリア視点

 

今このマルフォイ邸にはクラッブとゴイルが訪れている。

私はどうもこの二人が苦手だ。どこかお兄様を侮っている空気を感じるためだ。

マルフォイ家ということで表面上はお兄様に従っているのだが、私がその場に加わると、若干お兄様を放置して、私にお世辞をひたすら言ってくるのだ。

しかもお世辞ばかり言って私に取り入ろうとする割には、私のことを怖がっている節がある。

それに何より会話がかみ合わない。

 

私としてはもっと魔法などについての話をしたかったのだが、彼らとかみ合う話は料理の話だけである。

その料理の話も、質より量といった二人とはあまり合わない。

 

私にとって二人はもはや、いざという時お兄様の()となればそれでよい存在になっていた。

そんな二人との会話に疲れ、また書庫にでも籠るかと考えその場を離れていたのだが……そういえば庭のバラが綺麗になっている時期だなと思い、日傘をとりに部屋に帰るのだった。

 

日傘をさし、肌の露出を顔以外極限まで無くした格好をして庭に出る。

しもべ妖精たちによって落ち葉一つ落ちてない庭の歩道を歩いていると、真っ赤に咲いたバラが見えてくる。

9月のこの時期、ちょっとづつ肌寒くなってきており、日光のこともあるので少し見たら帰ろうと思っていると、

 

『そろそろ冬眠の時期だな、今のうちに飯を食べておかねば……』

 

そんな声が突然聞こえてきたのだった。

聞いたこともない声だったので、びっくりして辺りを見回す。

もしや侵入者か、と思い警戒していると、

 

『しかしここはネズミ一匹いやしない。人間どもは余計な事ばかりしやがって』

 

今度はどこから声がしたか分かったので、素早くそちらに杖を向ける。

そこには一匹の蛇がいるだけだった。

 

『なんだこの人間のガキは?まったく人間ってのには嫌になる。こっちが何もしなくても攻撃してくるんだから』

 

そうこちらに威嚇態勢をとろうとしている。驚いた、蛇が言葉をしゃべるなんてことあるのか。

 

『もしかして、あなたは人間の言葉を喋れるのですか?』

 

私は驚いたという風に、構えた杖を下しながら言う。

 

『む? なんだ俺の言葉がわかるのか? 驚いた! まだそんな人間が世の中にいたとはな!!』

 

『え? あなたが人間の言葉をしゃべっているのでは?』

 

『いんや、あんたが俺たちの言葉をしゃべってんのさ。そんな奴がいたのは昔の話だと、同族からは聞いていたんだがな……』

 

そんなことをしゃべっていると、そこにお兄様が走ってやってくる。

 

「あら、お兄様。お二人はどうなさったのです?」

 

「あいつらなら帰ったぞ。ダリアがいなくなったことを残念そうにしていたよ。まあ、3秒後には出ているお菓子を食べて、そんなことも忘れていたみたいだが……。そんなことよりダリア!! お前、蛇と話せるのか!?」

 

「ええ、どうやらそうみたいです。ちなみに傍から見てどのように見えました?」

 

「なんかそこの蛇とシューシュー言って頷きあってるように見えたぞ」

 

そう言われて私は改めて蛇の方をみやる。

 

『なんだ、そいつは? お前の兄弟か? あんまし似てねーな』

 

『そうですね』

 

私達がそんな会話を繰り返していると、お兄様が横ではしゃいでいる。

 

「すごいぞダリア! 蛇としゃべれるなんて! そいつは今なんて言ってるんだ?」

 

「私たちが兄妹なのかと聞いてますので、それを答えただけですよ」

 

『おい。お取り込み中悪いんだが、俺はもう行っていいか? 冬眠の準備をしなくちゃならん。どっかにネズミとか飯になりそうな場所はないか?』

 

『とりあえずこの屋敷にはあまりいないと思いますよ。しもべ妖精がしっかり掃除をしてくれているので。外をお探しになった方がよろしいかと』

 

『そうか、やっぱりここにはいねーか。じゃあなお嬢さん、達者でな』

 

『ええ、あなたも。ご飯がみつかるといいですね』

 

這って出ていく蛇を眺めていたあと、

 

「なんだか時間がたってしまいましたね。中にもどるとしましょう」

 

そう言って、まだ隣で興奮した様子のお兄様と一緒に屋敷にもどる。

 

「ドラコ、ダリア。庭に出ていたのか?」

 

ちょうど帰ってきていたお父様に鉢合わせる。

 

「はい。お父様。バラが綺麗にさいている時期ですので」

 

「そうか、ただあまり長時間外にいるんじゃないぞ。お前は肌が弱いのだから」

 

もう耳にタコができるほど聞いたセリフを聞いていると、

 

「そんなことより父上!! ダリアがさっき蛇としゃべっていたんです!!」

 

「なに!! ……それは本当か!?」

 

「ええ!! 僕には全く内容がわからなかったけど、ダリアは会話していたんだよな?」

 

「はい。蛇としゃべれるなんて初めて知りました」

 

それを聞いてお父様は感激している様子であった。

 

「ダリア。蛇と話すというのはな、パーセルマウスと言ってかの偉大なるサラザール・スリザリンの能力だったのだよ。以来、蛇と話すというのは、大変名誉ある、純血の中でもさらに偉大な証とされてきたのだよ。かの闇の帝王も話すことができた」

 

「闇の帝王も……」

 

一気に気分が沈んだ。蛇と喋れたのが、ただ私の中にある帝王の血のおかげだと知って。私が帝王の造ったものだと再確認して。

そんな私の様子に気付くことなくお父様は大声を上げた。

 

「これは大変名誉なことだ! ダリア、それは誇りに思っていいのだよ!! 我がマルフォイ家にして、偉大な能力を持ったのだから!!」

 

そう興奮したように言った後、だが、とお父様は続ける。

 

「だが、それを周りにおおっぴらに言ってはならぬ。忌々しいことに、パーセルマウスは我々純血以外の、『穢れた血』や『血を裏切るもの』からは、闇の魔法使いの証拠だとして蔑まれているからな。まったく、忌々しいことだがな……」

 

そう本当に忌々しそうにおっしゃった。

 

「はい、お父様」

 

ああ、また一つ秘密が増えてしまった。

そう憂鬱に思っている横で、

 

「ドラコ、お前もわかったな。他の純血貴族はともかく、他の魔法族に漏らしてはいけないぞ」

 

「はい、わかりました、父上」

 

私としては、お兄様が漏らしてしまわないか心配ではあったが、漏らすとしてもクラッブとゴイルだろうし、あの二人ならおそらく次の日にでも忘れていることだろう。

お兄様のお友達はやはり考え直した方がいいのではなかろうか?

お兄様としては、初めてできた同年代の同性であるし、話たがりのお兄様としては、ちょうどいい話相手なのでしょうが、如何せん頭の出来が悪すぎる。なにせどんな秘密をしゃべっても、次の日には忘れてるのだから。

 




ダリアがパーセルタングについての知識がなかったのはたまたまです。まだ八歳ですし、そういうこともあるでしょう。


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