オレだけなんか世界観が違う   作:ろくす

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感想評価ありがとうございます。
気の効いたことは言えませんので月並みな表現になりますが、とてもうれしいのです。


普通だからこそ、異常

「君に特別任務を任せる」

 

「複雑な生い立ちの子でね、彼本人は至って普通の少年なんだが警戒を怠ることはできない」

 

「彼がトリガーを手にした後、おかしな行動に出ないか念のため様子を見てくれ」

 

 

そう言って渡された資料に書いてあるのは、現代日本において異質としか言い様のない経歴だった。

 

少年兵、孤児、対人間でしか発動が確認されないサイドエフェクトと経歴から推察される命のやり取りをしていたであろう経験。

ボーダーにも孤児なら居るが、人間と戦う事が目的ではないこの組織において対象はあまりに浮いている。

 

資料の限りだと、そういった過去を匂わせるのは眠るときのみで、普段は至って普通の少年という異常さがまたおかしいのだ。

日本で暮らしていた期間を考えると、あまりに普通すぎる。

普通だからこそ、異常。

 

ボーダーに対して異様な興味を持ち、一日のほとんどを仮想戦闘室や個人ランク戦に費やし、それ以外はランク戦の記録を見ている。

強くなることに貪欲な姿勢と、本人の経歴に警戒せざるを得ない。

 

詳しい資料は風間のみに公開されたもので、隊のメンバーにはあくまで監視の必要があることだけを伝えるように言われた。

無いとは思うが、彼の経歴が漏れると厄介なことになるので箝口令を敷かせてもらう、とのことだった。

接触の切っ掛けとして与えられた防衛任務で様子を見る必要がある。

 

 

「あ、今日はよろしくお願いします!」

 

 

資料の通り、普通だった。

途中、妙なテンションでサインをねだってきたがまだ普通の範囲だと思われる。

 

微妙に監視対象に肩入れしているようにも見えた責任者に、チームを組ませてやれないので、代わりにチーム戦というものを教えてやってくれとも言われていた。

そのため監視ついでに初歩の初歩からやっていったが、飲み込みが早い。

というよりは経験があるのだろう。

 

姿を隠しての射撃や、乱戦での立ち回りや危機からの離脱は手慣れたものだった。

対人間でしか発動しないサイドエフェクトは、ネイバーに対しては発動しないようだがB級昇格直後にしては悪くない動きをしている。

 

押しの強さに菊地原は若干苦手そうだったが、楽しそうに歌川と会話する様子からして性格にも大きな問題はないようだ。

 

本当にごく普通のB級隊員だった。

 

この分では、防衛任務中に何か有ることはないだろう。

そう判断してからは監視の目を緩めて、いつも通りの防衛任務を行った。

 

 

「今日はありがとうございました!」

「初の防衛任務、お疲れ様」

「……やっと終わった」

「よかったらこの後打ち上げでも行くか?」

 

 

面倒見がいい歌川からしたら、目を輝かせながらついてくるのは満更でもなかったのかもしれない。

先輩風を吹かせて誘っていた。

 

 

「あー……すっごく!本当にすっごく!行きたいんですけど、オレまだB級昇格の手続きとか残ってて……」

「なら仕方ないな、菊地原この前言ってた店行くぞー」

「えー……」

 

 

本当に残念がっているのが伝わってくる姿に仕方ないと割りきったのか、歌川は菊地原に絡みに行った。

 

そういえば行動制限がかかっていたか。

ボーダー本部から立ち入り禁止区域までが行動範囲とか。

浮かれてはいるが立場は弁えているようだ。

初対面でサインをねだってきたり、言葉の端々から感じるファンっぷりから誘いを断ったことが意外だったのか、菊地原の目線がチラリと向けられていた。

当の本人はサイン帳を見てニヤニヤしていたのですぐに反らされたが。

 

初の接触ということもあり報告があるので後から合流することを告げ、歌川と菊地原と別れた。

 

報告の為、前もって決められていた部屋に入室すると責任者は既に先に来ていたようだった。

 

 

「君から見てどうだったかね」

「至って普通、という認識です。防衛任務中もおかしなそぶりは無く、市外から来たボーダー隊員のような高揚感はありましたがネイバーに対しても強い感情は無さそうでした」

「そうか……念のため、引き続き無理のない範囲で監視を頼む」

「はい」

 

 

ほっとしたような顔をしていた。

 

今後の防衛任務のスケジュールを聞き帰路についた。

途中、ランク戦の対戦室を覗いてみると先程別れたばかりの顔がB級昇格手続きとやらをしているのが見えた。

そんな調子ではボロが出るのが早いことを注意しておくかと様子を見ていると、防衛任務との違いが明確に現れる。

 

明らかに動きが違うのだ。

相手の後ろに回り込むのにかかるスピードも、対戦相手に接近されたときの回避も何もかも。

 

これが対人戦闘のサイドエフェクトかと納得すると同時に上層部の危機感も理解した。

 

対戦相手の顔面にアステロイドの雨を打ち込んで勝利したのを確認した後、対戦室から出てくるのを待つ。

 

 

「げっ」

「以降B級の昇格手続きとやらをするときはもっとタイミングに気を付けろ」

「すっ、すみません!この事はどうか内密に……!打ち上げが嫌だったとかじゃないんです!本当に!!」

 

 

地に頭をすり付ける勢いで謝罪してくる。

事情を知らない第三者ではなくて幸運だったなと思う。

 

 

「勘違いされるような言動は避けた方が良い」

「はい!本当にすみませんでした!」

 

 

このままだと土下座をする勢いだったので一言だけ言って離れた。

あと、口止め料として断腸の思いだろうと鬼怒田さんのサインを渡そうとするのはやめた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 


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