大変長らくお待たせしました。
その上原作キャラのげの字も無い話で申し訳ありません。
追記
序盤の流れを大幅に変えました。
先輩が畜生でくずになっただけで後半の流れは変わっていません。
ずっとお茶を濁してやり過ごしてしまったと後悔していたので変更しました。
尋問役のおじさんのリアクションから嘘と判定されたのだと解った。
嘘になるはずがないと信じて言ったのに、嘘判定されたという事に驚愕した。
オレはここに来てからもずっと目的のためだけに生きて、何も変わっていないつもりだった。
だからこそボーダーに来た当初のオレだったら絶対に嘘判定されない言葉を選んで話したつもりだった。
「あっ、すみません言い間違えました。正確にはどうでもいい人間、でした」
正直これ以上オレがボーダーに居ても迷惑しかかけないことは解っていた。
だからこそ、遊真のサイドエフェクトに引っ掛かって変に追及されることがないように嘘でないことだけを話したつもりだし、頭がおかしいオレを病院なりなんなり、ボーダーの外に移されるようにしたつもりだった。
けど、こじれるかもしれない。
尋問役のおじさんはオレがボーダーに来てからいつも良くしてくれた人で、オレの事を良い子かなにかと勘違いしている節があったから、しっかりと見限って貰おうと思い隠してきた本音を言ったつもりだったんだ。
ワートリの大ファンなのは変わらないし、今だって一方的な好意を持っている。
けど、どんなに大切な人だって殺せたし、殺せるつもりだったんだ。
どうでもいい人間なら、という言葉が嘘になっていないようだからまだ軌道修正はできる。
嘘にならないように、早く追い出してくれるような残虐で理解のできないどうしようもないところを見せなくては。
「流石に前いたところの仲間は殺せないですね。オレが一から面倒見てちゃんと人間を殺せるように教育したやつも居るし、依存させていざというときの肉盾になるように育てたやつも居ましたから」
全部本当の事だ。
この年まで生きてこれたのは、俺の代わりに敵を殺したやつと俺の代わりに死んだやつが沢山いるからこそだ。
それが悪いことだなんて思わなかったし、誰もそう言わなかったから、なんて免罪符にならない。
オレが居なければ一生罪悪感なんて抱かなかっただろう。
流石に今の畜生発言は受け入れられなかったのか、眉間にシワがよっている。
「……やはり君はもう昔の君ではないんだな」
いやぁ今日までお世話になりましたー。
「人の命の大切さを知ったんだね」
は?
思わず口がポカンと開いたと思う。
自分の間抜け面は見えないのでよしとする、というか今信じがたいことを言われてて理解ができてない。
この流れでなんでそうなるの??
遊真のサイドエフェクトで嘘か分かるんだよね??
大口を開けたオレの事を気にせず話し続けるおじさん。
「前からその片鱗はあったのに、君の事を過去だけに注目して変に特別扱いしてきてしまった。環境のギャップに苦しむ君の事を解ってやれなくてすまなかった」
「……い、いやいやいや、何言ってんですか」
「誰も理解者が居なかった君が日本の常識によって少年兵の頃の行いを、自分を否定されるような気持ちになってしまうのも仕方ない」
「いや、だから待ってくださいって」
「こんな世界にいたくなかったという感情が君をネイバーフッドへの渡航へと駆り立てたのか」
「だから……」
「でも、ボーダーを出ても君に明るい未来があるとは思えない。むしろより大きなギャップに苦しむようになる可能性が高い……やはりここは上層部に直訴しなくては……」
「だから、話を聞けよ!」
何なんだこのおっさんは!
勝手に好意的に解釈して勝手に盛り上がって……気持ち悪い!
今までも勘違いモノかな?って思うくらい好意的に解釈して来てたけどここまで来るともはや妄想以外の何物でもない。
「ようやく、本気の顔になったね」
尋問役のおじさんは、嫌悪感から感情的に怒鳴り付けたオレを見て、にっこりと笑った。
一瞬で頭が冷えた。
どんなに煽られても乗せられてはいけないとあれだけ注意していたというのに。
「っ、……すみません、感情的になって」
「君は……自分を追い出すことに随分と必死だね」
「……」
反応してはダメだ。
これ以上この人の言葉に答えてはダメだと本能的に察した。
オレがボーダーでまともに話したことがあるのは修くんを除けばこの人のみ。
何か気付かない内にぼろを出しているかもしれない。
そんなオレの警戒をよそに、おじさんは穏やかな口調と笑顔を崩さずに続ける。
「誰かに罰せられることを望んでいるのかな」
「…………」
「ずっと気になっていたんだ。君はボーダーの人を好きだと言う割りに深く関わろうとしない事が」
「…………」
「三雲くんに会うまではサインだけ貰ったらすぐに距離をとって、誰に対しても一歩も踏み込もうとしなかったね」
目を合わせるのが気まずくて、ほんの少し目を逸らしたらもう向き合うことは出来なくなった。
床に埋め込まれた机の足を見ながら早く終わることを祈りひたすら待つ。
黙ってさえいれば全て終わるのだと確信しているのだから耐える。
「君の過去を誰よりも気にしているのは君だ」
「……」
「ここから出ていきたい理由は?自分が許せなかった?それともボーダーで何か嫌なことがあったのかい?けど、言葉にしてくれないと、誰もわからないよ」
「……」
「一つだけ聞かせてくれ。ボーダーが嫌いで、ここに居たくないから出ていきたいのかい?」
そこまで言うと、じっとこちらを見ているようだった。
視線をそらしたままやり過ごそうとするが、ちりちりと感じる本気の空気に、呼吸がままならないほどの緊張があった。
この人はオレが黙っている限りテコでも動かないのだろうと、そう感じさせる空気があった。
それでも暫く沈黙を続けたが、先におれたのはオレだった。
「…………ボーダーは、好きです。……ずっと憧れてたんで。実際いい人がいっぱいいて、ここだったら銃がなくても眠れるんじゃないかって思うくらいには居たいと思います」
「では、なぜ?」
「でも、……オレは間違ってる!」
頭がおかしくなりそうだった。
実際、もうおかしくなっているのだが。
二種類ある常識が、間違っていると言い、同時に正しいと言う。
人殺しと糾弾するオレと、生きる為にはなんてこと無い事だと言う俺。
どちらも
こんな平和な所に居るから五月蝿いのだと、そう思って平和じゃない所へ行こうとしたのに失敗してしまった。
頭の騒音を押さえつけるように右手で頭を抱えた。
みっともない。恥ずかしい。ヒステリーそのもので、まるで子供だった。
修くんや原作キャラの前では必死に取り繕っていたけれど、所詮こんなものなのだ。
「間違ったって別にいいじゃないか」
あっさりと、言われた。
「何を間違ったのか、具体的なことは解らないけど、それを理由にボーダーを出ていく必要はないと思うな。君は子供なんだ」
「何いって……」
「こんな世界に居たくなかった、って君は言っていたけど、こんな世界が君の世界なんだ。ここで生きるしか無いだろう」
「ここが、オレの世界……?」
ずっと異物感だけあった。
オレの居るべき場所はここではないと思っていた。
けど、そんなこと無かったのだろうか。
オレのことなんて殆ど知らないおじさんなんかの言葉にこうまでも反応してしまうのは、オレが欲しかった言葉だったからかもしれない。
「だって、友達ができたんだろう」