オレだけなんか世界観が違う   作:ろくす

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行くな

 

ネイバー達から千佳を連れて逃げる際。先輩に教わったトリオンを使わない隠れ方が役に立った。

大量の黒いラービットを産み出したことによりトリオンを殆ど使いきった千佳と、トリオン量が平均を下回る修にとって価千金の知識だった。

 

先ほど先輩がレプリカの通信越しに言っていた無茶苦茶な方法とはいえ、なんとかネイバー達を追い払うことに成功するだろう。

これで全て丸く収まる、そう思った瞬間のことだった。

 

 

『サンキュー、レプリカ先生』

「!!!」

 

 

何時ものように軽い調子の先輩の声。

しかし、レプリカの言葉からしてその様な状況ではないことは直ぐにわかった。

 

 

「まさか……そのままアフトクラトルに向かうつもりか!!」

「!?」

『別にアフトクラトルでなくても良かったんだけどなー。とりあえず、日本でなければ』

 

 

アフトクラトルへ向かうとはどういうことなのか。

そしてその問いに対して否定するでもなくいつもの調子で答える先輩。

状況が理解できない修は、思わず声を上げた。

 

 

「どうなってるんだレプリカ!!」

「……君の言う先輩は緊急発進の準備が始まっても遠征挺に乗ったままだ。恐らくこのままアフトクラトルへ向かうつもりなのだと思う」

「っ!一体何考えてるんですか、先輩!」

 

 

訳がわからなかった。

先輩が何を考えているのかまるで解らなかった。

緊急発進まで3分とレプリカが言ったのを修も覚えている。

あまりに時間が無かった。

 

 

『あー、修くん。元気でな!先輩のことなんか画面外のモブみたいに忘れて幸せになるんだぞ、ってなんか変だな。うーん。とりあえず無いとは思うけど、間違っても先輩を助けようとか余計なこと思ってアフトクラトル来ちゃダメだからな!』

 

 

この人は何を言っているのか。

まるで別れの挨拶だ。

いや、実際そのつもりなのだろう。

通信越しの先輩は至っていつも通りの調子なのに、とっくにその意思は固まっていた。

 

 

『あと何かあったかな……』

 

 

薄情だ。

ほんの一言二言で続きが出てこなくなるような先輩はあまりにも、薄情だ。

修の感情が爆発するのも当然のことだった。

 

 

「……先輩のアホ!大馬鹿者!別れの挨拶すら対面でできないとか相変わらずボッチ拗らせてますね!!」

『うおっ』

「大体なんですかその適当すぎる挨拶!ぼくのこと散々射撃の的にしてきたくせに自分はどっか行こうとするとか!同じだけ蜂の巣にしてやろうと思ってたのに勝手なんですよ!」

 

 

可哀想に、状況に着いていけていないであろう横にいる千佳があわあわと口を開いては閉じてを繰り返しているのが見える。

けど、一度飛び出した言葉は止まらなかった。

 

 

「中途半端はやめてくださいよ!まだ先輩にすら勝てない後輩を置いてどっか行くとか信じられません。職務怠慢です。大体ネイバーフッドになんか何しに行くつもりなんですか!観光したいならハワイでもグアムでも行けば良いじゃないですか!」

『色々と滅茶苦茶だぁ……いやしかし、修くんも意外と先輩のこと慕ってくれてたんだ。先輩も嬉しいよ、多分』

 

 

焦りと混乱で言葉が上手く纏まらない。

とりあえずなんとかして、このアホな先輩を引き留めなくてはいけないと思うのに混乱した修は気のきいたこと一つ言えない自分に苛立った。

 

 

「あと1分だ」

『ここはあれかな……?原作リスペクトしてあの台詞で締めるべきかな?』

 

 

冷静なレプリカのカウントに、間抜けな先輩の声。

刻一刻と近付く修の脳裏に、ふと過去のやり取りが思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ先輩の名前教えて下さい」

 

 

そう言った修に対して、うまい○のコンポタ味を抱えた先輩は少し困ったような顔になった。

先程までの興奮した様子から一転して大人しくなってしまった先輩に、聞いては不味いことだったのかと不安に思う。

 

 

「名前って……うーん」

「ダメ、でしたか」

「いや、別にいいよ。ただ、世を忍ぶ仮の名前とソウルネームがあるからどっちを言うべきかと」

「なんですかそれ……」

 

 

思わず呆れが声に出る。

あはは、と乾いた笑い声を上げた先輩は続けた。

 

 

「世を忍ぶ方は仮の名前だから呼ばれてもとっさに反応できないし、ソウルネームは少年兵として人生の半分を生きた俺の名前っていう設定だから戸籍とは違うんだよね」

「先輩頭おかしいんですか……?」

「まじまじと言った!?あはは、まぁ確かに可笑しいけどさ」

「じゃあ、面倒なんでどっちも教えて下さい」

 

 

この欲張りさんめー、なんてうざい絡み方をしてくる先輩に若干後悔した。

一応両方教えてもらったが、世を忍ぶ仮の(略)では本当に反応してくれないし、ソウルネームで呼ぶには恥ずかし過ぎたので結局ずっと呼び方は先輩のままだった。

 

そんな、他愛の無いやり取りをふと思い出した。

 

 

 

 

 

時間がない。

 

 

「あと30秒」

『ランク戦頑張ってな!先輩も草葉の影から応援してるよ!』

 

 

解らない。

 

 

「20秒」

『チームメイトとも仲良くやるんだぞ』

 

 

でも、修の気持ちは一つだった。

 

 

 

「10秒」

『じゃあ』

 

 

 

「行くな!ロウ!」

 

 

 

「0」

 

 

 

カウントと共に黒い稲妻が走り、遠征挺は出発した。

 

 

 

 




ちなみに原作リスペクト()とはレプリカが遠征挺の中から言った台詞の事です。

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