東方天災手記   作:ベネト

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迷いました...


太陽畑にて

side美羽

 

「...しまった...迷ったわね...これは...」

 

山を下山した後、適当に草原をぶらぶらしていたら方向が分からなくなってしまったわ...

 

人里を目指していたのに何てこと...

 

「...ちょっとまずいわねぇ」

 

初めての幻想郷にて迷子となると、アタシの完璧なる功績に泥を塗ることになるわ...

 

何としてでも、人里にたどり着かなくては!!

 

「あらん?」

 

遠くを見ると何やら黄色い何かが見えるわ!!

 

あの方向が人里かしらね?

 

 

「...善は急げって奴かしら?」

 

アタシはその方向に足を進める...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...違ったわぁ」

 

目の前に映るのは咲き誇る向日葵達...

 

見た限り、畑といってもいいほどの量...

 

ここまで咲いていると、迷路ができるわね...

 

「目的の物とは違うけど...まぁいいわ」

 

アタシはその花畑に侵入する...

 

幻想郷の事を知るにはちょうど良い機会だし何が起ころうとも問題はないわ...

 

 

 

 

向日葵畑を進んでいくと一軒の民家が目に映りアタシは歩を止める...

 

ここの畑の主の家かしら?

 

勝手に入っているわけだし、挨拶くらいはしたほうが良いわね?

 

「この世界で常識が通用するか分からないけど...」

 

アタシは戸をノックするが応答はない...

 

留守かしら?

 

 

 

「私に何か用かしら?」

 

「...?」

 

後ろを振り向くと、そこには緑色のショートヘアーの女性がいた...

 

白のブラウスに赤のチェック柄のベスト・スカートを身に着けており、白い日傘を差している...

 

どうやらここの主のようね...

 

笑みを浮かべているけど、すごい嫌な感じがする...

 

薄っすらと殺気も感じるし...

 

 

 

「こんにちは...といったところかしら?この向日葵畑に入っちゃったから許可を貰おうと思ってね...」

 

「別にいいわよ?好きに見なさい」

 

女性はくるくると日傘を回しながらアタシへ近づく...

 

そしてアタシを観察する...

 

「...貴女天狗かしら?それにしては...変な力を感じるけど?」

 

「そうね...天狗には違いないわね...変わっているとは良く言われるわぁ」

 

「そう...」

 

 

 

 

女性はアタシから距離を取り、向日葵畑を眺める...

 

「この向日葵達...綺麗でしょ?」

 

「...確かに手入れするの大変じゃない?」

 

女性は頷く...

 

「大変よ...この沢山の向日葵達に栄養を均等にあげるのは骨が折れるわ...養分の素だって...そう簡単に手に入るわけではないからね...」

 

「...素?そんなに大変かしら?」

 

...植物って...日光と土からの栄養・水が必要だったわね?

 

ここは見た限り、それらに関しては充分恵まれている気がするけど?

 

彼女は私に近づく...

 

 

 

「大変よ...だって...」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来る養分の素は滅多に来ないんだもの!」

 

「!?」

 

彼女から距離をとると、さっきまでいた場所に小規模なクレーターができる...

 

「あら?速いわね?」

 

彼女は地面に突き刺さった日傘を抜いてアタシを見つめる...

 

笑みを浮かべているというより、威嚇かしら?

 

本来笑みというのは威嚇を意味するとどこかで聞いたわ...

 

 

 

 

 

 

「何をするのかしら?アタシは無抵抗だというのに?」

 

「無抵抗も関係はないわ...私の花畑に来てくれたのだから肥料になりに来てくれたのでしょう?」

 

彼女はアタシに傘を向ける...

 

ああ...トラブルに巻き込まれた感じね...

 

今度は地図を持ってきましょう...

 

しかし...この人は見た限り、かなりの実力者のようね...

 

力を抑えて戦うのは骨が折れるわ...

 

どうしよ...

 

 

 

「やめときなさいよ...アタシそれなりに強いわよ?」

 

「それでも全く構わないわ!最近骨のある子がいなくて退屈してたのよ...貴女なら退屈はしなさそうね!」

 

 

彼女はアタシに近づき、傘を振り下ろす...

 

さっきのクレーターを見た限り、力がかなりの者...

 

防ぐのは得策ではないわ...

 

 

 

 

 

アタシは後退してそれを躱すが彼女は更に距離を詰める...

 

「破壊力を見て防ぐのは諦めたみたいだけど!それくらいは読めているわ!!」

 

「!?」

 

傘がアタシのお腹に突き刺さる!

 

 

 

 

 

「ぐ...」

 

白い軍服が赤く染まっていく!?

 

アタシがダメージを受けたというの?

 

「ああ!もう!!」

 

傘を引き抜き、アタシは彼女から距離をとる...

 

少しずつ痛みが増してきたわ...

 

ちょっと...抑えないと...

 

 

 

 

 

 

「あら?まだ動けるのね?」

 

彼女は驚いた表情を浮かべてアタシを見つめる...

 

確かに深い傷を受けたけど、軟な鍛え方はしていないわ...

 

 

「...ええ...気分は最悪だけどね!」

 

...やばいわ...イライラする

 

抑えなくてはいけないのに歯止めが利かないわ

 

彼女の方は黒い笑みを浮かべて傘についた血を払う...

 

「中々の殺気ね...貴女の様な血気盛んな天狗は初めてよ?最後に名前を教えてくれるかしら?」

 

「天逆美羽よ...最後って何よ?最後って!?」

 

「その怪我では私から逃げることはもうできないわ?だから最後に聞こうと思っただけよ...」

 

彼女はアタシの前に立ち傘を振りかぶる...

 

「そして私の名は風見幽香...おやすみなさい!無謀な天狗!」

 

 

 

 

 

 

 

side幽香

 

私は美羽の頭めがけて傘を振り下ろす...

 

幾ら天狗とはいえ、重症を受けている!もう逃げることはできないわ!

 

 

 

 

ばきゃ!!

 

 

 

 

 

傘が彼女へと当たる...

 

手ごたえはあったわね...

 

少しは良い養分になってくれそうね...

 

 

 

 

 

「...?」

 

傘を動かそうとすると傘が動かない?

 

良く美羽を見ると私が放った傘の打撃を手で握りしめていた!

 

「...中々の力...手が痺れるわね」

 

美羽は刀を出して私に切りかかろうとするが、私はそれを防いで後ろへ下がる...

 

 

「...おかしいわね?手加減はしていないはずだけど?」

 

さっきの彼女は私の力量を判断して受けるのではなく、避けることを選んだのに?

 

今の彼女から感じるのは力という力...

 

まさに彼女自体がエネルギー体のような...

 

 

 

 

「...ちょっと本気だしただけよ...70%出せば大体の攻撃は防げるわ...」

 

美羽の体から力があふれだしてくる...

 

先ほどとは違い...濃い力が!

 

「...本気を出していなかったのかしら?」

 

「...そんなところよ...組織から本気は出すなと言われているからね...でも」

 

更に彼女の体から力があふれだしてくる...

 

「100%...貴女になら特例でやっても問題ないわよね?」

 

そう言い放つと美羽の姿が消える!?

 

馬鹿な!あれだけの傷を受けていたというのに!!

 

この私の目をもってしても姿を捕らえないなんて!!

 

 

 

「どこ!?」

 

「ここよ...ここ...」

 

美羽は私の背後に現れる...

 

私はとっさに反撃をしようとするが腹部に激痛が走る!

 

「うぐ!」

 

私の体に大きな衝撃が走る...

 

 

今まで受けたことが無い程の重い一撃...

 

まさか、この僅かな時間に彼女の攻撃を受けたというの?

 

裂傷はない...

 

ということは私が受けたのは打撃か...

 

 

 

「気づくのが遅いわ...アタシが現役だったら死んでるわよ?」

 

美羽は溜息をつき、自身の服についた血痕を眺める...

 

 

「...あ~あ...全くアタシの一張羅が...」

 

美羽が軽く手を振ると軍服についた血痕が跡形もなく消える?

 

何かの能力かしら?

 

それなりにダメージは受けたけどまだいけるわ...

 

 

「...まだよ!」

 

私が立ち上がると美羽はキセルを吹かす...

 

「これ以上はやめときなさい...アタシの本気の一撃を受けたのだもの...逆に生きている今に感謝したほうがいいわよ?」

 

虚空に彼女は煙を吐き出して首を鳴らす...

 

そして沈む夕日を眺めている

 

 

「...今日はここまでね...明日は地図でももってこようかしら?」

 

独り言を言い終えると彼女の姿が消える...

 

見た限りだと、そこらへんにいる妖怪なのに中々の力をもっているみたいね...

 

でもあの力の量を見て、私の経験上から考えるに相当な数の命を殺めている...同類だから...嫌でもわかるわ...

 

でも天狗にあんな子いたかしら?

 

 

 

 

 

「...ちっ!」

 

体を動かそうとすると体に悲鳴が走る...

 

思ったよりダメージが大きい...

 

逃がした獲物も大きいけど、それ以上に私に対するリスクが大きかったみたいね...

 

 

 

「...あらあら...美羽は本気を出しましたか」

 

「!?」

 

声のする方向を見ると、そこには美羽と同じ灰色の長い髪をした女性がいた...

 

黒い軍服を身に着けており、片目にはスコープをつけている...

 

両手にはザルを抱えており、沢山盛られた野菜にかじりついている...

 

 

 

 

 

 

 

「ボリボリ...本気は出すなと言われているのにいけませんね...ボリボリ...まぁバレることはありませんが、ボリボリ...自重して頂きませんと...」

 

独り言のように小言を言う彼女は私の方を向く

 

 

「シャク...大丈夫ですか?美羽の100%の攻撃を受けて、シャク...まだ生きているなんて驚きですよ...」

 

「貴女何者?」

 

彼女は迷ったような表情を浮かべるがすぐに消す...

 

「...柚神と申します...只の美羽がやり過ぎないように見ているだけですよ」

 

そして柚神は私の体を眺める

 

「...ダメージが大きいみたいですね」

 

柚神が手を当てると光が私の体を包み込む...

 

温かい感触が体を巡るとさっき受けた痛みが引いてくる...

 

 

「...?」

 

「軽い応急処置です...しばらくは安静にしていたほうがいいですよ?」

 

柚神はそう言うとトマトを齧りながら向日葵畑を眺める...

 

 

「良い風景ですね...これは良いデータになりますよ...」

 

「...」

 

物腰柔らかそうな雰囲気を醸し出しているけど、美羽と同じく数えきれないほどの命を殺めた者と同じ空気を醸しだしている...

 

彼女の仲間かしら?

 

 

 

「貴女...美羽の仲間かしら?」

 

「...仲間ですか?ん~?戦友といったほうが近いですかね?」

 

柚神はナスを咥えながら空間をいじり出してホログラム画面を出す...

 

それをしばらく見つめた後、咥えているナスを齧る...

 

「ふむ...天狗の里に戻るみたいですね...今日の監視はここまでにしときましょうか...」

 

そして彼女は私を見つめる...

 

 

 

「では!お疲れ様です!さっきも言いましたがしばらく安静にしていたほうがいいですよ?ワタシが施したのは簡単な応急手当ですのでね...」

 

そう言うと柚神は野菜をかじりながら向日葵畑の奥へと消えていく...

 

「...」

 

 

 

強力な力を持っているみたいだけど、そこまで過激な方ではないみたいね...

 

何というか不思議な存在に会った気がするわね...

 

負けたというのにあまり悔しくないわ...

 

沈む夕日を眺めながら、私は体に鞭を打って自宅へと戻る...

 

 

 

 

 




まだ書き溜めがあります

暇な時に投稿します

ではこれにて

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