東方天災手記   作:ベネト

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日常編


役所と書類

博麗の巫女一行の活躍により、季節外れの花が咲く異変が終わりを迎え、幻想郷にいつも通りの平和が訪れる...

 

しかし...異変が終わったとしても安全ではない...妖怪の山の封印牢の中では閻魔に目を付けられた第0部隊達が警戒を行っている...

 

まだ本当の意味での平和は訪れてはいないようだ...

 

 

 

 

side睡煉

 

「...はぁ~」

 

重い空気が漂っている封印牢にて私は深いため息をつく...

 

「夜喪妓...辺りの様子は大丈夫かしら?」

 

「オールクリアだ...同志毎乃葉...連中はまだ来ていない!!ここの場所もまだバレてはいないはずだ!」

 

牢屋では、忙しなく辺りを警戒する毎乃葉様と夜喪妓さん...

 

前回の異変で閻魔に目を付けられてから私達は日々警戒態勢に入っています...

 

永琳様の薬により寿命という概念が無くなった私と夜喪妓さんと、長年生き続けている毎乃葉様の存在は魂を管理している連中にとっては喜ばしいことではないみたいです...本当に面倒なことになりましたね...

 

 

「ちょっと!睡煉!サボってないで!警戒なさい!」

 

ボーっとしていた所為か毎乃葉様からのお叱りを頂きました...これはいけない...

 

「サボってないですよ~!お昼ご飯を考えていたんです!!あまり警戒しすぎると万が一の時に疲れますよ~?」

 

「...お昼かしらン?」

 

毎乃葉様が時計を見る...すでに正午は回っています...早朝からこうやっていれば疲れも来ますよ...

 

「...それもそうだな...何かフライ系な物が欲しいな!私は!」

 

「...アタシはサラダ系が欲しいわン」

 

メニューを言われました...ちゃっかり私をパシリに使っていますね...まぁいいですけど...とりあえず天狗の里の食堂に向かいますかね...

 

「はいはい...分かりましたよー!...私は何にしよう...ん~...人参も悪くないですが...地味に値段高騰しているんですよね...」

 

私は考えを巡らせながら、封印牢の戸を開く...

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちわーす!お迎えに上がりましたー!第0部隊のー!」

 

「...え?」

 

戸の向こうには、赤い髪の死神こと...小野塚小町がいた!!出待ちしてやがった...

 

小町の姿を見た毎乃葉様達も戦闘態勢になる...

 

「き...来たわねン!死神!!このアタシ達の命を奪えるものなら奪ってみなさい!!!」

 

「動くな!近づくな!!筋1つでも動かせば頭をぶち抜く!!!」

 

毎乃葉様達は...かつてない程の狼狽えようですね...

 

そんな毎乃葉様達を見て彼女は青い顔をする...

 

「いやいや...待ちなよ...別にそこまで警戒しなくても...」

 

「しゃべるなー!!頭をぶち抜くぞ!!」

 

...話が通用しませんね、これはいけないかもです...

 

「まず落ち着きましょうよ~話が進みませんよー!」

 

小町の間に入ってとりあえず仲裁する...少なくとも敵意は感じられませんし...

 

 

 

 

 

 

 

 

小休止...

 

 

 

「...で?何のようなのよン!!!わざわざここへ来たということはアタシらの...」

 

「いやいや...お前さん達の内容だけどそんな物騒なことはまだしない!」

 

小町は慌てて毎乃葉様を止める...まだという事は事前警告ですかね?

 

「まだという事は...何なんです?」

 

私の言葉に小町は味方を見つけたかのような顔をする...

 

「正直...お前さん達第0部隊の魂を取るのはアタイとしても面倒な業務が増えるんだよ...だから一回是非曲直庁に来てもらって手続きをしてもらわないといけなくてね...」

 

「是非曲直庁?何よそれ?」

 

「アタイのボスがいる役所みたいなものさ...そこで手続きをすれば終わり!!そして定期的に更新に来てくれればアタイ達とのイザコザを避けられるってものさ!」

 

向こうが出した要求...何というか、こっちにデメリットもない、つまり受ければOKということでしょうかね?

 

「他に何かアタシ達に隠してないかしら?」

 

毎乃葉様が疑いの目で小町を見るが、彼女は首を横に振る...

 

「無いよ!!とりあえずさ!それさえやればアタイの仕事はほぼ終わりなんだよ!」

 

「ふむ...同志少なくともこいつは嘘は言っていない...この情報は信じてもいいはずだ...」

 

夜喪妓さんの言葉に毎乃葉様は口を閉ざす...

 

「...信じていいのよね?」

 

「私は嘘は言わん...残りは彼女次第だ...」

 

「だから!アタイはさっきから本当のことしか言っていないよ!!さっさとしておくれ!!時間が惜しいんだよ!!」

 

「タイムイズマネーです...とりあえず彼女について行きましょうよ...」

 

小町は封印牢の戸を開き...私達はそれについていく...

 

 

 

 

 

「...え?」

 

目の前の光景を見て私は目を擦る...

 

...確か...封印牢の先は天狗の里のはずだったのですが、目に映るのは、里の景色ではなく...役所のような無機質な空間?

 

外に出るはずなのに...中にいるってどういうことですかね?

 

「...ねぇ?罠だったら殴るわよン?」

 

毎乃葉様が拳を鳴らすが、小町は必死に首を横に振る...

 

「罠じゃないよ!!時間が惜しいからアタイの能力で距離を詰めただけさ!!!何事も暴力で解決しようとすんな!!」

 

「へー...能力ですか...ちなみにどんなもので?」

 

小町は私を見つめる...まるで唯一の常識人と思ったような目ですね...コレ...

 

「アタイの能力は、距離を操る程度の能力だ!これであの牢屋と是非曲直庁の距離を詰めてやったんだ!すごいだろう!?」

 

...意外に便利な能力です...これがあれば遅刻しなくて済むかもです...

 

まぁ...遅刻なんてしたことはありませんがね?

 

「ご...御託はいいから!!早くしろ!!早く終わらせて帰りたいんだよ!!」

 

...夜喪妓さんが喚いている...ヒトの目もあるから役所でライフルを構えるのはやめてもらいたいです...

 

「分かった!分かったから!!ついてきな!書類を書けば終わりだからさ!...まぁ...また来ることになりそうだけどね?」

 

小町は夜喪妓さんを宥めながら、背を後押しする...何というか申し訳ないです...

 

「お前さん達もついてきておくれ!」

 

「早く帰りたいわぁ...」

 

「同感です...」

 

私達は小町の後に続く...

 

 

 

 

 

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

私達は窓口に通されて、目の前に一枚の書類が置かれる...

 

「はい!そこに本名・年齢・生年月日・血液型・利き腕・目の色・その他etcを記入をして印鑑をいただくよ!」

 

「...え?それだけでいいんですか?」

 

「それだけでOKさ!!あくまで対象者の体の特徴が分かればいいのだから、こっちに不便はないからね」

 

何というか...拍子抜けです...書類を書くって言われたから、もっと多いと思っていたのですがね?

 

「...まぁいいです...早く終わらせて帰りましょう」

 

「思ったより単純だな...これでなら時間をかけることはないだろうな...」

 

でも毎乃葉様の方を見ると、何やらペンが止まっているようです...

 

 

 

 

 

「ねぇ?年齢が分からないんだけどぉ?」

 

「...あ」

 

そういえば...そうです...長い年月を生きている私達にとって年齢なんて数える必要がありません...まずいです...書類に書くことが...

 

「ああ!いいよ別に...そこは備考だしアンタらの特徴が分かればいいんだからさ...そこは適当でいいよ」

 

小町はまさかの回答をする...適当でいいのですかね?仮にも役所ですよ?まぁ...これ以外なら別に困ることは...

 

「...えーと...では本名...睡煉...っと」

 

「ストップ!!!赤いのストップだよ!!」

 

「え?」

 

早くも止められました...何で?

 

「どうした?何か問題でもあるのか?」

 

「睡煉ってのは本名ではないだろう?せめて本名くらいは書いてくれないと困るんだよ...ちなみに緑色の...アンタも同じくだよ...コードネームが書類に通る訳ないだろう?」

 

「本名は長く使っていないんだがな...」

 

「むぅ...」

 

私も夜喪妓さんも本名を書類に記入する...まさか、この名を書くことになるとは思いませんでした...

 

「ねぇ?アタシの場合は天逆毎乃葉で良いのかしらン?状態によっては名前が変わるだけど...」

 

毎乃葉様は小町に再度質問する...一番進んでいませんね...

 

「今の状態でいいよ...」

 

色々と四苦八苦しながら私達は書類に筆を走らせていく...

 

 

 

 

 

 

 

...一時間経過し、何とか全員書類を書き終える...もっとも毎乃葉様の書類が終わらなかったのが原因ですが...

 

「...終わりましたね」

 

「早く帰るぞ...」

 

「...」

 

私達をともかく、毎乃葉様は疲弊していますね...デスクワークが不得手といっても...ここまでとは思いませんでしたよ...

 

「同志よ...本当にこういうの苦手なんだな...」

 

「...当然よ...こういう細々としたのは苦手なのよン...それに...能力使って処理したら後々面倒なことになりそうだしぃ...」

 

毎乃葉様は机に突っ伏している...こういう変なところで真面目なんですよね...このヒト...

 

小町は私達の書いた書類を見ながら笑みを浮かべている...

 

「...よし!これで全員の書類は完了だね!お疲れさまだよ!!」

 

小町は書類を指で弾きながら私達を見つめる...

 

「...これで完了よね?アタシ達としては帰りたいのだけど?」

 

「ああ!アタイの仕事はほぼ完了だ!これで帰っていいさね!!残りは後一人の書類を提出してもらえれば完全完了なんだけど...」

 

「後一人ですか?...誰?」

 

小町は私の顔を見て不思議そうな顔をする...

 

「あれ?あの場所にいなかったから連れてこなかったけど...アンタらのメンバーでいたよな?もう一人?」

 

「...もう一人?それってまさか?」

 

私が聞き返す前に毎乃葉様が小町に詰め寄る...

 

「な?何だい!?」

 

「ねぇ?聞きたいんだけど...もう一人ってどういうこと?現存のメンバーはここにいるだけよン?」

 

「あれ?そうなのかい?でも映姫様から4人分持ってこいとかしか言われてないし...」

 

小町は困惑した様な反応をし、毎乃葉様は嬉々とした表情で小町を見つめている...

 

「ねぇ?アンタの言い分だと...忌梗の申請書類が必要のようね?何で必要なのかしら?彼女は遥か昔に亡くなったというのにねン?」

 

「え?そんな話は聞いてないよ!?アタイは只4人分の書類を作成しろとしか言われてないけど...」

 

忌梗の死が伝えられていませんか...おかしいですね?魂を扱うこの役所がそれを知らないわけないというのに...

 

 

 

 

 

「...小町...無駄話をしている暇があるのですか?貴女にはまだ仕事がたんまりと残っているでしょう?」

 

「!?」

 

声のする方を見ると、そこには緑色の少女がいた...確かこの前の異変で霊夢に連行された映姫とかいう閻魔だった気がする...

 

「映姫様!?」

 

「早くそれを提出して持ち場に戻りなさい!このペースだと定時に上がることなぞ不可能になりますよ?」

 

「はいー!!!」

 

小町はすごすごと書類を持って役所の奥へと消える...ああ...話の途中だったのに...

 

毎乃葉様も話を遮られたことに表情を曇らせている...

 

 

「もう!今大事な話をしていたというのにぃ!!」

 

「仕事中に私語は慎むものです...それに情報漏洩なぞ許されるわけがないでしょう?」

 

映姫は手を叩きながら私達を見回す...

 

「はい!貴女方もお帰りを...書類は書いてもらいましたし、後の期間中は好きになさって結構です」

 

「随分と勝手ねン...そっちから呼び出したというのにぃ」

 

「本来はお茶でも出したい所なのですが...私達も暇ではないので...異変後処理+20分後には通常の裁判がありますのでね」

 

映姫は腕時計を見ながら踵を返す...

 

「あ!ちょっと待ちなさいよ!まだ話の途中でしょう!?」

 

「...失礼」

 

映姫はそのまま、役所の奥へ消える...

 

 

 

 

 

「役人も忙しいようだな?」

 

「...まぁ?お仕事ですし、しょうがないですよ~」

 

毎乃葉様の方を見ると、さっきとは打って変わって彼女は満面の笑みを浮かべている...

 

「おほほほ...全くいけないわね、お役人は...このアタシに隠し事なんてつける訳ないのにねン!」

 

「それってどういう?」

 

「...貴重な情報提供ありがとう...っと言ったところかしらねン?」

 

毎乃葉様は、手元に小さなホログラム画面を出してそれを眺めている...

 

...ああ...能力使ったんですね...

 

「おい...同志...お前まさか?あいつの思考を読んだのか?」

 

「まぁ...それに近いことかしら?このアタシの能力は知っているでしょう?(情報を操作する程度の能力)」

 

...忘れかけていましたが、今の毎乃葉様は2つ能力がある状態でしたね...どうも脳筋...ごほん!こういうまどろっこしい力は使えないと勘違いしてしまいます...

 

「で?分かったんですか?」

 

毎乃葉様は首を横に振る...

 

「残念だけど、時間がなかったから一部分しか侵入できなかったわねン...あの閻魔の頭の中膨大な情報が入っていたから...本当に全体の2%くらいよ」

 

「?...じゃあ情報は得られなかったのか?」

 

「おおざっぱな情報だけど充分よ...連中は忌梗の死を本当に知らないということだけよン!魂を管理する連中が知らないということは生きているということでしょう?」

 

...まさか、そんなはずは?夜喪妓さんが、生存は絶望的だと...

 

「...生きているのか?この世界でアイツの認識ができないというのに?」

 

夜喪妓さんの言葉に毎乃葉様は考える素振りを見せる...

 

「問題はそこなのよねン...何で死んでいないのに、アンタの目で認識できないのか、通信機の電波を認識できないのか...謎だらけねン...」

 

 

 

 

 

ぐぅ...

 

 

 

 

 

「...」

 

私のお腹の虫が鳴る...しまった...お昼抜いていたから鳴っちゃった!!

 

「あはは...失礼しました...」

 

「...ふふ...そういえばご飯まだだったわねン!話は今度にしましょう?今日はアタシが奢るわよン!」

 

「感謝する...」

 

「楽しみですよー!」

 

「じゃあ!人里で済ませましょう!色々あって疲れたし、今日はいいでしょうねン!」

 

毎乃葉様は入り口へと向かい、私達も役所を後にする...

 

忌梗の生死がとりあえず、絶望的ではないことが分かっただけでも貴重な情報ですね...しかしアイツ...そこにいるんでしょうか?

 

 

 




今回はここまで、次回も日常編

ではこれにて

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