とある早朝...天狗の里にある封印牢へ続く道を歩く者がいた...
灰色の長い髪をして黒い軍服に身を包んだ女性...
彼女は名は天逆柚神...昨日正式に天狗の組織に入った実力者である...
今までは、彼女の戦友である天逆美羽のサポート役として影で暗躍をしていたが、その存在が今更になって露見してしまったため遅い入隊となってしまった...昨夜は、その入隊の歓迎会に出ていたため薄っすら酒の匂いが彼女から発していた...
柚神は袖に鼻をつけて眉間に皺を寄せていた...
side柚神
「...お酒臭い」
軍服の臭いにワタシは眉間に皺を寄せ地下牢へ急ぐ...
ワタシとしては、これは予想外...まさかワタシの存在が組織にバレてしまうとは...ワタシなりには、情報の流失には気を付けていたのですがね...人里の歴史家には気が回りませんでしたね...
...これはワタシの失態ですね...美羽に小言を言われてしまいます...
「...でも...まぁいいか」
遅かれ早かれバレるのも時間の問題でしたし...少し早まってしまったと考えれば、それも問題は全くない...
...急な入隊になってしまいましたが...うまいこと情報を纏めれば...
「...うっ」
...深酒の所為で思考が纏まらない...
宴会にも慣れませんとね...今後はワタシも天狗の組織の一員...こういうことにも参加しないといけませんから...
「...とりあえず美羽に説明をしませんと...ワタシの今後の事と弁明をしませんと」
ワタシは牢の戸を開けて中へと入る...
「宴は楽しかったかしら!!!柚神ちゃん!!」
「うわ!!」
急な美羽の怒号が耳に入ったかと思うと、ワタシの顔目掛けて衝撃波が飛んでくる!
ワタシは、それを避けて他の牢屋の中へ入り戸を閉め鍵をかける...
「柚神ちゃーん!出てきなさい~!言い訳くらいは聞いてあげるからぁ...」
外からは美羽のネコ撫で声が聞こえる...いつものネットリとした口調が乱れているからして...相当怒っている!!
「美羽!!話を聞くのが先です!!!確かに情報の漏洩と処理を怠ったのは、ワタシの落ち度ですが!」
「その怠慢の所為で...アタシは寝る間も惜しんで始末書に追われてたの!!!終わったのさっきよ!!楽しかったかしら?お酒の匂いが体から出てるわよ♪」
背後の戸がドンドンと荒々しくノックされる!!!
...戸の振動がやばい
ワタシは戸からそっと離れて辺りを見回す...
外に出る手段がない...この部屋は格子窓がない!!完全に逃げ場が...
「流石のワタシでも全部の情報を処理できません!!か...完璧何て存在しません!!」
「言い訳はそれで終わりかしら!!!」
どごぉ!!!!
戸が弾け飛び外から美羽が、ユラリと現れて破壊された戸を踏みつける...
「さぁて~...覚悟はできているかしら?」
「あ...貴女はワタシと戦おうというのですか?それが無意味だということは知っているはずです!!」
「知らないわ~!とりあえず今のアタシはソレよりもアンタをボコしたいという気持ちが強いのよね~!」
彼女は拳をボキボキと鳴らしながら近づいてくる!
「ぐっ!!!」
...美羽の奴!!完全に怒りで目が曇っていやがる!!!
戦ってもいいが...戦闘の方は彼女の方が上...記憶抹消っていう手も考えたが...時間がない!!
考えろ!考えろ!柚神!この場を制圧しろ!この手で勝利をつかむのだ!!!
「...あ」
...何だ簡単なことじゃないの...何を焦っていたんだか...
「何か思い浮かんだのかしらン!!」
美羽が片手から雷撃を撒き散らしながら、にじり寄ってくる...
「ええ...策がないので無抵抗ですね...好きにしていいですよ」
「...何のつもり?アンタ程の奴が簡単にあきらめるわけないわ」
美羽は警戒し始めたのか...放電をやめて辺りをうろついている...
「ふふふ...策はありませんね...好きに殴って結構!でも後悔しないのならば...ね?」
「後悔?するわけないわ!!!」
「...それがまた始末書を書くことになってもですか?」
「...え」
始末書...その言葉を聞いた美羽は、顔を真っ青にし冷や汗をかいている...
だが...まだ拳を握ったまま戦闘の構えを解こうとはしない...
「あは♪...はったりよ!!何でアンタをボコって始末書なのよン!!!」
「確かに今まで通りならそうでしょうね...しかし...今と昔は状況が違うのですよ...」
「状況?」
美羽はまだ気づいてはいないようだ...やはり頭の回転が鈍いのは相変わらずだ...
「わかりやすく言いましょう...今のワタシは...正式に天狗の組織のメンバーとなった...つまり組織に存在を確認されている...」
「...あ!」
美羽はようやく気付いたのか顔を更に青くする...
「そう...今ではワタシと貴女は戦友だけの関係ではなく天狗組織の正式なメンバー...メンバーになった以上、私怨での戦闘をしたら...上も黙ってはいません」
「...あああ」
「ここで戦闘をしたければ結構!その瞬間貴女を待ち受けるのは大量の始末書!!一徹開けでもう一回戦行きますか!?」
ワタシが指を突き付けると美羽はその場にへたり込む...
「ああああああああああ!!!」
泣き叫ぶような声を上げて彼女は床に拳を打ち付け、蜘蛛の巣のように大きなヒビが石畳の床に入る...
...これを食らっていたらワタシでも不味かったかもな
「...うう」
しばらくすると美羽が落ち着いて来たのか顔を上げる...
「落ち着きました?」
「アタシの怒りは何処へぶつければ良いの?」
「その悔しさをバネにして次に生かすのが得策かと...」
「...口では何とでも言えるわ」
美羽は溜息をつきながらキセルを取り出して火をつける...
とりあえず、この場は収まった...ワタシの方も気を付けましょう...
この作戦もいつまで持つかは分かりませんから...
「...ふぅ」
牢獄内を見回すと睡煉の姿がないことに気づく...
彼女なら、こんな時ひょこっと現れるというのに...
「美羽?睡煉は?」
「...少し仕事を頼んだのよン...アタシの始末書もそれで終わるわ...」
美羽は始末書を取り出してワタシに見せる...
そこには...
「...一面記事のネタを探せ?」
...始末書ですよね?
何でこんなことが始末書の内容なのでしょうか?
「...何ですこれは?」
「...文の新聞の購読数をどうやって増やすか...という項目があって...そのネタ探しに睡煉を...」
「下らない...」
文の奴...少し職権乱用している節がありますね...少しこれは、上層部に報告を...
「...分かりました...とりあえずワタシが行きますので、貴方はここの掃除をお願いします」
「...うん」
美羽と別れてワタシは能力を展開する...
さて...あの子はどこでサボっているのかしら?
同時刻...霧の湖の畔...
睡煉は、その畔で釣りを行っていた...
湖畔に向かって垂らされた竿はピクリとも動かず彼女は欠伸をする...
side睡煉
「...ふぁぁ」
...何も釣れませんね...全く美羽様も厄介な命令をしたものです...
新聞のネタ探し?
そんなのは知らないですよ...私はそういうの面倒なのでやりません!!
「私の仕事ではありませんし...」
とりあえず夕飯のおかずでも釣って、何とかしようと思いましたが一行に釣れません...
「...エサは魚肉ソーセージではダメでしたか...もうやる気なくなっちゃいました~!」
私は竿を投げて草原に寝転ぶ...
「...今晩のご飯どうしよう」
...ぴく!
「ん?」
竿を見ると、先ほどまで動きが無かった竿に動きが!!
今晩のおかずが釣れましたか!!
「フィーッシュ!!」
私はリールを引き、獲物を一気に釣り上げる!!
今晩は!お刺身?それともムニエル?
「...」
「もしゃもしゃ...」
...私は釣り上げた獲物を見て言葉を失う
...てっきり釣れたのは、大物...大きな魚だと思っていたが...違った...
「もしゃもしゃ!!」
「...ナニコレ?」
...私の目の前には...緑色の着物を身に包んだ...青い髪の女性がいた...
...一見人間に見えたが、とある部分がそれを否定する...
彼女の足の部分には、大きな尾びれがあった...
つまりこの人は人間ではない...つまり?
「...マーメイド?」
...本で見たことがあるが、この人はマーメイドに似ている...
でもそれは御伽噺...つまり創作物のはず?
マーメイドは、魚肉ソーセージを食べつくした後私の方を向く...
「...」
何故か私の方をジッと見つめている?
「...何です?」
「...もっとないの?」
...おかわりか
どうやら魚肉ソーセージが気にいったようだ...
食べれそうもないし、もう釣りをする気も無くなってしまいましたし...いいか~
「どうぞ?」
「わーい♪」
残りの魚肉ソーセージをやると、マーメイドはそれにパクつく...
考えてみると共喰いの気がするが言わないでおこう...
しかし...湖にマーメイドね?これは誰も知らない情報でしょう?
「...これは使える?」
美羽様が言っていた新聞のネタになるんではないでしょうか!!!
これは行幸!!!
これでなら!新聞のネタには充分になるというもの!!!
美羽様は始末書から開放!
私は功績により褒められる!!
...良いこと尽くしではありませんか!!
「さぁて!!裏取りを!」
写真機を手に取りマーメイドの方へ向かう!!
「...げぷ...ごちそうさま♪」
マーメイドはそのまま湖の中に入ってしまう!!!!
そんな!!!まだ写真を撮っていないというのに!!
「ま...待って!!せっかくの手柄が!!」
「...手柄とは?何です?」
「うえ!?」
後ろを振り向くと、そこには柚神様が!!!
何で彼女がここに!?
「...何で?」
「貴方がちゃんと仕事をしているかの確認です...確か新聞のネタ探しをしているのでしたね?」
「...はい...一応」
「...で?そのネタは?」
...出せるわけない!!たった今!逃げられたというのに!!
「...その...上手いところまで行ったのですが」
「...サボりとは感心しませんね...さっさと戻りますよ!!」
柚神様は私の手を引く!!待って!!サボりではない!!
「本当です!!!この湖にマーメイドが!!!」
「何で海の生き物がここにいるのですか...ちゃんとした嘘をつきなさい」
「嘘ではありませんー!!!」
私の弁明も空しく...私は柚神様に連行される...
もちろん...美羽様にサボっていたことがバレて...しこたま怒られました...
必死にマーメイドはいたと...言ったのに...誰も信じてはくれませんでした...
でもこれだけは言えます...私は嘘は言っていないと...
軽い日常編
ではこれにて