安藤物語   作:てんぞー

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Purple Tinge - 3

 ―――衝撃。

 

 正面、視線を向ければマリアと同時に【巨躯】へと放たれたはずの攻撃は防がれていた。

 

 新たな乱入者によって。

 

「てめぇ、仮面野郎……!」

 

「……」

 

 ソードとパルチザンを同時に抜いていたダークファルス、【仮面】はマリアの攻撃も、俺の攻撃も同時にその武器で受け止めていた。そしてそれをそのまま、ダークファルスという人外の膂力で弾き飛ばす。

 

「ぐっ、お前―――」

 

「そんな言葉を吐く余裕がお前にはあるのか?」

 

「げ」

 

 言葉と共に【仮面】がパルチザンを消し、ソードで一気に接近してきた。それをクラリッサで受け止める様に叩きつけた。衝撃を生み出しながらもソードとクラリッサが拮抗し、【仮面】の動きが停止する。その仮面に包まれた顔に睨むような視線を向ければ、仮面の下からも似たような視線を向けられる気配を感じた。どことなく、怒りと憎しみを感じる気配を。

 

「未熟」

 

 弾かれる。カタナへと切り替えて即座に距離を取る。マリアへと視線を向ければ立ち上がろうとする【巨躯】に追撃を叩き込もうとする姿が見える。それを支援するように此方もハトウリンドウを放とうとし、その動きを同時に妨害するように【仮面】がツインマシンガンを何時の間にかソードから切り替え、握っていた。両腕を広げる様に引かれたツインマシンガンの銃口はただの弾丸ではなく、圧縮されたフォトンの弾丸をまるで波動の塊の様に連射してはなってくる。即座に避け切れない事を理解してカタナでジャストガードを取りに行く。

 

 攻撃に触れ、無敵化し、カウンターの斬撃を放ちながらステップ移動を行う。

 

 瞬間、正面から手裏剣の様に放たれたタリスが迫っているのが見えた。

 

「なんだよ、その使い方はっ……!」

 

 吐き出すように【仮面】の変態的すぎる武器の使い方に息を吐きながらカタナコンバットを起動させ、無理矢理攻撃を空かしながら即座に納刀による衝撃波を【仮面】と【巨躯】に叩きこむ。放たれた攻撃は二体のダークファルスを貫くが、

 

 倒すダメージには程遠すぎる。1撃もコンボを叩き込めていないのに、フィニッシュ技に持ち込んでもただの牽制やエスケープ手段にしかならない。舌打ちしながら即座に戦闘を続行する為にクラリッサを抜く。【仮面】の相手をまともにする必要はない。重要なのは【巨躯】の方だ。

 

 だというのに、まるで解っているように【仮面】が接近してくる。切り替えられるソードを叩きつけてくるのを、此方はクラリッサで受け止めて鍔ぜり合う。歯を食いしばりながら後ろの方へ、マリアと【巨躯】の戦いを盗み見る。

 

 ―――ラビュリスが変色していた。

 

 【巨躯】を拘束する筈の重力制御は機能せず、拳がマリアを砕かんと振るわれていた。だが最初に見せていた全てを圧倒するような破壊力はそこにはなく、前よりも弱っているのは確かだった。アレを倒すのなら今がチャンスだ。

 

 だというのに、【仮面】がぴったりと此方をマークし、一歩も前へと進めないように道を塞いでた。クラリッサでなんとか拮抗しながらも、言葉を吐き出す。

 

「そこを退け仮面野郎……!」

 

「……」

 

 力を籠めてから一瞬で力を抜き、生まれたたわみに隙間を見出して抜け出そうとする―――だがそれよりも早く【仮面】がそれを見抜いた。接近された。更に密着するように接近されると武器はツインマシンガンへと切り替わり、ゼロ距離からの射撃で体が一気に吹き飛ばされる。痛みに血反吐を吐きながらもトリメイトを蹴り出して口で掴み、パック諸共噛みちぎって中身を啜る。クラリッサを地面に突き刺して体の動きを止め、奥へと視線を向けた。

 

「マリア!」

 

「こっちも限界だよ! ラビュリスが故障しやがった!」

 

「マジ……マジで? 故障するもんなの?」

 

「使いが荒いとね!」

 

 やべぇじゃん、クラリッサ壊しそうじゃん俺。大丈夫? ねぇ? 大丈夫クラリッサ?

 

 ミシミシ言ってない?

 

 ……良し。

 

「そおらぁ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからもっと違う動き、違う技術が必要だ。クラリッサを握りながら振るい、それで気合を入れてみれば何とか斬撃を放つことが出来た。それに【仮面】が舌打ちを打つと回避、回避した先で【巨躯】が斬撃を拳で砕いてカウンターに大地を薙ぎ払ってきた。それによって巻き上がった土砂をすり抜ける様にステップで回避し、再び接近してくる【仮面】と武器をぶつけ合い、弾き、ステップで回り込む様に動こうとして横へと蹴り飛ばされる。

 

 中空で受け身を取って位置を正せば、マリアが【巨躯】に弾かれるのが見える。創世器の機能がダウンしたせいか、一気に劣勢に追い込まれているように見える。グランツを放ってエルダーの攻撃を縛ろうとして放ち【巨躯】に突き刺さるのと同時に【仮面】が向けた手のひらから放たれた気弾に殴打されて吹き飛ぶ。

 

 全身を滅多打ちにされ、近くのモノリスに叩きつけられるも、【仮面】の背後で【巨躯】が戦闘形態を解くのが見えた。前まで見せていた星を破壊する程の威容は既にそこにはなく、ゲッテムハルトを依り代とした姿が露出している。その姿を見せた【巨躯】は頭を片手で抑えながら呻く。

 

「足りぬ……足りぬぞぉ……!」

 

 クラリッサを構え、【仮面】の動きに対応するように即座に態勢を整えながら【巨躯】へと視線を向ける。戦う前はあれほど脅威に感じた姿も、今では倒せそうなラインにまで落ちている。いや、マリアの使っているラビュリスが落ちたから微妙かもしれない。だがぎりぎり、何とか一人で勝機の見えるラインまで弱体化している。正直な話、【巨躯】がフォトンによる浄化攻撃であそこまで弱体化するとは思えない。やはり、シャオにあの時何かダークファルスに対する対抗策を仕込まれた……いや、目覚めさせられたのだろうか?

 

「おぉ、そうか……貴様、貴様か」

 

 ふらつく【巨躯】が片手で顔を抑えながら、怒りの形相を此方へと向け、此方へと指を差し向けた。

 

「貴様が我が力を喰らっているのか……!」

 

「知るか死ね!」

 

 ノータイムでグランツを放とうとすれば気弾からタリスの斬撃がテクニックのチャージを妨害した。ち、と吐き捨てながら横へと飛べばその瞬間をマリアが狙う。一気に接近した姿は【巨躯】を捉えようとするも、動きの悪い創世器では【巨躯】への有効度は薄く、その表面に攻撃を浅く叩き込むだけで動きを停止、そのまま創世器諸共殴り飛ばされ、モノリスを貫通しながら吹き飛んだ。

 

「マリアッ!」

 

『頑丈さには自信があるから気にするな!』

 

 即座に通信で生存の報告を受けながらクラリッサで攻撃を迎撃し、足を止めて構える。正面に陣取る【仮面】は【巨躯】を庇う様に立ち、進路と行動を阻止する。まったく突破できそうにない気配を感じていれば【巨躯】が視線を、ナベリウスの奥へと、遺跡の中に立つ巨大なオベリスクへと向けた。

 

「おぉ、、我が力……我が体よ、そこにあったか―――」

 

「馬鹿止めろ!」

 

「アルマの成果を―――!」

 

 瓦礫を吹き飛ばしながらマリアが【巨躯】へと切りかかる同時にノータイムで複合テクニックを跳躍しようとする【巨躯】へと照準する。だが即座に割り込んでくるツインマシンガンが精密な射撃でクラリッサとラビュリスの始点を潰し、行動を不発に落としながらソードへと武器を切り替える。斬撃を放ってマリアを下がらせながら気弾を此方へと放ち、それを回避する為に下がれば位置をマリアと共に纏められてしまう。

 

「チぃ、【巨躯】の封印が破られるか!」

 

 【仮面】が立ちはだかる背後で、誰に邪魔される事もなく【巨躯】が聳え立つオベリスクに衝突し―――そのまま、融合するように溶け込んだ。直後、ナベリウスそのものがダークファルスの復活に震える様に鳴動し始める。

 

「……」

 

 それを確認するだけして【仮面】は背を向け、虚空にゲートを生み出すとその中へと消え去って行く。悔しいが、完全に仕事を果たされた形だった。

 

「クソ、仮面野郎め……本当にどうしようもねぇなアイツ」

 

「奴、動きが完全にアークスの体術をベースとしたもんだけど、レギアスやあたしよりも遥かに洗練されて……いや、考えるのは後か」

 

 やれやれと手を上げて肩を振る。その間にもオベリスクは崩壊し、その中からダークファルス【巨躯】、宇宙で見たあの姿が出現し始める。ナベリウスの大地を纏いながら巨大化する姿はまさに星を亡ぼす災厄の名に相応しいだろう。だが―――やはり、最初に感じたような絶対的な絶望はそこにはなかった。【巨躯】は力を食われたと言っていた。

 

 俺に?

 

「考えるのは後だよ。目的は達成してんだ。さっさと戻るよ」

 

「あいよ」

 

 まぁ、考えるのは後でも出来る。そう判断してマリアに従い、転移して脱出する事にする。テレパイプとは違う、緊急時の撤退用コマンドでマリアと共に一瞬でナベリウスの大地からキャンプシップの中へと戻ってくる。

 

 一瞬の転移光、そして帰還。視界がもとに戻ればキャンプシップ内部、壁によりかかる様に座り込むゼノ、まだ眠るシーナ、そしてそれを治療し終えたサラの姿が見えた。漸くダークファルスから逃れられたのだという安心感に安堵の息を吐きながら片手をあげて挨拶をする。

 

「お帰り―――ってすごいぼろぼろじゃない! 大丈夫?」

 

「ダークファルス相手に無傷で帰ってくると思ってたのかいサラ? そんな訳はないだろ」

 

「ただいまただいま。あーっはっはっは、いやあ、途中までは上手く行ってたんだけどなあ?」

 

 視線をマリアへと向ければマリアがラビュリスを持ち上げ、その様子をしかめっ面で眺めていた。

 

「【巨躯】の奴だけならここで落としてアークスの今後をどうにか良い方向に持っていけたかもしれないが、そこにもう1体ダークファルスが混じられるとどうしようもなくなるね。全く、なんだいアイツは……チ、10年ぶりにジグの所に顔を出すかねぇ、これは」

 

 それこそお手上げだ。両手を持ち上げてアピールする。

 

「ま、ダークファルス二体相手に生き延びただけで良しとしようぜ。いや、マジで。【巨躯】一体でも十分体がミンチにできるから」

 

「本当に戦って無事だったのね……」

 

 サラは此方を良く見る様に近づいてきて回り込んでくる。クラリッサを一回転させてから肩に担ぎ、大丈夫だと片手でアピールしながら腕を回す。今回は【巨躯】からは無傷だが、【仮面】から結構痛いのを何発も喰らってしまったが―――まあ、そこまで重いダメージではないと思う。少なくとも【巨躯】にワンパンされたような全身破裂のダメージはない。これぐらいなら戻る前に軽く風呂に入って着替えればマトイも誤魔化せるだろう。

 

 と、そこでキャンプシップで休んでいたゼノが呻きながら額を抑え、立ち上がるのが見えた。

 

「あー、すまねぇ。世話を焼かせたな」

 

「気にすんな。置いてった事は俺の後悔だったしな」

 

 その言葉にゼノは首を傾げたが、唯一現象を理解できているサラだけが神妙に頷く。

 

「貴女はこうやって今まで人を救ってきたのね」

 

「こうしなきゃ救えなかったんだよ。ドイツもこいつも目を離した隙にいつの間にか死んでいるからな」

 

 やれやれだべ、と腕を広げて困ったアピールをするとサラが軽く笑い声を零すが、マリアがラビュリスを仕舞いながら喝を入れてくる。

 

「遊んでるのは良いけど、そんな余裕はないよ。【巨躯】が完全に復活したんだ」

 

 キャンプシップの外へと視線を向ければ、ナベリウスの大地をその地盤ごと引きはがしながら小型の都市サイズまで巨大化した【巨躯】が更に巨大化しながら宇宙へと上がって行くのが見えた。近いうちにアイツはそれこそアークスシップに匹敵するサイズにまで巨大化し、アークス船団に襲い掛かってくるだろう。

 

 まぁ、ニャウを宇宙の彼方へと射出しながら俺達が勝利したんだが?

 

「まあ、それに関してはそっちの時間軸の俺に頼ってくれ。歴史通りに進むなら俺と愉快な仲間達によって何とかなる筈だから」

 

「ふーん……ま、それがどこまで信用できるかどうかは解らないけど、ならこの混乱はルーサーの目を潜り抜けるチャンスでもあるね」

 

 そう言うとマリアが視線をゼノへと向ける。視線を受けたゼノが頷く。

 

「道楽じみたハンターの真似事をしている場合じゃない、か」

 

「言わんでも解るか」

 

「ま、流石にここまで足を引っ張っちゃな」

 

 そこまで言ってからゼノは一度口を閉ざし、それからマリアに頭を下げた。

 

「姐さんすまねぇ! 改めて俺の事を鍛え直して欲しい! このままじゃダメだ、誰も守れねぇしエコーに合わせる顔もねぇ!」

 

 ゼノの姿を見てマリアが腕を組む。少しだけ悩むような様子を見せてから、

 

「……この混乱、未帰還なら間違いなく死んだとして処理される、か。良いだろう、ただし少しでも文句を言うのなら止めるよ」

 

「ありがてぇ! ……で、そんな訳だアキナ」

 

 ゼノが視線を此方へと向け、頭を下げてくる。

 

「この礼は必ず、必ず返す。だからアイツの事を頼む。俺のことも……」

 

「あいあい、解ってる解ってる。この安藤に任せなさーい。まぁ、なんだかんだでエコーも元気にやってるしな」

 

「まるで未来を見てきたかのように言うんだな」

 

 苦笑するゼノ言葉にサムズアップを向ければ、小さくモノクロのノイズが空間に走った。サラが頷きながらシャオとの通信を止めた。

 

「どうやら時間みたいね。今回は本当に助かったわ、ありがとう……後ごめん」

 

 サラの謝罪を笑いながら流し、手を振ればモノクロのノイズが砂嵐となり、視界が白と黒に染まる。

 

 そして次の瞬間にはサラもゼノもマリアもシーナもいない、自分だけのキャンプシップへと戻ってくる。窓から外の様子を見ればナベリウス遺跡地帯の様子が見える。【巨躯】の姿は存在せず、【巨躯】を封印していたオベリスクの存在もない。元の時間軸に帰還した証拠でもある。

 

 そこまで確認し、背中をキャンプシップの窓に預け、溜息を吐く。

 

 手の中には未だにクラリッサが残っている……ちゃんと、あの時間軸から持ってこれたらしい。

 

「どーしたもんか」

 

 最終的には【巨躯】も【仮面】も倒さなきゃならない。だが今の状態だとまだ、倒せる気がしない。もっと力が必要だ。だが武器もユニットもクラスも詰めれる所は限界まで詰めている。

 

「どーしたもんかなぁ」

 

 惑星を亡ぼす様な怪物は一体だけではないのだ。それが複数存在し、しかも同時に襲い掛かってくる事さえある。今の戦い、【仮面】が本気じゃなかったからどうにかなったのだ。もしアイツまで【巨躯】みたいな戦闘形態になっていたら……たぶん、マリアも俺も死んでいただろうと思う。

 

「思ってたよりもヤバイな、オラクル宇宙」

 

 PSO2時代に戻りたいなぁ、と呟くものの、意外と心の籠っていない言葉に驚く。

 

 どれだけ危険があって怖かろうが、それでもこの宇宙を守る日常をどうやら俺は、好きらしい。

 

 たとえその日常には星を亡ぼす様な怪物との戦いがあったとしても、だ。




 Hr【仮面】さん♡

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