安藤物語   作:てんぞー

54 / 57
Purple Tinge - 1

「さーて……そろそろ運命を変えてやりますか」

 

 ゲートエリア、カウンター前に立つと軽く指を一本立たせながら横切る。

 

「レベッカ、ナベ遺跡までチケット1枚宜しく」

 

「了解しました、お気をつけてアキナさん」

 

 手をひらひらと振りながらゲートエリアからキャンプシップへと乗り込むためのポートへと向う。横切ったカウンターではミッションの受注管理を行っているレベッカが遺跡探索のミッションを設定してくれている。ホロウィンドウを通して此方に設定が行われた通知がやってくる。受け取ったものを消してキャンプシップへと向かう所で、ノイズが走る。

 

 視界の全てが黒く塗りつぶされる。

 

 砂嵐が走る様な中で、それでも自分の居場所を見失う事なく前へと向かって進み続ける。

 

『やあ、君ならその選択肢を選んでくれると思っていたよ』

 

 返答はしない。危険なポジションにいるのは前会ったときになんとなく把握しているし。アークスシップ内部では常にルーサーの盗聴の可能性がある。特にシオンとのつながりがある俺に対してのルーサーの警戒度は一番高いだろうと思えるし。だから聞こえないふりをするし、普通にそのまま歩いている。

 

『……それじゃあ改変を始めようか。あらゆる誘いを断ってサラの下へ』

 

 砂嵐が消滅する。何事もなかったように真っすぐ―――キャンプシップへ。

 

 

 

 

 行く場所は解る。

 

 だがそれは既に終わった出来事。今行っても何もない。だがシャオは言った。俺にはその力がある。唯一無二の時間遡行の力が。シオンの導きなしでも俺はそれを使えるのだと。だから干渉する。意識して時間を捻じ曲げる。キャンプシップから降りて降り立つナベリウスの地は確かに、ダークファルスが復活した後の巨大なオベリスクの存在しない時間軸だった。

 

 だが時間遡行を行い、歩き始めればナベリウスの景色が変化する。見慣れたモノクロの砂嵐は古いテレビのチャンネルを切り替えようとしたときに出てくる物に似ているような気さえする。だがそうやって時間軸のチャンネルを合わせればナベリウスに現在の時間軸では存在しない筈の建造物が出現する。

 

 巨大なオベリスクだ。

 

 ナベリウスの遺跡地帯、【巨躯】復活と共に消えた筈のオベリスクはまだそこにあった。それはつまり、時間軸を遡ったという事であり、シオンが示した導きから外れたという事でもある。じじじっ、と時空が安定して行くのと同時に本来は、或いは過去ではナベリウスの探索に付き合った人たちが通り過ぎて行く。シオンの導きによって出会うべき、出会っていた人たちだ。だけどそれらの全てを無視して進んだ先に、

 

 待っているように立つ二つの姿が見えた。一つはサラの姿であり、もう一人はあまり見慣れないキャストの姿だ。とはいえ、ナベリウスで探索をしている時に一度であったことのある人物であり、肩にパルチザンを担ぎながらへぇ、と声を零す。

 

「アンタは……そうかい、選ばれたのはアンタかい」

 

「本当に時間通りドンピシャね……シャオの言う通りだけど」

 

「よっ、歴史を変えに来たぜ」

 

 片手をあげて挨拶する。少なからずキャストの女性―――六芒のマリア、そしてサラの表情には驚きがあった。それ以上にサラには数日前に見た気まずさの様なものが表情に見られる。

だからそれを見て、手を振った。

 

「気にすんな。説明も謝罪も未来で受けたから。その気持ちは今じゃなくてそっちの未来の俺に取っておいてくれ。今日はそういう事じゃなくてどうにかする為に来たんだし」

 

「……うん、解ったわ。そうするわね」

 

 サラがこの場では言いたい事を飲み込んだ事にほっとしつつ、マリアがで、と声を零した。

 

「仲良くするのも良いけど六芒の二たるアタシを好きに使ってくれるんだ。なんでアタシをこんな所に連れてきたのか説明して貰うよ」

 

 マリアの言葉にサラは頭を振る。

 

「悪いけど私はシャオにこの時間、この場所に居れば歴史を変えに最強の援軍が来てくれるって言われただけだから解らないわよ」

 

 サラがそう言うと、マリアの視線が此方へと突き刺さる。

 

「言っておくけど、感じからしてダークファルスは既に復活しているよ。そうなった以上封印する前の状態に戻すのは不可能だ。アルマももういないしね」

 

「あぁ、それはダメらしいわよ。シャオが言うにはルーサーが表舞台に出てくるには【巨躯】の復活が必要不可欠なんだって」

 

「ふーん……となると出来る事は更に限られてくるけど?」

 

 まあ、俺がやろうとしている事なんて決まっている。そもそもからして、復活した【巨躯】が宇宙に上がってからは過去の俺が何とかしている。だからアークスシップを襲撃するダークファルスの事に関しては何も考える必要がないし、その封印や撃破に関する事も忘れても良い。じゃあこの時間軸で残された心残りとはなんだ、って話になる。

 

「救出だよ、救出。この時間軸、ゼノが復活直後の【巨躯】相手に時間稼ぎしてるんだよ。確かシーナちゃんもおいてけぼりかな? 未来だとどっちもMIAになってる」

 

「成程、戦闘中のアークスの救出か……【巨躯】を撃破しろ、だなんて言われたらどついてやったが救出ぐらいならやってやれない事もないね」

 

 そう言うとマリアがいや、待て、と呟く。

 

「この状況をルーサーが把握しているとして、戻らないアークスが居れば自動的に死亡と判断する。ルーサーも細かい所までは確認しないだろうし、そうなれば奴が把握しないアークスが2人分増えるって事か……成程、シャオの思惑が見えてきたね」

 

「まあ、シャオの思惑が何だろうといいさ。俺個人の心残りの解消と【巨躯】にリターンマッチを挑ませて貰う……として、サラちゃんサラちゃん」

 

「ん? 何?」

 

 手をちょいちょいとやってこっちへ来てくれと示すと、ちょっと自分のフォトンを探知する―――あぁ、うん。あった。ちょうど【巨躯】パンチ喰らって吹っ飛んだ所らしい。凄まじい土煙と轟音、破砕の音がナベリウスを貫いて遺跡を破壊しながら吹っ飛ばしている。いやあ、アレマジで痛かったんだよなぁ……。

 

「今殴り飛ばされたの、この時間軸の俺。一発受けただけでスケド吹っ飛ぶレベルで瀕死になって必死にトリメイト飲んでも全く効果がないぐらいぐちゃぐちゃになっちゃってさぁ。そん時助けに来てくれたのサラちゃんなんだよね」

 

「そういう事は早く言いなさいよ馬鹿! それじゃあ私は私の仕事をしてくるから!!」

 

 こうやって俺は助けられたんやなぁ、と必死に走り出すサラの後ろ姿を見送り、マリアへと視線を戻す。

 

「それじゃあやりましょうか」

 

「どうやらやる気は十分の様だね。どれだけできるかどうかは実際の現場で見せてもらうよ」

 

「うーっす」

 

「……本当に大丈夫かねぇ」

 

 マリアと二人、並んでナベリウス遺跡地帯を歩く。既にダークファルス復活の気配を受けてダーカーが活発化しており、前へと進もうとすれば【巨躯】眷属のダーカーが虚空から出現し始める。それを目視するとマリアが舌打ちをする。

 

「面倒だね」

 

「じゃ、無視して進んじゃおう」

 

 本日のクラスはFoBr、スサノショウハはFoでも装備の出来る優秀な汎用カタナ。これでならロッドとカタナ、最高戦闘力を発揮できる二種類の武器を切り替えながら戦うことが出来る。瞬間火力ならFoのが上だが、立ち回りはどうしてもカタナの方が優秀だ。そういう意味でもFoBrというステータスのかみ合わない組み合わせは決戦向けの組み合わせかもしれない。という訳でスサノショウハを手に取るのと同時にイル・ゾンデを発動する。雷を纏って加速しながらダーカーを振り切るように、すれ違いざまに纏った雷で感電させて足止めさせつつ一気に加速し、進行する。テクニックメインの時はこのイル・ゾンデを使った移動が一番早く、効率が良い。特にフォトンを無尽蔵に消費出来る安藤ボディだからこそ、無限にイル・ゾンデを連打して高速移動する事だって出来る。

 

 無論、これはソロ向けの移動方法だ。誰かと一緒に移動する場合、パートナーを置いてけぼりにするというデメリットがあるが、

 

 マリアは六芒均衡だ。

 

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を意味する。

 

「へぇ、少しはやるみたいじゃないか」

 

 跳躍したマリアは地形やらダーカーを無視し、その全てを飛び越えながらダーカーたちの背後へと回り込んだ。イル・ゾンデで此方が稼いできた距離を一気に詰めてきた。

 

「それずるくない?」

 

「何を言ってるんだ、アンタもコツさえつかめば簡単に出来るでしょうが」

 

「マジでぇ? 練習するかなぁ……」

 

 地味にヒューイが空飛んでたりするの羨ましかったんだよなぁ。あぁ、でも超跳躍してイル・ゾンデ連打すれば高度落とさずに移動できるし、それでもいいのでは? それにPPが実質的に無限だから別に休まずに移動し続けられるし。

 

 試しに跳躍、近くにあるオベリスクを蹴って2段ジャンプ。そこから空中で地形を無視しながらイル・ゾンデをしてみる。

 

 滅茶苦茶快適だった。

 

「ふっふー! マリアさん遅いと置いてっちゃうぜ―――!」

 

「ひよっこが言うじゃないか」

 

 ダーカーが大量に背後から出現する。だがダークファルスという強大な存在がある限り、ダーカーなんて無限に出現するのも同然だ。となると一々雑魚の相手をしていてもきりがないのは理解できる。故に自分も、マリアも出現するダーカーを全て無視しながらナベリウスの奥へと、

 

 あの日、あの時の後悔を拭う為にも突き進んで行く。

 

 その果てで見つけるのは、

 

 ダークファルスと戦う、ゼノの姿だった。

 

 その周辺には大量に破壊されつくした武器の姿があった。ガンスラッシュ、パルチザン、ワイヤードランス、ソード。ハンターというクラスが使用可能な武器の数々が片っ端から破壊され、最後に握られているであろう武器も、その手の中で粉々になっていた。ゼノは片膝を大地に突き、荒く息を吐きながらその背後にシーナを置き、だけど完全には倒れる事なく立っていた。その姿はまさに満身創痍、無事な所がない程に自分の血で赤く染まっている。だがそれでも折れていない。ハンターというクラスの頑丈さか。或いは直撃でなくても即死できるという事実を理解してか。ゼノは生き延びるための立ち回りを意識していたようだった。

 

 そしてそのおかげで今まで生き残れた。

 

 ゼノの正面には黒い衣服に褐色肌の【巨躯】がある。

 

 その正面へと向かって、マリアと同時に言葉もなく飛び掛かる。

 

「むっ」

 

 スサノショウハとヴィタパルチザンを手に、、同時にゼノの頭上を越える様に【巨躯】の正面に叩き込む。交差するように放たれた一撃を【巨躯】が正面から受け、立ち留まる。やはり化け物じみたスペックに単純な物理的な干渉は通じない。そのまま【巨躯】が何らかのアクションを起こす前に自分の力で後ろへと吹っ飛び、下がりながらゼノを掴んで後ろへと滑った。同じようにマリアが気絶しているシーナを抱えている。

 

「あぁ……アキナ? お前さっき……」

 

「考えている場合じゃないだろうゼノ坊!」

 

「そうそう」

 

「いや、だってうおっ」

 

 【巨躯】との距離が開いた所でゼノを落とし、マリアがホロウィンドウを叩いて強制的にゼノ、シーナを転移させる。これで戦場からゼノとシーナの存在が消え、残されたのは俺とマリア、俺、そしてダークファルス【巨躯】。

 

 その漆黒の姿は此方の姿を捉えると、闘争心を燃やす様な笑みを浮かべ、拳を握った。

 

「貴様は……舞い戻ったか。良いぞ、我をもっと楽しませてみろアークスよ」

 

「はっ! 久しいねぇ、【巨躯】。少し見ないうちに大分人に寄せた姿になっているじゃないか。アタシたちに負けて猿真似でも始めたとみえる」

 

「その気配、気迫は……あぁ、覚えがあるぞ、貴様には! 思い出せるぞ、40年前の出来事を。素晴らしき闘争であった。互いに死力を尽くし、そして果てる。この上なく満たされる思いであった」

 

「そりゃあ40年も無様に封印されてりゃあそれしか思い出がないだろう、可哀そうな奴だな」

 

 言葉と共に腰のスサノショウハに手を置く様に構える。何時でも抜刀、戦闘が出来るように構え、【巨躯】の動きに対して対応する。【巨躯】、強大な敵だ。だが何故だろうか―――前、この時間軸で相対したほどの絶望感がない。というよりも、【巨躯】と対面した瞬間から体に力が沸き上がってくる気がする。解らないが、普段よりも調子が良い。今ならそれこそダークファルスと戦えるぐらいには、体に力が漲るのを感じる。

 

「【巨躯】の前でも威勢は良いみたいだね」

 

「マリアさんこそ調子は宜しいみたいで」

 

「は、一度ぶっ叩いている相手なんだ。今更尻込みする訳もないだろ」

 

 そらそうだ、とマリアの言葉に笑い、警戒心を全開に【巨躯】を睨む。相手は楽しむ様に腕を回すと笑い声を上げた。それと共に【巨躯】の姿が赤いフォトン光に飲み込まれた。その姿は人の姿から一瞬で変質し、重圧な甲殻を纏ったような異形の人型へと姿を変貌させる。まだゲッテムハルトの姿をしていた【巨躯】の姿から、あの宇宙空間で見たような姿とも違う……或いは、地上で戦う為の小型戦闘形態へ。

 

 その姿を見て、マリアへと視線を向ける。

 

「ごめん、私アレ知らない」

 

 え。お前そんな変身できたの……? こわ……。

 

「知らなくても何とかするんだよ! 行くよ!」

 

 【巨躯】へのリベンジが、ここに始まる。




 深く考えなくても単体で惑星滅ぼす存在と生身で戦うのってやばいと思うんですけど(名推理

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。