安藤物語   作:てんぞー

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Velvet Breeze - 6

 今日も今日とてフラグ立てと伏線回収と未来と過去に向けてアークス活動。俺ほどアークス業に本気で取り組んでいる勤勉な奴もおらんのじゃないだろうか? まあ、安藤だしマラソンとハムは基本だしゃーないしゃーない。という訳で今日もアークスシップへとやってきた。探し人は多分ショップエリアに居るからテレポーターを使って真っ先にそっちへと向かえばいいんだろうが、とりあえずアークスシップにやってきたらゲートエリアを確認するのはアークスの本能みたいなもんだ。ここにいるとまぁ、頭のおかしいもんが目撃できる。

 

 そんな訳で今日もやってきましたアークスシップ、ゲートエリア。今日目撃する見事なアークスは?

 

「キョェェェェェアアアアアアアアア」

 

「2メートルサイズのパンダの頭ベイブレードか……」

 

 2メートルほどの大きさのパンダの頭だけがそこで超回転しながら目からビームを放っていた。何を言っているか解らないだろう。俺も何を見ているのか良く解っていない。だが解るのはあのパンダヘッドがベイブレード中であるという事だ。アークスの姿は自由だ。その姿の自由さ、新たな世界観をここに目撃したような気がする。静かにホロウィンドウ表示からグッジョブをジャイアントパンダヘッドの姿へと送り、サムズアップを向けると増々回転速度を上げて近くのニャウをビームで焼き始めた。

 

 良し!

 

「止めろニャウ! 下等生物が止めるニャウ! 糞が止めるニャウ!」

 

 ニャウの怨嗟の声を無視してテレポーターに乗り込み、そこからショップエリアの上層部へと移動する。開けて明るいショップエリアにやってくると、ショップエリア上部、中央の上にかかる円型通路の奥へとやってくる。そこに、ショップエリアを見渡せる場所に彼女、クーナはいた。緑色のアイドル風の衣装に茶から青へと変じるツートーンのグラデ風髪。愛嬌のある笑みを浮かべる彼女はこっちが手を振りながら近づくのを見ると、少し驚いたような表情を浮かべ、

 

「え、ちゃんと見つからないようにしている筈なんだけどなぁ……なーんて、貴女に言っても無駄だよね」

 

「まあな!」

 

 近づいてから軽く胸を張るとクーナに腹を突かれて息を吐き出してしまい、そのまま軽くよろめく。ちょっとー、と声を出すと笑い声を返される。

 

「ふふ、ごめんごめん。でも元気そうで良かった。最近虚数機関が貴女の事を調べまわっているからちょっと心配したのよ?」

 

「虚数機関が?」

 

 ルーサーが所長を修める、アークスの闇にある組織。それが俺のことを調べている、とクーナが言っている。確かクーナは虚数機関出身の始末屋ちゃんだった筈だ。彼女の耳には虚数機関の話が入り込んで来るのは解っていたが、そこから俺の事が詮索されているというのはちょっとした驚きだった。あの変態男、俺のことを調べているのか。いや、でもある意味当然か。

 

「俺がシオンの存在に一番近いからそのとっかかりに俺を調べてるのか……」

 

「シオン……ってマザーシップ・シオンの事? 確か普段は存在が隠蔽されていて誰も入ることが出来ないようになっているって話だけど」

 

「マザーシップ……」

 

 シオン、マザーシップと同じ名前? いや、SF的に考えるとマザーシップの名前がシオンならシオンがマザーシップの制御AIとかそういう感じの存在だろ。俺はこういうのを予習しているから詳しいんだ。となるとルーサーはまだ完全にマザーシップを占拠できてない? 制御できてない? アークスが無事なのはシオン=マザーシップが無事だから?

 

 ルーサーがシオンを手にする事はマザーシップの陥落という意味。

 

 つまりアークス船団そのものの敗北……?

 

 ……もしかして俺、思っていた以上にヤバイ案件なのでは?

 

 となると割と真面目にシオンの解放を望むシャオの正体が見えてこない。ただシャオの目的が間違いなくアークスの為であるというのは理解できる。となるとかなり状況が切迫しているのが解ってくる。うーん、もしかしてアークスって意外とヤバイ状況にあったのかこれ。いや、でもまぁ、EP3からEP4までPSO2のサービス続いてたしな……。いや、アレゲームでこっちリアルじゃん。参考になら……ならないとは言えないんだよなぁ。

 

「どうしたの? 百面相なんて浮かべちゃって」

 

「いやぁ、シオン大好きクラブ会長(ルーサー)の不快な面を思い出したり忘れたりしてた」

 

「あぁ、造形は良いけどセンスが宇宙一ダサいから見た目の全てを台無しにしてる感じあるよね」

 

「それそれ。最近アークスにもルーサーブーム来てて、ルーサーの真似する奴が増えてきてるよ―――ほら」

 

 円形通路から下へと視線を向ければ、ショップエリア、普段シオンが待ち合わせする時に来る場所、ルーサーがたびたび虚空に向かってシオンが居るのを確認するように話しかける場所、しかしシオンがいないので完全に虚空と向かって喋っているやばい奴を演出している場所、そこにアークスが集まりながらルーサーごっこをしていた。具体的に言うとルーサーと同じ服を着ながらルーサーと同じポーズを決めて遊んでいた。それをしばらくクーナは眺めてから視線を戻した。

 

「やっぱり私アークスって良く解らないかなっ!」

 

「アレはアークスの中でも特に特殊な部類ですから考えるだけ無駄だと思いますよ……えぇ、アキナさんと同じように、ですね」

 

「流石の俺もアレと同じジャンル扱いしないでくれ。俺はもうちょっとまともな格好するぞ! ほら!」

 

 フリルパーカーOu、ショートデニムBaに目隠しツインロングというオーソドックスだけでカジュアルで見た目の良い恰好をしている。アクティブな自分にもちゃんと似合っていると自覚してのコーディネイトなんだぞ。ジャイアントパンダなんかと一緒にされても困る。

 

 と、そこで新しく話しかけてきた人物がいるのに気づいた。長い耳はニューマンである事を示し、特徴的な帽子を被ったその男の存在は知っている筈だ。男の姿を確認するようにえーと、と声を零し、

 

「三栄養のカス!」

 

「……惜しいですね。三英雄のカスラです。いや、本当に音だけなら惜しいんですけど。もしかしてわざと言いませんでした?」

 

「ううん? あたしがそういう風に教えた!」

 

「クーナ……貴女は最近割と良い性格をしてきましたね。彼女の影響ですか」

 

 カスラの言葉に両手を広げて無罪をアピールするが、まぁ、ちょっと無理があるかなぁ……なんて事は思わなくもない。だって間違いなく彼女の人生に色々とボンバーをかましたのは俺なのだから。特にハドレッド関係で。

 

「それよりも三英雄の一角がこんな所で宇宙一の安藤と宇宙一のアイドル相手になんの用かな」

 

 カスラ―――あまり、強い様には見えないが油断のならない相手であるのはその気配というか、フォトンから感じ取れる。ただ害意みたいなものは全く感じないから警戒する程ではない。でもなぁ、なんというかどことなくルーサーに近いもんを感じるんだよなぁ。

 

 と、此方の質問にカスラはあぁ、と言葉を零す。

 

「いえ、興味深い話をしていたので。虚数機関とアキナさんのお話をされていたので」

 

「お、安藤大人気。三英雄にもやっぱり一目置かれちゃうかー、凄いなー、あこがれちゃうなー」

 

「自分に憧れるの?」

 

 クーナの言葉にサムズアップを向ける。まぁ、安藤を超える存在は安藤だけだしね? 必然的に俺が最強なので俺が一番憧れを向けるべき相手なのは確定的に明らか……と、まぁ、そんな茶番を挟むもカスラの視線はブレない。この人、あんまりこの手のジョークで流されないタイプか。うーん、面倒なタイプだなぁ。

 

「アキナさん、貴女の事を色々と調べましたよ。どこで生まれ、どこで育ち、何を学び、成績は、そして活動も」

 

「うげぇ」

 

 そんなもん、存在しない。

 

 俺はオラクルの人間じゃないから。だがその手のデータ、痕跡が存在するという事は……まぁ、たぶんシオンが何かしらやってくれたんだろう。これも対ルーサーに対する工作なのだろうか? どちらにしろオラクルに過去なんてものを俺は持たないんだから、この手の追及がなくなる過去の捏造は助かるのだが。

 

「ですがどうにも解らないんです。貴女は模範的なアークスとして活動していますが、ありえない程に物事が貴女を中心に渦巻いています。クラリッサの発見、ダークファルスの復活現場に居合わせた事実、その討伐、そして今度はルーサーにも」

 

 真剣な視線を向けられ、手を広げ肩を揺らす。

 

「何者ですか、って聞きたそうにしてるけどそんなもん俺が知りたいわ。俺はただの安藤なんだから」

 

 そうだ、俺が一番知りたい。俺は何者で、どうしてここにいて、どうやってここにきて、そしてシオンがどうして俺を選んだのか。他にも大量のガチPSO2プレイヤーはいたはずだ。それこそ廃人と呼べる様な奴だっている。その中、このオラクルへとアバター本人となってやって来たのは俺一人だ。おかげで世にも珍しい女体化経験なんてものまでしているし、俺の声は今ではCV雨〇天そのものだ。お陰で人生が楽しい事になっているのは間違いがないんだが。

 

「俺が何なのか、俺も是非とも知りたい所だからミスター僕全知にシオンから聞き出す事が出来たら是非とも俺にも教えてくれ」

 

「成程、まともに話し合うつもりはなさそうですね」

 

「いや、たぶん彼女本気でそう言ってると思うよ」

 

 クーナの言葉にカスラが視線をクーナへと向けてから、視線をてへりこポーズをしている此方へと向け、やれやれと頭を横に振った。

 

「理解するのが難しそうな人です」

 

「まぁ、俺もこの大宇宙のごとき広い心を持っているからな。逆説的に言うと宇宙を包み込めるだけの気合と根性がないと俺という存在には耐えられな。カスラ君はそこらへん大丈夫? 体細いし肉ちゃんと食べてる? 肉を食わないと筋肉つかないぞ。もっと肉を食え肉を。他人の金で食う肉は美味しいぞ」

 

 カスラの視線がクーナへと再び向けられた。

 

「いつもこんな感じですか?」

 

「大体そうよ。でも話してみればちゃんと筋が通ってるのは解るわよ」

 

「……そうですか……? いえ、まぁ、良いでしょう。この話をすればルーサーの面白そうな顔も見れそうですし」

 

 カスラが下へ、ルーサー祭りを開催しているアークス達へと視線を向け、頷いた。

 

「アレもついでに報告しておけば迷惑行為も減るでしょう」

 

「アークスの数が減らなければいいな」

 

 そうだろうなぁ、と3人で俯いて考える。でもルーサーだしなぁ……私怨で消すかもなぁ……どうだろう……そこまで馬鹿じゃないだろ流石に……?

 

「だけど全知になれば常に脳内に自分のコスプレして全知って叫んでるアークスの存在を知覚するんだからそれに比べれば100倍マシでは」

 

「一理ありますね」

 

「生きるの辛くないのかな」

 

 3人で再び俯いて考える。もしかして全知になるのも考え物なのかもしれない。

 

 その後、誰もルーサーの事は好きではないし、憧れないし、ダサいという共通認識に至って少しだけ俺達はカスラと仲良くなった。

 

 やっぱり人気ないんだな、あの変態。




 ちなみにジャイアントパンダは先日ロビーで実物を見た。

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