安藤物語   作:てんぞー

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Resting In Green - 4

「……惑星、ウォパル……か。うーん、どうすっかなぁー。まぁ、まだ探索許可が出てないって事はいいんだろうけど、探索基地防衛まで既にこっそりと始まってるしなぁ。Brも近日実装って感じだし、ついにエピソード2までオラクルの時間が進んできたかぁー……感慨深いわぁ」

 

 広げていたホロウィンドウにはアークスの調査領域として近い内に水の惑星であるウォパルを解禁するという事が最新のアークスニュースネットワークに書かれてあった。今までアークスたちが活動できる場所は惑星ナベリウス、惑星アムドゥスキア、そして惑星リリーパだ。ファンタシースターオンライン2というゲームはこの三つの惑星を冒険し、既存の六つのクラスで戦っていたのが確かエピソード1だった……気がする。

 

 何分、昔の事過ぎて詳しい事は思い出せない。だがこの惑星ウォパルが追加される大型アップデートによってブレイバーというクラスが追加され、それによってカタナ、バレットボウという二種類のインフレバランスブレイカークソ武器がついに追加された。そう、ブレイバーはクソクラスだった。ブレイバーは、というよりは武器の性能が。弓を持ってとりあえずカミカゼ。PAのシュンカシュンラン実装後はシュンカンシュンランを押すだけのゲームとかいう世紀末時代を生みだしてしまった、ある意味罪深いアップデートだった。

 

 ウォパルという単語を聞かされると嫌でもあの世紀末時代を思い出す。そういえば採掘基地防衛って話になると全てを過去にした最強の武器にしてクラス、エリュシオンくんの事を思い出させる。結局、シュンカオンラインもエリュシオン無双も運営によるアップデートとHDDバーストという悪しきお祭りによって消え去った。エピソード2は本当にカオスな時代だったなぁ、と思い出す。サテライトカノンが出たのはこの時代だったっけ? もっと後の時代だったっけ? あまり思い出せない。

 

 ……まぁ、先のアップデート内容なんて覚えていてもしょうがない。メインストーリーなんてものが存在しなかったPSO2というゲームと、このオラクルを巡るダーカーの活動や陰謀、それらの要素がない時点で先読みをどれだけしようとしても無駄なのだから。だから、考えるのはとりあえず止める。思い出に浸る程度だ。

 

「あー……世紀末始まっちゃうー……」

 

 ロビーにいるアークスがカタナしか持ち歩かない地獄絵図が始まる……!

 

「アキナ、どうしたの……?」

 

「いや、ちょっと世紀末に燃えるアークスロビーを幻視してた。XXXX年! アークスはブレイバーの炎に包まれた! あらゆるクラスを駆逐し、ブレイバーというクソクラスが君臨する! カタナを抜いてシュンカランラーン! 弓を抜いてカミカゼキーック! キーック! 弓いねぇ! 俺が矢になる事がバレットボウだったんだよぉ! とかいうロビーを幻視してた」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「最近マトイちゃんが慣れてきたからリアクションが薄いのがちょっと寂しいなぁ……」

 

 マイルーム、自室のソファにそう言って笑いながら体を沈める。ふかふかのソファは体を沈めると包み込むような感触を返してくる。。このソファ、地味にお気に入りである。一日中この中に沈んでだらっとしていてもいいよなぁ、なんて事を考えつつ、私服姿にエプロンを装着しているマトイの姿を見つけた。もうすっかり家事をしている姿が似合ってしまっている彼女だが、記憶の発掘や身元の判明に関しては一向に進んでいない。

 

 だがぶっちゃけ、欠片も申し訳なく思っていない。というかもう完全にウチの子。既にデータベースを確認して、マトイの親戚筋、血縁関係が存在しないのは確認済みなのだ―――もうこれ、養子縁組でウチの子扱いでいいんじゃねぇかなぁ、と最近はフィリアと相談が進んでいる。幸い、マトイも自分も髪の色は一緒なのだ。ぶっちゃけ普通にそのまま姉妹扱いされている。何たる不覚。誰一人としてお兄ちゃんと認識してくれない。

 

「マトイー、俺ってお兄ちゃんだよね?」

 

「そうだね」

 

「やだ、凄い淡泊……」

 

「毎回反応してると疲れちゃうばかりだって流石に覚えるよー、もぉー」

 

 そう言うとマトイは数秒ほど此方を眺めてから、えい、と言葉を置いてソファに座り込んでいる此方の股の間に座り込んできた。ぽふん、と音を立てながらソファが揺れ、体が収まった。おや、と思っていると、マトイが幸せそうに表情を破顔させながら背中を預けてきた。それを押しのける理由もないので、そのまま受け入れる。

 

「どうした? 急に甘えん坊さんになっちゃって」

 

「うんとね……駄目かな?」

 

「いや、別にいいんだけど」

 

「うんじゃあこのままで」

 

 そう言うとマトイは上機嫌に体を此方へと預けてきた。……小さい体をしているなぁ、と思ったが、良く考えれば自分の身長もそこまでマトイと変わらないんだよなぁ、と思い出す。まだ安藤になる前は180はあったのだが、今では本当に体だけはただの女だ。身長だってギリ160あるぐらいだ。マトイとの身長差は3㎝程度、ギリギリ此方が勝っているという感じだなぁ、と苦笑してしまう。まぁ、これでも年上の矜持と言えるものが一応あるのだが。それはそれとして、

 

「何か嬉しそうだな」

 

「うん……ほら、少し前まではアキナはずっと忙しそうに走り回ってたでしょ? その上戻ってくると物凄いボロボロになっている時もあるし、前、血まみれのボロボロになって帰った時は心臓が止まっちゃうかと思った。だけどこうやって、最近は怪我をしないし、出撃の頻度も減って平和になったなぁ、ってのが解るから嬉しいの」

 

 うん、とマトイは呟く。

 

「……解らないんだ。私が昔、どういう人で、何を望んで、何をしていたのを。だけどね? たぶんこんな、なんでもない日常が本当は欲しかったんじゃないかな、って最近思っているの。ダークファルスの話題が上がる度に胸がドキリ、としてどうしようもない不安が胸に湧き上がってくるの。そして何かしなきゃ、って気持ちが溢れ出してくる。……だけどダークファルスを追い払ったし、今は凄く平和だから、そのおかげか毎日が楽しくてしょうがないの」

 

 そう言っておかしいよね? というマトイの頭を軽く撫でる。この子の過去の事が解ればいいんだけどなぁ、とは思うのだが……ここまで探して、待っていてもマトイが思い出す事はない。ここまで来ると、もはや思い出さない方がある意味安全か、それが正しいのかもしれない、と思えなくもないのだ。何度か繰り返す検査の結果、マトイはニューマンすらも超えるフォトンへの親和性、干渉能力を持っていた。無論、それをマトイが知ったらアークスになる、とでも言いだしかねないから自分が黙っている。とはいえ、記録に残らず凄まじいフォトン適正―――あんまり、まともな過去があるようには思えない。

 

 場合によってクーナの様な経歴を持っているかもしれない。

 

「……マトイは昔の事を思い出したい?」

 

「うーん……どうなんだろ? 思い出したほうがいいかもしれないんだろうけど……今は……いいかな。ううん、たぶんこのままが良いと思う」

 

「ん、それじゃあそれでいっか、我が妹よ……!」

 

「お姉ちゃん!」

 

 わぁい、と後ろから抱きしめる。マトイがそれに応えてキャッキャ言いながら体を揺らしている。やっぱり、ただの女の子でいられるのが一番幸せだよね、と思う。無理して思い出す必要もないだろう。フィリア……或いはシオンに頼んで、本当に兄妹設定にでも変えて貰おうかと思う。そうすればちゃんと、本当の意味でマトイに居場所を作る事も出来るだろうと思う。

 

 ……新たな波乱に対して備える必要もあるが。

 

 惑星ウォパルは新しいアップデートと共に登場した惑星だった。それはメインストーリーのないPSO2では関係のない話だったが、物語には()()が存在する。エピソード1に該当する時代は【巨躯】の撃退によって終息したように思える。だからきっと、今、ここにある時間はそれが終わってから次の波乱が始めるまでの休息だと思っている。ウォパルという新しい惑星での活動が許可されることになれば、まず間違いなく新しいマターボードがシオンの手によって生成される。

 

 そんな予感が―――いや、確信がある。第一、【巨躯】を討伐してからシオンを見かけていないし、あの【仮面】でさえ最近はめっきりと見かけていない。アレ程殺意を撒き散らしながら暴れ回っていたクセに、急に姿を見せなくなった。アークスの間でも目撃証言が現在は存在しない……その事実には不安を正直覚える。

 

「アキナ?」

 

「いや、実は新しく水の惑星のウォパルってのが探索許可が降りそうでさ、そこ、水の惑星って言われるぐらいにはほとんどが海で出来ているぐらいなんだよ……マトイ、海は見た事ないだろ?」

 

「うーん、映像だけかなぁ?」

 

「だよなぁ……俺が知っている場所の中でも最も美しい場所の一つだよ。地平線に夕日がかかり、オレンジ色に染まる世界とか見ているだけで飽きないぞ。それにアレだ、海だからな。水着に着替えてから泳いで遊ぶだけでも割と遊び続けられる」

 

 俺もPSO2時代は良くウォパルへと意味もなく遊びに行ってた記憶がある。リアルだと絶対無理だが、エーテル通信によるダイブ状況であれば手頃に海へと遊びに行く事も出来たのだ。そこで泳いだりはしゃいだりと、任務そっちのけで遊んでた覚えがある。まぁ、エーテル通信を利用したフルダイブはまだどこかシステマチックな部分があった。薄皮一枚、フィルターを重ねた様な状態だ。だがそれももうなくなった。触覚、嗅覚、味覚、その全てが完全なリアルとなっている。

 

「いいなぁ……私もアークスになれたらいくのになぁ」

 

「アークスになっちゃうと家が一瞬で汚部屋になって行くような気がするんだよなぁ……」

 

「それ、自覚しているなら少しはどうにかしよう?」

 

 部屋の片づけとか苦手だし……とか言い訳しながらも、本音で言えば自分もまた、家に帰ってきたらマトイがいる、という事に完全になれてしまったのだという事実がある。もはや、マトイなしで生活する事を考えるのはちょっと難しいかもしれない……いや、無理だろう。もう完全にこの娘に愛着が湧いているし、猫かわいがりしちゃっているし。自分も、まぁ、良くもこんな風に今の環境に馴染んだというものだ……。

 

 そんな事を呟いていると、メッセージコールが入ってくる。何事だろうか? と思いながらいいかな? とマトイへと視線を向け、許可を貰う。

 

「はいはーい、此方全宇宙最強のアークス安藤でーす」

 

『失礼、これはアキナのメッセージコードだと聞いていたのだが……ん? ちゃんと繋がったようだな―――いや、待て、その格好は何だ』

 

 前にマトイを座らせ、ソファに沈み込む様に座っている自分の姿を見る―――髪型は纏めているのが面倒なのでバラして放置しているし、服を着ているのも面倒なので、室内で何をしていない時は最近、もっぱら下着姿だ。メッセージコールに表示されるレギアスの映像は困ったような表情を浮かべ、そして片手で顔を抑えた。

 

『もう少しまともな格好を出来んのか……』

 

「いやぁ、室内のプライベートタイムだし、ぶっちゃけ枯れたおじいさん相手なら別にみられても平気だし……若い子だったら漏れなく見せてから罰金するけど」

 

『ヒューイが急速に老け込んで行く理由がこれか……』

 

 ヒューイはアレだ、頑張ろうとするのがいけないか。いわゆる努力の方向音痴だ―――キチガイ的な意味で。自制心とかを投げ掃えれば疲れる事はないんだろうなぁ、とは思っているが、それもまたヒューイの良さなので、これからもずっと胃痛で苦しんでほしい。それがきっと六芒均衡として、ヒューイが唯一出来る事なのだから。それはそれとして、

 

「何の用っすか」

 

『いや、数日中にブレイバークラスの発表を行おうかと思っている。だから今まで使えなかったブレイバークラスの解禁許可を出そうと思ってな』

 

「あ、これは丁寧にどうも」

 

『それと同時にウォパルへの探索許可も下りるだろう……休むのはいいが、本分を忘れるんじゃないぞ?』

 

「いや、解ってますって」

 

『ふむ……』

 

 そう呟くレギアスは一瞬だけ、マトイへと視線を向けたような気がする。キャストという完全なポーカーフェイスが成立する種族である為、何のための視線かは解らなかったが、それも一瞬だけで終わり、じゃあの、という言葉と共にラインが切れた。まぁ、丁度話題に出ていただけ、タイムリーだったなぁ、とは思わなくもない。

 

「ま、近々活動再開って奴だな」

 

「最近やっとのんびり出来る様になったと思ってたのになぁ」

 

「宇宙の平和に休みなんざねぇんだ。ちゃんと毎日帰ってきてるんだし、収入も必要だから我慢しようね?」

 

「はぁーい……ふふふ」

 

 互いに笑い合いながら壁に掛けてあるテレビを付けて、適当に時間を過ごす。

 

 こういう時間がずっと続けばいいのに……そう思うも、ダーカーがいる限り、それが不可能であるのは理解していた。




 面接? 9割落ちたよ! 愛かった1割はヒューイへの精神的ダイレクトアタックとなった。

 という訳で次回からEP、環境破壊! インフレ! らんらーん、容易くダメージ! 新クラスEl! 懐かしい時代だったなぁ……。

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