安藤物語   作:てんぞー

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Resting In Green - 3

 ―――風によって砂が舞い上がる。

 

 正面、視線を向ければ大量のアークス達が存在している。男、女、キャスト、ニューマン、ヒューマン―――種族、年齢、性別の一切関係なく三十を超えるアークス達がここには集結していた。その前に面接用のデスクを置き、そしてその後ろに面接で使うようなパイプ椅子を設置し、そこに自分は居た。正面、アークス達の背後に広がっているのは一つの、基地の姿であり、その向こう側に広がっているのは砂漠だった。

 

「えー、皆さん長らくお待たせしました。本日はチーム特攻野郎Aチームの面接へとお越しまことにありがとうございます。俺達のチームに参加してやるぜ! って生粋のキチガイがこれほど多く存在するとは俺も涙で前が見えません。比喩や誇張抜きでこのチームにはキチガイしか存在していませんので、ここに入りたがる君達も確実にキチガイです。えぇ、甘い蜜を吸うぜへっへっへ……とか思っている君達もそれが出来ると考えている時点で残念ながらキチガイです。ようこそ地獄へ―――ようこそリリーパ第一採掘基地へ、ここが君達の試験会場(地獄)だ」

 

 アークス達から怒声とブーイングがやってくる。まあまあ、落ち着けよ、と片手で拡声器を握ったまま、アークス達を落ち着ける。

 

「今貴方達キチガイ候補生達はこう考えている……なんだここ? なんでここにいるんだ? なんなんだこの場所は……? 面接ってなんだよ……! と……」

 

「そうだよ!」

 

「じゃあまずは本日の審査員からの紹介に入ります」

 

「面接で審査員!? 面接ならば面接官ではないのか!?」

 

 今の鋭いツッコミを入れたアークスのツッコミの切れ味いいな、心の中で評価を上昇させつつ、横に座っている人物を示す。何時も通りのツンツンヘアースタイルが特徴的なアークスの中のアークス―――つまりはヒューイが半分死んだような眼で座っている。

 

「こちら我らがチーム、特攻野郎Aチームのチームマスター、六芒均衡のヒューイさん! 酒に酔わせて前後不覚になっている間に皆で騙してチームマスターにしたぞ!」

 

「助けて」

 

 そしてその反対側、ヒューイから見て中心に座っている自分の反対側、つまりは自分の横に座っている、ミラセリアを着ているアークスではない、アイドルの姿を見せる。

 

「個人的な親交を持つアイドルのクーナちゃんだぁぁ―――! 俺が呼びたいから呼んだ! 面接とは特にクソ程の関係もない!」

 

「はぁーい、皆ー! クーナでーす! 今日はみんなの頑張る姿が見れるって聞いて来たよー!」

 

 アークス達の歓声が天元突破する様な勢いで第一採掘基地に響いた。アイドルをチョイ見せすれば士気上がるだろうなぁ、と思ったがあまりにもチョロすぎるその姿に逆に不安になってきた。ともあれ、拡声器を通して静まれ、静まれ、と叫んで湧き立つアークス達を一気に静かにさせる。大人しくなったところでレーダーマップを広げる。

 

 その半分が赤く―――つまりはダーカー反応によって染まっている。

 

「えー、最近レギアスさんと話す機会があってちょっとダーカーを無限に虐殺できる場所がない? って聞いたら採掘基地がレッドでマジレッドで超ヤバイって話があったので、いままではチームメンバーで独占していたこの最高の狩場ですが、思い切って本日の面接会場に開放しようかと思います。ここで戦う時はサイクルを決めておかないと八時間程ノンストップでダーカー殺し続けても戦いが一切終わらないという凄まじい場所なので、ダーカー素材ウッハウッハで星10武器とかがゴミに見える勢いで手に入ります」

 

 とか言っている間にダーカーの群れ―――ウェーブが文字通り波のように襲い掛かってきた。採掘基地へと黒いじゅうたんとなって襲い掛かってくる姿へと向かって、ヒャッハーと叫びながらチームメンバーたちが突っ込んで行く姿が見える。そのまま、正面、黒いじゅうたんにのみ込まれたかのように見えて、その内側からゾンディールやワイヤードランスのフォトンアーツで纏め、一気に撃滅しながら一定のラインからの侵入を完全に阻んでいた。それこそ採掘基地の敷地内に侵入させない勢いでだ。

 

「えー……賢い君達なら既に察しているかもしれません。君達の面接はダーカーくんたちを虐殺する事です」

 

「ふ―――ざ―――け―――るなぁ……!」

 

 受けれるだけ受けておこう、という層が一気に怒りで爆発する。あんなダーカーの大群に勝てるわけがない、死ぬしかないだろう、と怒りを爆発させる。まぁ、一般的にそういう風には見えるよなぁ、と前線で無双しているチームメンバーの姿を眺めながら思う。フォトンアーツの合間にアクションを混ぜてかなりふざけているが、今回襲撃しているダーカーはどうやらレベルが低いらしく、遊び六割でも余裕そうにしてる。

 

「ちなみに割と真面目な話、レギアスさんから真面目にアークスやってない奴は容赦なくダーカーの餌にしていいと許可を取っていますので―――」

 

 パチン、と指をスナップさせる。それに反応する様にラッピースーツとリリーパスーツが出現する。しかも今日は面接という事で二人もスペシャルな姿をしていた。

 

 なんとマジキチで有名なお月見リリーパ、そして顔面を完全に隠してお前、前が見えてるの? と言いたくなるエグ・ラッピースーツ姿となっていた。そんな二人の間には面接という事で気合いの入ったセレモ・ニャウスーツの姿があり、ラッピーとリリーパで葬式の様な雰囲気でニャウを引っ張っており、

 

 その正面にカタパルトが出現した。

 

 ラッピーとリリーパがニャウを投げ、カタパルトに弾かれたニャウは気絶したままの状態であの決戦の時の様に、ダーカーへと向かって一切動くことなく射出されて姿が消えた。その姿を眺めていたラッピーとリリーパがハイタッチを決めてからクロスカウンターを浴びせ、よろめいたところでカタパルトを踏んで吹き飛ばされた。ニャウの後を追う様に消え去った着ぐるみたちの姿をその場にいる全員が大人しく眺めていると、やがてミィーミッミー、とバグ音声を全身から流し出すキャストが出現し、その場で踊り始める。

 

「あのようになります」

 

「いやだあぁぁぁ―――!!」

 

「助け、助けてぇ! 助けてぇ!」

 

「う、うわぁぁ!!」

 

 一気に面接会場が地獄へと突入した。クーナのニコニコとしたアイドル笑みと、死んだ魚の様な目を浮かべるヒューイに挟まれた状態、テーブルの上で腕を組み、その上に顎を乗せ、叫喚するアークス達の姿を眺め、数秒間、じっくりと無言で眺め続ける。やがて、眺め続けるのにも飽きてきたので指をスナップさせれば、それに反応する様にラッピーとリリーパが逃げ惑うアークスの集団へと突っ込んで行き、そいつらを威嚇する様に外側から暇な連中の射撃が始まる。

 

 ある意味予想した通りの展開が始まった。悲鳴が響く採掘基地の中で、静かにホロウィンドウを表示させながら一人一人、射殺されて倒れて行くアークスをチェックし、採点を開始する。自分から敵の方へと突っ込んで行くアークスのポイントを上げ、逆にリリーパやラッピーをぶち殺そうとするアークスには大量加点する。冷静に動きを観察していると、気絶したアークスからカタパルトで最前線へと射出され始める。マシンガンの様に空を舞い、ダーカーの群れの中へと叩き込まれて行く憐れな犠牲者たちの姿を見て、幸運を祈る。ただやはり、中には奇声を上げながら跳び込んで行く蛮族も存在する。我がチームに欲しい人材だなあ、とマーキングする。

 

「……何のためにここに来たんだろう」

 

「いやぁ、面接にボスが顔を出すのはいいプレッシャーの与え方ですし」

 

「じゃあ私の存在意味は?」

 

「俺が嬉しい」

 

「……そろそろ本格的に遠慮を無くした方が良いのではないか、これは」

 

 ヒューイの声に今更? と思いつつも、採掘基地で発生している戦闘へと視線を向ける。

 

 採掘基地防衛戦―――それはPSO2時代に存在したコンテンツのひとつだ。襲撃を受けている採掘基地をダーカーから守り切れ、という緊急クエストだ。実装された当初はまさに地獄の一言に尽きた。パターンが解らない、相手の数が今までに見ないレベルで凄まじい、そして何よりもゴルドラーダというダーカーは適切に処理しないと自爆までしてくる。大型ダーカーも連続で出現し、最上位難易度は生半可な装備や腕前で来るんじゃない、と言われる程に最初は過激だったクエストだ。

 

 防衛、絶望と新しいのが出現する度に難度は上がるし、ハードルも上がるが、プロアークスと安藤達は瞬く間に情報を共有し、メタを張りながらしっかりと防衛するのだからそういう来るな、とかはナリをひそめた。しかし採掘基地:絶望は今でも失敗をする事があるレベルで難易度が高い―――そういう高難易度コンテンツのひとつだが、

 

 これ、実力を測ったりアークスに連携とかを確認させるのに使えるんじゃね? と思って引っ張り出したのだ。

 

「しかしよくこんなのを知っていたなお前……というかレギアスとのコネクションに驚かされたぞ」

 

「レギアスお爺さんとは飲み仲間だからね」

 

「ほんと謎のつながりを持っているなぁ!」

 

 ヒューイの視線がチラチラクーナの方へと向かっているのは絶対に見逃さない。これ、後でネット報で情報拡散してやろうか、と考えつつ、最近のレギアスとの付き合いを考える―――と言っても基本的にビジネスライクなものだ。【巨躯】戦でカタナを使って大きく暴れたのが見られたからカタナが使えるってのはバレているし、そのついでにアザナミの相手もなんだかんだで任されている。そこまで関係は悪くはない筈なのだが、

 

 ―――なにか、どこかで警戒されているような気がする。

 

 明確に言葉で伝わる物ではない、どこか探られている、と言うよりは見られている、という感覚に近い。まぁ、シオンの件然り、マターボード然り、俺が安藤である事実然り、怪しい点なんて腐るほど存在するから仕方ないといえば仕方がないのだが―――と、そういえばアイドルとプライベートで友人なんだから更にトンデモだよなぁ、と追加する。

 

 ―――……あれ、怪しくない点が少ない。

 

「キャスト千年王国に栄光アレェ―――!」

 

 海パン一枚に頭に馬の被り物を被ったアルワズを見て、またバグってるなぁ、アイツ、と冷静にダーカーではなくアークス達を狙って襲撃する姿を眺めながら、どうしたもんかなぁ、と採点だけは真面目に進める。

 

「これで少しでもこのチームの実態が広がってくれれば頭のおかしい奴しか残らなくて楽しいんだけどなぁ……」

 

「なぁ、思ったんだが完全にチームが君の私物化されていないか? 名目上一応俺がチームマスターなんだが」

 

「だってヒューイさん手綱握れてないじゃん」

 

「どうやって握るんだ」

 

「―――手綱、握る方法あると思うの……?」

 

「帰る」

 

 お疲れ様でしたー、とクーナと二人でシップへと帰って行くヒューイに向かって手を振る。ヒューイに関しては嘘でもなんでもなく、本当に時間を無駄にしただけだった。六芒均衡という忙しいポジションの中で、時間をこんな風にドブに捨てさせてしまった――が、誠に申し訳ないとは欠片も思っていない。アークス最強のヒーローのイメージをいつか奪う為に今のうちにヒューイのイメージを崩さなくてはならないのだ。

 

「皆ー! ビブラスが出たよー! 頑張ってー!」

 

 絶叫とクーナに応援された歓喜の声が採掘基地に響く。カタパルト射出されてもまだ士気が折れないのはやっぱりクーナがこうやって応援しているからなんだろうなぁ、と思いながら眺めつつ、

 

「実はあと3グループこれを繰り返す予定なんだよなぁー」

 

「流石にそこまでは時間が……」

 

「素、素!」

 

「おぉっとぉ! いけないいけない、ごめんねー、流石にそこまで時間は取れないかなぁー?」

 

 思わず素を晒したクーナにアイドル業ってのも大変そうだなぁ、と思いつつ、海パンのキャストに

空へと打ち上げられるビブラスの姿を見て、あまりの酷い光景に同情を覚える。

 

 こうして、

 

 後に誰もが悪夢としか語る事の出来なかった入団試験が始まった。




 と言う訳でEP2と言えば採掘基地が徐々にアップを始めたような、そうでもないような時期。レギアスは仕事が減って嬉しそうです。それはそれとしてお前ら良い空気吸ってるな。感想の安藤も割と安藤してる。

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