安藤物語   作:てんぞー

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Blue Sky Blue - 2

 ビジフォンを使って気になるアイテムの相場を二十分ほど確認していると、オンにしていたログインアラートが起動し、フレンドがログインしたという事実が伝わってくる。ログを確認すれば”ウェスト”というキャラクターのログイン履歴が存在している。ログイン、予想よりも早かったなぁ、とは思うが、緊急クエストが来ているのであればそれをどっかで見て急いで帰ってきたのかもしれない。ビジフォンで展開していたホロウィンドウを消して、チャットのモードをウィスパーへと変える。相手はもちろんウェストだ。

 

「よ」

 

『ういういー。ログインなうっぴぃ。そっち行くっぴぃ?』

 

「カモンカモン」

 

 短いメッセージのやり取りを終えてチャットを終わらせる。ビジフォンから視線を外してロビーにあるクエスト受付用のカウンターの横、テレポーターの方へと視線を向ければ、男女が動くことなく固まっている姿が数人ほど見える。その後唐突に動き出す姿は偉く不気味だが、自分の様なエーテル通信ではない、通常のPCが相手だと思うと納得できる部分がある。そうやってこのブロックへと転送されてくるPCの姿を眺めていると、見知ったPCが転送されてくる。

 

 愛らしいヒヨコの着ぐるみで姿を完全に隠している存在だった。明らかに周りのSFチックな服装と比べれば浮いているのではあるが、このゲームの、PSO2の看板マスコットとも言われるラッピーという鳥の着ぐるみはそこまでレアな装備ではなく、ネタとして誰かしら所持していたり、無駄にバリエーション豊富だったりする。

 

 ラッピースーツと呼ばれるその着ぐるみの愛好家は割と多い―――西田……ウェストの様に。此方がビジフォンから放れて手を振れば、きゅむきゅむ、と独特の足音を響かせながらウェストがダッシュで近づいてくる。そこでパーティーへの招待が届き、即座にそれを承諾する。チャットのチャンネルをパーティーへと合わせ、パーティーメンバー以外には発言が聞こえない様にフィルタリングする。

 

「ちーっす」

 

「ちーっす。四時緊急と聞いて本気で帰ってきましたっぴぃ」

 

「うーん、大学生のクセしてこいつ……」

 

 それを言ってしまえば自転車で全力ダッシュをカマした自分も人の事が言えないのだが。ともあれ、ラッピーだから語尾はぴぃとかいう安直な考えを実行している狂人と軽く中身の無い話をしつつ、四時から緊急クエストが来ている為、適当なクエストをクエストカウンターでウェストが受注し、

 

 ロビー中央の発着ランチへと進む。

 

 ここ、ゲームだとロビー中央から進むゲートの部分しか見えないが、実際に体を使って動かしているとこの先も存在しているのが解る。歩いて進んで行けば少しずつ下がって行き、その先にランチへと繋がるテレポーターが設置されてあるのだ。それに入れば開いているシップの方へと自動的に転送される。

 

 ゲームだとクエストカウンターで待機するよりも、シップで待機した方が遥かに利便性が高かったりするので先にシップに入って待機するのが普通だったりする。回線の状況次第の話だが、普通にクエストカウンターで受注してクエストへと向かおうとすると、それでラグったりロードに時間がかかったりして面倒なのだ。

 

 逆にシップ内だとパーティーを組んでいる、自分を含めて最大4人までしか表示されない為に動作が軽くなるし、受注してから場所への移動が速いのだ。

 

 ―――この小技、フルダイブだと通じない。

 

 以前、野良のパーティーの際に身を持って知ったのだが、惑星ナベリウスで発生する緊急ミッションを待つ為、惑星ウォパルでシップを待機させてからミッションへと参加した時は、シップがウォパルから放れ、ワープゲートを通してナベリウスへと向かって、そこで漸く自分がクエストに参加できた―――その数分間のロスを経験するハメになったのだ。一緒にその時遊んでいたのはエーテル通信とは全く関係のないPC達、向こうは此方が表示されても動かないロード中の状態に見えていたらしい。

 

 その間、自分はずっとシップ内で待機し、惑星間を移動する様をしっかりと見ていた。

 

 まぁ、何とも不思議なものである。ちなみにクエスト開始後にシップへとテレポーターを使って転送すればちゃんと現地へと到着できるという面白い現象も発生する。

 

 同じゲームを遊んでいるはずなのに、フルダイブと通常環境ではまるでフィルターを一つ、隔てているかのようなチグハグさ、そしてリアリティが存在している。それが遊んでいる自分としては妙に面白く、少しだけメモったり調べたりしている事でもあった。

 

 そんな事もあり、定番のシップ待機はウェスト一人だけが行い、自分はロビーに残った。ゲート横の壁に寄りかかりながらホロウィンドウを表示させ、手持ちの装備とアイテムをかくにんしつつ、パーティーチャットを付けたままにする。

 

『前遊んだ時はアキナはバリバリのFoTeだったのにいつの間にかFiBoでカンストさせてるねぇ……っぴぃ』

 

「FoTeはアレだ、テクカスしてテク連打してれば火力出るし楽だし貢献しやすいから結構好きだったんだよなぁー……ニュマ子だから火力出るし。火力出るし」

 

『野良でも火力なきゃ晒される時代ぴぃ。まぁ、当然なんだけどっぴぃ』

 

「地雷を引いても楽しむ精神がゲームには必要なんだと思うけどなぁ……」

 

『まぁ、そういう意見もごもっともっぴぃ。だけど結局のところゲームというお手頃な環境で無双して自尊心を補給したいのが人間というかガキの考えっぴぃ。自分より劣るやつがいたら口にしなくても気分は良くなるっぴぃ? ただそれが口に出たりイライラしちゃうって人種は多い、それだけっぴぃ。それはそれとして見抜き、いいっすか』

 

「なんでそこだけお前語尾がねぇんだよというかシップから戻ってきてんじゃねぇか……!」

 

 気が付けば目の前にズームアップされたラッピースーツの顔があった。それを両手で押し退けながらシップの方へ、ゲートの中へと押し込む。ゲームとしての性質上、そこまで押し込んでしまえば勝手にシップの方へと転送されてしまう。はぁ、と息を吐きながら時間を確認する。四時まであと十分ほど、時間は残っていた。

 

『酷いっぴぃ……ただ見抜きがしたいだけなのに』

 

「リアルで襲撃にしに行くぞ!」

 

『洒落にならないからマジでやめろ……やめろ。まぁ、冗談はそこまでとする……っぴぃ。今軽く装備見たけど何時の間にヒャッカリョウランの10503を……』

 

「ドゥドゥの討伐は辛かったよ……! まぁ、FiBoでFiメインで使えるDBとなってくると自然と限られるしレアドロ期間があればね……? それにFiBoってかなり動きが楽しいし。ほら、前動画でやってたじゃん? アレはFiFoだったけどさ。テクとPA混ぜながら空中コンボ決め続けてイジめるだけの動画。アレ見て真似してみたら楽しくて楽しくて。偶にサブBrにしてJガして遊んでる」

 

『フレがいつの間にかスーパープレイの道を歩み始めていた件』

 

「空中散歩は楽しいぞー」

 

 装備がそこまでガチガチではないので火力にはそこまで期待できないのが辛い所だが、それでもWIKIとかを見て装備をしっかり吟味、強化しておけばそれなりに火力は出る。趣味構成だとしても一定の役割を果たすことが出来れば文句は言われない。FoTeは確かにお手軽で強いし、テクニックを使うのも派手だから悪くはなかった―――だがアクション要素のあるこのゲームで、ほとんどモーションのないテクニック職を使うのは非常にもったいないと思った。それと比べるとFiBoは良く動く、良く跳ぶ、そして良く飛びもする。

 

 Gu(ガンナー)Fi(ファイター)Bo(バウンサー)といえば簡単に飛び上がって途切れる事のない空中コンボを叩き込めるクラスだ。折角自分の体で動かして遊べるのに、それを選ばない理由がない。

 

 痛覚も存在しないし、派手に接近戦をしても怖くはない―――ゲームなのだから。

 

『お、緊急来たっぴぃ』

 

 ウェストの発言と共にロビーにアナウンスが響く。緊急クエストの発注が行えるようになる。さっそくウェストがクエストを受けたことによってクエスト内容が切り替わる。市街地緊急任務。オーダーされたクエストがそれに切り替わったところでゲートへと入り、その先にあるテレポーターへと向かい、とびこむ。

 

 再び、白と青の電子回廊を抜ける浮遊感とテレポートの感覚を得る。その先で視界が切り替わり、場所は鈍い鋼鉄の色を見せるシップ内へと変わった。直ぐ近くにはドリンクスタンドがあり、シップの先には出撃用の出口がある。ここにウェストの姿がないという事は既に飛び出した後なのだろう、

 

 ドリンクスタンドでサクっとフォトンドリンク―――PA(フォトンアーツ)を使うのに必要な最大PPを上昇させるドリンクを飲み、空っぽになったドリンクの容器を投げ捨てて走る。白い、首裏で二本に分かれて伸びるアクセサリーのないツインテール―――ローゼンロングテール2が動きに合わせて揺れる。それが僅かに首に触れたりはするが、やはりゲームだからか、そこまで触覚は感じない。だからリアルとは変わらない感覚で体を動かせる。体の変化も気になるものではない。

 

 そのまま、シップ後部のゲートへと飛び込む。

 

 再び視界を白と青の世界が包み込む。だがそれも一瞬で、終わると足元は確かな感触を得て、そして鋼の建造物が視界に入ってくる。直ぐ正面へと視線を向ければ、踊るラッピースーツの姿―――つまりはウェストの姿が見える。それを無視して武器のスロットを変更すれば、背中に武器が出現する。装備した飛翔剣(デュアルブレード)であるヒャッカリョウランは片方が桜色、もう片方が白く、その名の通りどこか和風っぽさを感じさせる武器となっている。

 

 メインクラスによって装備できる武器が制限されるこのゲームで、メインクラスとは別に装備できるクラスが設定された武器がある。このヒャッカリョウランもそういう武器の一つになる。

 

「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃぃ!! リリーパは殺すっぴぃ」

 

 ホロウィンドウが出現し、マジマジとドアップのウェストのラッピー顔を強調しながらリリーパというマスコット的にライバルポジションに立つ殺人発言を放ったウェストに呆れ、ホロウィンドウを消去する。

 

「無駄にカットイン入れてそんな事を言うなよ……」

 

「いいや、これは大事な事っぴぃ。元々PSO2、そしてアークスのマスコットと言えばラッピーだっぴぃ。だがリリーパとかいう媚びを打っているド畜生共が出現したおかげでいくつかのグッズでリリーパの畜生が販売される様になったっぴぃ。これは許せないっぴぃ」

 

「お前は一体何と戦ってるんだ……」

 

「マスコットとして譲れない戦いがそこにあるっぴぃ……」

 

 ゲームとしてのキャラクターでしか行えない、無駄に小刻みなジャンプでステップを取りながらウェストが振り返り、そのままスタート地点から飛び降りて先へと進む。その背中姿を見送りながら正面へ、その先へと視線を向けた。

 

 そこに広がっているのは破壊された市街地の姿だ。少し進んだ先で道路から染み出す様に出現した黒い靄が少し気持ちの悪い昆虫の姿を取り、その姿を撃退する様にウェストがカード―――タリスを片手にテクニックを放ち始めるのが見える。

 

 市街地緊急任務。それはダーカーと呼ばれる敵性存在がアークス船団―――つまりPCが所属する宇宙船団の市街地へと襲撃してきたので、撃退しろ、という任務の内容になる。正直、そこまで美味しいクエストではない。そもそも自分も、そしてウェストもキャラクター自体はカンストし終わっているし、こんな場所で狙えるレアもたかが知れている。ただそれでも、普通に遊んでいるだけでも割と楽しいのだからしょうがない。

 

 ヒャッカリョウランを背負った状態で前へと走り出し、スタート地点の台地、柵を越える様に走って飛び越え、三メートル程下へと風を感じながら片足で着地、痛みさえも感じずにそのまま前へと向かって走る。無駄にスカートが鉄壁で見られるとか広がりすぎるとか心配する必要もなく、体もまるでスーパーヒーローになったかのような軽快さで進むことが出来る。正面、タリスを投げた所でテクニックを発生させたウェストがそこを中心点に敵を一か所に集め、そのまま爆炎を巻き起こして一纏めに敵を処理する。

 

「やっぱFoTe楽だっぴぃ。ゾンディとラフォするだけのお仕事っぴぃ」

 

「でも個人的にFoやってて一番楽しいのは複合属性のぶっぱした時だと思う」

 

「超解るっぴぃ」

 

 正面、更に宇宙の敵、ダーカーが出現してくる。スイッチ型のスキルを発動させて戦闘準備を一瞬で終わらせつつ、前へと向かって走る。後ろからタリスが飛翔し、それが此方が到達する前に集団の中央で電撃の結界を広げて敵を中心へと吸い寄せる。そうやって敵が集められた中心点へと向かってヒャッカリョウランを両手に持って、PAを発動させる。両手を大きく広げるのと同時に足が大地を離れて滑空し、周囲にフォトンブレードと呼ばれる謎の万能物質、フォトンによって生成された半透明な刃が生成される。

 

 それが暴れる様に自由自在に体に周囲に展開、飛翔し、一か所に固まった集団にそのまま突っ込む。ザクザクとダーカー、その最下級の敵であるダガンにフォトンブレードが突き刺さって行き、グラフィクの破片へと解体して行く。だが難易度が高いだけに、それだけでは倒れない。だからそのままゼロ距離まで接近した所でPAを追加で発動させ、フォトンブレードを丸鋸の様に縦に回転、空へと飛びあがりながら敵を削り、上へとカチ上げる。

 

 更にそこから追撃しようと武器を換えようとして、システム的に表示されたダメージが即死圏に突入しているのを理解して追撃を止める。

 

 そのまま着地し、ダガンも道路の上に落ちるとそのまま黒い霧となって霧散した。

 

「フィーバーしないDBとかどう見ても地雷っぴぃ。あ、パーティー抜けますね」

 

「クラフトまでして武器もユニット(防具)もラッピー統一している貴様にだけは言われたくはない」

 

 フレンドだからこそ許せるやり取りをしながらそのまま奥へと、瓦礫と炎によって崩壊している姿を見せている市街地の奥へ向かって進んで行く。この先、何度かダーカーの邪魔が入るだろうが、それを抜けた先にエリア切り替えが待っている。

 

 そこへと進めばマルチエリア―――最大で12人まで同時に共闘できるエリアになる。クエストはそこへ到着してからが本番だ。




 ドゥドゥのサンドバッグが実装された時、私はそれを最速で入手し、マイルームで飾って殴り続けました……1時間ぐらいな! 最近はB争奪が激戦過ぎてマイルームに戻る時間ないからフランカカフェが溜まり場化しているような。そんなぷそにー。

 基本的に細かい説明はあまり挟まない方針なのでプレイヤーか自分で調べられる人向け。

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