安藤物語   作:てんぞー

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Vivid But Grey - 5

 瞬間、世界がモノクロに染まり―――【仮面】がブレた。

 

 首に突き刺さっていたはずの透明な刃は空を切り、ゼルシウスの彼女の姿が自分の真正面に、障害もなく見える。それはつまり、その間に存在していたはずの【仮面】の姿がそこにない事を証明していた。ありえない。それは確実に当る筈だった状況だった。だから呆けてしまうのもしょうがない事だった―――だけど、

 

 それをまるで理解していたかのように体は動いていた。

 

 事前にトリガーにセットされていたアサルトライフルによって照準は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まるで未来を予測したかの様に体は自然と、【仮面】が正面から消えた瞬間に引き金を外す様に引いていた―――その先で、天上から閃光が降り注いでくる。かつては環境破壊とまで呼ばれた元最強フォトンアーツの一つ、サテライトカノン。それが出現した【仮面】と重なる様に、ジャストタイミングで命中した。ツインマシンガンでは絶対に真似できない凄まじいフォトン奔流が一瞬で【仮面】の姿を飲み込んで、一瞬だけホワイトアウトさせる。

 

 だが次の瞬間にはコートエッジDが振るわれていた。

 

 内部から漆黒のオーバーエンドがサテライトカノンを完全に消し飛ばした。そうして振り下ろした【仮面】の姿へと向けて、再びアサルトライフルを向け、そして貯め込んだ一撃を放った。

 

「うるせぇ死ね」

 

 エンドアトラクトが放たれる。大砲とも表現されるべき極太のレーザーが【仮面】の正面へ、オーバーエンドを振るった直後の体に直撃する。が、その大半がダークフォトンによって相殺され、無効化されている。だがそれでも十分に閃光と音は稼げた。そうやって生み出された動ける瞬間の中を一瞬で空を泳いでゼルシウスの彼女が進んだ。透明な刃を握り、それを交差させる乱舞させ、回避出来ない様に斬撃を飛ばす。

 

 エンドアトラクトにでさえ反応しなかった【仮面】がそれに反応し、その手のソードでガードする様にしながらブラッディサラバンドをガードし、後ろへと大きく跳躍して距離を作る。そうやって距離を生み出した【仮面】の姿を眺め、素早くゼルシウスの彼女の横へと自分の姿を並べる。

 

「ありがとう、助かった」

 

「本来は別件の任務中でしたが、見なかったフリをするのもそれはそれでどうかと思いますし……ですが、それにしても何者ですか、アレは」

 

「ダークファルス」

 

 率直な返答にゼルシウスの彼女が完全に動きを止めて固まってしまった。しかしその間でも常に警戒を解かず、正面、【仮面】へと視線を向けてその存在を捉えている。彼女の参戦はありがたかった。しかし、それでも状況は絶望的に一言に尽きた。ゲームの頃は解らなかったが、なんでPCではダークファルスには勝てないか、というのを理解した。

 

 ()()()()()()()()のだ。フォトンにはダークフォトンを、ダーカー因子を浄化する力を秘めている。だからアークス達はダーカーと戦うことが出来るし、様々な無茶を実現する事が出来るのだ。だけどダーカー達のボス、ダークファルスと呼ばれる存在は質量の桁が違いすぎる。レベルとかそういう概念以前の問題だ。砂粒で大海を割る事は出来ない。そういう概念的な勝負なのだ、ダークファルスとの戦いは。それが今、フォトンを実際に肌で感じられるようになって思った事だった。ツインマシンガンもサテライトレーザーもエンドアトラクトも全部、相手の質量が違いすぎる結果ダメージとして発生する領域まで敵のダークフォトンを削れていないのだ。

 

 フォトンを強化するか、大量のフォトンを用意するか、或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が必要だ。だが現状、それが手元にはない。

 

 【仮面】、ゼルシウスの彼女、そして自分共に誰も一切の動きを起こさない。そのまま数秒間、互いに睨み合っていたところで、【仮面】の方が動きを作った。握っていたコートエッジDを消去し、自然体に戻ったのだ。

 

「―――優位事象の固定化が完了するか……次は殺す……」

 

「うるせぇ死ね」

 

 顔面にエンドアトラクトを叩き込むが、それに動じることなく【仮面】は跳躍し、大きく後ろへと下がり、そのまま二回目の跳躍で石壁の上へと着地し、そこから後ろへと数歩、下がる様に姿を掻き消して去った。そのまま数秒間、レーダーを眺め、ダーカーの反応を確認し続ける。やがて、三十秒経過したあたりから急激にダーカーの反応が消失し始めたことにあのダークファルスが完全に去ったことを理解し、大量の冷や汗を流しながらそのまま、その場へと座り込む。

 

「あー……やばい……真面目にあの世が見えた……」

 

「じゃあなんで最後に挑発したんですか……」

 

「え? これがあるから」

 

 そう言ってインベントリからスケープドールを実体化させ、それをゼルシウスの子へと見せた。スケープドール、それはアークスを死の淵からよみがえらせる事の出来る凄まじい効力のアイテムであり、それ故に複数持ち歩こうとすれば干渉力故に起動しなくなると言われている。死亡直後、体がバラバラでなければ蘇生できる、というレベルの代物なのだからスケープドールの凄さが解る。これに合わせ、インベントリから複数アイテムを取り出し、それを足元に落とす。

 

 フォトンスフィアだ。

 

「抱き付いてこれを爆破させてここら一帯吹き飛ばしながら俺だけスケドで蘇ろうかなぁ、って」

 

「……確かに、あの恐ろしい程の質量を見るとそれ以外の方法が見えてきませんから何も言えませんね」

 

 フォトンスフィアを回収しつつ、改めてゼルシウスの子へと立ち上がってから感謝する。

 

「助けてもらわなきゃ一回死んでた所だわ―――本当に感謝する」

 

「いえ、此方も任務の途中に立ち寄っただけですし―――それよりも……いえ、それでは私は任務に戻らないといけませんので」

 

「あぁ、うん。本当に助かった。ありがとう―――」

 

 こくりと頷くと跳躍し、そして幾何学模様を呼び出してそれを纏い、どこかへと跳び去った。本当に助かった。あの子が居なければ間違いなく一回死んでいたし、スケープドールで復活できる範囲の自爆かどうかさえも分からないので、状況は実は絶体絶命的だったのだ。サブハンターでアイアンウィルをセットしているとはいえ、それだけで耐えきれるようなものでもないし。あぁ、やはりやばかった。本当に彼女が、

 

 透刃マイの持ち主が来なければやばかった。

 

「創世器、か―――」

 

 生きる上では情報が必要不可欠―――少し調べればマイ、透明、その言葉にヒットする物はデータベースに登録されていた。創世器、それは六芒均衡と呼ばれる者達が保有する最強の武装の名前だ。そしてその中には透明な刃である透刃マイの名前もあった。ただデータベースとして閲覧できたのはそこまでだった。名前と姿以上の事はデータベースには存在していなかった、その持ち主の名前や効果も。ただ先ほどの戦闘を見ればどういう効果があるのかはわかる。

 

()()()()()()()()()()()()()、だな」

 

 【仮面】の動きを観察する限り、【仮面】は執拗に透刃マイへと触れる事を避けていた。フォトンによる攻撃はどれだけ喰らっても平気な顔をしていたのに、なのにそれがあのゼルシウスの子が握る透刃マイとなった瞬間、急に攻撃をガード、回避する様になった。つまりアレはダークファルスの命を絶つ事の出来る武装である……と思う。少なくともタダではすまないのはあの反応を見れば解るだろう。

 

 ―――まぁ、解ったところで手に入る方法は不明なのだが。

 

「偶には夢見が悪いのも悪くはないもんだ」

 

 おかげで少しだけ、未来に希望が見えてきた。それにあの【仮面】がしっかりと優位事象と、発言してきた。おそらくアイツもまたマターボードと何らかの関連を持っているのは間違いがないだろう、何せ、オラクルへと飛ばされるときに一番最後に見たのがあの仮面姿だったのだから。まぁ、ここら辺は考え続けると時間が足りなくなってくる。マターボードを呼び出して確認すれば、今の戦闘を生き残ったことによってまた一つ、マターボードが完全に完了された。これによってまた新たなマターボードをシオンから受け取り、次の時間に進むことが出来る。

 

「難儀だなぁ」

 

 楽しいからいいのだが。そんな事を考えていると通信が入ってくる。あぁ、そう言えばダーカーによってジャミングされていたなぁ、なんて事を考えながら通信に応えれば、予想通りロジオの声がホロウィンドウと共に出現した。どうやらかなり心配させてしまったらしく、此方のバイタルチェックを行い始めている。何が起きたのか、それを適度にはぐらかしながら、

 

 また、クエストを終わらせる事に成功した。

 

 

 

 

「―――チ、女狐め」

 

 空間を捻じ曲げ、時空間の位相を破壊し、道を無理やり繋げて生み出す。凍土だった景色は一瞬で植物が存在し。しかし岩の道と遺跡にモノリスを見せるエリアへと変貌している。その最奥、巨大なモノリスの存在する広場へと到達し、そう言葉を仮面の下から吐き出した。もはやマターボードによる時空の改変は始まっており、そして成功してしまった。そうなると、時空間の出来事は時間軸上で観測しても無意味になりつつある。忌々しい、絶望感と憎悪が胸の奥で燃え上がりながらも、それを百パーセントの理性で完全に握りつぶす。ダーカーとしての、ダークファルスとしての本能が心の闇を無限に増幅させる。だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。全身を構成するダーカー因子に黙る様に無言で訴え、黙らせる。

 

「時間が……足りない―――」

 

 時間がどこまでも足りない。何度も何度も繰り返し、何度も失敗してそれを実感する。クラリッサのパーツ、その一つ目がアークス側に与えられてしまった。そうなるともはやアキナとクラリッサの間に縁が出来上がってしまった。彼女は絶対にクラリッサのパーツを全て集め、そして再び完成させるだろう。忌々しい事に、最初の優位事象が確定した事により、自分が保持するという事象を上書きされた―――シオンの干渉力の方が遥かに強い。【敗者】から逃れる為に行動を制限していても、それでも全知、フォトナーを呑んだ者。その力はダークファルスとなっても届かない所がある。

 

 こうなってくるとクラリッサの完成、強奪、そして【巨躯】の誕生はほぼ止められない。己も紡がれる事象の傀儡としてその演者を踊る事を強制される。そうしなくてもマターボードの導きによってそう言う出来事だったと時空が改編されるだろう。味方であればあんなにも頼もしいが、敵としてみれば絶望的の一言に尽きる。後出しのジャンケンで勝負され続けているような事だった。故に対等に勝負が出来るのは、

 

 ()()()()()()()()()()()()だ。

 

「【双子】も【若人】もまだ動きだしていない……今のうちに先手を打つか……」

 

 モノリスを見上げる。強大なその中には【巨躯】の反応を強く、感じる。同朋であるダークファルスの反応を感じ取って活性化しているのだろうか。今はまだ目覚められても困る為、ダークフォトン、ダーカー因子共に弱めながら【巨躯】の探知を逃れ、視線を背ける。

 

 そうやって見えた遺跡エリアの空、その青色を見て、青色の髪の女を―――クーナを思い出す。生きている、クーナをだ。彼女の姿を思い出し、懐の中から折れた刃を取り出し、それを握りつぶしながら捨て、空間を歪め、時空を違う惑星へと繋げる様に改変しながら歩き出す。

 

 

 

 

 惑星ナベリウス最奥、遺跡群。

 

 【仮面】が去った後に、そこにはもう何も残っていなかった。

 

 ただ、遺跡の床に昔はマイとも呼ばれていたもうただの壊れただけの刃を残し、

 

 それ以外を一切残さず、消えた。




 やっぱ創世器は別格だったよ。そして【仮面】さんの戦いはこれからだ。

 個人的にオール【仮面】さん視点の物語とか興味あるんだけど何時か来ないかなぁ……。

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