安藤物語   作:てんぞー

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Vivid But Grey - 1

 はぁ、と息を吐くと目の前の息が白くなってくる。本来ならそれだけの寒さが身に襲い掛かってくるのだが、体は全くその寒さを感じる事はない。服装はアイエフブランドF―――ゲームとのコラボ品のコスチュームではあるが、そのスタイリッシュさから割と高い値段で流通されているのだが、露出が多い。下はホットパンツ、上はタイトにノースリーブと臍だしルック、それに加えてジャケットも軽装。雪の中でこんな格好をしていれば寒いのは当たり前だ。だがフォトンによってその体が保護されているアークスにそんな常識は通じない。たとえそれがアムドゥスキアの溶岩の中だろうと、多少痛いけど戦えるアークスとスーパーフォトンパワーは伊達ではないのだ。

 

 それはともかく、目の前にシップの方から転送された削岩機が設置されている。軽くボタンを何個か押せば、後は自然に削岩機の方が設定されたルーティーン通り起動し、そのドリルを大地に突き刺して起動する。しっかりと削岩機が起動して大地を掘り進んで行くのを確認し、そこから視線を外す。

 

「―――うい、ロジオさん。こっち削岩機C、設置完了しましたわ」

 

『あ、此方でも確認したよ。今データを見ているところだけど本当に面白い場所だね、ナベリウスは』

 

 ホロウィンドウに緑色のナビゲータースーツに眼鏡をかけたぼさぼさ頭のヒューマンの姿が映る。彼はロジオ、ナベリウスの地質の研究を行っている研究者だった。力を借りたい、と周りのアークスに頼んでは断わられている姿に若干哀れさを感じてしまい、こうやってロジオの研究、ナベリウスの地質調査を行っている。

 

 目の前に広がるのは一面銀世界―――ナベリウスの凍土エリアだ。基本のナベリウスエリアを大森林とするなら、ここは第二のエリアだ。凍土は完全に凍り付いてしまったエリアで、出現する原生生物も大森林エリアと比べれば全く違う種になってくる。数百メートル歩くだけで全く違う環境になってくるのだが、ゲーム的に考えれば納得できるだろう。だがこれはゲームではない。リアルな体験だ。その中で急激に環境が変化するというのはありえるのだろうか?

 

 普通はありえない。

 

 つまり、普通じゃない事があるという事だ。設定とかには興味もないから読んだりしていなかったのが非常に惜しい。きっと設定とかを読み漁っていれば今頃、ロジオに地質調査に関するヒントでも与えられたのかもしれない。そんな事を考えながらレーダーを確認すれば、迫ってくるダーカー反応を見れた。振り返り、背中に守る様に削岩機を配置し―――腰の裏から双機銃(ツインマシンガン)を抜く。

 

 H&S25ジャスティス、マターボードから回収した星7ランクのツインマシンガンは威力で言えば大したことのない武器ではある。だが市場価格がインフレしていて武器の入手が難しく、それでいて装備しやすい武器を求めて来るとなると、これぐらいの品がちょうど手頃になってくる。クラフトする様な設備は今の所手に入れるのが難しく無理な為、特化射撃デバイステルクゥを装着し、それで基準を誤魔化している。

 

 だがそれだけの意味はあった。

 

「アディオス」

 

 視界にダガッチャの姿が見えた瞬間、H&S25のトリガー引き、セミオートで弾丸を連射する。銃口から離れた氷の弾丸の様なフォトン弾は一瞬でダガッチャの顔面に衝突し、その顔面に無数の穴を空ける。ダガッチャを構成するダークフォトンが生み出された風穴をふさごうとするが、ばら撒かれるフォトン弾の質と量の前に再生が間に合わず、そのままフォトンに浄化されて消える。

 

 戦闘が完了した所でくるくると軽いガンプレイでツインマシンガンを遊び、それを腰の裏へとしまう。

 

『道中もそうでしたが鮮やかな手際ですねぇ』

 

「宇宙を守る安藤としてこれぐらいは当然、って奴よ」

 

『いえいえ、謙遜しなくてもいいんですよ? ガンナーなんてトリッキーなクラスを使用している者ですからどんな方かと思いましたが、それを扱いきれるだけの腕前があるのは凄いですから』

 

 まぁ、メインはファイターであってガンナーはレベリングの最中なのだが、とは言わない方が良いのだろう。基本であるハンター、フォース、レンジャーは多くのアークスが使用するクラスとなっているのだが、最近知った事実によるとファイター、テクター、ガンナーはマイノリティではなくトリッキーすぎる故に排除、廃絶された部類のクラスらしい。まさかゲームでは大活躍だった派生クラスがこんな扱いを受けているとは考えもしなかった。

 

 だからだろうか、野良でアークスと組むと脳筋プレイばかりなのは。

 

 テクターは一人いると物凄い心強いのに。

 

 背後で削岩機の作業完了を告げる音が響く。その音に振り返り、パネルの操作を始めながら片手でツインマシンガンを片方だけ抜き、着地して踊り始めていたイェーデの頭をぶち抜いた。その無駄なモーションを止めればもう少しマシなんだがなぁ、なんて事を思いながら操作を完了、シップへと削岩機を転送する。

 

「削岩機の全護衛、転送完了しましたぁー」

 

『はい、お疲れ様です。此方でもデータの方は確認しました。これで増々ナベリウスの調査が捗る筈です。なぜ凍土という妙な地帯がこのナベリウスに存在するのか……それを私は解明して見せます!』

 

「応援してますよ」

 

『ありがとうございます。報酬の方は直接口座に振り込んでおきますので!』

 

「いや、別にいい……ってあー……もうメセタ増えてる。これだけで一万メセタってロジオさん結構金持ってるなぁ……ま、養わなきゃいけない妹がいるんだし、貰えるもんは貰っておくか。クロト銀行がないんだし。まぁ、活躍すればそれだけ金が入るとはいえ、即金って訳でもないからなぁ……やっぱスポンサーが欲しいわ……」

 

 スポンサー―――いる所にはいるらしい。これはゼノから聞いた話だが、アークスの活動は物凄く金がかかる。その為、一部アークスは企業等とスポンサー契約を行い、其方方面から金銭を融通していたりするらしい。まぁ、そうなると重くなって動きづらく、本当にアークスかどうかという言葉もある。

 

「ともあれ、何時までも凍土には残りたくないし、シップに戻るか」

 

 振り返り、他にエネミーがいない事を確認する。また出現しつつあるダーカーの姿めがけて再び弾丸をばらまき、ダーカー反応を抑え込んだ瞬間を狙い、簡易テレポーターを使って転移を行うとする―――が、視界に入ったものを見て、その動きを停止する。簡易テレポーターを発動させる前にH&S25を抜き、インフィニティファイアで腕を交差させる様にツインマシンガンを乱射する。瞬間的に出現したダーカーやダーカーに汚染された原生生物達を一気に殲滅しながら、前へと向かって走る。

 

 走りながら口から洩れる息は白く染まり、後ろへと流れて行く。やっぱり冬はこうなるから面白いよな、なんて事を考えながら直ぐに、目標を確認する。走るペースを上げ、口を開く。

 

「おーい!」

 

 前方、見えた黄色のゼルシウス姿の女はまるで此方が聞こえない様に振る舞い、雪原を一人で歩いていた。まるで警戒心を持たないその姿に若干呆れながらも、見逃せないので走るペースをもう少しだけ、追いついたその姿の肩を叩く。

 

「おい、アンタ今日はそっち、ダーカー多いから行かない方が良いぞ。めんどくさいぐらいに湧いてるから」

 

「―――え」

 

 そう言われたゼルシウス姿の女は振り返った。一言で言えば可愛らしい女だった。髪型はラフツインテールGV、つまりはグラデーションで青色から茶色へと変わる珍しい髪色、髪型の女だった。ただその服装のゼルシウスだけはどうにかした方が良いと思う。なんというか―――スケベなのだ、ゼルシウスは。しかも物凄いレベルで。付属パーツが黒のメタルなのだが、それ以外、ボディのパーツは密着型の半透明パーツになっているのだ。しかもこれ、乳首や股間の辺りを少ないメタルパーツで隠す様に配置してある為、非常にスケベなのだ。

 

 そして肌色ゼルシウスという見抜き文化が生まれるぐらいにはスケベなのだ。

 

 隠密密着型服装とか呼ばれているけどスケベ服なのだ。ヤバイレベルで。

 

「貴、女……私が……見え―――」

 

「それはそれとしてちょっと安藤さん的にそのスケベ服はいかんともしがたい感が物凄く物凄く強い。大丈夫? ゼルシウスだよ? 肌色ゼルシウスとかいう文化を作っちゃうアークスだよ? 君、見抜きの的にされちゃうよ? 見抜きいいっすか。あ、だめだ。マイサンがねぇ。おのれシオン。今すぐ……いや返されても割と困る。そうしたらマトイちゃんと一緒にお風呂入れないじゃないですかやだぁー!」

 

「―――」

 

 あ、完全にフリーズしている。だが丁度暇だったのでそのまま話を続行する事にする。周りへと視線を向ければ―――丁度良い所にマルモスの姿があった。軽く調べてみればダークフォトンにもダーカー因子にも浸食されていない、綺麗な個体だった。そのせいか非常に大人しく、近づいても暴れもしない子だった。それで利用し、飛び上がりマルモスの背の上に着地、その上に座る。

 

「いや、丁度良い所に来たよマルモスくん。貴様は最後に殺してやる。それはそれとして、ちょっと聞いてほしいのよそこのアークスちゃん。ゼルシウスの見抜き文化と言うものをよく理解しているか? 奴らなんか少しでもマイサンに引っかかりを覚える物を感じたら数日後にはそれで同人誌を描き始めるレベルでガチだからな、割と真面目に気を付けた方が良い。それはそれとしてウチのマトイ、割とお風呂とか嫌いらしいんだよね。だから俺が投げ込んで面倒を見ないと入りたがらないんだ……こういう場合、どうしたらいいかわからない」

 

「―――」

 

 フリーズ続行。気分的にはPSEバースト延長という感じだった。

 

「それはそれとして君何歳? アークスカード交換しない? どこ住み? アークスッターやってる? 俺の一押しの新人アイドルのクーナちゃんについてちょっと五時間ほどファミレスで語り合わない?」

 

「ま、マイ!」

 

 そう言ったゼルシウス子が腕を振るい、デジタルな記号と共にフォトンのヴェールを纏う。そのまま、その場を離れる様に大きく跳躍し、ゼルシウス子がどこかへと去って行く。その方向は注意した方向とは真逆の方向だ。いや、確かにダーカーがたくさん湧いているから進まない方が良いとは言ったのだが、

 

「流石に逃げ出されるとちょっと心が痛む……一体何が悪かったんだ……なぁ、マルコ」

 

「……」

 

 マルモスへと視線を向けると、知らんがなと言わんばかりのジト目が返ってくる。野生のマルモスのクセして割と芸達者だな、貴様。そんな事を考えながらマルモスの上で胡坐を組み、座る。ふぅ、と息を吐いてゼルシウス子の姿を思い出す。ゲーム時代でもかなりシコリティの高さはあったが、

 

「―――リアルになるとアレはもはや犯罪だな……アイツ……痴女だったのか……俺、リアル痴女との接触なんて初めてでどうすればいいかなんて解らねぇわ……」

 

 元気出せよ、と言わんばかりにマルモスが鼻を伸ばしてくる。それと握手しながら、

 

「お前良い奴だなぁ! じゃあ俺とちょっとクーナちゃんの可愛い所語り合わない?」

 

 そう言った瞬間胴に鼻を叩きつけられ、背中の上から叩き落とされた。顔面から雪の深い所に落下し、顔を持ち上げた先でマルモスが鼻を振りながら逃亡していた。

 

「おい! ちょっと! それはねぇんじぇねーの! おい! そんなにドルオタが嫌か! でもクーナちゃん可愛いんだぞ……アイツ走るスピード上げやがった……!」

 

 マルモスってあんなに早く走れたんだなぁ、なんて事を考えながら再び接近しつつダーカーの反応を確認する。シップに戻るにはダーカーの存在が少々邪魔だ。仕方がない、殲滅してから戻ろう、これもまた経験値になるのだから。

 

 そう思いながら今日もまた、アークスの日常に没入する。




 零番さん零番さん! クーナってアイドル知ってる? 知らない!? 今アークス二挺人気な新人アイドルクーナちゃんを知らない? 知らないの!? クーナちゃんはその笑顔で数多のアークスを魅了してきた……零番さん零番さん! 顔が赤いよ! 零番さん零番さん!!

 イジメか。

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