ぜろおば!   作:ウグイスぼうる

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前回のあらすじ
決闘にて


ワルキューレ「STAY WITH ME~♪ただ君をまもりたーいよー♪」


悟「さて、このゴーレムは邪魔だな」


ドグシャアア

そんなかんじ


武器屋と屍

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェストリの広場で行われた決闘から半刻後。トリステイン魔法学院の本塔、その最上階に位置する学院長室。そこでコルベールは、オスマンの指示により、決闘を一部始終見守っていたため、戦いの内容を報告していた。

 

 「それでは、あの骸骨殿はメイジでありながら、杖を構えることなく、素手で貴族に勝ったのだね?」

 

 「その通りですオールド・オスマン。ミスタ・グラモンはレベルの低いドットメイジですが、素手のメイジに遅れをとるほど未熟ではありません。彼はやはり《ガンダールヴ》とみて間違いないでしょう」

 

 「うむむ・・・・・・」

 

 「やはり、王室に報告し指示を仰ぐべきでは?」

 

 オスマンは毅然とした態度で言い放つ。

 

 「それには及ばん」

 

 「・・・・・・何故でしょうか?正直に申しますと、学院では手に余ると思うのですが。それに現代に蘇った《ガンダールヴ》。これは世紀の大発見ですよ」

 

 「ミスタ・コルベール。《ガンダールヴ》はただの使い魔ではない」

 

 「ええ、はい。始祖ブリミルの用いた《ガンダールヴ》。その使い魔は主人の詠唱の時間を守るために存在したと伝え聞きます。その姿形は記述がありません。だからこそどのような姿でも不思議はありませんが、動く骸骨とは驚きですな」

 

 「そうじゃな。始祖ブリミルの唱える呪文は強力無比ではあったが、その唱える時間は非常に長かった。常識として、詠唱中のメイジは無防備じゃ。その無力な間、己の身を守るために用いた使い魔こそが《ガンダールヴ》」

 

コルベールは伝説の使い魔に思いを馳せ、かつて伝え聞いた武勇伝を語る。

 

 「その強さは、千人もの軍隊を壊滅させるほどの力を持ち、並のメイジでは歯が立たなかったとか。今ならその伝説も信じられますよ。あの骸骨殿が敗北する姿が想像できませんからね」

 

 その言葉にオスマンは内心驚く。コルベールは二十年程前、とあるいわく付き部隊の隊長を務めていた。このことを知るのは目の前のオスマンくらいであったが。

 

 「『炎蛇』のお主でも、それほどのことじゃったか。かつて六千年前、ハルケギニアに降臨した始祖ブリミルには、四つの使い魔がいたそうな。まあ、今一般的に行われている使い魔の儀、その始まりとされておるな。だからこそ〈サモン・サーヴァント〉は神聖な儀式とされておるわけじゃが。——で、じゃ。あの骸骨殿、何者かの?」

 

 「正体不明。としか言いようがありませんな」

 

 実は既に、オスマンとコルベールはこっそり悟へ、対象の魔法を調べる〈ディテクト・マジック〉を使用していた。その結果は、不発。何一つ分からなかったのだ。国の誇る魔法学院の教師と、その学院長の両名が使用した魔法が一切作用しなかった。これは異常なことである。

 

 「そしてその正体不明の骸骨を召喚したのは『あの』ヴァリエールじゃ。彼女は優秀なメイジなのかね?」

 

 コルベールはルイズの日頃の苦労と努力を知っている。彼女は魔法の才は認められなかったが、座学において学年首席の立場にあった。故に答えずらかったが、正直に話す。

 

 「・・・・・・いいえ。彼女は、残念ながらメイジとしては”無能”としか」

 

 「そこじゃ。無能なメイジと契約した正体不明の骸骨が何故《ガンダールヴ》になったのか。まったく謎じゃな」

 

 「そうですね」

 

 「とにかくじゃ、王室のボンクラどもに《ガンダールヴ》とその主人を渡すわけにはいくまい。そんなオモチャを与えてしまったら、嬉々として戦でも引き起こすじゃろう。宮廷のバカどもは、まったく戦が大好物じゃからな。それこそ連中の手に余るというものじゃ」

 

 「・・・・・・その通りですな。学院長の深謀には恐れ入ります。それに、あの骸骨殿を怒らせる様な真似はしない方が賢明でしょうし」

 

 「さよう。取り敢えずはわしらの胸の内に納め様子を見るとしよう」

 

コルベールは憂慮した。もしも彼が、生徒に対し凶行に走ろうものなら、自分は再び『炎蛇』として在らねばならないだろうことに。

 

 

◇◆◇

 

 

 トリステイン魔法学院は全寮制である。そこの女子寮の部屋の一つ。珍しい青色の髪に、同じ色のブルーの瞳を持つその少女は本を読んでいた。体躯は小柄であるルイズよりさらに五センチも小さく、華奢を通り越し、もはや幼児体型といっても過言ではない。しかしその表情は冷たさを感じさせながらも、底から漏れ出すような高貴なる空気も纏っている美しいで少女であった。その少女はいま、自分の体躯より大きく、ねじれたような杖を体に預け、分厚い本を読んでいた。

 しかし、先程から同じページで止まっていることから、読書ではなく、別の事柄に意識が向けられていることが分かる。そしてそれが、この部屋の来客のせいではないということを述べておく。

 現在、いつもはとじ込もって、黙々どころではなく、延々と読書に耽っているこの変わり者の少女の部屋に、全く対称的といっても過言ではない女性がくつろいでいた。『微熱』のキュルケである。

 趣味も性格も見た目も共感することがないこの二人の少女は、不思議なことに親友の間柄だったのだ。キュルケはこの冷ややかな雰囲気を纏い、可笑しな名前を持つ少女に話しかける。

 

 「ねえタバサ、彼は一体何者なのかしらね」

 

 タバサ。この、飼っている猫にでもつけるような可笑しな呼び名は、この少女の名前である。あるいは"自称"か。

 

 「わからない」

 

 「実はガリアが作った新型のガーゴイル、とか?」

 

 タバサは首を振り、キュルケの推測を否定する。

 

 「まあ、そうよね。動く骸骨のガーゴイルなんてなんの冗談ってね」

 

 動く骸骨。そう聞いたタバサは、何も知らない者が見ればいつもと変わらず、しかし親友のキュルケからすれば一目瞭然な動揺を見逃さなかった。この無表情で無口な親友は、十五歳でトライアングルメイジという優秀なメイジでありながら、実は『お化け』が苦手であった。いつもは雪と風でその心を覆っている少女が、こういうところは以外と年相応の少女らしい。

 

 「じゃあなんなのかしらね、ほんとに」

 

 キュルケはその疑問を解消すべく、すでに行動を開始していた。使い魔のフレイムに命じ、彼を時折見張らしていたのだ。だが、本来共有されるはずの視界は、彼を見ようとすると、まるで彼だけ盲点の様に途切れてしまう。よってフレイムからの報告により情報を得ているのだが。

 

(今のところ、妙なことはしていないみたいだけれど、ダメね。何にも分からないわ)

 

 ——どこかでアプローチをかけてみるべきか。キュルケはそう思案した。

 

 

◇◆◇

 

 

 使い魔の儀でサトルと契約してから一週間程が経過した夜、ルイズは部屋のベッドの上で毛布に包まりながら、あの使い魔のことで頭を悩ましていた。

 あのときは出された条件を了承したが、いまは後悔で一杯であった。確かに使い魔の儀が成功しなければルイズは進級できなかったが。

 しかしだ。何故せめて普通の生き物ではなかったのか。マンティコアやグリフォン、贅沢いえばドラゴンがよかった。最悪、嫌いな蛙でもかまわなかった。何故骸骨。しかも期間限定。

 あのときは仕方なかった。骸骨は——死んでも口にしないが——恐ろしかったうえに、選択肢は皆無に等しかったからだ。

 六千年の歴史の中で、人間が使い魔として召喚されたことは極々稀にあったらしい。どこかの貴族や王族がよばれ、外交問題にならなかっただけましといえるのだろうか。・・・・・・力を持たない平民が呼ばれるくらいならどっちがましだったろう。だが骨だ。

 

 ルイズは今、一人で部屋を過ごしている。悟は夜になると、部屋を出て行ってしまう。聞くと、学院内のどこかで寝泊まりしているらしい。・・・・・・寂しくなんかないもん。断じて。

 部屋の隅に敷いた藁を見つめる。これは契約できた使い魔の為に用意した物だ。どんな使い魔が来てもしっかり躾して、世話してやるために。だがもう必要ないだろう。その内サトルに片付けさせよう。

 そういえば、サトルは一度も食事していないようだが、やっぱり骨の体だとお腹が空かないのだろうか?食堂まではついてきてくれるが、食事前のお祈りの唱和が終わると、いつも自分に一言いってからいなくなる。アルヴィーズの食堂の裏にある厨房にも行っていないようだし。

食堂にいくたびに(床に)お皿を用意しているが、もう置かない方がいいのかもしれない。

 なんとも世話しがいがないが、手間がかからないからまあ、別にいいだろう。魔法も使えるし。

 

 そう、魔法が使える。ご主人様を差し置いて。あの使い魔は私のコンプレックスをやたら刺激してくる。

 あの日、(奇跡的に)一発でサモン・サーヴァントが成功したから、もしかしたら魔法が使える様になったかもと淡い期待を抱いたが、結局魔法は成功せず教室を爆破してしまった。その瞬間をサトルに見られなかっただけましがったが。

 

そして周りを黙らせる力。サトルは魔法なしでギーシュに勝った。魔法も使わずに、素手で貴族に勝つなんて、噂に聞く『エルフ』でも不可能ではないだろうか。

 ヴェストリの広場で起こった決闘の後、わたしを『ゼロ』とからかう生徒はかなり減った。教室ではサトルは外に行ってしまうため、時折からかってくる輩はいるが。

 移動するときは常にサトルはわたしの後ろについてきてもらっている。大概の生徒はサトルが恐ろしいのかわたしに悪口を言って来ないのだ。最初は気分が良かった。やっと周りを見返すことが出来たような気になったからだ。

しかし、少しすると自分の中の違和感が大きくなっていくのを感じ、すぐにその正体に気づいた。周りの反応はサトル"のみ"に対するものであり、自分を見ていないと気付いたからだ。

これでは自分が軽蔑する、権力を振りかざすような貴族と変わらない。そう思うとサトルがついてくるのが段々苦痛に感じるようになった。

しかし、その気持ちをサトルに伝えるのも間違っている気がして、言い出すことが出来ず、悶々とした気分が続いている。

 

 そしてサトルが持っている超が付きそうな希少な魔法道具の数々。極めつけにあの杖。自分が敬愛してやまない王族の方々の持っている杖や、父上からいただいた大切な杖を卑下するつもりは欠片もないが、サトルの黄金の杖と比べれば・・・・・・いや、それは貴族としてあまりに卑しい考えだ、止めておこう。

 

 そんな鬱憤が少しずつ溜まったからだろう。契約したばかりは、着替えを手伝わせるのをなんとなく遠慮したが、むしゃくしゃした気持ちを晴らそうと、三日目の朝から着替えを手伝わせたのだ。

 しかし、ブラウスを着させようとしたところ、力加減を間違えたのか"服をおもいっきり破かれた"のだ。サトルはすぐに魔法で服を直したからまあ、許してあげたが。

 うん、私は寛大だからね、使い魔の粗相ぐらい受け止めるくらいの度量はある。

それからは服を自分で着替えている。その時は"凄く怖かった"し。・・・・・・?なんでそれぐらいで怖かったのだろう?まあいいか。

 

 色々と頭を悩ませた結果、サトルと私は釣り合っているのか分からなくなった。——あいつは、わたしにないものをいっぱい持ってるから。

 もってないのはあやふやな記憶ぐらい。記憶がないっていってたけど、かなり中途半端なことは覚えてるみたい。本当に記憶喪失なんだろうか?記憶喪失になった知り合いがいないからよくわかんないけど。骨だし。

 そんなことより、どうしたらあの骸骨にご主人様としての威厳を示せるか、それが問題だ。

 少しすれば虚無の曜日だ。どこか気晴らしにお出かけにでも行こうか?その内眠気がルイズを覆い、夢へ漕ぎ出していった。

 

◇◇◇

 

 この世界に来てから数日がたった。一日の用事を終わらせたその夜。悟は学院内の中庭に設置したコテージにてくつろぎつつ、机の上に積んだいくつもの本を読んでいた。

 これらの本の持ち主は悟ではない。先日アンデッドで調べさせた施設の一つに、図書館を見つけた為、これ幸いと本を拝借していたのだ。

 図書館は本塔にあり、最もスペースをとっている施設であった。本来この図書館には貴重な書物が大量に置かれており、平民はもちろんのこと、学院の生徒でなければ入ることすら許されない。それどころか、教師でなければ閲覧不可な区画さえあった。・・・・・・最も、それを知らない悟は全て無視して忍び込んでいるのだが。

 本棚の高さは約三十メートルもあり、それが壁際に並んでいる姿は壮観であった。トリステインが誇る魔法学院の図書館には、始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の歴史が詰め込まれているである。

 悟は自身が修めている探知魔法、対情報魔法、隠密魔法を駆使し、図書館に忍び込んでは勝手に本を持ち出し、自室に持って帰っているのであった。

 

 悟は本を読んでいたが、ふと先日の事故を思い出した。

 召喚されて、初めの数日は言われなかったのだが、その日の朝、ヴァリエールは何を血迷ったのか、悟に着替えを手伝う様に命令したのだ。

 契約は二年のつもりだったが、早めに打ち切っても良いかもしれない。

 ・・・・・・まあ、いい。それよりも、成り行きとはいえ『ポーションがこの世界でも正しく作用することが分かった』ことは暁幸だった。普通のポーションでは、アンデッドである悟を回復させることは出来ない。にも関わらずやたら多くのポーションを所持していたことは自分の事とはいえ謎だが。

 

 そして何故ポーションを使うはめになったかといえば、”ヴァリエールを危うく殺しかけた”為だ。もちろん故意ではない。断じて。

 なにせあのヴァリエールは、裸も同然な格好で着替えを要求してくるのだ。ああ、断ればよかったさ、だがな、嘴を幻視したんだ。どこか懐かしい、立派な嘴が。

 記憶のヒントになるかもしれない。そう思い、断り切れなかったのだ。いや、正直止めておけばよかったが。

 

 いざ着替えさせる時、目のやり場に困ってしまったうえ、慣れないことをするもんだから、自分の骨の指先がヴァリエールの素肌を”かすった”のだ。

 そう。悟自身の感覚としてはそのはずだった。だが、かすめた肌が破け、血が吹き出してしまった。

あ、これは駄目なやつだ、と思い直ぐにアイテムボックスから[無限の背負い袋]を取りだし、ショートカットキーに登録してあった[下級治療薬]を取りだし、ヴァリエールにぶっかけた。

 本来は飲むのが正しい使用方法なのだが、意識が朦朧として飲めそうになかったので、そうしたのだが。

 ヴァリエールの傷はすぐに塞がり、回復したようで安堵した。あの程度のダメージなら[下級治療薬]で十分らしい。

 しかし、少し掻いただけであんなことになるとは、この世界のメイジの身体能力は、魔力に比例せずかなり脆弱なのかもしれない。そのあたりも考慮しなければならないだろう。

回復したのをみて、ヴァリエールのトラウマになってはいけないため〈記憶操作〉を使い、死にかけた記憶を"服を破かれた"記憶に差し替えた。

 

 たったこれだけの記憶改変に、想像以上の魔力を消費したのは誤算だったが、これも良い実験になった。

 この経験により、魔力を消費した疲労の感覚を知ったことや、生徒か教師を捕まえ〈支配〉や〈人間種魅了〉等で情報収集した後、〈記憶操作〉で記憶を消そうとした際、魔力消費に注意する必要があることを知れたのだから。

 

 一日の過ごし方だが、ヴァリエールの使い魔になったとはいえ、基本的に彼女の部屋を訪れるのは朝起こす時と掃除、寝る前の会話ぐらいで、殆どの時間を学院内の散策か、学院内に置いた[グリーンシークレットハウス]の中で過ごしている。

 聞いた話で、使い魔は基本的に主人の部屋で一緒に寝泊まりするか、体が大きく部屋に入れない使い魔は学院内の庭で過ごしているらしい。

 そこで悟としては、性欲もほとんどない身であり、色々なものがないので、彼女に不埒なことをするはずはないが女子と一緒に寝泊まりするのは精神をすり減らしそうで遠慮したかったため、外で夜間を過ごしているというわけだ。

 

 日中での仕事は、ヴァリエールの移動に付き添い、身の回りの世話をする。ギーシュとの決闘以来、彼女に対する罵声はなりを潜めているようだ。それでも悟が見えなくなると、陰口をたたく生徒もちらほらといた。

 他の仕事は部屋を<清潔>で綺麗にしたり、あと洗濯物を<清潔>で綺麗にしたり・・・最近、<清潔>使う機械になってる気がするな。

授業は例によって忍びこんで受けている。それとなく生徒を操作系の魔法で操り、教師に質問をして情報を集めていた。少しずつだが確実に、この世界の魔法の仕組みを理解しつつあった。

 夜間は調べものだ。図書室に忍びこんで、本を幾つか拝借し、コテージで読む。明け方頃に再び図書室に忍び込み、本を返す。その繰り返しだ。図書館の蔵書量は半端ではなく、全ての本を調べ尽くすのはまず無理だろうから、奥に置いてある貴重そうな本から調べている。解読の眼鏡を掛け、今夜も本を読んでいた。

 何故解読の眼鏡をかけているのかと問われれば、当然文字が読めないからだ。そう、言葉は通じるのに関わらず、悟はこの世界の文字が読めない。そもそも、彼らの話している時、聞こえてくる言葉と、話す口の動きが一致していないのだ。どうやら、何らかの魔法的な法則が働き、彼らの言葉が悟の中で自動で翻訳されて理解出来ているらしい。

 この法則を創ったのが『始祖』とやらなら、なるほど、神様として崇められるのも肯ける。今でもどこかに君臨しており、世界を見張っているのだろうか。そんな訳で悟はブリミルのことが気になり始祖に関わることを中心に調べている。

 

 今日”借りた”本は中々に興味深かった。六千年前、この地ハルケギニアに降臨したとされる始祖ブリミルの使い魔について書かれた本だ。なんでもブリミルはサハラという聖地に始めて現れ、四体の使い魔を引き連れ、ハルケギニアの人間を救ったそうだ。——『始祖ブリミルの使い魔たち』偶然にも、この本はコルベールがオスマンに見せた本と同じものであった。

 本を調べていく内、一つのルーン文字に目が止まる。それは悟の左手の刻まれたルーンと同じ文字であった。

 

 ≪ガンダールヴ≫。”あらゆる武器を使いこなし、ブリミルの詠唱を守る盾として役目を担っていた”と、伝説に述べられている。

 悟は気になったことを確認するべく、インベントリーから短剣を取りだし装備する。すると左手のルーンが微かに光を放つ。心なしか、体が軽くなったような気がした。

 

 (なるほどな、これが使い魔に与えられる特殊能力というわけか。しかも<道具上位鑑定>を使用した感覚とはまた違い、武器の”使い方”が流れ込んでくる。まるでこの短剣が体の一部になったようだ)

 

 続けて<上位道具作成>を使用し、武器を作って装備する。魔法で作った武器でもルーンは反応した。幾つか形状の違う武器も作り試していく。大剣、槍、鎚、細剣。徐々に武器の形状を小さくしていく。

 そして。

 

 「・・・・・・これぐらいだと反応しないな」

 

 小さい刃物を作成していった結果、もはや食器としてのみ使用出来そうなナイフでは、ルーンが反応することはなかった。

 

 「武器とするには、ある程度の大きさを必要とするということか?いや、違うな」

 

 『これは武器である』。そう認識できることが肝要なのだ。つまりフォークだろうがスプーンだろうが、相手を殺害する・できる物だと確信できる物体を装備することが、《ガンダールヴ》が反応する条件なのだろう。

 

 「だからスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持っていてもルーンが反応しなかった、か」

 

 スタッフをインベントリーから取り出し、改めて見つめる。そこから感じるのは、これは大事な『ナニカ』であり、懐かしさや切なさを感じる。間違っても”武器”として持ち歩くような物ではないということだ。大事にインベントリーにしまい込む。・・・・・・しまい込もうとした時、スタッフから名残惜しそうなオーラが立ち上ったが気にしないことにする。

 

 (このスタッフを取り出すのは、必要になる程危険な状況になった時だな。俺が所持しているアイテムで最も価値のあるものみたいだし、もし万が一これを失うことになったら)

 

 ——自分は狂ってしまうだろう。そんな確信がある。

 ・・・・・・まあ、そんな暗い想像は止めて楽しいことを考えよう。学院内での情報収集もいいが、そろそろ街も見てみたい。流通している武器の性能も確認したいし。

 先日、暇なときに数時間も格闘し、ようやく使える様になった[遠隔視の鏡]でみた街は、とても胸踊る景色だった。今度ヴァリエールに頼み街に連れて行ってもらおう。

 いずれ訪れる街へ期待を膨らまし——感情が平坦化される。そして拗ねる様に本を読み漁るのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

太陽が登り、室内に日が射し十分に明るくなった頃、今日も悟はヴァリエールを起こす。

 

「朝だぞ。そろそろ起きろ」

 

そう言って起こそうとするが、今日のヴァリエールはいつも以上に頑固なようだ。揺さぶってもみるが中々起きようとしない。

 

「おい。いい加減にしないと授業に遅刻してしまうぞ?」

 

 ようやく毛布から顔を覗かせるも、その目は悟をきつく睨んでおり、何故自分を起こそうなどとするのか理解出来ない。そんな顔をしていた。

 

 「まったく。眠くて起きたくないのは分かるがな。お前のために起こしてやってるんだからな?そんな風に睨むな。授業に遅れたらどうするんだ」

 

 「・・・・・・今日は虚無の曜日よ」

 

それが答えだ。分かったら放っておいてくれ。そう言わんばかりに再び毛布をかぶり直す。なんとなく言わんとすることは分かるが、流石にこの態度はないだろうと悟はヴァリエールに詰め寄る。

 

「お前ってやつは。俺にこの国の常識があると思っているのか?」

 

そう言い、毛布を掴みはぎ取る。毛布にくるまっていたヴァリエールはベッドの上をころりと転がった。

 

「あにすんのよ」

 

「教えろ」

 

ヴァリエールはぶすっと悟を一睨みすると、我が意を得たりと言わんばかりに勝ち誇った様子になり、言い放った。

 

「座りなさい」

 

素直に従い、椅子に座ろうとするも。

 

「床よ」

 

癪にさわったが、話しが進まないため床に座ることにする。・・・・・・正直後ろめたいことがあるのは事実だ。

 

「いいこと?ハルケギニアの暦を教えてあげるわ。知識が豊富で優秀なご主人様に感謝なさい」

 

 さんざん勿体ぶってハルケギニアの暦を教えてくれたが、要約するとこんな感じだ。

 まず、一年間は十二月で構成される。次に一月間は四週で構成され、一週間は八日という具合である。つまり一年は三百八十四日間であるというわけだ。

 そして今日は休日にあたる『虚無の曜日』であり、せっかくの休みに、朝から起こされたため機嫌を損ねたというわけだ。気持ちはよく分かった。

 ・・・・・・それと、短い付き合いとはいえ、この娘のことが段々わからなくなってきた。

 今のところヴァリエールの言うことは日頃から素直に聞いているし、自分が付き添うことで周囲の悪口も減ってきているようだ。にも関わらず、日に日に機嫌が悪くなっているように見える。かと思えばこちらの質問に対しやたら上機嫌になったりと、正直なにを考えているのかよく分からなかった。

 

 ——悟は気付ていないが、ルイズは悟が優秀であるほど、自分が使い魔に釣り合っていないのではないかと不安を感じてしまい、気持ちがめげてしまう。

そんな悟から頼られることは、ルイズの自尊心をとても良く満たしてくれる。つまりルイズは、とってもアレな少女であった。

 「今日が休みなら、街を案内してくれないか?買ってみたい武器があるんだが」

 

 そう悟が頼むと、よっぽど気を良くしたのか勝ち気な様子が益々強くなり。

 

 「へ、へー。あんたがどうしてもって言うなら・・・・・・そう!仕方なく連れて行ってあげてもいいわよ。ほんとは面倒だし。わたしは別に行きたくないけど!」

 

 「いや、そこまで言うなら別に・・・・・・」

 

 「いま!よ、用事を思い出したわ。そう、街に行って買わなきゃいけない物があったのよ。だからあんたをついでに案内してあげる。うん、そうしましょう」

 

 ・・・・・・なんと面倒なご主人であろうか。

 そういえば確かめなければならないことがあった。悟は財布から『金貨』一枚取り出しヴァリエールに見せる。それは女性の横顔が描かれた立派な金貨であった。

 

 「見たことない金貨ね。なによそれ。本物?」

 

 「ああ、おそらく俺の『故郷』で使われていた金だ。この金貨一枚でどれぐらいの品物が買えるか分かるか?」

 

 そう言ってヴァリエールに手渡す。彼女は少しの間金貨を観察し、答えが出たのか口を開く。

 

 「もしもこれが本物ならエキュー金貨八十枚分。美術品的な価値で考えると百枚分はかたいわね」

 

 中々良さげな評価だが、エキューとやらがどれ程の価値になるのか悟には判断がつかないためヴァリエールに問う。

 

 「エキュー金貨はどれ程の価値があるんだ?」

 

 「そうね、平民なら一年間の生活費が百二十エキューぐらいで。下級の貴族なら年間五百エキューぐらいね」

 

 「ほう」

 

 自分はこの金貨を十億枚くらい持っている。ヴァリエールの言ったことが確かなら、自分のポケットマネーだけで国が買えるんじゃないかとさえ思える。——するかしないかは別として。

 

 「この金貨、あとどれだけ持ってるの?」

 

 「それほど持っていない。精々五十枚位だ」

 

 嘘だ。

 

 「へ、へー。あんたお屋敷が買えちゃう位お金持ってたのね」

 

 ヴァリエールの機嫌がまた悪くなったようだが、気にせず本題に入る。

 

 「この金貨を、そうだな・・・・・・五枚程交換してほしいんだ。俺はこの国の通貨を持っていないから、使える金が欲しいんだよ」

 

 今の時点でこの金貨を外部に流すことは迂闊かも知れないが、先行くものが必要な事も事実。現在信頼出来そうな人物が少ない以上、貴族で主人なこの少女にトレードを持ち掛けることは間違っていないはずだ。

 

 「いいわよ。じゃあ一枚八十エキューでいいかしら?」

 

 「いや、六十枚でいい」

 

 「・・・・・・どうして?」

 

 「差額はいわば口止め料と手間賃みたいなものだ。その金貨を流したのが俺と分かってほしくないんだよ。珍しい金貨を多く持っているのが広まったら面倒な輩を招くかも知れないだろ?」

 

 「いいえ、八十よ。見くびらないで。わたしは公爵家の三女よ?言いふらすなんて恥知らずな真似はしないわ」

 

 「・・・・・・強情だな、じゃあ七十枚でどうだ?これでも感謝しているんだ。情報は本当に重要だからな」

 

 この言葉は嘘ではない。彼女からの情報によって、少しだけ市場の価格的価値観を知ることが出来た。何も知らなければ、どこかでひどくぼったくられる可能性もある。

 警戒し過ぎだろうか?いや、そんな事はない。何も知らずに世界を行くことは真っ暗な道路を渡るような行為に等しい。それではいずれ事故に会ってしまうだろう。

 ここで言う事故とは、強者との遭遇。何も知らずに強者と敵対してしまっては殺されてしまうかもしれない。知恵の回る者が敵になったとき、罠にかけられてしまうかもしれない。

 だが、事前に情報があれば、危険な局面に立たされた時も取れる選択肢が多くなる。敵対しないように立ち回る事もできるかも知れない。

 ——例えば、ブリミルが今でも生存しており、気付かぬ内に敵と見なされてしまう、とか。 心配しすぎたと笑い飛ばすためにも、知ることが必要なのだ。

 ギーシュの実力や、周りの生徒を見るに、自分は学院の生徒達よりは強いかもしれない。だが、教師達より強いとは限らない。また、仮に学院の誰より強かったとしても、この国や、大陸のどこかにいるかも知れない、自分より遥かに強大な存在がいるかも知れない。

 これらを判断するためにも、情報が必要なのだ。

 

 「ヴァリエールのおかげで、ここでの生活も分かってきた。だからそれはお礼だ。全然足らないかも知れないがな」

 

 ヴァリエールは納得がいかないようだったが、少しすると雰囲気が柔らかくなり、了承してくれた。

 

 「分かったわ。あんたの気持ちを受け取ってあげる。エキュー金貨を用意するからちょっと待ってて」

 

 そう言うと、クローゼットから金庫らしき物を取りだし中から金貨を引き出してくれる。そうして、悟の金貨五枚をエキュー金貨三百五十枚に交換してくれた。

 

 「よし、じゃあ行きましょうか」

 

 「ああ、よろしく頼む」

 

 支度を済ませ、学院に備えられた馬小屋に向かい、ヴァリエールが馬を用意してくれた。だが、馬は悟が近づくと怖がってしまい、とても二人乗りが出来そうになかった。仕方がないので、アイテムボックスに手を入れ、目的のアイテムを取り出す。それは石で出来ているようで、馬の形をしていた。

 

 「なにそれ」

 

 「馬に代わる乗り物さ」

 

 悟はそう言うとアイテムを起動させる。するとその場に馬の形をしたゴーレムが出現した。

 

 「・・・・・・もう、なにしても驚かないわ。で、なんなのよそれ」

 

 「[動物の像・戦闘馬]というマジックアイテムだ。出し入れも楽だし、普通の馬と違い疲労のバッドステータスが付かない。中々便利だろう?」

 

 すでに街は[遠隔視の鏡]で下見が済んでおり、転移魔法でいつでも一人で行けるうえに、ヴァリエールと共に転移することも容易だ。しかし、ここ数日の調査で転移魔法の存在がこの世界では確認されていないとされているため、転移魔法の使用を今回は見送る。

 それより、移動が楽になるから喜んでくれるかもと思ったが、何故かまた、ヴァリエールの機嫌が悪くなったようだ。なんでだ。

 

 ——これまた悟は知らない事だが、ルイズの特技は乗馬である。悟を少しでも見返そうと思い、自慢の腕を披露したかったのに、機会を失ったために拗ねてしまったのだ。

 

 「ほんと、あんたはなんでも持ってる。まるでド・リュエーモンね」

 

 「なんだそれは?」

 

 「平民の間で流行っているおとぎ話よ。なんでも冴えない子供の平民のもとに、青色のゴーレムがやってくるの。そのゴーレムがいろんなマジックアイテムを持っていて、その平民の世話をするってお話。平民には人気があるようね。逆にメイジが出ないから貴族からは不評だけど。わたしもあんまり好きじゃないし」

 

 ・・・・・・なんだろう。絶対知ってるよそれ。というより。

 

 (そのゴーレムが好きじゃないと言うのは、遠回しに俺も好きじゃないって意味か?・・・・・・まあ、仕方ないか)

 

 少し気分が落ち込むが、それよりも気になったことを質問する。

 

 「その話の出所は分かるか?」

 

 「詳しくは知らないけど、東方から流れてきたお話らしいわ」

 

 東方——ハルケギニアの最東の国、大国ガリアの東にある砂漠を越えたさらに東。

 

 東方ロバ・アル・カリイエ

 『エルフ』が住むとされる砂漠のさらに東の地。六千年の歴史において、ハルケギニアの貴族達は砂漠に住むエルフ何度も『聖地』をめぐり『聖戦』の名の下に戦いをふっかけ、その度に敗北を喫している。そのせいか、ハルケギニアと東方での交流は殆どないらしい。

 

 (『エルフ』。その名の知識は俺にもあるが、おそらく俺が知っているエルフとは別物だろうな。いずれ東方にも行きたいが・・・・・・エルフがどこかに転がっていないだろうか。そしたら)

 

 ・・・・・・たっぷりと実験出来るのに。

 そこには『ヒト』対する一切の憐れみはない。必要であればどんな非情な実験でも行うだろう。そんな自分の感情に少しも疑問に思うことはなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 悟の召喚したゴーレムに乗り、二人は街に向かって出立した頃。キュルケは偶然にもその様子を寮より目撃していた。いてもたっても居られず、タバサの部屋に押し入り、一緒に街に行くよう頼み込む。タバサは、悟とルイズを追いかけることは始め嫌がったが、親友の頼みを聞くのはやぶさかではなく、悟の行動には興味が有ったため、渋々了承する。

 

 「ありがとうタバサ。恩にきるわ!」

 

 キュルケの礼に対しコクりと小さく頷くと、タバサは窓を開き、口笛を吹いた。五階の高さがあるにも関わらず、窓から飛び降りる。キュルケも動じることなく、一切の躊躇をせず追いかけた。

 二人は地面に落下することなく、空を飛んでいる。タバサの使い魔である”風竜”のシルフィードが受け止め、空を飛んでいるのだ。キュルケはシルフィードの素晴らしさに賞賛を送る。

 タバサはシルフィードを操りつつキュルケに尋ねる。

 

 「どっち?」

 

 言葉は非常に足りないが、付き合いがそれなりにあるキュルケはその意味を正確に捉える。

 しかし。

 

 「・・・・・・ごめんなさい。どこに向かったか分かんないわ」

 

 キュルケに気にしないように伝え、タバサは自分の使い魔に探し人の特徴を教える。シルフィードは一言きゅいと鳴くと、大空に向かい羽ばたいた。

 

 

◇◇◇

 

 

 二人は[動物の像・戦闘馬]に乗り、そう長くない時間で目的の街、トリステインの城下町へ到着する。普通の馬なら三時間は掛かる距離を、わずか一時間で到着したのだからルイズを驚かせた。生きている馬では、常に全力で走ることは出来ず、どこかで休息をとらなければならない。だがこのゴーレムは疲労することがない。さらに訓練を受けた軍馬よりも速く、力強く走り続ける事が出来た。

 

 悟は[動物の像・戦闘馬]をアイテムボックスにしまい、ルイズと共に街を歩く。白い石造りの街は活気に満ちており、道端には商店が並び、店員が道行く人々に声を張り上げている。大勢の人々が行き来しており、道幅は五メートル程しかなく、やや狭く感じられたが、悟は[遠隔視の鏡]越しの光景では感じることの出来なかった空気に、少しの感動を覚えていた。だから心からの感想が漏れる。

 

 「良い街だな」

 

 「・・・・・・でしょう?なんたってトリステイン王国の城下町よ。ほら見て、このブルドンネ街の通りを真っ直ぐ行くと宮殿があるの。」

 

 「そうか。いずれ見に行きたいものだ」

 

 嘘だ。悟はすでに[遠隔視の鏡]で宮殿を見ている。流石に内部まではまだ覗いてはいなかったが。——まあ、必要になれば覗くだろうが。

 ヴァリエールに街を案内してもらいつつ、目的の店に向かう。狭い路地裏に進んで行くも、そこはお世辞にも綺麗とはほど遠かった。少し迷っているようだったが、一枚の鋼の看板が見えると嬉しそうに呟く。

 

 「あ、あった」

 

 鋼の看板は剣の形をしており、そこが目的の武器屋であるらしかった。二人は羽扉を開け、店内に入っていった。

 店の中は薄暗く、ランプの灯りがともっており、壁や棚にところ狭しと槍や剣が乱雑に並べられ、甲冑も飾ってあった。

 店内の奥には、店長と思しき男がパイプを咥え、客である二人を見ていた。最初に悟の風体を見て臆した様子になり、続いてルイズの貴族と思しき服装に気付く。

 

 「・・・・・・なんでございやしょう?うちは真っ当な商売してまさあ。お上に目をつけられるような事なんざなんにもありやせんぜ?」

 

 「なにか勘違いしているようだが、ここには武器を買いに来た」

 

 「こいつはたまげやした!」

 

 「——?なにがよ?」

 

 「見たところあなた方、メイジでございやしょう?杖じゃなくて剣をお求めになるなんて何事かと思いやして」

 

 「まあ、剣が欲しいのは俺だけだがな」

 

 店長は悟の体躯を見て、納得がいったようだった。

 

 「そうでございやすか。最近は『土くれ』のせいか、貴族の方々は下僕にまで剣を握らせるのが流行っているみたいで」

 

 「『土くれ』?」

 

 「おやご存じない?『土くれ』のフーケっていうメイジの盗賊がいやしてね、貴族のお宝を散々盗みまくって噂でしてね。近頃トリステインの城下町を荒らし回っているらしいんでさあ」

 

 「そうか。いや、興味深い話を聞かせてもらった。ありがとう。では、早速だが、この店で一番の武器を見せてくれるか?」

 

 店長は了承し、店の倉庫に武器を取りにいく。しかし彼は「世間知らずのお嬢様と、これまた浮き世離れのマヌケ。精々高く売りつけてやろう」と呟くのであった。

 

 店長は約一・五メートルはある大剣をカウンターに乗せる。それは宝石が散りばめられており、諸刃の刀身が光っていた。

 

 「店一番の業物でさあ。こいつを鍛えたのはかの高名なゲルマニアの錬金魔術師、シュペー卿でしてね、鉄だって真っ二つでさ。おやすかあ、ありやせんぜ?」

 

 「あら、良いじゃないの。サトル、これにしたら?」

 

 ルイズの言葉に店長は喜色満面だ。だがそれは剣を気に入られたからではない。この、”価値はともかく武器としてはゴミ”でしかないこの不良品を、高値で売れるかもしれないと思ったからだ。

 悟は店長から説明を受けたら、片手で大剣を持ち上げた。その姿に店長は目を見開くも、「旦那、いかがでしょうか」と話しかける。

 だが。

 

 「・・・・・・だめだな、これは」

 

 「は?」

 

 「これは”武器”じゃない」

 

 その言葉に、店長はもちろん、ルイズも驚く。

 

 「な、なにをいってんですかい!これはかのシュペ-卿が——」

 

 「確かにこの剣はシュペ-卿とやらが鍛えたのだろう。だがこの剣は武器としての性能が欠片もない。精々壁にでも飾っておくべき美術品だ」

 

 はっきりした物言いに、男の顔色は悪くなり、口をパクパクと動かすのみで、話す言葉が見当たらないようだ。

 

 悟はこの剣に〈無詠唱化〉した〈道具上位鑑定〉をかけ、性能を確認したのだ。結果は、価値なし。悟は顔を——動かないが——しかめた。

 

 悟の意図を察したルイズは男に詰め寄る。

 

 「どういうことかしら?まさかあんた、貴族を騙そうとしたの?」

 

 男の顔はもはや蒼白だ。どうやって切り抜けるか困り果てたとき。

 

 「はっはっは!ざまあねえ!はっはっは!」

 

 店内に、低い男の笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Qユグドラ金貨一枚でエキュー金貨八十枚ってホント?

Aオバロ世界の金貨一枚が約40万円で、ユグドラ金貨がその二倍ぐらいの価値があります。1エキュー1万円として計算しまして、ユグドラ金貨一枚=エキュー金貨八十枚としました。・・・・・・シラベタンデスヨ?

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