足したけど2で割らなかった   作:嘴広鴻

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嘉納先生善人説

 

 

 

「あれ? 来てたんだ、アヤトくん」

「オゥ、邪魔してるぞ、カネキ。

 それとさっき風呂も借りたわ」

「ああ、アオギリの拠点だとお風呂にゆっくり入れないだろうね。そのぐらいは別にいいけど、でも今日はどうしたの?

 ニコさんがまたアオギリに出入りするようにでもなった?」

「ヤなこと思い出させんな。

 ホレ、机の上。エトからの預かりモノだ。外出るって言ったらついでに持ってけって言われたんだよ」

「ん? ああ、エトさんのお薦めの本か。ありがとう、アヤトくん」

「アン? 本なのか、ソレ?

 ったく、そんなんで俺に使いっぱしりなんてさせんじゃねーよ」

「アハハ、それはエトさんに言って欲しいな。

 じゃあ、お礼にコーヒーでも淹れるよ」

「ん、貰うわ。待ってる間は何か……ん? 何だ、このDVD? “ラ○ボー”?」

「ああ、この前レンタルして皆と一緒に見たヤツだね。

 ゲリラ戦のアクションシーンが面白かったよ」

「ふーん……“ゲリラ戦”って何だ?」

「ああ、ゲリラ戦というのはね……」

 

 

 

 

 

━━━━━亜門鋼太郎━━━━━

 

 

 

「やぁ、おはよう。皆」

「うむ、おはよう」

「邪魔するぜぇ」

 

 

「「「「おはようございます」」」」

「おっはよ~ございまぁ~す♪」

 

 

 ……什造ぉっ。いい加減にしろよ、この野郎。

 

 篠原さん、黒岩特等、そして丸手特等が入室なされたので、全員で立って挨拶をする。

 しかし我々のまとめ役である篠原さんだけならともかく、黒岩特等と丸手特等もいらっしゃるとは、もしかすると何か起こったのか?

 

 

 あの11区におけるアオギリの樹拠点の殲滅作戦から3か月が過ぎた。4月に入って人事異動も行われて俺、亜門鋼太郎もSレート喰種である瓶兄弟を駆逐した功績で上等捜査官への昇進となった。

 真戸さんと階級が並んでしまったのでコンビを解消してしまったのは残念だが、新たに真戸さんの娘でもある真戸暁二等捜査官とコンビを組むことになったので、真戸さんから受けた恩をアキラに返すべく奮闘中の毎日だ。

 

 俺とアキラのコンビの捜査対象はあのときに出会った“歯茎”。とはいえあくまで捜査対象であって駆逐対象ではない。

 言い難いことだが、歯茎にはあの有馬特等でも勝つのは難しいのではないかと判断されている。何しろ軒並みクインケの攻撃すら弾くので、流石の有馬特等でも分が悪いだろう。

 といってもあんな強力な喰種を放っておくわけにはいかないので、あのとき俺が歯茎に話しかけても殺されなかったことから、俺なら再び出会っても殺される可能性は低いだろうと考えられ、ヤツが20区にいるとは限らないが俺が歯茎の捜査を行うこととなった。

 あのときの俺は感情的になってしまい、一歩間違えれば隊の全滅を引き起こしかねない行動をとってしまった。その贖罪になればと思い、拒否しても構わないとまで言われたこの任務を受けることにした。

 

 ただしアキラをこの任務に巻き込んでしまったのは心苦しい。

 アオギリ拠点壊滅の波及で騒がしくなっている11区に残って掃除をしている真戸さんの元に、何としてもアキラだけは無事に返さねばならない。

 

 ちなみに俺とアキラが“歯茎”。篠原さんと什造が“大食い”。法寺準特等と政道が“美食家”を捜査しているが、3人の捜査対象全員がまったく姿を現さない。

 歯茎は仕方がないとしても、大食いは去年の○月、美食家は◎月から姿を見せなくなっている。ここまで姿を現さないということで、死亡説も考えられているぐらいだ。

 歯茎もあの日に初めて目撃されて以来姿を現していないが、流石にヤツが死んだとは考えられていない。

 

 

「朝早くからゴメンね、皆。週末はゆっくり休めたかな?

 実は昨日の日曜に緊急の特等会議が開かれたので、それについて皆に知らせることがあってね」

「俺の顔を見ればわかると思うが、あの“歯茎”関連だ。面白くねぇ話ばっかだが、心して聞けよ」

「うむ」

 

 “歯茎”。その言葉が丸手特等の口から出たときからざわめきが起こる。冷静沈着という言葉が最も似合いそうな法寺さんでも驚きの声を上げた。

 あの圧倒的な力を持った喰種。認めたくないことだが、ヤツに俺たちを殺す気があったら為す術もなく俺たちは11区で死んでいただろう。

 しかしあの歯茎はあれ以来姿を見せたことがなかったはず。

 

「よーし、始めるよ。まず一昨日の土曜日、7区にあった喰種レストランの突入作戦があったんだが、そこで歯茎が現れた。

 おかげで突入作戦は失敗。徒労に終わったよ」

「確かその作戦には4区の宇井準特等も応援で参加されていたはずでは……?」

「……ああ、そうだ。死んじゃいねぇが宇井がやられた」

「なっ!?」

 

 あの宇井準特等が? 有馬特等の下で研鑽を積み、若くして準特等まで登り詰めた方が負けるなんて…………いや、あの歯茎相手では宇井準特等でも分が悪いか。

 何せ歯茎は篠原さんと黒岩特等を含めた10人がかりでも敵わなかったのだから……。

 

「話は終わっちゃいねぇぞ。騒ぐのは最後まで聞いてからにしやがれ。とにかくその歯茎だ。

 遅すぎたかもしんねぇが、一昨日の結果を受けてヤツはSSレートからSSSレートに格上げだ。まぁ、レートはそもそも単純な戦闘力だけじゃなくて、他の喰種への影響力なども含めての換算だからな。

 ヤツ単体ではそこまで人への脅威ではないと考えられていたんで、そこら辺は別にSSSレートになったからって対応が変化したりはしねぇ。

 そしてヤツの名称を“ハイセ”、漢字は珈琲の琲に世界の世で“琲世”に変更とする。ハイセの野郎、ご丁寧に自己紹介をしてくれやがった。よっぽど歯茎呼ばわりが嫌だったんだろうな。

 それともう一つ悪い知らせだ。ハイセの赫子は11区のときは鱗赫しか見せなかったが、今回は羽赫も使いやがった」

 

 SSSレート。複数名の特等捜査官によって対処する必要があると判断された喰種が指定されるSSレートの更に上のレート。

 隻眼の梟に続く2体目のSSSレートか。あの強さなら仕方がないと思うが、そうなるとSSSレートの喰種が2体とも組んでいるという、とんでもないことになるぞ。

 しかも歯茎……いや、ハイセか。ハイセが羽赫をも使ったとなると、ますます厄介なことになるな。一撃の攻撃力が高い鱗赫と、瞬発力が高くて遠距離攻撃も出来る羽赫の複合はかなり厄介だ。

 しかし突入作戦で一体何があったんだ?

 

「ここで数少ない良い知らせっつーか不幸中の幸いの知らせだ。突入班に人的損耗はない。

 多少の怪我はあるが、ほとんどがハイセにクインケを壊されただけだ。呉緒みたく赫子も使われずにな」

「痛いところ突くなよ、丸。私も似たようなもんなんだからさ」

「丸手特等、よろしいでしょうか?」

「おう、真戸二等か。何だ?」

「今しがた赫子を使われずにクインケを壊されたと仰いましたが、先程は歯茎が羽赫も使ったとも仰っていました。

 これは歯茎が戦闘以外で羽赫を使ったということでしょうか?」

「イイとこに気が付くね、アッキーラ。ただ歯茎じゃなくてハイセね、ハイセ」

「うむ」

「そうだな。そうじゃなきゃ宇井みてぇになるぞ」

「失礼しました。以後気を付けます。

 しかし宇井準特等みたいに……?」

「ああ、まずは昨日の喰種レストラン突入作戦で何が起こったかの概略を話すぞ。

 篠原じゃ言い難いだろうから俺からな」

 

 暗い話になるはずだろうに、丸手特等がニヒヒと笑う。一方の篠原さんは困惑といった感じだ。

 いったい突入作戦で何があったのだろうか?

 

「ちょっと長くなるからとりあえず聞け。質問は後から受け付ける。

 まず先週の土曜日の19時に、7区の富良上等がかねてから調査中だった喰種レストランに、4区の宇井準特等が率いるチームの応援を入れて突入する予定だった。喰種どもの殲滅と利用客リストなどの情報を集めるのが作戦の主目的だ。

 だがいざ突入時刻が近くなると、レストランの中が騒がしくなった。それで予定を早めて突入を開始したが、レストランの入り口に事前調査ではなかった赫子の防護壁のようなものがあったりして時間がかかった。その壁を壊していざ突入すると、既にレストラン内はハイセによってほぼ壊滅状態になっていた。

 ああ、さっき突入作戦は失敗と言ったが、先を越されて失敗と言った方が正しいな」

 

 歯茎が、ハイセが喰種レストランを壊滅させた?

 仲間割れ……なのか?

 

「ハイセには仲間がいたようだが、11区のときに現れた梟や魔猿じゃねぇ。

 仮面舞踏会に出るときに使いそうなハイソな仮面をつけた黒スーツの集団と、ガスマスクをつけたコートの集団だ。それぞれ5人ぐらいしかその場にはいなかったらしいが、黒服はハイセのことを“ハイセ様”、ガスマスクどもは“ハイセ”か“ハイセさん”と呼んでいたようだから、そいつらは別グループなんだろうな。

 黒スーツどもがレストランの中にあったノートやらパソコンやらを燃やして回って、ガスマスクどもはレストラン会場の他の出入り口を封鎖していたらしい。

 それとハイセが殺った喰種どもは、軒並みハイセのあの赫子の一撃で上半身が粉微塵に吹っ飛ばされてたから、身元の照会もろくに出来やしねぇ。

 おかげで今回の作戦では、ハイセ関連以外の肝心の喰種レストラン関係で得られた情報はゼロに近い」

 

 フム、何らかの証拠隠滅がハイセの目的だったのか? 知り合いがそのレストランの利用者だったとか。

 しかし噂に聞くレストランの客層とハイセでは、人物像が異なる気が……。

 

「で、突入してそんな場面に出くわした宇井たちだが、出くわしたからには放っておくわけにはいかねぇ。三つ巴、というより不本意ながらも“ハイセ対CCG+喰種レストランの客”みたいな状況になったらしい。

 だがアッサリと客の喰種どもは全滅。粘っていた白黒コンビ喰種もいたみたいだが、本気を出したハイセにこれまたアッサリとやられた。

 このときだな。ハイセが羽赫を使ったのは。この白黒コンビはハイセが連れ去ったらしく、ハイセも妙なことを口走っていたらしいので注意が必要かもしれん。

 んで、その後にコッチの捜査官もやられて、ハイセにご丁寧に帰るように言われたんだが、宇井がちょいと頭に血が上ってな。

 そんでまぁ、ハイセがわざわざ「自分のことはハイセと呼んでくれ」と自己紹介をしたんだが、宇井が頑なに歯茎呼ばわりしたもんだからハイセがキレた。

 キレたハイセは宇井の野郎を“篠原の刑”に処した」

 

 ……。

 …………。

 ………………うん? 篠原、の刑……?

 

「簡単に言やぁ、宇井の野郎は篠原と同じ髪型にされたんだよ。

 ハイセが言うには、これからも歯茎呼ばわりするヤツは全員篠原の刑に処するらしい」

「だから何で私の髪型が嫌がらせに……」

「うむ!」

「いわっちょ。それは慰めてんのかい?」

「おいおい、特等が話を遮ってどうすんだよ?

 だからよ、真戸二等。篠原と同じ髪型にされたくなかったら、ヤツのことはちゃんとハイセと呼んだ方がいいぞ」

「……肝に銘じます」

 

 アキラが篠原さんの頭を直視しながら答えた。心なしか声が震えている気がする。流石のアキラも篠原の刑は嫌か。

 うん、そうだよな。女性だものな。されても問題ないと言われた方が困る。

 

「ま、突入作戦結果の概略はそんなところだ。特急で今日の午前中に富良上等からの報告書が上がってくるはずだから、詳しくはそれを見ろ。

 それと宇井に会ったらスルーしてやれ。流石にアレは哀れだ。特等会議に帽子被ったまま参加しやがったが、局長も何も触れなかったぐらいだ」

「はぁ……まったく。人の髪型を嫌がらせの道具にしてくれちゃって……」

「しかもそれが立派に機能してやがるしな」

「僕もそれはイヤですぅ~」

「ちょっ!? 什造(ジューゾォー)ッ!?」

 

 思わず篠原さんから目を背けてしまった。

 ただの短髪の俺が髪型を云々言えるわけではないが、あの中途半端に中央部に髪の毛が残っているモヒカンみたいな髪型は俺もちょっと……。

 

 うん、今度からアイツのことはちゃんとハイセと呼ぼう。

 

 

「丸手さーん」

「会議中だぞ、馬淵ィ」

「いえ、7区の富良上等から報告書が届きましたよ。

 人数分プリントしている真っ最中なんで、もうちょい待ってください」

「お、せっついただけあって早かったな。昼近くになるかと思ったが」

「富良くんには悪いことしたね。お子さんもまだ小さいのに週末の予定全滅させちゃって。

 上の方に私たち3人で富良くんの休暇の上申でもしてあげようか」

「うむ」

「報告書の出来次第だな。悪かったら今日中に出し直しさせてやる。

 なら続けんのは報告書が来てからのほうがいいか。真戸と……あー、滝澤だったか。悪いがコーヒーでも淹れてきてくんねぇかな」

「あ、はい!」

「わかりました」

 

 ム、俺も手伝おうかと思ったが、8人分のコーヒーを淹れるのに3人は多すぎか。なら素直に2人に任せることにしよう。

 今まではそういう下働きは率先して行っていた立場なので、こういう待つ時間はどうも慣れない。上等捜査官になったからには複数人の部下を率いらなければならないことが増えるというのに、このままじゃイカンな。

 アキラにも“ドッシリ構えていろ”と言われたこともあったし、気を付けないと……。

 

 そして什造は少しでいいから動こうとしろ。

 

 

 その後、5分もしないうちに報告書とコーヒーが揃った。

 丸手特等たちも先程の概略以上の情報は持っていなかったようなので、まずは報告書を各自読んでから会議を再開することになった。

 

 

 ……。

 …………。

 ………………フム、やはり気になるのは、マダムAという喰種の護衛をしていたらしき白黒の喰種コンビか。ハイセがその白黒に対して「僕と同じ!?」と驚愕を露わにして叫んだらしい。

 そして白黒コンビの仮面は、目の部分がそれぞれ片方ずつしか開いていなかったらしい。つまりは……隻眼? それがハイセと白黒の“同じ”部分?

 赫子も似たような鱗赫だったらしいという共通点もあるが、強度は全然違ったらしく、ハイセの一撃で赫子を吹き飛ばされている。しかも羽赫の攻撃で追撃を受け、あっという間に戦闘不能になったのか。

 それを見たハイセが「僕と全然違うじゃないか! え? 赫子の空似?」と騒いだらしいが…………まぁ、ハイセのようなヤツが何人もいないのは幸いだ。

 

 だいたい何なんだ、この写真は?

 まるで大砲を撃ち込まれたように建物の壁には穴が、床にはクレーターがいくつも開いているが、これがハイセの羽赫での攻撃の結果? あいかわらずとんでもないヤツだな。

 田中丸特等のハイアーマインドというクインケなら似たようなことは出来そうだが、ここまでの弾痕があるならおそらく連射性ではハイセの方が上だろう。

 普通のボディアーマーでは防げそうにない。アラタがあってやっと防御出来るかというところだろう。それでもマトモに受けると衝撃だけで吹っ飛びそうだが。

 

 それと……美食家が!? 美食家が既にハイセに駆逐されていたというのか!?

 ……大食いについての記述はないか。

 

 しかしハイセの発言の記録は多いが、CCGが突入してきたのを確認すると自分たちの身元がバレないように仲間に釘を差す発言をしている。

 おかげであまり参考になるような発言は見当たらない……ん、後ろのページに“ハイセ発言集まとめ”?

 

 

『ゲェッ、ピエロの人やっちゃった! 誰だアレ!?』

『…………ウン、僕は何も見なかった……CCG!?』

『おのれCCGめ! ピエロさんの仲間を殺すなんて!』

『スーツさんたちは証拠隠滅急いで! ガスマスクさんたちは客を逃がさないようにしてください!

 それと変なことは口走らないように口は閉じて!』

『ったく、美食家さんのせいでCCGとバッティングするはめになるとは……』

『美食家さん? ……ああ、美食家さんですか。

 フフフ、美食家さんなら墓場にいますよ。きっと彼は今頃奥さんと仲良く寝ているんじゃないですかね?』

『CCGの人たちはもうちょっと待っててくれませんかね。

 あ、柱倒してバリケードにしますから、押し潰されたりしないように注意してくださいね』

『僕と同じ!?』

『チィッ! なら全力で…………って、脆っ!?』

『僕と全然違うじゃないか! え、赫子の空似?』

『あー、どうしよう』

『このままじゃ死んじゃうか。ホラ、僕の血をお飲み……って、あ、やっぱり同じなんだ。いや、でも違うし……双子?』

『仕方がない。放っておくわけにはいかないから連れて帰るか。ガスマスクさーん!』

『あ、お待たせしましたー。

 でも僕たちこれから帰ろうと思うんですけどいいですか?』

『やるんですか? まぁ、訓練代わりになるのでお相手しますけど』

『それと歯茎は止めてください。歯茎は。

 僕の名前は“ハイセ”です。珈琲の琲に世界の世で“琲世”。覚えておいてください』

『だからハイセって……』

『はい、お疲れ様でしたー。

 それでは僕たち帰りますので、CCGの皆さん。このレストランの後始末は申し訳ありませんけど、よろしくお願いします』

『……ハイセ……』

『だからハイセって言っているでしょうがぁっ!』

『宇井さん! 貴方は“篠原の刑だ”!

 スーツさん! シャワールームにカミソリとかあるでしょうから、ソレ持ってきてください!』

『動かないでくださいね。動いたら毛だけじゃなくて皮膚も切れちゃいますよ』

『はい、こんなものでしょう。

 もしこれからも僕のことを歯茎って呼ぶ人がいたら、男女の区別なく篠原の刑に処しますからね。えーっと……ジュウゾウ、くんという子にも釘を刺しておいてください』

『じゃ、これで失礼します』

 

 

 宇井準特等……。

 思わず衝動的に4区の方に向けて敬礼をしたくなったが、会議中なので抑えた。

 

 それにしても……ハイセってこんなヤツだったか? 何だか前のときとイメージが合わない気がするな。

 というかハイセのヤツ、ピエロ殺害の犯人をCCGに擦り付けてやがる。ピエロといえば11区のときにもいたが、あのピエロのことはハイセも苦手そうにしていたからそのせいか? 居合わせたピエロは、おそらくあのときのピエロとは別人なのだろうが。

 そして什造が名指しで釘を刺されているな。11区のときの什造の言葉を根に持っているのか?

 

 そういえば什造が随分と静かだな……。

 

「…………」

 

 コイツ、寝て……はいないか。報告書を読んで頭がパンクしそうになっているだけか。目がグルグルと回っている。

 サボっているわけではないから、とりあえず今は置いておこう。

 

 

「演技……いや、自分でも気づいていないのか?」

「どうしたの、アッキーラ?」

「いえ、報告書で読んだハイセの11区での印象と、今回のハイセの印象がかなり違うと思いまして」

「ああ、それは俺もそう思った」

「実際に言葉を交わした亜門上等がそう思うなら間違いなさそうだな

 今回のハイセは必要以上に自分を強く、CCGを何とも思っていないように見せる演技をしているように感じます」

「宇井との会話はまるっきり挑発だもんね。これで戦闘を避けられるなんてハイセも本心では思っていないだろう」

「はい。しかし11区での遭遇時のハイセの印象は、経験は浅いが基本的に思慮深く冷静な喰種という印象です。そして仲間や弟らしきウサギを守るぐらいに身内思いでもあると。

 それに対して今回のハイセの行動は挑発ではなくむしろ牽制……いや、無意識の威嚇に近いのではないかと」

「『僕は強い。だから僕には関わるな。関わったら篠原の刑だ』……ってことか」

「丸、その篠原の刑って言うの止めない?」

「ハイセに言え、ハイセに」

 

 無意識の威嚇……か。挑発よりは腑に落ちるな。

 推定されているハイセの年齢は20歳前の若者。

 もちろんマスクや変声機で正確な年齢はわからないが、目元に皺がなかったことなどで比較的若い喰種。そして梟の発言内容や前回が初陣という話で人生経験が浅そうなところから、20歳は越えていないのではないかとされている。

 確かにいくら能力があっても、経験の浅い若者なら生死のかかった状況では威嚇の一つも無意識にしてしまうだろう。

 

 しかしやはりマスクや変声機で顔のほとんどが隠されていたのが厄介か。

 現状ではハイセの人物像がイマイチ絞り切れない。

 

「……あー、亜門」

「ハッ、何でしょうか、丸手特等」

「これは言うか言わないか迷ったが、この報告書を読んだから言うことにする。

 ハイセを探るのは構わねぇ。だが戦闘は絶対に避けろ。これは吉時さん、本局局長からの命令でもある」

「局長からの…………はい、承知しました」

「間違えんなよ。確かにお前じゃ勝てねぇってことはある。

 だが甲赫と鱗赫で相性が悪いってこともあるが、そもそもアラタと赤舌っつーSSレートクインケ2つ持った篠原でさえ勝てるとは思ってねぇ。

 勝てるとしたら、それこそ有馬ぐらいだろうよ」

「……ま、そうだろうね。赤舌譲ってくれた法寺には悪いけど」

「いえ、報告書のハイセの記述が事実なら当然の判断かと」

「ああ。だがな、それよりも局長が危惧してんのは、ハイセがこれ以上強くなることだ。

 今回の報告書ではハイセは“訓練”になると言って宇井と戦い始めている。前回のときもアレはまるっきり経験を積むための実戦訓練だろう。

 そして前回では能力的には圧倒的にハイセの方が強かったのに、お前らは連携や遠距離攻撃を活用してハイセをそこそこ苦戦させた。そんで今回はその遠距離攻撃に苦戦したハイセが羽赫を使いやがった。

 なーんか嫌な予感がしねぇか?」

「ハイセは、経験を積めば積むほど強くなる、それも非常識に……ですか」

「ああ、ハイセはあの強さで若い喰種と想定されている。若い分、経験を積んだらそりゃ強くなるだろうよ。

 現時点では対抗策がないのにハイセにこれ以上経験を積まれて強くなられたら、ますます打つ手がなくなっちまう。

 だからよ、亜門。ハイセと戦闘になりそうになったら逃げろ。逃げたとしても俺も篠原も黒岩も、それこそ局長だって笑ったりしねぇ。むしろ新たなハイセの情報を持ち帰ってきただけで勲章モノだ。

 その心根でハイセの捜査に当たれ。わかったな」

「ハッ、承知しました」

 

 ……仕方がないか。

 前回のときは無防備状態のハイセに攻撃しても、壊れたのは俺のクラの方だった。コチラの攻撃が効かないと戦いも何もない。俺が一方的に殺されるだけだ。

 喰種を前にしたら手足をもがれても戦えと真戸さんには教わったが、流石に勝ち目がない戦いに挑むのは蛮勇というものだ。

 

 それにアキラを巻き込むわけにはいかないしな……。

 

「幸いハイセは非好戦的な喰種だ。そのことからも上としては、ハイセよりもアオギリを優先して殲滅する必要があると考えている」

「しかし丸手特等。ハイセがアオギリに協力する可能性は考えなくてよろしいのですか?

 11区ではアオギリのウサギを助けに入ったようですが?」

「あー……仕方がねぇ。オフレコだぞ。決して他で言うんじゃねぇぞ。

 上ではその可能性は低いと考えている。

 というのも前回の11区におけるアオギリの拠点はCCGを誘い込む陽動で、本命は喰種収容所のコクリア襲撃だった。

 だがな、ハイセが元々アオギリへ積極的に協力していれば、200人もの人員をかけて陽動をかける必要はなかったはずなんだ」

「それは何故?」

「11区でハイセが建物を真っ二つに斬っただろう。頭の良い研究員どもの計算によると、そもそもハイセならアレでコクリアの壁もぶった斬ることが出来るらしい。そうされたらコクリアの堅牢の防衛もどうしようもねぇよ。

 そのことからもハイセとアオギリは中立、もしくは消極的な敵対の関係にあると考えている。あのときは本当にウサギを助けに来ただけで、利害が一致しない限りアオギリ自体は助けもしないって感じだな。

 おそらくアオギリには自分の能力を明かしていねぇんじゃねぇかな。

 真面目な話、ハイセが好戦的な喰種だったらこんな悠長に会議している暇なんてねぇよ」

 

 コクリアの防壁を斬る? そんなことが出来る喰種がいるだなんて……。

 しかしあのハイセなら確かに出来るかもしれない。

 

 そしてハイセが非好戦的か。確かにヤツは身近な存在に手を出さなければ、コチラに手を出さないようなことを言っていたな。

 まぁ、話に聞く篠原さんが討伐した腕試しと称して喰種捜査官狩りをしていたオニヤマダなんかに比べたら確かに非好戦的だろう。実際、ハイセが確認されたのは11区のアオギリの拠点と今回の喰種レストランの2回だけだ。

 アレだけの力を持った喰種が好戦的なら、絶対に今までどこかで暴れていたはずだ。

 

 そういう意味ではまだ助かるが……。

 

 

「……それで法寺と滝澤はどうする? 何だか美食家はハイセがやっちゃったみたいだけど?」

「そうですね。しかしそれは事実かわかりませんし、午後にでも件の喰種レストランの様子でも見に行ってみようかと。

 おそらくまだ捜査は続いているでしょうから、新たな発見があったかもしれませんし」

「美食家は妻がいたんですかねぇ?」

「了解。となると後は大食いか。

 ああ、大食いと言えば、以前に話に上った嘉納による喰種化施術を受けた可能性のある“金木研”くんのことなんだけど……」

「あ、篠原さん」

「ん? どうした、亜門?」

「その金木研くんですが、一昨日の土曜日に接触しました」

「は?」

「いえ、ですからその上井大学に通っている、嘉納から移植手術を受けた金木研くん「ちょい待て、亜門」……ハッ」

 

 特等の御三方が微妙な顔をしている。

 な、何かやってしまったか?

 

「あー、実はだね、亜門。日曜の特等会議でその金木研くんの話題が出てね。

 捜査は慎重に、不用意な接触は控えるように釘刺されちゃったの」

「えっ!?」

「若い子の前では言い難いんだけどさ。マスコミにバレたらまずいのよ。

 もし私たちが想定していた、鉄骨落下事故で死んだ彼女が大食いで、その彼女の臓器を金木研くんに移植したのが元CCG解剖医だった嘉納だってのが事実ならさ。

 ただでさえ無断移植手術をしたってだけで嘉納があんだけバッシング受けたんだから、それが元CCG解剖医が喰種の臓器を移植してたなんてことになってみなよ。古巣のウチも吹っ飛んじゃうよ」

「むしろ古巣のウチだからこそ吹っ飛ぶな」

「そっ、それはまぁ……そう、なのでしょうね」

 

 嘉納個人が勝手にやったこと……では確かにすまないだろうな。

 

「そんなわけで金木研くんのことは上の方で、例えば病院の健康診断の結果を上が手を回して手に入れるとか、そういう慎重な捜査をすることになったの」

「おい、亜門。呉緒得意の強権的な取り調べとかしてねぇだろうな?

 もし変な事態になったら、マスコミへの記者会見はお前にやらせっからな」

「い、いえ! そのようなことは決して! 極めて友好的に接触出来ました。

 それに偶然出会っただけですので、取り調べらしい取り調べはしておりません」

「ふーむ……ま、とりあえず土曜日に何があったか聞かせてよ。

 というか何で金木研くんと出会ったのさ?」

「はい。特等方は20区のCCG支局でアルバイトとして働いている永近英良という青年をご存知ですか?」

「ん? ……ああ、あの元気のいい子かい?」

「俺は知らねぇな」

「はい。私もお互いに顔と名前は覚えているぐらいだったのですが、実は永近は金木研くんと同じ上井大学の学生でして」

「そういえば上井大学は20区だったね」

「はい。土曜日に……土曜日にプライベートで○○デパートに買い物に行ったのですが、そのときに永近と一緒にいた金木研くんと出会いました。

 聞いたところによると、2人は小学校の頃からの親友だそうです」

「……思いっきり灯台下暗しじゃねぇかよ」

 

 ええ、俺も永近から聞いたときは驚きましたよ。

 まさか金木研くんに親しい人物がこんな身近にいたなんて……。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あれー? 亜門さんじゃないですか?」

「ん? ああ、永近じゃないか。偶然だな。そちらは――っ!?」

「コイツは俺のダチでカネキっていいます。

 カネキ、こちらは俺のアルバイト先の亜門さんって人」

「あっ。……はじめまして。

 ヒデ、永近の友人の金木です。どうもヒデがお世話になっているみたいでして」

「オイ、お前は俺のオカンか?」

 

 金木、研。

 政道の報告にあった例の鉄骨落下事故における移植手術の臓器受容者か。

 

 彼は左目を眼帯で覆っている。歯茎とは逆か。

 それに俺の顔を見て驚いた……?

 

「……あ、ああ。亜門鋼太郎だ。

 大学の友人か? 確か永近は……上井大学だったか?」

「あ、政道さんとの会話聞かれてたんですか。

 ええ、コイツも上井です。といってもコイツとの付き合いは小学校の頃からですが」

「はい。ヒデとは昔からの付き合いです。

 どうです? ヒデは真面目にやってます? ヒデは昔からお調子者で……」

「だーかーらー、お前は俺のオカンかっての?」

 

 間違いない。上井大学の金木研。本物だ。まさかこんなところで出会うとは。

 しかも永近の小学校の頃からの友人だと? いったいどんな偶然だというんだ。

 

「ははは、永近はよく働いてくれているよ。大丈夫だ。

 2人は買い物か? 俺が君たちぐらいのときは、こんなデパートは敷居が高くて敬遠してたもんだが……」

「いえいえ、俺たちも普段はこんなところ来ないですよ」

「僕はまぁ……最近ちょくちょくと。

 ただ今日はちょっと、大学の先輩への出産祝いを買おうかと思いまして」

「だ、大学の先輩への出産祝い?」

「ええ、出来ちゃった学生結婚した人なんですけどね。

 出産祝いみたいなモノなら安物をそれぞれ買うより、こういうしっかりしたところで2人で金を出し合って良いモノを買った方がいいかな、と思いまして。

 でも出産祝いなんて初めてですから、何買ったらいいかわかんないんスよね~」

「僕も出産祝いを買うのは初めてだよ」

 

 ……はぁ、話には聞くが、実際に学生で結婚する若者もいるんだなぁ。しかも出来ちゃった結婚。

 俺が卒業したアカデミーでは考えられん。

 

 しかしどうするか? せっかく偶然にも金木研くんと出会えたんだ。俺の顔を見て反応したことも気になるし、少しばかり様子を見てみるか。

 ちょうどいい話題も出ているわけだしな。

 

「……フム、よかったら俺も付き合おうか?

 俺もそんなに経験があるわけではないが、職場の付き合いでそういうのを買ったことはある」

「え、いいんですか?」

「ああ、その代わりと言っては何だが、俺の買い物にも付き合ってくれないか?

 実は今日、俺の元上司の家に招かれていてな。俺が昇進したお祝いをしてくれると言ってくれているのだが、手ぶらで訪れるわけにはいかないので何か手土産をと思っているんだ。一応は候補は決めているが、その中で何を買っていいか迷っていてな」

「え? そういうのことこそ僕たちがお役に立てるとは思えないんですけど……」

「俺に仕事のイロハを教えてくれた方へのお礼だから、少しでも良いモノを贈りたい。

 それと今日の料理を振る舞ってくれるのがその元上司の娘さんでな。娘さんにも手土産を持っていこうと思っているのだが、そちらはまったく思いついていないんだ。

 ……口にするのは恥ずかしいんだが、女性に対する贈り物は経験がなくてな……」

「ああ、なるほど。そういうことですか」

「ならカネキの出番じゃんかよ。トーカちゃんにプレゼントとかしてんだろ」

「お、金木くんは彼女がいるのか?」

「いえ、まだ彼女じゃないですよ」

「かーっ、またそれかよ」

「そうなのか? しかし“まだ”とは?」

「彼女はもうすぐ大学受験なので、勉強の邪魔はしないでおこうと思っていまして。そういうことは受験が終わってからですね。

 ただ彼女が大学に合格出来たなら、僕は合格のお祝いとして、彼女は受験勉強を見てあげた僕へのお礼として、お互いに一つずつ何でも言うことを聞くって約束はしています」

「ほぅ。なかなかロマンチックな約束じゃないか」

 

 うん。彼らの大学の先輩には悪いが、金木くんとその彼女ぐらいに節度を守っている方が好感が持てる。おっと、まだ彼女ではないか。

 どうやら金木くんは真面目な学生らしいな。

 ムードメーカー的な永近とはタイプは違うが、逆にタイプが違うからこそ仲良く出来ているのかもしれん。

 

 ……だから頼むぞ。俺に君を駆逐なんてさせないでくれ。

 流石にもし俺たちの推理通りに鉄骨落下事故で死んだのが“大食い”で、その臓器を君に移植されて君が喰種のようになってしまっていた、なんてことになっていたら気が重い。永近もどれだけ悲しむことか。

 君は人間でいてくれ。

 

「よし、それじゃあ君たちの出産祝いから見ていくか」

「うっす。お願いします。

 あ、ちなみにこれが他の人たちが贈る出産祝いのメモです」

「ベビーカーやベビーベッドみたいな定番な品は既に取られちゃいまして、どうしようか困っていたんですよ。

 最近アルバイト先の喫茶店で出し始めたノンカフェインコーヒーとかも取られちゃってますし……」

「おいおい、あまりハードルを上げてくれるなよ」

 

 フ、半分捜査が入った付き合いだが、若者にこう頼られるのは悪くない。

 いや、俺もまだまだひよっこと言われる年齢なのだが、それでも俺より年下の若者にとっての頼られる先達でありたい。

 金木くんのことは注意して観察するが、これからは上司として出産祝いとか贈る機会もあるだろうし、これも一種の練習として付き合ってみるか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――その後、金木研くんと永近と一緒に買い物をして、喫茶店で一休みしてから11時前に解散しました。

 極めて友好的に接触出来たと思います」

「……フム、そういうことなら問題ないかな」

 

 フゥ、よかった。知らなかったとはいえ、足を引っ張るような真似は避けたい。

 それに俺に記者会見なんて出来るわけがない!

 

 それとアキラ。何故ニヤニヤ笑っている?

 報告では真戸さんとアキラに贈り物をするようなことは隠して、ただの買い物をしただけと言ったはずだぞ?

 

「……で、どうなんだ? その金木研に気になったことはあるか?」

「喫茶店で一休みしたということだけど?」

「はい。付き合ってくれたお礼として私が代金を出したのですが、金木研くんは喰種が飲めるコーヒーではなく紅茶を注文し、一緒に注文したケーキも食べていました。

 食事している様子を観察しましたが、演技しているようには見えませんでした」

「それは何よりだね。予想が外れたのは残念だけど、むしろこれは外れてくれた方がいい予想だったから。

 じゃあ、金木くんは問題ないのかな?」

「……いえ、いくつか気になった点があります。

 私を見て驚いたような顔をしたこと。ハイセと身長がほぼ同じこと、ハイセと同じく一人称が“僕”のこと。喫茶店でした話によると手術後は以前よりも“大食い”になったとのこと。

 そして私自身も、実際に金木研くんと会ってみたら、以前にも会ったことあるような既視感を感じたことです」

 

 といっても身長と一人称は当てにならない。

 俺を含むあのとき対峙した捜査員の目算ではハイセの身長は170cm弱。これは背の高い中学生でもありえる身長であり、そもそも日本人男子の平均身長も同じくらいなのであまり参考にはならないからだ。

 一人称が“僕”だということも、これはいくらでも変えようがある。

 

「それとハイセはマスクで右目を隠して左目を露わにしていましたが、金木くんは眼帯で左目を隠して右目を露わにしていました。

 眼帯の話題から鉄骨落下事故や移植手術の話にもなったのですが、何でも移植手術後、立ちくらみや欠伸をしたときに起こるブラックアウトが左目の視野で起こりやすくなったそうです。

 眼精疲労をしているとブラックアウトをしやすくなるので車の運転中などはともかく、普段は左目を使わないように眼帯で覆っているそうです」

「うーん、それだけじゃ何とも言えないなぁ」

「……はい。私が言うのも何ですが、怪しいと思えるのは私の感じた既視感だけで、他は偶然の一致だと言われても仕方がないことばかりです。

 手術後は以前より大食いになったということも、リハビリのために以前はしなかった運動をするようになったから、と言われたら、そうなのかとしか言えませんし」

「そもそも普通の食事をとっているみたいだしねぇ」

「つーか俺としてはその金木研の後遺症の方が気になるんだが? もしかしたら脳にダメージが残ってんじゃねぇのか?

 もし金木研が突然死でもしたら、あのときの騒ぎが再燃して今度こそCCGにも飛び火しちまうかもしれねぇ。喰種容疑者とは別の意味で放っておけねぇぞ」

 

 う、丸手特等も世知辛いことを仰るな。

 確かに事故で移植手術が必要なほどの怪我を負ったともなると出血も酷かったのだろうから、金木研くんの症状からするともしかしたら大量出血なんかで脳にダメージが入ったのかもしれない。

 脳へのダメージは厄介だ。丸手特等が仰るように、何ともないように見える人間が突然死する可能性は否定出来ない。

 

 しかしそれが金木研くんへの心配ではなく、CCGへのダメージを心配してということは人としては寂しい話だ。

 大人としては、また組織の人間としては仕方がないのかもしれないが……。

 

「どちらにしろ金木研は無視出来ねぇな。

 鉄骨落下事故の際の嘉納総合病院での受診カルテは手に入れているが、それが本当のことを書いているかはわからねぇからな」

「ま、そだね。金木くんは喰種とは関係ないかもしれないし、CCGの都合というのもあるけど、流石に生死に関わるかもしれないのを放っておくのは不人情でしょう。

 そうだ、亜門。金木くんは嘉納については何か言ってた?」

「はい、体調は問題ないのでもう通院はしていないようですが、嘉納につきましては病院に出勤していないことは知っているそうです。

 ただ『僕を助けたせいで受けたバッシングでそうなったのなら申し訳ない』と言っていましたので、特に嘉納を怪しんでいるということはないようです」

「……そういえばそうか。あんな研究をしていた嘉納が行方不明になっていたから怪しんでいたけど、マスコミによるバッシングで心痛めて失踪したってのはおかしくないか。

 むしろ金木くんの立場なら、普通はそう考えるよね」

「あのときの報道は酷かったですからね」

 

 確かにそうだ。

 無断で臓器を移植するというのは許されることではないが、それがなければ金木研くんが助からなかったとするのなら、嘉納のことを無責任に責めるわけにはいかないだろう。

 嘉納が行ったことは善悪半々で、金木研くんが助かったことでプラスだったといったところか。これで移植手術をしたが金木研くんも助からなかったとなるとマイナスになったのだろうが……。

 

「ですが嘉納の所持している不動産などで不明な点があります。

 いずれにしても嘉納のことも放置するわけにはいかないかと」

「法寺の言う通りだな。2人とも詳しく調べる必要がある。

 だが金木研については上の調査待ちでいいだろう。身元がしっかりしていて所在は掴めているんだし、あまり大騒ぎしていい背景じゃねぇ。上がやってくれるってんなら上に任せようぜ。

 嘉納については……隠し持っている別荘とかで、バッシングで受けた精神的苦痛の療養中とかだと手間が省けるんだがなぁ」

「……自殺でもされてたらどうするよ、丸」

「それはそれで……面倒な事態になりそうだな」

 

 でもそれもありえない話ではない。

 せっかく医師として患者の命を救ったというのに、その結果があのマスコミからのバッシングでは嘉納もやるせないだろう。

 これで金木研くんが未だ療養中だとしたら嘉納も医師としての責任を果たそうとするのだろうが、金木研くんはもうすっかり回復済みだ。もう自分が何をすべきなのか見失ってしまったのかもしれない。

 そういえば嘉納が失踪したのも、金木研くんが退院してしばらくしてからだ。

 金木研くんの経過を見て問題ないと判断し、すっかり医者としての仕事が嫌になっていた嘉納は責任を果たしたとして姿を消した。

 

 ……ウン、ありえそうな話だ。

 CCGではあんな研究を行っていた嘉納だが、親の病院を継ぐことで心境の変化もあったかもしれないしな。

 

 だがもしそうだったら金木研くんに何て言えばいいんだろうか?

 優しそうな青年だったから、絶対に心を痛めてしまうだろうな。

 

 

「ま、それもお前らが嘉納を見つければいいってだけのことだ。

 金木研のことは上に任せておけばいい。もしお前らの推理通り、本当に嘉納が人間の喰種化の実験をしていたとしても、そもそも金木研は関係ないかもしれないしな。

 よし、それじゃあ…………いや、やっぱりちょい待て。

 ……よし、亜門。永近ってアルバイトにもう一度会って、永近経由で金木研が嘉納の行方を知っているかどうかの再確認だけしておけ。金木研には直接接触しなくていい」

「もう一度ですか?」

「ああ、ただし無茶はしなくていい。

 そうだな。嘉納が昔CCGに勤務していたことと、嘉納が病院に出勤していないだけでなく失踪していることまでは言っていい。それで俺の名前を使っていいから、CCGの嘉納の知り合いが音信不通になっていることを心配していた、って風に話してみろ。

 嘉納がマトモな医者なら金木研には連絡先を知らせているかもしれねぇ。逆にマトモじゃなかったら金木研も知らないだろうからな」

 

 なるほど。確かに嘉納がマトモな医者だったらその可能性はある。

 嘉納としても、言い方は悪いがバッシングの原因となった金木研くんのことは気にしているだろう。

 

「わかりました。永近に聞いてみます」

「おし、頼むわ。それじゃあ今度こそ解散。各自捜査に移れ!」

 

 全員で敬礼をして退室する。

 特等方はまだ残って話し合いをするようだ。

 

「そういえば有馬の野郎、珍しく昨日の特等会議にちゃんと出席したよな?」

「そうだね。それに随分とハイセのことに興味を示してたよね」

「うむ」

 

 ……有馬特等か。有馬特等ならハイセに勝てるのだろうか?

 CCG最強の有馬特等なら勝てると思いたいが、やはりクインケの攻撃力不足がネックか……そういえばあの人、傘で喰種を駆逐したって噂があったな。だったら有馬特等ならもしかして……いや、考えるのはよそう。考えても詮のないことだ。

 そんなことを考える暇があったら、それこそ有馬特等がハイセに勝てるような情報を集めるのが俺のすべきことだ。

 

 

「鋼太郎くん。私と滝澤くんは会議で言った通り、午後にでも件の喰種レストランに赴こうと思っているのですが、鋼太郎くんたちも同行しますか?」

「はい。お願いします。

 新たな手掛かりが見つかっているかどうかわかりませんが、ハイセの行った戦闘跡は確認しておきたいですので」

「わかりました。それでは昼食後に」

「はい、それでは。

 アキラ。俺はまず永近に会って丸手特等からの伝言……と言えばいいのかな? 先程の嘉納についてのことを聞いてくるが……」

「なら私は……いや、私も同行しよう。永近とは会ったことはあるはずだが、そんなマジマジと顔を見ていたわけではないので人相があやふやだ。金木研の親しい人物というのなら、顔を覚えておいて損はあるまい。

 しかし意外だな?」

「何がだ?」

「いや、亜門上等なら、上の事情に関わらず金木研に直接会いに行くか、それこそ身柄を抑えるような気がしていたのだが?

 “倫理”で“(喰種)”は潰せません……とか言ってな」

「ぐっ!? ……感情的になってしまい、チームを全滅の危機に晒してしまったんだ。少しは慎重にもなる」

 

 ま、真戸さんか? アキラに話したのは?

 今でもそのことについては間違っているとは思っていないが、しかしそもそも金木研くんが嘉納の喰種化施術を受けていたとしても、それでは彼は加害者ではなく被害者だろう。少なくとも金木研くんが鉄骨落下事故まで人間であったことは確実なのだからな。

 もし彼が喰種となって人を殺していたりしたらそれはもう駆逐するしかないだろうが、彼は普通の人間の食事をとっていたから大丈夫のはずだ。アレは演技をしていたようには見えなかった。

 

 ……ふむ、金木研くんのことを少しまとめてみようか。問題になるのは

 

 ①喰種化施術を行われたのか否か

 ②受けていたとして、彼の身体に異常をもたらしているか否か

 ③人を殺したり食べたりしているか否か

 

 の3点だろう。

 

 ①は、施術を行われていなかったら俺たちの推理が間違っていたというだけで、話はそこで終わりだ。

 これが一番望ましい仮定だな。誰も不幸になる人間がいない。

 

 ②は、施術を行われていたとしても、それが即座に金木研くんが喰種になっているとは結び付くわけではない。施術を行われたとしても、特に金木研くんの身体に異常をもたらしておらず、普通に生活出来ていることもありえる。

 CCG捜査官の立場としては言い難いことだが、喰種は人間に紛れることが出来るぐらい人間にソックリだ。確か以前に読んだ何かの論文で、喰種はホモサピエンスの亜種だとしている学説も見た覚えがある。それだけの近縁種なら、臓器移植も問題なく出来るのかもしれない。

 まぁ、俺は移植を受けなければ死ぬという状況だったとしても喰種の臓器を移植されるのはゴメンだが、もし副作用もなく移植が可能なら喰種のような存在にも少しは価値が出てくるのかもしれん。俺はゴメンだが。

 

 ③は、②とほぼ同じだな。施術を受けて身体が喰種のようになり、人の肉しか食べられなくなっていたとしたら…………ウン、そうであれば金木研くんには悪いが駆逐するしかあるまい。

 もしそうだとしたら、金木研くんは人に害するバケモノになったのと同じだ。悪は駆逐せねばなるまい。

 これでもし人の肉しか食べられなくなっていたとしても、即座にCCGに出頭して事情を話すなりしていたとするなら情状酌量の余地はあった。今までのような生活は送らせてはやれないがコクリアのような場所で余生を過ごしてもらう、という風に済ませることも出来たのだろうが、もう鉄骨落下事故から1年近く経っている。

 人の肉しか食べられなくなっていたら、もう既に食べた経験はあるだろう。それでは許すことは出来ない。

 

 …………マスコミにバレたら本当にマズいな、コレ。

 金木研くんが人を殺していたりしても、結局の原因は元CCG解剖医だった嘉納であることは間違いないんだ。CCGが無関係だと言い張ることは出来ない。

 嘉納の受けたバッシング以上の批判がCCGに浴びせかけられるだろう。

 

 ウン、やはり①で止まってほしいな。それなら誰も不幸になる人間はいない。

 ③まで行くのは絶対にやめてくれ。それが無理なら②で、せめて②で止まってくれ。頼むから。

 

 

「……それに何より、彼のような青年がそんな不幸な目にあっているとは考えたくないしな」

「どうした? 独り言か?」

「ああ、俺たちの推理が外れてくれたらいいな、と思っただけだ。今回だけは特にな。什造の境遇でさえマスコミにバレたらバッシ……待て、什造はどうした? もしかして会議室で寝て……まぁ、会議室には特等方がいらっしゃるからいいか。

 それよりも永近は…………お、いたいた。おーい、永近」

「あ、お疲れさまっす、亜門さん」

 

 什造のことは今は忘れよう、ウン。

 今は先程の丸手特……って、おい? 待て、永近。何故アキラを見てニヤリと笑った!?

 

「土曜日はありがとうございました。おかげで先輩も喜んでくれましたよ」

「……お、おお、そうか。それなら何よりだ」

「亜門さんはどうでした?

 元上司の方や、その元上司の娘さんって方は喜んでくださいました?」

「あっ……ああ、まぁな」

「……ほほぅ?」

 

 な、永近ァーーーーッ!? 何故よりにもよってアキラの前でそれを言う!?

 元上司とその娘さんって、明らかに真戸さんとアキラのことだってわかるじゃないか!?

 

 ……お、おかしい。俺の背中には目はついていないはずなのに、何故かアキラがニヤリと笑ったのが感じ取れてしまう。

 

 い、いや。知られて困ることではないから別にいいはずだ。

 会議のときに真戸さんやアキラのことに言及しなかったのは。それは金木研くんに関係しなかったからであって、別に意図的に隠したわけではない。

 そもそもアキラにはもう既にプレゼントは渡しているのだから、俺がプレゼントをどこかで購入したのはわかっているはずだ。いや、どこかで購入しなければそもそも渡せないので、購入したこと自体は隠すことでも何でもない。

 

 ……その、はずだ。

 

「……って、アレェ? アキラさんが使っている櫛って、もしかして○○デパートで買ったヤツですかぁ?」

「ん? いや、これは貰い物でな。どこで買ったのかは聞いていない」

「って、ちょっと待て2人ともぉっ!?」

 

 何だそのワザとらしい会話は!?

 アキラも何で櫛で今髪を整える必要があるっ!? 永近も何で目敏くソレを見つけるんだっ!?

 

「いきなりどうしたんですかぁ、亜門さん?」

「そうだぞ、亜門上等。何を大声を出している?」

「よ、よし、わかった。永近、少し話し合おう」

「え? 話し合うって何をですかぁ?」

「そうだぞ、亜門上等。いったい何を言いだすんだ?」

「お前らわかってて言ってるだろ!

 いいから! ちょっとコッチ来い、永近!」

「ちょっ!? 襟首掴まないでくださいよぉ~」

「そうだぞ、亜門上等。パワハラに値するぞ?」

「いいから2人とも少し黙れ。そして永近はコッチ来い!」

 

 それとアキラはそのニヤリとした笑いをやめろぉ!

 

 永近を引っ張り、廊下の角を曲がってアキラから見えない位置まで移動する。

 落ち着け。まずは落ち着こう。別にアキラにプレゼントをしたとしても、別に隠すことではないし、知られても困ることではないんだ。

 

「……だから落ち着こうじゃないか」

「俺は落ち着いてますけど?」

「やかましい!

 ……どういうことだ、永近? 土曜日の買い物が何故アキラへのプレゼントだとわかった?

 …………いや、別に隠したわけではないし、そもそも隠す必要のあるものじゃないんだがな」

「まったまたぁ。じゃあ何でそんなに焦ってるんです?」

「焦ってなどいない!

 俺はただどうしてわかったかを知りたいだけなんだ。もちろん別に知られても困るわけじゃないんだがな」

「ならそんなに必死にならなくてもいいんじゃ……あ、いえ。何でもないっス。

 いやね。あのあとカネキが前に亜門さんを見たことあるって言ってたんですよ」

「カネキって……金木研くんが、か? 何故いきなり金木くんが出てくる?」

「いえいえ、カネキが去年の△月に、亜門さんがとある女性とそのお父さんと一緒に、××デパートのランジェリーショップにいたのを見たんですって。カネキから聞いた女性の髪型とか人相なら、その女性ってアキラさんのことでしょ?

 女性と女性のお父さんと一緒にそんなところに行くぐらいだから、そりゃ親しくお付き合いしてるってわかりますよ」

 

 ……去年の△月……××デパート……ランジェリーィィイイーーーーショップゥッ!?

 お、思い出した。確かに去年の△月、××デパートのラン……あの、その店に真戸さんとアキラと一緒に行った覚えがある!

 いやでもちょっと待てっ! あのときはそういう意味で一緒に行ったわけではない!

 

「ち、違うんだ。捜査していた喰種容疑者があの店に勤めていたんだ。

 俺と真戸さんだけでは様子を見にあんな店に行くのは不自然だから、真戸さんがアキラに手伝いを頼んで……って、あ゛あ゛ああぁぁーーっっ!?」

 

 あのとき俺と真戸さんを見て驚いたカップル!?

 

 お、思い出したぁっ!!

 喰種容疑者にアキラが話しかけても即座に暴れることがないことを確認してから店外に出ようとしたときに、店から出てきた俺と真戸さんを見て驚いていたカップルの片割れが金木研くんだっ!! 思い返せばあのときの青年も眼帯もしていたし間違いない!! 

 真戸さんは娘のアキラの買い物の付き合いって言い訳が出来たけど、俺は咄嗟に言い訳が思い付かなくて挙動不審になってしまった覚えがある。

 喰種容疑者との会話を終えたアキラが来てくれたから事なきを得たが、ランジェリーショップから男2人で出てきた挙動不審な人物…………そりゃそんな印象的な不審人物の顔は覚えているよな。そして俺の顔をまた見たら驚くよな。

 

 俺の方も金木研くんの顔に既視感を感じたのは当然だ。

 確かアキラはあのとき金木研くんとは俺と真戸さんを挟んだ位置にいたから、おそらく顔を見ていなかったのだろう。

 くっ、既にコンビを解消してしまったので、あまり真戸さんに頼らないようにしようとしていたのが仇となってしまった。真戸さんだったら金木研くんの顔覚えていただろうに……。

 

「そんな大声を上げてどうした、亜門上等?」

「アキラっ!? いや、ちょっと待ってくれ! ……ア、アキラ? 去年の△月に、××デパートに行ったことは覚えているか?」

「何だいきなり? 去年の△月の××デパートといえば……ああ、覚えているも何も私と亜門上等が初めて会ったときのことではないか」

「そうそう! そのときだ!」

「流石の私も、会った初めての日にランジェリーショップに連れて行かれたのは驚い「ちょっと待っ「フォアァッ!?」……ん?」おや、滝澤。どうした?」

 

 誤解される言い回しでそこまで言わなくてもいい、そう言おうとしたら、俺たちの背後から滝澤らしき奇声が聞こえた。

 後ろを振り返ってみてみると、そこにいたのは驚いた顔をした滝澤だけではなく、さっきまで会議室で一緒に会議をしていた篠原さん、黒磐特等、丸手特等、法寺さんもいた。

 

「へぇ~?」

「うむ」

「呉緒も親だってわけか」

「あ、亜門さんがアキラと……」

「……な、何故皆さんここに?」

「いや、あれだけ大きな叫び声を出されたら、何事かと思って見に来ますよ」

 

 アッ、ハイ。ごもっともです法寺さん。

 それで皆さん、もしかしてアキラのランジェリーショップ云々の発言を聞かれていたのでしょうか?

 

「ウン、まぁ……式には呼んでよ」

「うむ!」

「春だわなぁ」

「おめでとうございます」

「お、お幸せにぃーーっ!!」

 

 ちょっ、待っ!? 納得した顔でどこ行くんですか特等方も法寺さんも! いきなり何を言いだすんですか!? 式って何の式ですか!?

 そして何故政道が動揺して走り去る! 政道ちょっと待てっ! 政道ォ!? 政道ォォォーーー!?!?

 

「ハハハ、いきなりすぎて何やら事情が掴めないが、大騒ぎになってしまったな、亜門上等?」

「やっぱ女の人って怖いっすわー」

 

 そこで暢気にしている元凶2人! この騒ぎの始末をどうつけるつもりだぁっ!?

 ……いや、元凶の元凶は俺なんだが。

 

 ええい、呆然としている暇はない。

 会議で特等方に言ってしまった金木研くんへの既視感云々についての訂正をしなければ。

 だからまずは永近に先程の丸手特等の伝言を伝えたあとに、特等方を追いかけて何故金木研くんの顔に既視感を感じたのかの説明を……説明、を…………ラ、ランジェリーショップ云々についても言わなきゃ駄目、なのか?

 

 だ、だが訂正を早めにしなければ、金木研くんに迷惑をかけてしまうことになるかもしれん。

 だから……だから言わなければっ! これが未熟な俺への罰なんだっ!!

 

 

 

 

 

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「本局が襲撃を受けただとぉっ!? どういうことだ、馬淵!?」

「ハイ、アオギリのウサギらしき喰種が監視カメラに確認されてます」

「あのハイセが助けに来たヤツか!? ハイセがいなかったら死んでた分際で、本局狙うとは太ぇ野郎だな!

 被害は!? 何人やられた!?」

「怪我人はゼロですね。

 というか1人で職員用駐車場にコッソリ現れて、車を壊してまわっただけみたいです」

「は?」

「あ、置いてあった丸手さんの新しいバイクも壊されたみたいっすよ。

 というか車はエンジンのあるフロント部を羽赫で串刺しにされたのがほとんどですけど、流石にバイクでは羽赫に耐えられなかったみたいでガソリンに引火して爆発炎上したそうっす」

「え? ……おい、ちょ? え? ……マジか?」

「マジっす。

 この場合って修理に保険効くんですかねぇ?」

 

 

 

 







 バイク壊さなきゃ(使命感)

 あんていく殲滅戦がなくなってしまったので、ここで丸手さんのバイクをもう一度壊しておきます。結局:reでは一度も壊れなかったですよね。残念。
 でもアレですよね。11区の戦いで壊れたバイクの替えが中古バイクということは、保険が下りなかったってことですよね。
 まぁ、わざわざ鉄火場に乗ってきて壊れたんだから、保険会社としても保険金を出すわけにはいかないでしょう。丸手さんの自業自得デス。

 それと宇井さんの被害も、あんていく殲滅戦がなくなったその余波です。
宇井「篠原さん 貴方のせいで 髪の毛が」
篠原「待ってくれ 私のせいに しないでよ」
 あの髪型といい、手入れをしているだろう髭といい、篠原さんは身嗜みにも気を遣う大人ですよね。

 そしてカネキュンのせいでアヤトくんがゲリラ戦の概念を覚えてしまったようです。
 喰種の一番厄介なところって、武器を持たずに歩き回れることですよね。ゲリラ戦とか絶対に大得意じゃないですか。



観母「習クンの汚点は消さなきゃね」

 多分、観母さんは一番怖いタイプだと思います。人の好さそうな顔をして平然と人間オークションに参加してましたし。
 書いててなんですがこういうことガチでやりそう。

 カネキはカネキで喰種レストランの客を庇う理由もないし、月山の情報経由であんていくのことがバレるのが怖い。
 それにそもそも噂に聞く喰種レストランの客のような喰種なら、人としても喰種としても百害あって一利なしだし、何よりも命を奪う行為も慣れなきゃいけないかな? というか放っておいて、ヒデとか依子ちゃんとかが偶然ターゲットにされて殺されたら嫌だし、ってノリです。
 でもサンドバッグメンタルといえど、やっぱり殲滅後はちょっと凹みました。
 それと流石に歯茎は可哀想だったのでハイセに変更。

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