この世界では存外超能力がありふれています   作:水代

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『ギンさん』

 

『最近腹がもたれていけねえや』

「銀さんも大変だねえ」

『昔はオレも肉っ気が大好きだったんだが…………この歳になるともうなあ』

 

 犬である。

 

 何が、と言われれば今目の前にいる彼のことだ。

 

『飼い主の嬢ちゃんは未だに俺が肉大好きだと思ってるからなあ、いや、愛されてるのは分かるんだぜ? ヒトサマの世界じゃ肉ってのは決して安いもんじゃねえのに、それでもせっせと毎日オレっちのために用意してくれてるんだ、そりゃあ、ありがたい、とも思うし、愛されてて嬉しい、と思う、でもなあ…………』

 

 はあ、とため息一つ。

 

『オレも歳なんだよ…………もう若くねえんだ、肉もいい加減食い飽きたし、そろそろ普通のドッグフードとか食いてえなあ』

「贅沢な悩みだねえ」

 

 言語能力、と言うのか…………むしろ意思伝達能力。

 まあいわゆるテレパシー。それが目の前のお犬様の超能力だ。

 

 …………ん? 犬が超能力者ってどういうことかって?

 

 別に超能力は人間に限定されたことではない、と言うことだ。

 そも超能力とボクたちが呼んでいるのは通常の物理的法則をぶっ飛んで無視したような()()()()()()の総称であって、それが人間に限定されているなんて言ったことも無い。

 まあ自身も初めて会った時は割と驚きもしたが、今となってはそう言うものとして考えている。

 

「ドッグフードねー…………買ってこようか?」

『お、本当か?! って、言いたいところだが遠慮しとくわ』

「あらら、どうして?」

『嬢ちゃんがなあ…………食べ残したりしたら大騒ぎするんだわ』

「あー」

 

 思わずその光景が想像できてしまい、納得の声を上げる。

 このお犬様…………銀さんの飼い主の少女(小学生)の銀さんに対する溺愛振りを見ていると、確かにそう言った些細な変化でもすぐに気づいて騒ぎ出しそうな気がする。

 子供が生まれたなら犬を飼いなさい、と言う言葉…………どこかの国の慣用句、いや、ことわざだったかな? と言うものがあるらしいが、まさにそれだ。

 

『イギリスだ、イギリス…………イギリスのことわざだよ』

 呆れたような声を自身の心に直接叩き込みながら銀さんが続ける。

 

 子供が生まれたら犬を飼いなさい

 子供が赤ん坊の時、

 子供の良き守り手となるでしよう。

 子供が幼少期の時、

 子供の良き遊び相手となるでしょう。

 子供が少年期の時、

 子供の良き理解者となるでしょう。

 そして子供が青年になった時、

 自らの死をもって子供に命の尊さを教えるでしょう。

 

『嬢ちゃんもそろそろ少女って歳だしな、俺のお役目も少なくって来たぜ…………っへ』

「お役目ご苦労様です、後は最後の一つだけですね」

 相変わらず博識な犬である。下手すると自身よりも知識量が豊富かもしれないと言う謎過ぎる犬である。

『死なねえよ、まだ死なねえから、オレっちまだまだ生きるから』

「いや、でも銀さんが生まれたのあの子が生まれたのとほとんど同じ時期でしょ? てことは十年は経ってるじゃないの?」

『十年かそこらで犬が死ぬか!』

「いや、十年あれば普通死ぬんじゃないかなあ」

 生憎自身は犬を飼ったことが無いが、それでも犬の寿命は十年かそこらだったはずだが。

『オレは嬢ちゃんが嫁に行くまで生き続けるに決まってるだろうが!』

「いやいや、あと何年生きるつもりだよ、もう妖怪だよそれ」

『超能力なんざ持ってんだ、今更妖怪くらいで何を言ってやがる』

「…………なるほど」

 妙に納得した。

 

 まあ確かに超能力なんて()()()()()と言われるものが存在しているのだから、妖怪だって存在するのかもしれな…………い…………?

 

『いいか? オレを年寄り扱いするな!』

 

 この歳になると、と最初に言っていたのは何だったんだろう。

 ところで多分、威嚇のつもりでこちらを睨んでるんだろうけど、銀さんの犬種チワワだから全然怖くない。と言うかむしろ可愛い。

 

「よしよし」

『てやんでぇ! 気安く撫でてんじゃねえぞ! こちとら狼の子孫でぇい!』

 

 テレパシーだとこんな感じだけど、実際に漏れ出る声がくぅーんくぅーん、と切なそうなので愛らしさ倍増である。

「ところで銀さんの祖先狼なの?」

 猟犬ならともかく、チワワとかってそんなイメージ無いけどどうなんだろう、と思い尋ねてみるが。

 

『え…………あ…………う、うーん? い、いや、た、多分? いや、狼、狼だから!』

 

 自信なさげなので恐らく適当言ったと思われる。

『うるせえ! 良いんだよ、狼だよ、犬なんだから、きっと!』

 そんなことを言いつつ目はウルウルしてる銀さんマジラブリー。

 

「ぎーんちゃーん!」

 

 と、そんな時、後ろから投げかけられる声。

 振り返れば、そこに小学生くらいの女の子がいて。

 学校帰りだろうか、ランドセルを背負っている。

 

「ぎんちゃん!」

「キャンキャン!」

『お嬢! 帰ったのか、学校どうだった? 苛められてないか? 帰り道で怪我は?』

「あはは、ぎんちゃんくすぐったいよ」

 少女の姿が見えた瞬間、まっしぐら走っていき少女の頬を舐めるお犬様とくすぐったそうに笑みを浮かべる少女…………尊い。

「あ、そーだ! 今日もお母さんからいっぱいお肉もらってくるからね、待ってて!」

「きゃうーん…………きゃう」

『お嬢そのことなんだがな…………実はオレ、もうお肉は…………』

「元気無くなっちゃった…………お肉が待ち遠しいのかな? 今日は山盛にしてもらうね?」

「きゃん! きゃんきゃん! きゃうーん!!」

『違うのお嬢、お嬢聞いて! お願いだから! 逆だから、減らして!』

「あはは、銀ちゃんはしゃいでる、そんなにお肉が嬉しいんだね、すぐ持ってくるから良い子で待っててね?」

「きゃいーん! きゃうーん!」

『違うんだお嬢、お嬢、おじょおおおおおおおお!!!?』

 

 感動的だあ。思わず涙がホロリ。

 

「ところで銀さん」

『あ? なんだよ』

「ボクって猫派なんだけど、猫って可愛いと思わない?」

『知らねえよ!!!!!』

 

 

 




キャラ紹介

『銀さん』

お犬様。現在十歳くらい。職業自宅警備員兼愛玩動物。飼い主の少女にデレデレの人間換算四十か五十くらいのオッサン。意思伝達能力を持っている。いわゆるテレパシー。ただ超能力のせいかのか、それとも単純に年齢のお蔭か、人並みの思考と理性を持っている。それをひっくるめ、言語能力と言ったほうが正しいんじゃないか、とボクに言われている。
飼い主から与えられる餌が肉一択のせいで、最近胃がもたれてきてるのが悩み。


次回>>『オタちゃん』

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