この世界では存外超能力がありふれています   作:水代

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『僕』

 

 

 ――――――――少し昔の話をしよう。

 

 

 

 眠い。

 

 一年前もきっと僕はそんなことを考えていたはずだ。

 まるっきり成長していない、否、今となってはむしろ我慢を止めた分、劣化しているような気分すら覚えるが。

 

 高校生と言う年頃なら誰だって一度はあるのではないだろうか。

 

 日曜日に徹夜で遊んでしまい、月曜日が辛い、なんて経験。

 

 まあ僕は一度どころかほぼ毎週そんな感じなのだが。

 

 眠かった。とかく眠かった。

 

 瞼を開こうと懸命に努力をするが、けれどそれは夢の中の話。

 脳はそのまま至福の二度寝を始めようと意識を暗転させていき。

 

 pipipipipipipipipipipipipi

 

 けたたましい目覚ましの音が自室中に鳴り響く。

 再び浮上した意識。けれど強烈な眠気に体は動かない。

 

 うっすらと瞼を開けば、太陽はすでに空高く浮き上がってきており、窓のカーテンの隙間から差し込んできた陽光が僕の視界を眩く照らす。

 あー、だとか、うーだとか。ゾンビのようなうめき声を上げながら、もぞもぞと布団の中で蠢く。

 体をひっくり返し、うつ伏せになる。そのままもぞもぞと這いずるように体を動かしながら手を伸ばし。

 

 かつん、と目覚まし時計に指先が当たり、けれどそのままの勢いで目覚まし時計が倒れる。

 

 けたたましい電子音に頭を痛めながら、手を伸ばし…………けれどそこで力尽きる。

 あと一歩の距離。それが縮まらない永遠の距離にも思えた。

 

 面倒くさい、気怠い。

 

 今から布団から抜け出して、目覚まし時計を止めて、着替えて学校に。そう考えれば考えるほど、相反する思いが沸きだし、心の重みとなって僕を布団に縫いとめる。

 

 ぼんやりとした目で未だに鳴りやまない目覚まし時計を見る。

 

 ちっく、たっく、と時計の針は正確に時間を刻んでいく。

 

 …………まればいいのに。

 

 このまま。

 

 “時間が止まればいいのに”

 

 そう願った瞬間。

 

 けたたましい電子音が鳴りやむ。

 

 微睡に堕ちようとする意識を縫いとめるものが無くなった瞬間、一気に沸き出た睡魔に襲われ……………………。

 

 

 目を覚ます。

 霞がかった意識の中で、ふと眠る直前のことを思い出して…………。

 がばり、と布団から勢い良く起き上がる。

 

 完全に遅刻だ!!

 

 二度寝してしまった事実に背筋が凍る。

 

 今何時だ!?

 

 そんな疑問に目覚まし時計を見やり。

 

 瞬間。

 

 pipipipipipipipipipipipipi

 

 けたたましい電子音が()()鳴りだす。

 

 ……………………?

 

 時間を見る。目覚まし時計の針は先ほど二度寝する直前と同じ時刻を差していた。

 

 

 * * *

 

 

 あまりにもくだらないのだが。

 まあ切欠と呼ばれるものがあるのならば、きっとソレだったのだろう。

 超能力、そうとでも呼ぶべき不思議な力を僕が手に入れたのは。

 

 超能力…………人によっては魔法とか呼び方は色々あるのだが。

 

 とにかく、普通じゃあり得ないような不可思議な能力の総称として僕は使っている。

 本来の意味での超能力は意外と枠が狭いので当てはまらないが、この呼び方を気に入っている超能力者は存外多い。

 

 そう、この世界には超能力者と呼ばれる超能力を扱う存在が多くいる。

 

 僕自身、超能力に目覚めるまでそんなもの空想の産物でしかないと思っていたが。

 どうやらこの世界では存外超能力がありふれているようだった。

 

 まあつまりここから先に語られる話は、そんな僕たち超能力者のなんてことはないありふれた日常の一ページだ。

 

 異能バトルだとか、非日常への入門だとか。そんなものは一切無い。

 

 なんてことはない。結局この世界は動かしているのは超能力なんて怪しげで胡散臭いものでは無い、ただの人間である、それだけの話なのだから。

 

 ただ普通の人よりちょっと便利な力を手に入れた僕たちの詰まらなくて退屈な日常の一幕。

 

 楽しんでいただけるなら、幸いだ。

 

 

 * * *

 

 

 昔から相も変わらずけたたましい目覚まし時計の音で目を覚ます。

 布団からにゅっと手を伸ばし、目覚ましを止める。

 寝ぼけた眼で時間をみやれば、午前八時。もうあと一時間もしない内に学校が始まる。

 今から起きてすぐに登校すれば間に合うと言った程度の時間。

 

「……………………あと三時間」

 

 三時間も二度寝していたら完全に遅刻なのだが、気にせずに時計の隣に置いた()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてそのままスタートボタンを押して。

 

 S T O P

 

「…………おやすみなさい」

 

 意識は再び眠りについた。

 

 

 目を覚ました時、タイマーの残り時間が15分となっていた。

「ふ…………ああ…………ほわあ…………」

 二度、三度と欠伸を漏らしながら、布団から起き上がる。

 時計を見やる、午前八時。今日も一日が始まる。

 

 布団を片づけ、机の上に投げられた教科書類を鞄に詰めていく。

 服を制服へと着替えると、部屋を出て一階へと降りる。

 ぼさぼさに跳ねた髪を適当に整えながら、コップ片手に薬缶を傾けて…………。

「あ、出ないんだった」

 百八十度回転させようと中身の零れない薬缶とコップを元の場所に戻し、冷蔵庫からビニールに包装された百円くらいで売ってそうなパンとジュースのペットボトルを鞄に放り込む。

 玄関で靴を履き替え、そうして玄関の扉へと手をかけて。

 

 R E S T A R T

 

 pipipipipi

 

 タイマーが鳴り響き、世界に音が戻ってくる。

 

「いってきます」

 

 扉を開くと朝日が燦然と輝いていた。

 

 時刻は八時ちょうど。

 

 今から登校すれば余裕で間に合いそうだった。

 

 

 

 




キャラ紹介

『僕』

まあいわゆる普通に勉強が嫌いで、普通にゲームが好きで、ちょっと熱中して徹夜しちゃう、普通の高校生。
能力は“時間停止”。なんかかなりすごい能力のように見えるけど、睡眠確保ぐらいにしか使われてない。携帯型のタイマーを使って意識的に能力のオンオフを作っている。


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