これ以上伸びなくて良いから。
トガヒミコから勧誘?された翌日の休日。
八木さんからの連絡もないのでブローカーとやらの対策をどうしようか考えながら昼の散歩に出かけてみた。
道中面白かったのは色々な所で「一家に一個!フラッシュライト!これでヴィランも撃退だッ!」ってポップを、持ち手の長い黒い懐中電灯の上に添えてあった事。商品一つ売るのもアイディアだなぁ、と。少なくとも
今はその帰り道、公園にあったアイスの移動販売の車で髪の毛が氷で出来たおっさんから買ったソフトクリームを食べながらベンチに座ってネットでフラッシュライトの情報を見てみる。
【悲報】まさかの殺人【夜のヒーロー/ヴィラン】
うん・・・うん?フラッシュライト専用になりつつある【夜のヒーロー/ヴィラン】のスレッドに見逃せない文字が。殺人?俺が?確かに人殺しは見逃したけど、どういうこった?
スレッドには女性の顔写真と、一般市民が夜の街で遺体となって発見された事が新聞に掲載されていた事とその一面の画像。フラッシュライト何してん?仕事しろよ。失望しましたフラッシュライトのファン辞めます。等々、ネタポイ書き込みが多く目についた。
色々と言いたい事がある。
これは罠だ!ブローカーとやらが
つーか最後の奴よぉ、あんな時間に出歩くなんて自業自得だろ。まして仕事でやってんじゃないんだよ、趣味みたいなもんだよ。とか。
なんでヴィランのファンやってるんですかねぇ。とか。
うーん、新聞に載ったって事はヒーロー達もガチで捕まえに来るって事だよな。水面下でブローカーとやらが邪魔もしてきてるだろうし・・・人気者になって動きづらくなってきた感じだなぁハッハッハ・・・はぁ。
「お前は、確か・・・・・・」
そんな声がすぐ近くから聞こえたもので、声がした方を振り向くと髪がちょうど真ん中で白と赤に分けられ、向かって右、彼からしたら左の赤髪の下に見える眼の付近にケロイドが目立つ少年が立っていた。
「その髪、轟先生の弟さん」
「アイス、溶けてんぞ。ほら」
たしか、轟シュート君。彼が右手を突き出し、俺の持っているアイスに向けて・・・手の平からキラキラ光る何かを出した。え、なにこれこわい。
「俺の個性で凍らせた。とは言っても軽くで、食べれるくらいにだ」
「・・・・・・マジか!何その個性カッコいいし便利だな!俺なんて全身光るだけだぞ!」
いいな、氷。ピンキリだけどアイスの移動販売のおっちゃんもそんな感じの個性なのかね。俺も冷たくなる系個性ならアイスを子供達に配って、笑顔を・・・所詮光るだけだよチクショウ。
「おう、夜目が覚めた時とか物探すときとか便利そうだな」
「やだ、そんなこと始めて言われた」
「そうか?・・・ところで、ここでアイス溶かして何してたんだ」
「あー、一言でいえば・・・趣味が行き詰ったって所かな。ここまま続けられんのかなーって感じ」
とは言っても続けるのは心の中で決まってるんだけど尻込みしてる所。少し様子見るか?
「なんで。続けりゃいいだろ」
「あ、そう思う?なら続けるかなー」
「・・・いや、言っておいてなんだが。そんなので決めていいのか?ほぼ初対面の相手に言われた程度で」
なんでそんなほぼ初対面の相手をそんな呆れた顔で見れるんですかね轟君は。
「いいのいいの、誰かに背中押して貰うの待ってたようなもんだし・・・よし!アイスを奢ってやろう!」
「・・・奢られてやろう」
立ち上がって財布の中身をチェックし「何味がいいよ」「ミント」即答ですか轟さん。ミントしか食べない人ですか轟さん。
アイスのミント味と自分が飲むようのスポドリを持ってベンチへ戻り、俺と入れ違いでベンチに座った轟君にアイスを渡して隣に座る。
「アイス屋のおっちゃん、団扇で扇いだら冷風になる個性だってさ。団扇じゃなきゃだめらしい、職人みたいだな」
ほらこう・・・駄目だ、酢飯冷ますシーンしか思い浮かばねぇ。
「・・・アイス職人ってなんだよ」
「なんだろうか。でも、普通に良い個性だよなぁ。仕事に繋げられる個性って良いなぁ」
「お前も十分役に立つだろ」
「例えばどんなよ」
「灯台」
「待って、俺轟君に何かした?嫌われるような事したっけ?」
就職先が灯台ってなんだ?転職する時「以前は灯台で働いていました」って言って採用されないんじゃないかな。
「いや、なんか気に障ったなら謝る」
「いや別に怒ってるとかじゃないから気にしなくていい。灯台ってなんだよってなっただけだから」
少し項垂れる俺と「灯台、いいと思ったんだが」と呟いてる轟君。いや、ちょっと予想外過ぎて。上げて落とされた感がね、ほら、ね?
チラッと顔を動かして轟君の顔を見る。真顔だが少し焦っている様な雰囲気を感じるが、俺が注目したのはその目の奥。
トガヒミコは例外として、目を見れば大体は分かるようになってしまった事からの弊害か。目が曇ってんよ轟君、俺みたいに。
具体的に言うと復讐したがってるマン。多分そんな感じ。
で、曇ってるのは・・・多分それ以外に何かある。キッカケとかだと思う。
あんま他人の事情に首突っ込む気無いけど背中押してくれたからなー。
「なあ轟君。なんかやりたい事とかない?」
「やりたい事?」
「やりたい事ってかしたい事。今日暇なんだよね、だからなんでもいいからアイディアでも欲しいなーって思ってさ」
俺の言葉に本気で「やりたい事・・・ねぇ」と顎に手を当てて考え始めた轟君。
いや、いいか。触らぬ神になんとやら。なんか言って来たらしっかり答えてあげるとしよう。
「・・・バイクに乗ってみたいとは思う」
「これまた唐突。ゲーセンにあったっけな、バイクのレースゲー」
「行って見るか」
轟君が立ち上がり、「で、ゲーセン、どこあるんだ」とか聞いてくる。なんというか、何だろうなぁ。普通に良い子やん、なんでこんな子に友達あんまりいないとか轟先生は言ったのだろうか。あれか?親友が一人いればいいってタイプなのか轟君。
よろしい、ならば俺が悪友になってやろうじゃないか!
まずはそうだな、悪友らしく夜遅くまで遊び回るところから始めるか。
普通にいい子だと思うんですよね、轟君。
色々考えながら書いてたらなんか友達になってたでござる。
当初の予定とズレまくってる星遠君。どうなるのだろうか、心配です。