八木さんと話して、別れてから。色々と考える。
俺は、ヒーローになれるのだろうか。と。
ヴィランだと自分に言い聞かせて固執しているのかもしれない。と。
あの日。ヒーローを目指した事。
ヒーローに幻滅した事。
下準備を始めた事。
玄関から一歩踏み出すのにどれだけの時間をかけたか、よく覚えている。
初めてチンピラをぶっ倒した時の、もう俺はヴィランなんだな。という後悔と覚悟の入り混じった思い。
知人から背中を押してもらった事。
本物からの取引に応じて引退しようとした事。
友人のヒーローになった所を見てみたいと思った感情。
今、自分をなんとかしようとしている大人がいる事。
そして、夏が来る。
というか来たわけだが、
「まあ本気出した俺に解けない問題は無いさ!」
なんせ俺って特徴の無いように平均点を取る様に心がけてテストを受けて来たからな。平凡な会社に就職してフラッシュライトとして活動するためにな!
「採点した結果、七十五点・・・雄英過去問的には普通だな」
「四分の一解けなかったよ!これが俺の実力だったのか・・・」
「基礎はまぁ、出来てるな。数学の応用が苦手なんだな」
「文系なんですぅ、分子配列とか分からないんですぅ!」
「・・・科学は出来てるぞ。代わりに歴史系がズタボロだな」
「・・・・・・なんでや、なんでなんや。俺は一体なんなんや・・・」
「多分数学は少し頑張れば何とかなるだろう。歴史は・・・ほどほどに諦めろ」
「匙投げられた、そして俺は理系だった?」
「どっちでもないんだろう」
「物凄く解せぬ。さーて見直ししまっせ、数学どこ間違えたよ」
約束通り轟君が勉強見てくれてます。良い奴やでホンマ。
どこで勉強してるかって?轟ハウス。スゲー和風で大きくて極道かな?とちょっとビビったのは内緒な!
「ま、勉強しますか」
「分からない所があれば聞いてくれ」
「じゃ一つ質問、親父さん何してんの?」
「・・・ヒーローだ、エンデヴァー」
「え?それマジで・・・道理で家がデカいわけだ」
反応が芳しくない、多分ここが轟君の目が濁る所なんだろう。
しっかし、エンデヴァーか。炎使いと顔の左にある火傷がなんか関係してんのかね・・・よーわからんけど触れない方が良さげだな。お母さんも見かけなかったしスルーしておこう。
「轟君今なにやってるん?」
「・・・推薦が九月頭にあるから再確認だな」
「ちなみに過去問正答率どれくらい?」
「九割。調子良ければ五分いくな」
「全教科?」と聞くとあっさり「全教科」と返された。
何この子凄い。いやまあ高校入試だし頑張れば九割取れるのかな?
「まずは歴史だろ。応用はやれば身につくからしっかり歴史を覚えておけ」
「オーライ、言われた通りにさせていただきます先生」
ちょっと急いで後ろを振り向いたけど誰もいなくてホッとした。もしかしたら冬美先生がいるのかもしれないと焦ったわ。
「姉さんなら学校だ。夏休み中の街内巡回の会議、だったか」
「家と学校が近いのも考え物だって事が分かったわ」
その後も勉強会が続き、終わる頃には八割取れる様にはなったけど体と同じだ、練習し続けなければ鈍る。
「これを維持しつつレベルを上げられれば合格は確実じゃねぇか」とお墨付きも貰ったので頑張っていこー。
勉強会(二人)を終えてから三日。
勉強の合間の息抜きに動画で見た型稽古ってのをやっているとペットボトルとタオルと一緒に置いていた携帯電話が着信音を響かせた。この着信音は、八木さんかぁ・・・
「はいもしもし、星遠ですが」
『今電話しても大丈夫かい?』
「ええ、問題ないですよ。もしかして、例の件ですか?」
『その通りさ。二日後って空いてるかい?』
「問題ないですよ。どこ行けばいいですか?」
『そうだね、朝十時にいつもの海浜公園で待っていてくれれば迎えに行くよ』
「分かりました、待機しておきます」
・・・・・・二日、何して待ってよ。勉強して修行してフラッシュライトして時間潰すか。
何てことしてたらあっという間に二日が経過して約束の日。
テスト結果はあまり変わらず、体の方も変わらず。
今日も元気に海浜公園に、徒歩で来た。
「緑谷じゃないか、オッスオッス」
「お、おはよう。今日は早いね星遠君」
「さっきコンビニでスポドリ買ったけどいる?」
「ううん、大丈夫。で、どうかしたの?」
「八木さんに呼び出されてなー、良く分からんけど」
嘘をつくことに慣れてしまった少し悲しい。なんか気が付いたらさらっと嘘ついてんだもん、凹むわ。
無意識に自己保身するのは嫌だけど嘘付かなきゃ通報されるかもしれないしなぁ。無意識ってスゲーな!
「緑谷もはかどってる?」
「どうなんだろ、まだ半分も行ってないから夏休みでどこまでやれるかな」
「頑張れ緑谷応戦してるぞ!これ終わったらなんか飯奢るぞ緑谷!」
そう応援すると「じゃあ頑張らなきゃ」と言ってゴミ山に向かって行った。何がいいかな、やっぱり焼き肉かな?
とか考えていると後ろから「お待たせ星遠君!私が来た!」と肩を叩かれた。
「お久しぶりです八木さん、マッチョモードじゃないのにそのセリフは身バレするかと」
「いやー、皆ただのファンの一人だと思うみたいでね!」
「マッチョに憧れるガリガリ、みたいな感じですね分かります」
「いや、まぁ、うん・・・改めて他人から言われるとキツいものがあるね!」
「元気ッスね八木さん。ま、行きましょう?時間あんまりない印象ですけど?」
「そうだね、急いで行こうか!緑谷君!後でまた来るからね!」
八木さんがシュタッと手を上げるとゴミ山の中から手が上がった。待って、中からゴミ探してんの?大丈夫?崩れない?
いつも海浜公園に停められている軽トラに乗ってドナドナされていくと、そこは雄英でした。うん、普通に雄英待ち合わせで良かったんじゃないかな?
校門で来賓って書かれたプレートを受け取って・・・おもっくそ私服何ですが良いんですかね。と内心ビクビクしながら八木さんの後をついて行く。
八木さんが校長室と書かれたプレートのあるドアをノックして名乗ると「入っていいよー」と軽い声が返って来たので「失礼します」とドアを開けて入って行った八木さんに続いて「失礼します」と言葉を添えてついて行く。
その先にいたのは、何だろう。ダブルのベストを着た一メートルない二足歩行の・・・なんだ?よく見たら右顔、額?から右目の上を通って頬まで斜めに入った傷跡があるから猛者なのか。
「まさか、校長先生・・・?」
「YES!ネズミなのか犬なのか。かくして正体は―――」
溜めて溜めてからの、
「校長さ!」
結局どっちなのか教えてくれないのね。もう校長って生物なのね・・・雄英スゲェ。
またも揺らぐ星遠マインド。
勉強会だよ、全員集合!
お呼び出しからの何だこの生物!
次回面接ッスね。