やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
出来る限り定期更新していきたいです。
では、どうぞ。
空閑遊真
迅さんに誘われたボーダーでのネイバー遠征組みとの訓練は無事に終わった。俺としては次の遠征を狙っているので、A級トップ3と戦えたのはかなりの収穫だった。
情報は自分なりに集めていたが、やっぱり直接戦うとデータと少し差異があった。
これを修正して次回の遠征選抜試験に臨みたいと思っている。
「……ふぁ~……それにしても眠い……」
遠征部隊との戦闘と試作トリガーのレポートを書いたり、材木座が書いた小説を読んだりした所為で寝不足だ。
材木座の小説は表現がかなり下手なので内容がイマイチ頭に入ってこなかった。あれで小説家を目指そうとか言えたな。
まあ、材木座にはこれでもかと言うくらいに批評しておいたからな。落ち込んでいるあいつを見るとくだらない小説をよく最後まで読んだ自分を褒めたくなる。
俺は久し振りに自転車で学校に向かっていた。ここ最近はずっと歩いていたからな。信号が赤で青になるの待っていると、視界の隅に『白』が現れた。
最初は犬かと思ったが違った。その『白』は人だった。
三門第三中学の制服を着た男子だった。それにしても髪が中学で全部白に染まるとかどうなっているんだ?
もしかして外国人なのか?そんな事を考えているとそいつが信号が赤なのに横断歩道を歩こうとした。
こいつはアホか!!俺はすぐにそいつの肩を掴んで止めた。車が通っていなくて良かった。
「何?おれ急いでいるんだけど」
「いや、急いでいるのはなんとなくだが分かる。でもな、信号無視はするなよ。死ぬぞ」
「……?……ああ、『赤』は止まれだった」
白髪のチビはどうして自分が止められたのか分かっていなかったようだ。信号どころか『赤』が止まれだと分かっていなかった。
どんな国に住んでいたんだよ?信号機がないとかサバンナか?
まあ、それは置いておくとして、これからどうするかだな。このまま放っておくと事故に遭いそうだな。仕方ない、送るか。
「後ろに乗れ。送ってやる」
「……いいのか?送ってくれて」
「このままお前を放置しておくと事故に遭いそうだからな。そんな事になると後味が悪いからな」
「お前じゃないよ、ユーマだよ。空閑遊真。……それにしても『それ』倒れたりしないよな?」
空閑って言うのか。空閑は俺が乗っている自転車を指差していた。自転車も見たこと無いのか?ホント、どこから来たんだよ。
「安心しろ。余程の事が無い限り倒れる事は無い」
「そうか。それじゃ頼む」
空閑は自転車の後ろに跨った。それにしても改めて見ると背が異様に低いな。ホントに中学生か?
「それじゃ行くぞ」
「おお?!走っている!走っている!こんな転びそうな乗り物なのに」
「肩に手を置いてくれ。バランスを崩して落ちるかもしれないからな」
「うむ。こうか?」
空閑は手を肩に置いてきた。俺は自転車を走らせて空閑の目的地である第三中学に向けて出発した。
数分後、目的地の三門第三中学校に着いた。空閑は自転車から降りて頭を下げてきた。
「ありがとう。おれだけだったら時間に間に合わなかった」
「それはどういたしまして。それとな空閑、年上には敬語を使って、『さん』か『先輩』を付けろ。それが出来ないと上下関係で苦労するぞ」
「うむ。そうか。だが、おれは先輩の名前を知らないぞ?」
そう言えば、まだ名乗ってなかった。ここだけの出会いだから別にいいと思うが、向こうは名乗ったからな。俺も名乗っておくか。
「……比企谷だ。比企谷八幡」
「そうか。はちまん先輩」
「……お前もいきなり名前かよ。まあ、『先輩』を付けているからいいか」
鶴見といい、空閑といい、どうして年下は俺の事を名前で呼ぶんだ?俺って、名前が呼び易い人間なのか?
「改めて、ありがとう。はちまん先輩」
「ああ。もう信号は無視するなよ。それとその黒い指輪は取った方がいいぞ。学校じゃそういうアクセサリーは没収されるからな」
「そうなのか?それは困った」
俺が空閑の黒い指輪の事を指摘すると困ったような顔した。大切なものなのか?
「外すと何か不味いのか?それ」
「外せないんだ。それにこれは親父の形見なんだ」
親父の形見か。教師にそう言った所で信じてはもらえないだろうな。
「だったらその指輪は魔除けの指輪とでも言ってみろ。効くかどうかは分からないが、少しは没収するのを躊躇うだろう」
「そうか。ならそう言ってみる」
時間を確認したら結構経っていた。今からだと一時間目の途中になってしまうな。
ボーダーを言い訳にしよう。よし、そうしよう。
「それじゃな空閑」
「うむ。またな、はちまん先輩」
俺は空閑に別れを言って、総武高に向けて自転車をこぎ出した。
「……はちまん先輩はいい人だったな」
『そうだな、ユーマ。兎に角、早く学校に入ろう』
「そうだな。レプリカ」
後ろから空閑が誰かと会話していたので振り返ってみたが、そこには空閑以外誰も居なかった。
あれ?空閑が誰かと話していたように聞こえたんだがな。気のせいか?
まあ、いいか。急いで総武高に向かわないとな。
この時、空閑と話していた人物が誰なのかを知ったのはもう少し後の事だ。
空閑を三門第三中学に送り届けていたら俺が総武高に着いたのが一時間目の丁度、中ほどだった。
俺は前の方のドアから教室に入った。入れば、注目されるのだから前からだろうと後ろだろうと関係ないが、やっぱり注目されるのは嫌だ!
「……すいません。ボーダー関係で遅れました」
「そうか。それじゃ席に着いてくれ。途中だけど、大丈夫か」
「はい。大丈夫です。確か現国は平塚先生だったと思うのですが?」
今は現国なのに平塚先生ではなく、別の先生がしていた。
「……平塚先生は諸事情で教師を辞めてしまったんだ」
「そうだったんですか。答えてくれてありがとうございます。席に着きます」
まあ、平塚先生が教師を辞めたのは知っていたんだけどな。俺が平塚先生と雪ノ下が計画していた「強姦未遂」を仕掛けようとしていた事を教育委員会に密告したからだ。
すぐに教育委員会は平塚先生を調査して「強姦未遂」を計画していた事が事実だと判明して教員免許を剥奪されて、総武高を辞めさせられた。
今まで様々な問題を起こした平塚先生を総武高に留めておくとPTAなどから苦情が来そうだったからだ。
学校側は平塚先生を辞めさせるより、自分から辞めた事にした。その方が印象がまるで違う。
「……これで少しは平和になるな」
平塚先生が居ないだけで俺の平穏は安泰だ。俺が奉仕部に行く前の状態に戻っていないな。あの時とは違う事がある。
俺がボーダー隊員だとバレている事だ。まあ、それでも積極的に話しかけようとして来る人間は少ない。
まあ、それで困った事にはならないから別に構わない。
それから何事も無く午前の授業は終わった。ただ、由比ヶ浜と葉山が俺をたまにチラ見してきていたが、無視した。どうせ、昼休憩になったら向こうからやってくるだろう。ほら来た。
「……ヒキタニ君。少し話がある一緒に来てくれないか?」
「『来てくれないか』?……『来い』の間違いだろ?葉山。まだ、飯を食べてないんだ。飯を食べてからじゃ駄目か?」
「今すぐ、話しておかないといけない事だ。時間は取らせないつもりだ」
クラスメイト全員が俺と葉山を見ている。そして海老名が鼻を押さえながら悶えていた。生憎とお前好みの展開にはならいぞ。海老名!!
何について話すかは大体予想がつくから別にいいか。
「……わかった。それでお前の気が済むなら」
俺は葉山について行き校舎裏に来た。あれ?以前にも似たような事があったな。あの時は由比ヶ浜だったな。
校舎裏に着いてすぐ葉山は俺を睨み付けて来た。
「……平塚先生が辞めたのは君が関わっているんじゃないのかい?」
「……はぁ~葉山。何でもかんでも俺の所為にするなよな」
「だが!平塚先生が急に辞めるなんて可笑しいだろ?それに雪ノ下さんが今日から2週間ほど、自宅謹慎になっているんだ。この二つが無関係だとは思えない。君は何か知っているんじゃないのか!!」
葉山の大声は周りによく響いた。まあ、葉山ごときの怒鳴り声で臆したりはしない。そもそも俺には葉山の怒りがまったく理解出来なかった。
平塚先生が教師を辞めようが雪ノ下が自宅謹慎なろうが、葉山には関係の無い事のはずだ。
「それで?葉山は俺から仮に真実を聞いたとしてそれを全部信じられるのか?」
「……真実だと!?やっぱり君が!!」
「仮にって言っただろうが!話は最後まで聞け!!」
葉山は何か言いたそうにしたが、言葉を飲み込んだ。漸く聞く気になったか。
「葉山。お前には雪ノ下雪乃と平塚静の悪意を聞く勇気があるか?」
「……二人の悪意?君は何を言っているんだ?雪ノ下さんや平塚先生が人に悪意を向けるわけないだろ!」
こいつの自信はどこから来ているのか知り……たくはないな。俺はスマホを操作して録音した二人の声を聞かせた。
『……それで平塚先生。具体的はどうやって、あの愚図谷君を学校から追い出すのですか?』
『初めに雪ノ下が比企谷を奉仕部の部室に呼び出す。そこに奴を私が殴って気絶させて、警察に連絡して「雪ノ下が襲われかけていたので殴って気絶させた」と私が警察に説明する』
『……なるほど、彼に「強姦未遂」を装うのですね?そうすれば、彼は学校どころかボーダーにすら居られなくなる。私は葉山弁護士に頼んで彼の罪が重くなるように掛け合ってみます』
『ああ、そうしてくれ。これで我々の平和が来ると言うものだ』
『ええ、本当にそうですね。あの男ほどこの世界にいらないゴミはありません』
ホント、聞いていると人格を疑いたくなる内容だな。平塚せ……じゃなく平塚静はあれでも教師なのか?雪ノ下は自称『完璧超人』と言っておきながら器の小さい人間だな。
「……そんな、雪乃ちゃんが……嘘だ!そんな事、ありえない!!」
葉山はどうあっても認めないらしい。まあ、無理もないか。
「嘘じゃない。これが人の本当の悪意だよ。葉山」
「き、君が声を録音して編集したんじゃないのか!!」
「……どうして俺がそんな事をしないといけない?」
まあ、葉山が簡単に認めるとは思っていないがな。そもそも葉山はある事に気がついていない。
「ちょ、ちょっと待てよ!……もしこれが本当にあった会話なら君はこの声をどうやって録音したんだい?近くにいないと声は録音できないはずだ!まさか、君は……」
「やっと気がついたか。でもな葉山、それを知って周りに言うと、お前は録音した内容を知られる事になるんだぞ?それでもいいのか?」
「そ、それは……」
雪ノ下家と学校側が折角、穏便にした事を公けにしては周りの無駄の努力になってしまう。葉山はそれに気がついたのか、それ以上俺に追求してこなかった。葉山らしい賢い選択だと思うな。
それにどう足掻いても全ては手遅れなんだよ、葉山。
葉山は俺を睨んでから教室に戻って行った。俺は悔しそうにしている葉山を見てから教室に戻った。