やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
葉山隊と雪ノ下隊の防衛任務の時に葉山から相談があると言ってきたので話だけ聞く事にしたのだが、これまた面倒な事になってしまった。
相談と言うのが『戸部が修学旅行で海老名に告白するから失敗しないように協力してくれ』というものだった。
それを聞いた瞬間、俺は葉山と戸部の事をアホかと思った。そもそも相思相愛でない限り告白が100%成功する訳がない。
葉山も戸部はそれがまったくと言っていいほど、分かっていない。
それに可笑しな事がある。葉山がどうして戸部の告白の協力者に俺を選んだか、それが気になってしょうがない。
俺が恋愛豊富に見えたんだろうか?それだったら万年モテ期の葉山の方が比べるまでも無くいいに決まっている。
それだと言うのに戸部を俺の所まで連れてきて相談させた。葉山グループの事だから部外者である俺に相談に来たのがどうしても疑問だった。
しかも今日、二人目の相談者が俺の目の前に居る。
出水や米屋とソロ戦でポイントでも稼ごうかなとブースに向かっていると後ろから声を掛けられたので振り向いて見るとそこには戸部が告白しようとしている人物である、海老名姫菜が居た。
一先ず俺はブースではなくラウンジで話を聞く事にした。今更比企谷隊の作戦室で聞くのは面倒臭かった。
俺の正面に座った海老名は視線を少し下に向けているだけで話してこなかった。
「……なあ、話す気が無いならもう行ってもいいか?」
「ま、待って!……その、戸部っちの事なんだけど……」
やっぱりかと俺は思った。葉山と戸部が帰った後に狙ったように現れたからそうではないかと思っていたが、本当に当たるとはな。
どう言ったらいいのか……素直に俺の所に来て相談してきた事を言った方がいいのか?
言うか。その方がいいだろう。
「ああ、戸部なら葉山と一緒に俺の所にきて相談してきたよ。『修学旅行で告白するから失敗しないように協力してくれ』ってな。返事は一応、保留にしてあるけど、俺は協力する気は最初から無い」
「ど、どうして?」
「だって、俺の何のメリットがあるんだ?それに失敗した時に俺に責任を押し付けられそうだしな。だから断るつもりだ」
「そっか……そうだよね、やっぱり……」
どこか沈んだような表情を見せてくる奴だな。そんなに構ってほしいのか?生憎と俺にはもう彼女がいるし、それに好意を寄せて来る女子がいるからな。
それにしても葉山といい、海老名といい。グループの問題なのにどうして部外者である俺に相談しようと思ったんだ?
もしかして千葉村での事を知っているからか?俺が鶴見に提案したような案を求めているのか?
「……ホント、都合のいい奴だと思われているんだな、俺」
「そ、そんな事、思っていなよ!!」
「どうだか?だったらどうして俺の所に来た?それに海老名は戸部が自分に告白する事を知っているから俺に相談に来たんだよな?でなきゃわざわざ来ないよな」
「それは……」
海老名は下に視線を下げた。さっきからこれだ。
話が進まないなからいい加減にして欲しいな。ホント、どうして俺のクラスメイトは面倒な奴が多いんだろうか?
「それはともかく葉山や三浦に相談しなかったのか?」
「葉山君には相談したけど、優美子にはまだ……」
「葉山に相談したのに何もしなかったのか?」
「……その、あんまり乗り気じゃなくて……」
三浦には相談して無くて葉山にはしたが、あまり乗り気ではない。もしかして俺の所に来たのはこれの所為か?
自分一人では対処出来ないから俺を巻き込んだ?
「だったら告白を受けてやれよ。なるようになるだろう」
「で、でも!それすると今のグループが……」
もし仮に戸部の告白を海老名が受けて付き合うようになれば葉山グループの関係は激変する。グループの付き合いが減っていきグループの崩壊に繋がる。
それが嫌で俺を頼ってきた。どうして総武には自己中ヤローが多いんだろうか。
それに葉山は自分達のグループの問題を他の人間である俺に丸投げしないで欲しいな。これは断る方が吉なのか?いや、これを上手く利用した方がいいな。
「……俺の出す条件を呑めるなら戸部の告白阻止を考えてやっていい」
「ほ、本当!?」
「ああ、本当だ」
俺が何とかしてやると言うと海老名は先程の悲しげな表情から一変して安心して様な表情をしていた。
だからって、安心しすぎだと思うがな。
「……条件だが、俺の名字を二度と間違えない事とこれからはグループの問題に俺を関わらせない事だ。この二つが守れるならなんとかしてもいい」
「……うん、分かった。もし……守らなかったら……?」
「もう、その心配か?守れなかったら三浦に二人が戸部の告白の事で俺に相談にきた事を言う。三浦からしたらどうして自分ではなくグループ外の人間に相談して自分に相談しないのかと迫るだろうな。そうなれば葉山と海老名の二人から裏切られたと思って、そのままグループは崩壊するだろうな」
「…………」
海老名はその場面を想像したのか表情を強張らせて震え出した。まあ、あの三浦が裏切られて黙っているはずがない。
信頼しているグループのメンバー二人がまさか自分をおとし……ではなく散々やられた男に相談したとなればこれまでの関係は完全に壊れてしまう。
葉山も海老名の二人もそれだけは避けたいはずだ。三浦が裏切られて離れたとなれば誰も葉山と海老名を信頼しなくなってしまう。
そうなれば二人揃ってボッチになるからな。リア充の二人からしたらボッチ人生は最悪なものだろう。
「戸部の告白阻止の方法はしてくるまでに考えておくから海老名はいつも通りにしてくれればいい。断っておくが、葉山達に一切喋らないでくれよ。喋ったら三浦に全部話すから」
「……うん。分かった……ヒキタ……比企谷君」
海老名はそう言ってラウンジから出て行った。俺はその後ろ姿を見てから後ろの席を見た。
「……よお、盗み聞きとは趣味がいいとは言えないぞ。お前ら」
「うげ!?」
「バレた!?」
「あちゃ~バレた」
そこに居たのは出水、米屋、緑川の三人バカだった。
「それで、お前ら何でここに居るんだよ?」
「ハッチが来ないから探していたらメガネ女子と何か話しているのが見えたな。これは面白い事になると思って盗み聞きしてたんだ」
米屋があっさり俺の質問に答えた。それにしても来ないからって盗み聞きはよくないと思うぞ、お前ら。
「それで比企谷、さっきの女の子と何を話していたんだよ。もしかして恋愛相談か?」
出水はニヤケ顔でこっちを見てきた。聞いていたのに今更聞いてくるな。しかも米屋も緑川もニヤケ顔をしているのが、妙にイラつくな。
「……実はな……」
俺は三人に全部話した。
葉山から戸部の修学旅行での告白の手伝いと海老名からの告白阻止のお願いを。
最初に出水が俺に話しかけた。
「なんだか、面倒臭い事になったな。比企谷」
「まあな。でもこれを利用しない訳にはいかないからな」
「で?何か案はあるのか?」
「ああ、二つある。一つ目は俺が戸部が告白する前に海老名に嘘告白して『今は誰とも付き合う気はない』と彼女が言えば戸部は今は告白する事はないだろう」
「でもよ、そんな事したら藍羽がキレるじゃないか?」
「……ああ、だからこれはやらない」
出水の言う通り、嘘告白なんてしたら浅葱がどれだけ怒るか。想像しただけで震えが止まらない。
だから嘘告白は絶対にしない。
「だったらどうするんだよ?ハッチ」
「だから二つ目だな」
次に米屋が聞いてきたので二つ目を聞かせる事にした。
「戸部が告白するのは三日目のホテルの林道だ。そこで告白する前に俺が電話して海老名が『今は趣味を優先したいから』と戸部に聞かせれば、告白を先送りにするだろう」
「おおぉ~なるほどな!」
米屋は声を上げて感心した。これなら海老名が告白を断らないし戸部も告白を修学旅行でする事もないだろう。
「でも、ハチ先輩。修学旅行の後で告白した時はどうするの?」
「その時は知らん!」
とりあえずは海老名の頼みを聞くだけだ。そうすれば俺に関わることはないからな。戸部が再び告白しようが俺には関係ない。
そのために条件にグループ関係を関わらせないと言ったのだから。
「ふ~ん……それじゃハチ先輩!ソロ戦しようよ!」
「ああ、そうだな。最近は文化祭で忙しかったからな。出水と米屋はどうするんだ?」
「久々に比企谷と戦いたいしな」
「ハッチと戦うのは楽しいからな。四人で総当りしようぜ!」
出水も米屋もまだ戦うらしい。俺としてもポイント稼げるから大勢でも全然いいけどな。
そう言えば、俺は葉山達が使うメイントリガーの事知らないな。まあ、別にいいか。
「あ!ヒッキー!いた!!」
四人でブースに向かっていると目の前から由比ヶ浜が大声で近付いて来た。いい加減、その『ヒッキー』呼びを辞めてほしい。
と、言っても聞きはしないだろう。何故なら由比ヶ浜だから。
それにしても出水達は腹を抑えて笑いを堪えていた。笑うなら思いっきり笑え!中途半端に笑われると逆にイラつく!
「……何の用だ?由比ヶ浜」
「え、えっと……その、ヒッキーに相談があるんだけど、いい?」
このパターンは戸部と海老名の事に違いない。どうしてどいつもこいつも俺に相談してくる?
俺は相談役ではないぞ!ここはすぐに離れないとな。
「いや、無理だ。これから出水達とソロ戦をするし、それが終わったら家に帰るからな」
「そ、それじゃソロ戦が終わって家に帰る前に聞いてよ」
「嫌だ!他を当たれ」
「なんでだし!?」
まったくこれだよ。断ればすぐに怒鳴り散らしてくる。
「どうして相談にのらなかっただけで怒鳴るんだ?それに相談なら葉山達にでもしたらどうなんだ?」
「そ、それは……」
由比ヶ浜は急に口篭もったという事は戸部と海老名の告白の事だと確定だな。
逃げるが吉だな。
「俺達は忙しいから、それじゃ!」
「あ、待ってよ!?」
俺は出水達とその場を逃げるように後にした。
「それにしてもあれで良かったのか?比企谷」
「良いんだよ。あいつは面倒事ばかり起こすからな。それよりも早くやるぞ」
「よしゃー!今日こそはハッチに勝ちこしてやるぜ!」
「オレだって負けないからね!」
由比ヶ浜から逃げてブースで四人で総当りを始めた。後で聞いたが、由比ヶ浜はあれから俺を探していたが、結局諦めて帰ったらしい。
ちなみに総当りは俺が勝って終わった。
楽しいはずの修学旅行がなんだか楽しみではなくなって来ている。それもこれも葉山グループの所為だ。
これを利用してなんとか俺の事を二度と頼らない様にしておきたい。