やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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雪ノ下陽乃

閉会式が終わったが、学生はまだ終わっていない。文化祭の片付けまでが文化祭なのだ。

そんな中生徒の間ではサボリを公認した相模やそれを注意しなかった雪ノ下、実行委員にまともに出て居ない平塚先生の悪口を言っている人間が段々増えてきた。

この三人に関しては自業自得なのでザマァ見ろと思っていると雪ノ下さんが俺に近付いて来た。

 

「ひゃっはろー!比企谷君♪」

 

「……どうも」

 

「もう!元気がないぞ。青少年!」

 

この人のテンションは絡みずらいな。これはあくまで俺の気持ちだから他の人からすれば接し易いのかもしれない。

それにしても由比ヶ浜と似た挨拶をしてきたよ。思わずバカと言いかけてしまった。

 

「……それで何か用ですか?雪ノ下さん」

 

「もう!陽乃かお義姉さんと言ってもいいんだよ」

 

「生憎とあいつと結婚する予定はありません。それに俺、もう彼女いますし」

 

「……へぇ……」

 

俺が彼女が居ると言った途端、周りの温度が五℃位下がった気がした。雪ノ下さんの眼力は周りの温度を下げる力があるのか?

マジで怖い……!!

 

「それでさ、比企谷君に聞きたい事があるんだけど」

 

「聞きたい事ですか?……何を聞きたいんですか?」

 

俺は一応警戒した。この人はどことなく警戒していないとまともに話す事が出来ないと思うからだ。

てか、さっきからこの人の目が怖い。二宮さんや三輪の睨みつけとは違う。

 

「比企谷君はさぁ、実行委員長ちゃんを見つけに行かなかったの?」

 

「俺は実行委員じゃないですから。それに見つけたとして相模が俺の説得で行くとは限らないでしょ」

 

「確かにそうだね!もし君が見つけられて説得するならどんな事を言うのかな?」

 

「もし……なんてそんなくだらない事を一々聞いて来ないで下さい。過ぎ去った事をグチグチと……雪ノ下さんって、思った以上に面倒臭い性格していますね」

 

雪ノ下さんは俺の言葉が相当気に入らないようで睨んできたよ。ホント、姉妹だな。

 

「次は俺からいいですか?」

 

「ん?何かな?」

 

「貴女は何がしたかったんですか?」

 

「……質問の意図が分からないな~」

 

はぐらかしてきたよ、この人。でも気にせずに行くか。

 

「文化祭の手伝いで来たと聞きましたが、貴女が相模に余計な事を言わなければ、準備は実行委員だけで何とかなったはずなんですよ。だから俺は貴女が何をしたいのか知りたいんですよ」

 

相模が自分勝手にこの人の言葉を解釈して招いて結果だが、元を正せばこの人の一言から始まったと言ってもいい。その所為で浅葱が倒れたんだ。

俺にはそれを聞く権利がある。

 

「……そうだね。強いて言うなら雪乃ちゃんの成長を促したかった、かな」

 

「雪ノ下の成長ですか?あいつが成長するとは思えませんけど?」

 

「そうかな?最近は成長しようとしているみたいだけど?それに雪乃ちゃんって、昔から私がやってきた事ばかりしたがるんだよね。対抗意識ってやつ?」

 

「……その為に焚き付けた?……と言う事ですか?」

 

「そうだよ♪」

 

雪ノ下さんはまるで自分は悪くないみたいに話している。まあ、実際にこの人は直接的には悪くはない。

この人の言葉を自分の都合のいいものに変えた相模が悪い。

 

だが、元凶はこの人に間違いない。しかし在校生ではなく卒業生だから今更学校から強くは注意できない。

俺は雪ノ下さんの話を聞いて一つ違和感を覚えた。

 

「雪ノ下の成長と貴女は言っていますけど、俺にはそうは聞こえませんね」

 

「……へぇ……面白い事を言うね、君は。続けて」

 

「俺から見た貴女は妹をからかって遊んでいるだけの子供だ。自分が面白ければ、それでいいと考えて周りに掛かる迷惑なんて考えてない。それもそのはずだ。だって貴女は卒業生だ。……つまり部外者だ。例え何があったとしても責任は取らないでいい位置にいる」

 

「…………」

 

俺の話を聞いた雪ノ下さんは黙っていた。図星だったのかまだ一言も言ってこない。

この沈黙が妙に怖く感じた。

 

「……お姉さん、カンのいいガキは嫌いなんだよね」

 

「まあ、そうでしょうね。貴女は自分の思い通りに行かない事を許さない。そういうイメージがありましたから。でも、それは『本当』の貴女ではない」

 

「……年下の癖に言うね。それでどうするの?私を断罪でもする?」

 

どこか不気味な笑みを浮かべる雪ノ下。内心、ビビりながら俺はこの人にある提案をしようとした。

 

「違います。俺は提案をしたいだけです」

 

「提案?私に?ホント、君は変わっているね。それでどんな提案なの?」

 

「今、浅葱が雪ノ下建設の株を買っているんです。少しずつ」

 

「へぇ……それは知らなかったな。それでどうするの?大株主にでもなって会社でも乗っ取るの?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「……え……?」

 

俺の肯定に雪ノ下さんは呆気に取られてしまったようで、驚いて固まってしまった。

この人でもこんな表情するんだな。

 

「話を戻します。俺の提案は『俺達』で雪ノ下建設を乗っ取らないか、と言うものです。まあ、この事を貴女の両親に言っても構いませんけど。でも協力してくれるなら俺は貴女に『自由』を取り戻してあげましょう」

 

「ッ?!……君に私の何が分かると言うの?」

 

雪ノ下さんは俺を親の仇を睨むように目を向けてきた。でも俺にそれが少しだけ悲しそうに見えた。

 

「さあ?何も分かってないのかもしれませんよ。でも貴女が自分の事を偽っている事位なら分かりますよ」

 

「…………ふふっ……ホント、こんな事で笑ったのは初めてかもしれないね」

 

「そうですか?俺としては素が出ている今の貴女の方が好きですね」

 

俺がそう言うと雪ノ下さんは顔を赤くして、これでもかと言う位に驚いていた。

 

「ッ!?………君はそう言うの素で言っちゃう所がいいよ。お姉さんそれがとっても好きだよ。それで私は何をすればいいのかな?」

 

「まずは情報操作と言った所ですかね。こっちの動きがバレると色々と厄介ですから。貴女の両親と妹に悟らせない様にしてください」

 

「分かったよ。でも雪乃ちゃんはあんまりお母さんと話さないから大丈夫だと思うよ。お父さんも今は次の議員選挙のための準備で忙しいと思うから問題はお母さんかな?」

 

雪ノ下家って、家族とあまり話さないんだな。それは好都合だな、あいつが知ったらグチグチと文句を言ってきそうだ。

問題は母親なのか。まあ、この姉妹を産んだ母親だ。一筋縄ではいかないか。

 

「そうですか。だったら少しずつバレないようにした方がいいですね」

 

「その辺りは任せてよ。こっちで上手くやっておくからさ」

 

「じゃあ、任せます」

 

とりあえずこの人と協力関係を作る事が出来たので良かった。それにしてもさっきからこの人の表情はいい感じだな。

 

「あ、そうだ。協力するにあたって私からお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

「お願いですか?内容によります」

 

この人が俺に何を頼む気なんだ?むしろこっちがお願いしたいくらいだ。

 

「私を弟子にしてほしいんだよね」

 

「それには俺の出した条件を無視してですか?」

 

「うん。そうだよ」

 

雪ノ下さんのお願いが俺の弟子入りとは、正直意外だな。まだ、B級に上がったばかりだし俺の3人の弟子とまだ戦っていないはずだ。この人はまずB級になる事を優先した。

 

しかし葉山と由比ヶ浜、戸部は川崎との戦いを優先してB級になるのを後回しにしている。

戸部はともかく葉山と由比ヶ浜は俺の弟子になりたいようだ。俺の弟子になった所でいいことはないと思うが?

 

「……貴女はどうして俺の弟子になろうと思ったんですか?」

 

「それは君が面白そうだからだよ。でも今は楽しいからね。君は私を見てくれている。私をただ一人の人間として、ね」

 

「……なるほど、分かりました。弟子にしてもいいですよ」

 

「ホント!?やったね!」

 

折角、味方に引き込めたのにわざわざ突き放すわけにはいかない。だが、葉山や由比ヶ浜にこの人を条件を無視して弟子にしたら何か言って気そうだな。

 

「……ただし、今は弟子ではなく教え子と言う事にしておいてください。条件を無視したとなればうるさい連中がいるんで」

 

「OK!正式な弟子になりたいなら条件をクリアーしろって事だよね?」

 

「ええ、そうです。まあ、俺は結構スパルタなので付いてこれますか?」

 

「お姉さんを挑発しているのかな?でもそう言うの嫌いじゃないよ」

 

この人は笑っていた。心底楽しむように笑顔で。

 

「そうですか。まあ、頑張ってください」

 

「うん。それじゃまたね♪」

 

雪ノ下さんは俺に手を振って体育館を出ていった。その後ろ姿は何だか重い荷物を降ろしたように軽く見えた。

俺も面白いように頑張らないとな。

 

「……八幡。今、雪ノ下さんのお姉さんと何を話していたの?」

 

「あの人には協力者になってもらっただけだ」

 

「……大丈夫なの?協力者にして?」

 

浅葱は雪ノ下さんの事をあまりいい目では見れないらしい。まあ、相模の暴走の原因だからな。警戒するのも分かる。

 

「大丈夫だよ。あの人は自分の『自由』のために協力してくれるからな。信頼は出来なくても信用は出来る。それで今、どの位だ?」

 

「ふ~ん。八幡が良いなら良いけど。今はだいたい半分くらいかな?来年の二月頃には準備万端になるわ」

 

「そうか」

 

浅葱が言うんだから間違いない。俺が雪ノ下建設の『大株主』だと知った時の雪ノ下の屈辱に歪んだ顔を見られるわけか。それは最高に楽しみだ。

 

「それじゃ、私実行委員の方に戻るわね」

 

「ああ、それじゃな」

 

浅葱はそう言って実行委員が集まっている場所に向かって行った。俺も方付けを再開していたら、戸塚と川崎が近付いてきた。

 

「あ!八幡」

 

「お、戸塚。劇、お疲れ様。見たけど、すごく良かったぞ」

 

「ホント!?僕も八幡に褒められて嬉しいよ」

 

戸塚は俺の笑顔を俺に向けてきた。流石はトツカエルだな。

この笑顔を見れただけで、人生はバラ色に見えてくるな。流石に大げさか?

 

「そうだ、戸塚と川崎って、この後時間あるか?」

 

「何かあるの?八幡」

 

「ああ、総武高のボーダーメンバーで打ち上げしないかって事になっているんだ。二人も参加しないか?」

 

まだC級でも川崎は俺の弟子だし戸塚もすでにオペレーターとして準備しているので参加するのに問題はないはずだ。

 

「ごめん!八幡。僕、クラスの方に出て欲しいって海老名さんに言われてるんだ。だから、参加出来ないんだ」

 

「そうか。なら仕方ないな……」

 

くそ!あの腐女子が!余計な事をしてくれたな。折角、戸塚と食事が出来ると思ったのに!

 

「川崎は?」

 

「あたしは参加する。それで打ち上げって、どこに行くの?」

 

「俺の知り合いのお好み焼き屋。味は保証する」

 

「そう。場所が分からないからあんたに付いて行っていい?」

 

「ああ、分かった」

 

川崎は参加するが戸塚が参加しないとはな。まあ、仕方ないか。

とりあえず文化祭の幕は下りた。


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