やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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綾辻遥

スローガンを決めた翌日、俺は弁当を二つ持って浅葱と昼飯を食べるために中庭に向かうために教室を出た。浅葱は連日の実行委員の仕事で休む暇がないとの事なので、リフレッシュを兼ねて俺が弁当を作って一緒に食べようと提案した。

その時の浅葱は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。あれは中々面白い顔だったな……写真に取れば良かった。

 

「ヒッキー!ちょっと来るし!!」

 

「おい、由比ヶ浜。俺はこれから弁当を食べる所なんだよ。邪魔すんな」

 

「いいから!ヒッキーは黙ってて!!」

 

浅葱と昼飯を食べるために教室を出た所で由比ヶ浜がいきなり俺の腕を掴んで歩き出した。この由比ヶ浜の声のトーンからこれは人の話を聞かないモードだな。度々あるよな、これ。

 

 

 

 

 

俺が由比ヶ浜に連れて来られたのは校舎裏だった。

あれ?もしかして俺、由比ヶ浜からカツアゲにあうのだろうか?だったら浅葱に助けを求めた方がいいか?と考えていると頬を膨らまして由比ヶ浜が俺に向かって言い放った。

 

「あたし、ヒッキーにすっごく怒っているんだからね!!」

 

「……俺、お前を怒らすような事したか?」

 

「ゆきのんの事だよ!どうしてゆきのんが倒れたのになんでお見舞いに来なかったの?あたしは行ったんだよ!」

 

どうしてここで雪ノ下が出て来るんだ?分からないな?

 

「何を言うかと思ったら……そんな事か……」

 

「そんな事って……!!ゆきのんが倒れたんだよ!なんとも思わなかったの?」

 

「ああ。何も思わなかったが?約束があるからもう俺は行くな」

 

俺にとって雪ノ下が倒れた所で痛くも痒くもない。あんな女の顔を見なくて清々する。そもそも俺が嫌いな人間を助けないといけないだろうか?

苦手な人を助けるのはまあ妥協出来るが、嫌いな人間は何が起ろうとも絶対に助けるつもりはない。

 

「待つし!話はまだ終わってないし!!」

 

「……いい加減にしろよ、由比ヶ浜。そもそも倒れる原因を作ったのは雪ノ下自身だ。それに体調管理すら出来ないのに無理をするから倒れるんだ。それとな由比ヶ浜、お前は怒る相手を間違えているんだよ」

 

「え?怒る、相手……?」

 

ホント、こいつのバカさ加減には呆れて物が言えないな。殴りてぇ……。

 

「相模だよ。あいつが暴走して無責任な事を言って雪ノ下が倒れたんだぞ?俺ではなく相模に文句を言うなり怒るなりする事だろ?なのにお前は俺に言ってきた。それはどうしてだ?」

 

「そ、それは……」

 

「ああ、つまりあれか?クラスで人気者の相模を教室で責めたら不味いからクラスでぼっちの俺をこうして校舎裏まで連れてきて責めたてるのか?由比ヶ浜ってそう言う人間だったんだ~ショックだな~」

 

俺としてはそれでも一向に構わない。どの道、由比ヶ浜は雪ノ下、葉山、三浦と同じく俺の中で最低の人間の部類に当て嵌まっているのだから。

 

「ち、違う……違うよ!あたしはそんなつもりで言ったわけじゃ……」

 

「それとな由比ヶ浜。お前はこの前の実行委員会の状況を見たのか?相模がサボリ宣言を出した所為で1人辺りの仕事量が本来の3~5倍に膨れ上がって、浅葱が倒れたんだ。それで雪ノ下がいない中、更に1人いなくなってみろ?もう手の付けられない状況になっていたかもしれないんだぞ。文句を言うんだったらお前にはあったのか?現状を打開する策が?」

 

「そ、それは……ないけど……」

 

こいつはホントにどうしょうもない奴だ。イライラしてきた。

 

「……ないなら、俺にお前の不満をぶつけて来るな。それにお前はクラスで何をしているんだよ?」

 

「……製作進行を……」

 

「それは知っている。それを具体的に言えっているんだよ。どうなんだ?」

 

「………………」

 

由比ヶ浜は黙ってしまった。こいつには呆れっぱなしだな。俺にあれだけの文句、不満を言ってきた癖に自分は何もしてませんってか?

由比ヶ浜は雪ノ下を大切に思っているか、疑問だな……雪ノ下とは所詮はお友達ごっこだったのかもしれないな。

 

「話は終わったようだし俺はもう行くな」

 

由比ヶ浜の返事を待たずに俺は浅葱が待っている場所に歩き出した。後ろでは由比ヶ浜がその場にへたり込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、浅葱」

 

「私も今来たところだから気にしなくていいわ」

 

「こんにちは、比企谷君」

 

「よお、綾辻」

 

浅葱と待ち合わせていた場所に来て見るとそこには綾辻までいた。あれ?綾辻と食べる約束していたっけ?

 

「遥がここにいるのは、八幡に相談があるんだって」

 

「綾辻が俺に相談って……どうせ文化祭の事だろ?」

 

「……うん。このままだと文化祭が開催出来ないって思って……」

 

「そう思っている時点で出来ないと分かっているんだろ?綾辻は」

 

綾辻の思っている事は分かる。人手不足で仕事が溜まり各部署があまり機能していない。

綾辻が俺にこうして相談に来たのは恐らく浅葱辺りから千葉村の事でも聞いたのだろう。

浅葱と綾辻はたまに女子会を他数人の女子と共に開いているからそこで聞いたのだろう。

 

「……流石にそう思うよね……でも私は無事に開催したい」

 

「……そうか。だったら文化祭を無事に開催するために俺が今、思いつく打開策は二つある」

 

「二つもあるの?!」

 

綾辻は俺が打開策を二つもある事に驚いていた。そんなに驚くことか?

これは綾辻が聞いたら二つの内一つは否定されるかもしれない。

 

「まず、一つ目は相模を実行委員長から除外して真面目に参加している人間から新しい実行委員長を選ぶ事」

 

「ちょ、ちょっと待って……それって相模さんを……」

 

綾辻は俺の意図を理解して相模の心配をしていた。綾辻は言ってはなんだがお人良しだな。

 

「相模をこのまま委員長にしていても百害あって一利なしだ。邪魔な相模を排除して相模のサボリ宣言で来なくなった連中を生徒会で呼びかけて招集する。綾辻も相模が委員長のままだと文化祭が開催出来ないと分かっているんだろ?」

 

「それは……そうだけど。浅葱ちゃんも同じ気持ち?」

 

「まあ、今のままだと文化祭を開催する事は難しいし、それに他の人がやってくれるならいけると思うから」

 

綾辻は俺の案を聞いて理解はしても納得は出来ないようだ。浅葱としてもこのまま相模が実行委員長をしているより他の委員にやらした方がいいと思っているようだ。

 

「でも、今更実行委員長の変更はちょっと無理かもしれない……それで二つ目は?」

 

実行委員長の変更は無理なのか……それは仕方ない。二つ目は綾辻でも受け入れ易いだろう。

 

「二つ目は生徒会権限で各クラスのルーム長に手伝ってくれるように頼む事」

 

「そっか、その手があったね……」

 

綾辻は俺の提案に納得していた。まあ、一つ目よりは全然受け入れ易いからな。

 

「そう言えば、去年の卒業式は生徒会がルーム長を召集したんだっけ?文化祭でも同じように生徒会がルーム長を召集すればいいって事だよね?」

 

「よく覚えていたな、浅葱」

 

浅葱が去年の卒業式の事を思い出して、ルーム長が集められた事を思い出したようだ。

去年の俺のクラスからもルーム長が集められたのをなんとなく俺は覚えていた。

 

「……でもクラスの方は大丈夫なの?」

 

「文化祭まで一週間を切っているんだ。準備が終わっているクラスもあると思うし、終わっていなくても手が空いている人間はいるだろ?現に俺は手伝っているだろ」

 

綾辻はクラスの方を心配しているようだが、もちろん対策を考えてある。

俺のクラスのルーム長は劇に出るが、他のクラスは飲食店や展示物の所があったはずだから、そこは準備は殆んど終わってもいいから人は集まるはずだ。

 

「……もし召集を断ったら?」

 

「その時はこれを見せればいい」

 

俺は実行委員の関係している用紙のコピーを綾辻に渡した。記録を付けていた奴は真面目組みで良かったと心の奥から思うな。

 

「これって……議事録……?」

 

「それはコピーだ。それには今まで誰が参加したか欠席したかが分かる出席表とどうしてこうなったかが一目瞭然で分かる議事録と今の所、終わっている事と何をするべきかを詳細に書かれた記録用紙だ」

 

記録雑務をしていた奴はいい仕事しているぜ。これが無かったら流石に俺でも解決策を見つける事は出来ないでいただろう。

綾辻はまじまじと用紙を見て考え込んでいたのでもう一押しだ。

 

「これをルーム長に見せれば、全員とはいかないがそれなりの人数が集まると思うぞ。彼らだってここまで準備してきたのに文化祭を中止にさせたくないだろうからな」

 

「そうだね……これなら来てくれるかもしれないね。私は二番目の策が一番いいと思うからそれを会長に言ってみるね」

 

「そうか……まあ、綾辻がそう言うならいいけど。でも相模に関しては俺に任せてくれないか?あいつだけは許しておけないから」

 

綾辻は二番目の策の『ルーム長に手伝ってもらう』に決めたようだ。そこで俺はサボリの元凶である相模に関して綾辻に任せてもらえないか聞いた。

あいつの所為で浅葱が倒れる事になったんだ。文化祭を楽しく過ごせると思うなよ、相模!!

 

「相模さんの事を?……比企谷君って最近、迅さんに似てきたって浅葱ちゃんが言っていたけど……ホント、似ているね」

 

綾辻の奴は失礼に程があるだろう。俺が迅さんに似てきている訳ないだろうに。

でも、暗躍しているのか?俺。

確かに相模をどう追い詰めるか考えてるけど、だからって迅さんに似ているのはあまりに酷い。

 

「……八幡。あんた、悪い顔と難しい顔になっているわよ」

 

「……え?マジ?!」

 

浅葱に言われたが、そんなに悪い顔と難しい顔をしていただろうか?まあ、いいか。

 

「はは……」

 

綾辻は苦笑いをしているのはちょっとイラッとしてしまった。

だが、これで実行委員の人手不足はなんとかなりそうだ。

 


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