やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
「これは酷いな……」
それが俺が文化祭実行委員が作業しているであろう会議室を見た瞬間の一言だ。
作業している人間が十数人しかなった。
一学年十クラスあるので2人ずつだしたとして一学年で20人で三学年で約60人になるはずだ。
それに生徒会も居るのでそれ以上の人数になっていなければならなにのにあまりにも人が居なかった。浅葱が倒れるのも頷ける。
実行委員の仕事の量に浅葱が倒れてしまった。そこで俺は関わりたくはなかった文化祭実行委員の手伝いをする事にした。
また浅葱が倒れてしまったら彼氏として心配してしまうと言う話ではない。
だからこそ放課後に海老名に許可を貰い、実行委員の手伝いに来たまでは大丈夫と思っていたが、状況は俺の想像を遥かに超えていた。
「あ、比企谷君」
「よお、綾辻」
入ってすぐに綾辻と会ったが、顔を見たら目の下に隈が出来ていた。綾辻も相当寝不足なのは一目瞭然だな。
「……綾辻も倒れる事になれば、一大事だな。色々と」
「あはは……まあ、倒れないように頑張っているんだけどね……流石に仕事量が多くて睡眠時間を削っていかないと文化祭が開催出来ないかもしれいから……」
「だからって倒れたら参加する以前の問題だろうに……」
それこそ綾辻が倒れでもしたら大問題だ。楽しい文化祭が楽しくなくなってしまう。
だからこそ俺は来たくは無かった文化祭実行委員の所まで来たのだ。
今年は小町が来ると言っていたので台無しにしたくはない。
「それで俺は何をしたらいいんだ?綾辻」
「そうだね。浅葱ちゃんの所を手伝ってあげて、私の倍近くの仕事をしているから」
「了解、倒れないほどに頑張るかな」
綾辻の指示にしたがって、浅葱の所を手伝う事にしたが、浅葱は綾辻の倍近い仕事をしているとはな。
それは倒れるのも無理はないな。
「浅葱、大丈夫か?」
「八幡……来てくれたんだ……」
「そう約束したと思うけど。俺は何をすればいい?」
「それじゃ、そっちの書類を整理してくれる?多分、不備がないと思うけど一応見てくれる?終わったのは遥に渡してくれればいいから」
「分かった。こっちのね……」
浅葱に指示された書類を見た瞬間、俺のやる気がガグッと急降下してしまった。
この量の仕事を浅葱はしていたのか?人1人が出来る量を軽く超えているのだ。
「まあ、やるしかないか……」
まずは書類の分別をしないといけない。このままじゃ何がなんの書類なのかさっぱり分からない。
「比企谷君。あなたはここで何をしているのかしら?」
「……雪ノ下か……何って見て分からないのか?書類の整理だよ」
書類の整理をしていると雪ノ下が俺に話しかけてきた。どうせ、お得意の毒舌を繰り出すだろうとしているのが容易に想像出来る。
雪ノ下の頭の半分以上は他者への罵倒で占めれていると言われれば納得してしまう。
そもそも自分の仕事はいいのか?雪ノ下。
「そう言う事を言っているのではないわ。……それでは質問を変えるわ、実行委員でもない貴方がどうしてここに居るの?」
「……どこぞの実行委員長の暴走を止められなかった副委員の無能を見に来たのと、その無能の所為で倒れた人間のフォローだよ」
「無能ですって……!!」
「あれ?俺は別に雪ノ下とは言っていないんだがな?自覚が有ったのか?驚きだな」
「ッ……!!」
雪ノ下は顔を酷く歪ませている。ああ、その顔を見れるのは中々いい気分だな。
それより仕事をしろよ、雪ノ下。
「あれ?比企谷ちゃん」
「あ、比企谷君だ」
「犬飼先輩に氷見か、どうも」
俺が書類整理をしていると二宮隊の2人の隊員と出会った。
犬飼澄晴。
二宮隊ガンナー。
飄々とした人だが精確無比のマスター級のガンナーだ。
人懐っこい性格で二宮隊のバランサーを担うだけでなく、高い技術で隊の勝利に大きく貢献している。
氷見亜季。
二宮隊オペレーター。
ランク戦では味方が成果を上げても喜んだりはしないが、優れた洞察力を持っており戦況を冷静に分析して的確に味方に伝える。
前は『超』が付くほどの人見知りだったのだが、鳩原さんのアドバイスにより一瞬で直った事もある。鳩原さん……マジで、スゲー!
「2人とも実行委員だったんですね?」
「まぁね。さっきまで氷見ちゃんとトイレ休憩していた所なんだ。詰め込みすぎるのもよくないからね」
「そう言う比企谷君はどうして、ここに?」
「俺は浅葱の助っ人で、来たんです。それにしてもここを見た時は聞いていたより酷い事に驚きましたよ……」
実行委員の数が足りていない。これではとてもではないが、文化祭を開催出来るかどうかの話ではない。
出来ない可能性の方が高い。実行委員長と副委員長はどちらも無能すぎる。
元を正せば、雪ノ下さんが相模に余計な事を言わなければこんな事にはならなかったのだが、それはもう過ぎた事だ。グダグダ言ってもしょうがない。
「まあ、皆……実行委員長ちゃんの決定に乗っただけなんだけどね……」
「そうですか……」
犬飼先輩は周りの空いた席を見ながら残念がっているようだった。
実行委員の殆どの人間がくじ等で嫌々決められたんだろうな。でなければこんな事にはなってはいない。
「ごめ~ん。クラスのほうで時間掛かっちゃってさ~」
犬飼先輩と俺が話していると妙にテンションの高い相模が入って来た。どうせ、クラスの方でもろくに仕事していない癖に!など思うだけにしておく。
言えば、面倒くさい事になるに決まっている。
「…………」
一瞬、相模が俺の方を見た気がしたが、すぐに視線を雪ノ下に向けたので分からなかった。
しかし何で今日はここに来たんだ?殆どサボっていたのに?
「相模さん。ちょうどよかったわ、そこの書類に目を通して判子を押しておいてちょうだい」
「オッケー。これだね。ほい、ほい」
相模は雪ノ下から指示された書類の一枚目をざっくり見た後、判子を押した。
そして二枚以降は見る事無く判子だけを押していた。
「…………」
俺は相模の仕事ぶりに絶句してしまった。実行委員長は相模のはずなのに副委員長の雪ノ下から指示を聞くだけでも駄目なのに書類はろくに見ずに判子は押す。
そんなのは小学生でも出来る仕事だ。
「やあ、ヒキタニ君。調子はどうだい?」
「……葉山。どうしてお前が、ここに?」
相模の仕事ぶりを見ているといつの間にか現れたのが、葉山だった。
本当にどうして、こいつがここに居るんだ?
「君と同じ理由だよ。クラスの方は大分、形になってきたし俺もセリフは覚えて特にする事がないから手伝いにきたんだよ」
「……そうか。まあ、それはありがたいな……」
人手は1人でも多い方がいい。でなければ、文化祭を開催することすら出来ない。
「あ!葉山く~ん。来てくれたんだ。うちの仕事手伝って~」
「うん。今、行くよ。それじゃヒキタニ君、また」
何となくだが、相模が実行委員の仕事をするようになったのか分かった気がする。
あいつも葉山に好意を持ってる訳だな。だから少しでも葉山にいい所を見せたくて来て仕事をする気になった訳だ。
しかも葉山に手伝ってもらって距離を詰めつつ自分の仕事量を減らす。
まさに一石二鳥の策だな。相模にしては考えたな、無能委員長の癖に。
「……まあ、別にいいか……綾辻。こっちの書類は全部問題ないぞ」
「うん。ありがとう、比企谷君。おかげで今日は早く帰れそうだよ」
「……『今日は』?じゃあ、いつもは早くは帰れないのか?」
「え?う、うん……まあ、ギリギリまで残ったりするかな……」
だから綾辻も隈を作っていたんだな。
それにしても相模もそうだが、副委員長の雪ノ下もまた無能だ。相模をしっかりと制御していれば、このような事はならなかったかもしれないのに……。
「比企谷君。こっちの書類は大丈夫だった?」
「ああ、問題なかったぞ。氷見」
「よかった。それで、比企谷君から見て文化祭って出来ると思う?」
書類を確認しにきた氷見から質問がきたが、そんなのは見るに明らかだ。
「……正直、俺はここまで人手が足りて居ないとは思わなかったからな。8:2って所かな……」
「ちなみにどっちが8なの?」
「それはもちろん、文化祭が出来ない方だよ」
人は足りてない、委員長、副委員長はどちらも無能と言ってもいい位の人物だ。そんな中でも文化祭の準備が着実に出来ているのは生徒会と残っている人達がひとえに頑張っているからだろう。
でなければ、ここまで来るのは無理だったと思う。
俺の意見を氷見に言った所、なんだか落ち込んで居るように見える
「……そんな……がんばって誘ったのに……」
「……烏丸と文化祭デート出来なくて、残念だな氷見」
「うん。誘う事が出来ても文化祭が開催出来ないんだったら……って、ちょっと待って比企谷君。どうして、私が烏丸君を誘った事を知っているの?」
「あ、やっぱり鳥丸を誘ったんだ」
「~~~~~!?!?!」
俺が氷見にカマを掛けた所、見事にそれに掛かりつい喋ってしまった氷見は顔を茹でタコのように真っ赤にしている。
氷見の赤面は中々レアが高いな、写真に収めて烏丸辺りに見せてやりたかったな。
「お、お願いだから誰にも言わないでよ!比企谷君」
「分かっている。でも糖分が減って喋ってちゃうかもな~」
「な!?…… 後で比企谷君がいつも飲んでいるの奢るから……」
「まあ、それで手を打ちますか……この状況をなんとかしないとホントに文化祭なんて出来ないぞ」
文化祭実行委員の現状ではとても日程が足りない。残りの日で準備を終わらせるにはもっと人手が必要になる。
これはもう諦めた方がいいかもしれない。文化祭開催を。
綾辻は早く帰れると言ったが、結局他の部署を手伝っている内に最終下校時間になってしまった。
それでも今日の浅葱の仕事量を大分減らせたので良かったと思う。あいつに倒れられたら色々と困るし心配してしまう。
これは明日からも手伝った方がいいかもしれないと思い防衛任務のため浅葱とボーダーに向かって歩いた。