やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
防衛任務上がり、ソロ戦のブース知ってる奴でもいないかと辺りを見回していると、後ろからよく聞く声に呼ばれた。
「おーい!! ハッチ!!」
俺をそのように呼ぶ人物は一人しかいない。
「おう、米屋。久し振りだな」
米屋陽介
A級三輪隊アタッカーでボーダーでは珍しい槍型のトリガーを使う男だ。ちなみにウチの隊のアタッカー、雪菜の師匠でそれなりに腕が立つ。
周囲からは槍バカなど呼ばれるほど槍使い。
雪菜に米屋を紹介したのが俺で、そのおかげで雪菜は短期間で腕を上げて比企谷隊はA級に上がることができたのだ。しかしこの米屋と言う男、戦闘とは違い勉強がてんで出来ない。雪菜の師匠をやるかわりに俺が勉強を見たりしていた。
「しかしどうしたんだよ米屋? お前たしか、防衛任務じゃあなったのか?」
「それならほんの十分前に終わったとこだぜ」
「……報告書は月見さんか古寺にまかせてきたのか?」
「おう! 任務中にトリオン兵が出なくて暇してたんでソッコーでブース来てランク戦でもやろうと思ってな。それよりハッチ、お前のそのトリガーなんだ? 見たことないけど新型か?」
「ああ、試作の新型ブレードだ。――そうだ米屋、俺と戦わないか? こいつの威力とかを見ておきたいからよ」
「いいぜ! 俺もバトル相手が欲しかったところだ。俺は125番に入るわ。ハッチは?」
「俺は127にでも入るわ。フィールドはランダムでいいよな? それと時間もないし、一本勝負でいいか?」
「もちろんそれでいいぜ。それじゃあ、勝負といこうぜ」
『比企谷対米屋 一本勝負開始』
音声と共に転送されたフィールドは、市街地A。
俺はすぐさまブレードの天月を起動して、改めてそれを見た。重さは弧月と変わらないが、刀身が十センチほど長く、弧月と違って両面に刃がついてる。片刃でない分これまでとは違った戦い方をしないといけない。
米屋は弧月:槍で幻踊を使い、刃先を曲げてくるから避ける際は気を付けないと少しずつトリオン体を削られて、トリオン漏れで負けてしまう。
考えを纏めていると、後ろから足音が聞こえてきた。振り向けばすでに、かなり近い距離まで米屋に迫られていた。
「いくぜ! 幻踊弧月!!」
「――っていきなりかよ!」
俺はすぐさまそれを天月で弾き上げた。……が、刃先が曲がって俺の肩に当たった。そこから米屋が槍の連続で突きを放ってきた。
「オラオラ! どんどんいくぞ!」
休む暇なく突いてくる。さすが槍バカと呼ばれるだけはあるな。だんだん捌き切れなくなり、体の数ヵ所に受けた突きで、少しずつトリオンが漏れ出していく。
俺は隙をわざと見せて、カウンターで天月を横一文字に斬りつける。その時に天月にトリオンを流し込む。米屋は、槍を縦に構え、更にシールドを重ねてきた。
カウンターに対して更なるカウンターで俺を仕留めるつもりのようだ。
しかし、そうはならなかった。天月が槍とシールドごと米屋を一刀両断したからだ。
『トリオン体 活動限界 ベイルアウト』と音声の後に真っ二つになった米屋のトリオン体は光となって飛んで行った。
この天月の扱いが難しい理由がわかった気がする。トリオンを流すタイミング、トリオンの量など細かく調整しないと鈍刀にも切れ味抜群の名刀にもなる。
また開発室はとんでもないものを作ったものだ、なんて思っていると、米屋から通信がきた。
『おい、ハッチ! 今の何だよ! 槍とシールドを纏めてぶった切ってたぞ!?』
その声は妙にテンションが高かった。
「あれが新型ブレードの威力だよ。だけど、トリオンのコントロールが思ったより難しい。これはデータを取って改良していかないと俺以外の人間は使えないな」
『マジかよ! そんなに難しいのか? じゃあ、俺にはとてもじゃないが使えないなぁ、残念。――それじゃ、またやろうぜ!!』
「わかった、わかった。それじゃまた今度な」
このソロ戦が終わって米屋と共にジュースを飲んでいると、三輪の姿が見えた。向こうもこちらを確認したのか、近付いて来る。
「よぉ、三輪。久し振りだな」
三輪秀次
A級三輪隊の隊長を務める男で俺とは同期になる。最初の頃は、俺は金の為にボーダーに入隊に対して三輪は、姉の復讐のために入隊したという理由の違いでそりが合わなかった(三輪が一方的に俺を毛嫌いしていた)が、今では普通に話せるほどになっている。
「久し振りだな比企谷。それとやっと見つけたぞ陽介。宿題もせずにソロ戦なんてやっている場合か。さっさと終わらせろ」
「待てよ! 秀次、もう1回だけハッチとランク戦をやらせてくれ!」
「ふざけるな、さっさと来い!またな比企谷。行くぞ陽介」
そんなやり取りをしながら三輪は米屋を連れてブースから消えて行った。
「ふぁ~……眠い。俺は帰るか」
俺は荷物を取りに作戦室向かい、さっきのソロ戦のことを振り返る。次はもっとこいつを使いこなせるように色々考えながら家に帰って、そのまま眠るのだった。