やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
文化祭の準備が始まって一週間が過ぎた。この所、大勢の生徒が最終下校時間ギリギリまで残って頑張っていた。
こういった行事は面倒だからやりたくはないが、しかし出席日数に関わってくるのでしかたなくやる他ない、と諦めている。
文化祭の準備が始まって一つ気になる事がある。
それは文化祭実行委員の相模が何故か教室でうろうろしている事だ。委員会の方はいいのだろうか?と始めの方は思っていたが、今はそんな事もない。
何かあれば、それは相模の責任だからだ。それに浅葱からは特になにも言ってこないので多分、大丈夫なのだろう。
文化祭の準備が始まる前に浅葱には何かあれば相談してくれ、と言ってあるが、心配していないと言えば嘘になる。
本当は凄く心配している。けれど、向こうから言ってこない限り俺からは何もするつもりはない。
「おはようございます。主様」
「おはよう。夜架」
学校に着いて靴を履き替えている時に夜架が挨拶してきたので俺も挨拶を返した。
「今日は浅葱先輩は一緒ではないのですか?」
「まあ、な。今日は途中で会わなかったな……寝坊とは思えないし……」
いつも浅葱とは学校に行く道の途中で会って向かっていたのに今日は会わなかった。何か事件にでも巻き込まれたかと考えたが、それは無いと言える。
もしもそんな事になっていれば、モグワイから俺に連絡してくるからだ。
「あ、噂をすればなんとやらですね。浅葱先輩が来られたようですよ」
夜架の言う通りに浅葱がやって来たが、何か様子が変だ。ふらふらと覚束ない歩き方をしている。
あれでは他の生徒に当たってしまう。本当にどうしたんだ?
「おい、浅葱。大丈夫か?」
「……八幡?」
「……本当にどうした?浅葱」
「ごめん……もう無理……」
浅葱は糸が切れたように倒れかけたので、とっさに浅葱の身体に手を伸ばして抱え込み、床に倒れるのを阻止した。
一体どうしたんだ?!これはどう見ても異常だろ。
「お、おい!浅葱!おい、しっかりしろ!」
「浅葱先輩!しっかりしてください。ここで寝たら凍え死にます!」
「……夜架。ここで雪山で遭難した登山家のようなセリフを言わないでくれ。シリアスな感じが台無しだ……」
「すみません、主様。一度言ってみたかったもので。つい」
ちゃめっけがあるな夜架は……ってそんな事を考えている場合ではない!
「保健室に連れて行くから鞄を頼む!」
「はい!分かりました」
俺は浅葱を抱えて夜架に鞄を任せて保健室に向かって走った。廊下は走るなと言うが今は緊急事態なので大目に見て欲しい。
「……ん……あれ、ここって……?」
「ようやく起きたか。浅葱」
「……え?八幡!」
昼休憩に浅葱の様子を見に保健室を訪れたと同時に浅葱は目を覚ました。見た限りは大丈夫そうだな、ホッと安心出来る。
「お前、朝来た時に倒れたんだぞ。覚えていないのか?」
「倒れてから……あ、そう言えば八幡を見かけた事までは覚えてるけど……そこからないわ……」
浅葱は今朝の事までは覚えているようだな。しかし何があったんだ?
「浅葱……一体何があったんだ?お前が倒れるなんて」
「……平塚先生の事もあるから八幡には実行委員に関わらせたくない……」
俺が平塚先生によって強引に実行委員にされそうになった事を比企谷隊のメンバーに話した。
その時は夜架、シノン、雪菜の3人も居て聞き終わった時の顔は怒りが爆発しそうな感じだった。浅葱は眉間に皺を寄せてキレ掛けていた。顔はまるで修羅を思わせた。
「……まあ、お前の気持ちは嬉しいけど、前に言ったよな。何かあれば言ってくれって。確かに実行委員になるのは嫌だぜ。でもお前が倒れる位なら関わらせろ」
「……ごめん。八幡の言う通りね……何があったか、全部話すね」
俺の気持ちは浅葱に届いたようで、何があったか話してくるようだ。それにしても何があったら浅葱が倒れる事になるんだ?
「初日の実行委員会はそれぞれの担当を決める事になって、実行委員長に相模さんって女子がなって彼女の仕切りで始める事になったのよ。それで二日目に雪ノ下さんが副委員長になってからそこそこいいペースで作業は進んでいったのよ」
「相模が委員長なのはいいとして、雪ノ下が副委員長なのか……何で?」
「確か相模さんが雪ノ下さんに頼んだらしいわよ」
雪ノ下が相模の頼みを聞いたのか?でもどうしてなのかが分からない。仮に依頼されたとしても奉仕部は廃部になったはずだ。
……まさか廃部になってから新しく部活を作ったのか?なら潔く平塚先生が顧問を辞めるのを承諾したのも頷ける。
「……ホント、教師かよ。あのクソ女が……!!」
「……は、八幡?」
「いや、何でもない……続けてくれ」
ついうっかり言ってしまった。流石にクソ女は言い過ぎたな、反省反省。
「う、うん。雪ノ下さんが副委員長になって指示するようになってから凄い早いペースで仕事が進んで各部署に余裕が出来てきて、これなら最終日はクラスの方に顔が出せるんじゃないかって事になったのよ」
これまでの話を聞く限りでは特に大変な事は起こっていないようだが、続きを聞いてみよう。
「それで三日目の作業をしようとした時に雪ノ下さんのお姉さんが来ていて、姉妹で睨み合っていたのよ」
「……何があったんだ、それ?それにしても何で雪ノ下さんがここに来たんだ?」
姉妹で何を睨み合っていたんだか?もしや雪ノ下姉妹は百合なのか?人の趣味趣向はそれぞれと思うが、流石に姉妹ではどうかと思う。
「雪ノ下さんのお姉さんがここのOGなんだって、それで生徒会長が助っ人に呼んだのよ」
「それでどうしたら睨み合いをする事になるんだ?」
「さあ?姉妹仲が悪いのかも」
「浅葱は仲が悪かったりするのか?」
「う~ん……私のとこはあれほど悪くはないかな」
浅葱の姉は今は外国の大学に留学中で日本にはいない。昔、俺と小町とよく遊んでくれた。
浅葱とは最近、メールのやりとりをしているらしい。
「話が逸れたな……それで雪ノ下姉妹の睨み合いからどうしてお前が倒れる事になるんだ?」
「そうだったわね。雪ノ下先輩が来た日に相模さんがクラスの方を少し手伝って遅く来たのよ」
それは可笑しい。これまで相模はクラスの演劇を手伝ってはいない。クラスに居ても誰かと話しているだけで、手伝う素振りすらしてはいない。
「つくづくいい加減な女だな……相模は。それで?」
「うん。遅れて来た相模さんに雪ノ下先輩が『実行委員も文化祭を楽しまないとね』って言ったのよ。それを相模さんがどう解釈したのか、他の委員に『クラスの方に顔を出してもいい』って言ったものだから次の日から来る人が急に減って他の部署の仕事が私の所もに来るようになって仕事量が増えて、それで寝不足になって……」
「倒れた訳か……何をやっているんだ?困っているなら言えばいいのに……そもそも教師は止めなかったのか?相模の暴走を」
「タイミングが悪い事にその時は教師が誰も居なかったのよ。それから来る人が少なくなっていって……」
浅葱は浅葱で仕事のやり過ぎで寝不足になって倒れて、相模は雪ノ下さんに乗せられて何をやっているんだ?
しかもクラスに顔を出してもろくに手伝いもしないで、ただ取り巻きと話しているだけで邪魔としか言えない。
「ごめん……でも平塚先生が実行委員の監督をしているから……あの先生の事だからまた八幡をいいように利用しそうじゃないかと思って、嫌だったから」
「まあ、確かに千葉村の事があるかな……」
平塚先生は千葉村のボランティアの要員として俺を借りだそうとしていた。俺の予定をガン無視してだ。
それを知っていたら平塚先生にいい印象は持たないよな。それは先生が悪い。
「……結局、関わる事になるのか……浅葱、今日から実行委員の仕事手伝うよ」
「え?で、でも平塚先生がいるのよ?嫌じゃないの?」
「……どちらかと言えば、嫌だな。でもこのままだとお前がまた倒れそうだし……それに文化祭の開催自体が出来るかどうか怪しいだろ?」
浅葱は俺の事を結構心配していたが、俺としても文化祭はしたいし準備をして開催出来ませんでした。なんて事にはしたくない。
「まあ、確かにそうだけど……クラスの方はいいの?」
「俺の担当は衣装で、もう殆んど出来ているから問題ないと思う。だから少しは俺の事を頼ってくれ」
「うん。分かった……それじゃお願いね」
これでもう浅葱が倒れる事はないだろう。海老名に許可を貰った方がいいだろうな。
「おう。放課後すぐに行くように監督に了承してもらうからよ」
「監督?八幡のクラスって何をするの?」
「……え、演劇をな……」
「へーそうなんだ」
俺としては知られて欲しくなかった。演劇は『星の王子様』だけど、内容をアレンジして、腐女子受けにしている。
全年齢対象だけど、一般人から見たら酷いものだろう。
「そ、それじゃ放課後にな浅葱」
「ごめんだけど、よろしく」
深く聞いてくる前に切り上げて教室に戻る事にした。これ以上ここに居たら劇の内容を聞かれそうと思った。
浅葱が腐女子になったら全力で凹んでしまいそうだ。
放課後になってクラスは文化祭の出し物の準備を始めた。相模はチャイムが鳴ると教室を出て行った。どこかで少し時間を潰してすぐに教室に戻ってくるだろう。
俺は話を付けないとな。
「海老名……さん。ちょっといいか?」
「うん?どうかしたのヒキタニ君」
ホント何で俺の事を『ヒキタニ』って言うかな。『ヒキガヤ』と読むのに……。今は気にしてる場合ではないな。
「クラスの準備は大方出来ているから実行委員の方を手伝ってきてもいいか?」
「実行委員の方を?何で?」
「実行委員が仕事が上手い具合に進んでいないようなんだ。それで助っ人に呼ばれてな。それにこのままだと文化祭が出来ないかもしれないんだ」
これは浅葱に聞いた限り微妙なラインだ。それに出来ないとなれば困るのは彼女だ。
「え?!そうなの?それは困るよ。折角、ここまで準備してきたのに……ヒキタニ君が助っ人で手伝えば間に合うの?」
「今は、なんとも言えない。まだ手伝ってないから実行委員の現状を知らないからな」
「そんな~……でもヒキタニ君の担当はいいの?」
「俺の担当は衣装だからもう出来ているから問題ないと思うけど」
「そっか……それじゃいいかな。こっちで何かあれば、戻ってきてくれるならいいよ」
よし、監督の許可は貰ったから大丈夫と思い俺は教室出た。入れ違いで相模が教室に入って行った。
あいつは今日も実行委員の仕事をサボリか……もしこのままの状態が続けば文化祭は開催出来ないかもしれない。
そうならないためにも実行委員の手伝いはしっかりとしないとな。そう思い少し早歩きで会議室に向かった。
「これは酷いな……」
来週は一回休んでハイスクールの方を更新します。
再来週に更新しますので、お楽しみに。