やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

68 / 109
海老名姫菜

二学期が始まり。ボーダーのC級入隊は問題が一つあった程度でそれ以外は何の問題はなった。

そして次に待っていたのは総武高校の文化祭だ。

その文化祭の実行委員を決めるくじで平塚先生が不正をして俺を実行委員にしようとした。

俺がその事で平塚先生を怒らして殴られたが、なんとか俺は文化祭実行委員になるのを回避する事が出来た。うん、ホント良かったよ。

 

実行委員になったのは『元』葉山グループの大岡と相模と言うちょっとギャル風な女子だ。

最初はブツブツ文句を言っていたが、葉山に説得させられて落ち着いた。

そして俺のクラスの出し物は『演劇』になった。演目は『星の王子様』だ。

いくつかの題目の中から多数決で決まった。作品は世界的に有名だし、何より役がそんなに多くないので、俺はいいと思う。

 

 

 

 

 

その日の放課後に文化祭実行委員の2人を除くクラス全員で決めているのだが、仕切っているのは葉山と海老名の2人だ。

演目である『星の王子様』は彼女が上げたものだ。

演目が決まった瞬間に俺の事を見て少しだけ笑っていたので、どこか嫌な予感がして寒気があった。

 

いつの間にか彼女が用意してプロットをクラス全員に配っていた。男子も女子も始めはそれなりに騒いでいたが、読み進めていくにつれて静かになってきた。

俺は彼女が用意した無駄に凝った設定を読んでいく度に目眩がしてきた。

海老名は夏休みから頑張って考えて書いていたようだ。本気でこの内容の演劇をするつもりらしい。やば過ぎるぞ、あの女は!!

 

クラスの空気は地球の重力より重たくなっていた。こんな時は由比ヶ浜が空気を読んでくれないかと期待していたが、由比ヶ浜は何もせずに終わった。何やってんだ、由比ヶ浜は!

 

「こんなものかな?聞くんだけど、何か質問や改善点などはないか?」

 

葉山は一応聞いているが、聞くまでもない。改善点しかないぞ、このプロット。マシな部分が一つもないとか酷すぎる。

そんな中1人の女子が手を上げた。勇者の登場だ!

 

「これって、女子はでないの?」

 

「え?何で出さなきゃいけないの?」

 

海老名はキョトンとした顔をして目からは光が消えていた。その表情には『貴女は何をバカな事を言っているの?』と書いてあった。

 

「…………」

 

手を上げていた女子は無言で座り二度と口を開く事は無かった。勇者が一撃だと!?海老名は腐った女子かと思っていたが、腐った神なのかもしれない。

俺の認識が甘かったようだ。

 

「これ公序良俗は大丈夫なの?」

 

他の生徒から質問がきた。まあ、確かにそこは重大だよな。これは大丈夫なのか?マジで。

 

「もちろん。全年齢だから大丈夫だよ!」

 

駄目だ……。クラスの中で腐女子趣味に一定以上理解できる人達は首を縦に振り頷いているし、それ以外のノーマルは何がなんだか分からず困惑ぎみだしな。

それはそうなるよ。他にどんな反応すればいいんだよ!そもそもこれキャストにもよるが、客層が限られるか偏るな、絶対に。

 

「俺はいいと思うべー!こういった方が面白くてウケるわー!!皆もフツーの劇よりいいって思ってるっしょー?」

 

「確かに今までとは違う劇になって面白いかも知れないな」

 

クラスの空気とは反対に戸部が騒ぎ出して、葉山が戸部をフォローしていた。

それでかクラスが考え出した。確かに高二の男子が奇抜な格好で愛を語るコントなんて今まで見た事がないし内容が気になって見に来る人間が多そうだ。

 

「うんうん。こんな方向性もありだと思うし、それにガチガチなものは文化祭で出せないし。私もそれ位の区別はつくから!」

 

…………ん?ちょっと待てよ。あれで大分部は自重したと言うのか?!もし、もしも彼女が本気をだしたら……一体どんな未来が待っていると言うんだ!

 

「とりあえずはキャラの設定は無視して、笑いの要素とかを強くしていくって事で、皆いいかな?」

 

あの葉山に対して反対意見なんて出るわけがない。文化祭の出し物としては妥当な所と言った感じだろうか?

そう思っていると、拍手が教室になり響いた。

 

「それじゃ次はスタッフとキャストを決めないとな」

 

まだ続くのかよ……早く帰りたいんだがな。

 

「それはもう決まっているよ」

 

海老名が黒板にスラスラと書き始めた。もうこの時から嫌な予感しかしない……。

 

監督・演出・脚本 海老名姫菜

 

製作進行 由比ヶ浜結衣

 

宣伝広報 三浦優美子

 

王子様 葉山隼人

 

ぼく 比企谷八幡

 

次々と配役が決まっていった。

役が決まる度に男子から「それだけは嫌だー!」とか「その役だけはやめてくれー!!」や「……もういっそ殺してくれ……」と教室から断末魔が響き渡った。最後の奴には同情してしまうな。

もう収拾がつかない地獄になりつつあった。

 

葉山も名前が書かれた瞬間から固まり、女子からはキャーキャーと騒がれた。確かに葉山なら集客出来るだろう。だけどなどうして葉山の相手役が俺なんだ?!

戸塚なら喜んだろうが、葉山とか……この世は地獄しかないのか!!

 

「無理だからな……」

 

「え?!葉山×ヒキタニは薄い本ならマストバイなんだよ!!いや、もしくはマストゲイかも」

 

……マジで、何を言っているんだ?この腐女子は。

 

「考えてもみてよ!やさぐれた感じの飛行士を王子様が純真無垢な言葉で巧みに攻める。これが、これこそがこの作品の魅力でしょ?!」

 

それは確実に間違っているし、怒るぞフランス人が。

 

「俺だってクラスの出し物は成功せさたいし準備だって頑張りたいけど、ボーダーでやらないといけない事があるんだよ」

 

もっともらしい言い訳を言ったが、実際にはそんな事はない。ただ、役が嫌で逃げたいだけだ。

 

「そっか……それは残念だね。分かった!だったら配役を少し考え直した方がいいね。王子役とぼく役を」

 

海老名が新しい配役を黒板に書き直し始めた。

 

王子様 戸塚彩加

 

ぼく 葉山隼人

 

「俺はどうあっても出ないといけないんだな……」

 

「もちろん!それにそのやさぐれた感じいいよ~!」

 

ノリノリだな、この腐女子は。だけど、王子役が戸塚なのは大いに賛成だ。戸塚が王子役なら俺はぼく役で出てもいい位だ。

戸塚本人はキョトンと固まっていた。その顔はレアでいいな。

 

「でも、これ僕でいいの?」

 

「もちろん!すごく合っていると思うよ」

 

「そ、そうかな?そう言われると嬉しいな。じゃあ僕は役になれるように頑張るよ!」

 

「だったら原作読んだ方が理解出来ると思うし貸してあげようか?」

 

「ホントに?ありがとう」

 

戸塚はまるで花が咲いたような笑顔を見せてくれた。ホントいい笑顔だな。

どうして俺はあんな嘘を吐いたんだ!こんな事になるんだったら言うんじゃなかった。

そんな俺の担当は何故か衣装担当になってしまった。まあ、役よりは数倍マシだ。

 

「まあ、そんなわけでよろしくな。川崎」

 

「こっちこそ、よろしく。比企谷」

 

俺は同じく衣装担当になった川崎と言葉を交わしていた。

 

「サキサキにヒキタニ君。これ、衣装のデザイン画だからよろしくね!」

 

これからどうしようかと考えていると海老名が衣装のデザインが書かれたノートを持って来た。ホント、用意がいい事で……。

もしかしたら夏休みからクラスメイトに根回しをしていたのかもしれない。

ならば、演目が『星の王子様』にすんなり決まったのも納得だな。

 

「サキサキ、言うな!」

 

「……比企谷だ」

 

俺と川崎の反論に耳を貸す事無く海老名はさっさと葉山達の所に行ってしまった。こちらとしてもその方がいいかもしれない。

まずは自分の仕事をきっちりしていかないとな。

 

「とりあえず、何からすればいいんだ?俺達は」

 

「……まずは2人の身体の寸法を測ってからじゃないと始められない。少し余裕を持たせないと当日サイズが合わないかも……」

 

「川崎……かなり詳しいな。服を作る趣味なのか?」

 

「趣味って程でもないよ。ただ、妹のためにたまに作っているだけ……」

 

だから川崎は衣装担当なのかなんとなく分かった気がした。

 

「ん?だったら海老名はお前が服を作れるってどこで知ったんだ?」

 

「……それは夏休みの時に妹と買い物した時の葉山達に街で偶然会って少し話した時に……」

 

なるほど、そういう事だったのか。まあ、それなら知っていても可笑しくはないな。

 

「戸塚。サイズ測るから来てくれるか?」

 

「うん。今行くね」

 

海老名と話していた戸塚を呼んで身体のサイズを測った。次に葉山や他の役のサイズも測り、それから川崎や他の衣装担当のメンバーと共に金や生地の相談をしてから今日は終わった。

こうしていると文化祭が近いと思う。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。