やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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皆さん、明けましておめでとうがざいます。

今年もどうぞ、よろしくお願いします。

今回から新章です。では、どうぞ。


ボーダー入隊
葉山隼人④


9月1日

始まった。ああ、始まってしまった。

もう少しだけ夏休みが長ければ……と何度思ったことか。

 

「もう少しだけ夏休みが長ければな……」

 

「八幡。あんたは何をバカな事を言っているのよ。あんまり長いとだらけるだけでしょ。ホント、そう言う所は変わらないわね……」

 

「そう言ってもよ。9月はまだ暑いから10月まで休みにすればいいのに……」

 

「ふふっ……」

 

浅葱は俺の発言に呆れていた。長い付き合いで俺の性格を熟知しているからなのだろうが、もう少し優しくして欲しかった。

そんな俺と浅葱の会話を夜架は口元を隠しながら笑っていた。そんなに可笑しい事だろうか?

 

「それにしても今月は忙しくなるな。何かあれば言ってくれよ、浅葱」

 

「うん、分かっているわ。それに文化祭は生徒会も加わるし遅れる事はないと思うから」

 

俺達は自分達のクラスに行く前に職員室に寄って9月の防衛任務のシフト表のコピーを担任教師に渡して教室に向かう事にした。

 

「久し振りだな、比企谷」

 

「よお、奈良坂」

 

奈良坂透。

A級三輪隊スナイパー。

正確無比の狙撃が得意な堅実派のスナイパーでボーダー №2 スナイパーの称号を持つ男で射撃訓練では毎回1位をとり続けている。

ちなみに那須隊のスナイパー、日浦の師匠で隊長の那須とは従姉弟になる。日浦が奈良坂の弟子になれたのは那須が頼んだからだろう。

そして三輪隊で米屋に頭を悩まされている。お互いに頑張ろうな。

 

「おはよう。奈良坂君」

 

「おはようございます。奈良坂先輩」

 

「藍羽と羽々斬か。2人ともおはよう」

 

浅葱と夜架も奈良坂と挨拶を交わした。そこで俺はある事を奈良坂に聞いて見る事にした。

 

「奈良坂は文化祭の実行委員になったりするのか?」

 

「いや、俺はなるつもりはない。一応、塾があるから、あまり遅くまで残れないしな」

 

奈良坂は塾に通っているからな。こいつはこいつで大変だ……。

 

「比企谷と奈良坂か……」

 

俺と奈良坂が話していると奈良坂の後ろから声が聞こえてきたので見てみると見知った奴がいた。

 

「辻か、久し振りだな」

 

「よお、辻。久し振り」

 

辻新之助。

B級二宮隊アタッカー。

活路を切り開くアタッカーで援護能力はボーダーでも出水、時枝に並んで屈指の名アシストな男だが、ある致命的な弱点がある。

 

「おはよう。辻君」

 

「おはようございます。辻先輩」

 

「お、おは、よう……」

 

浅葱と夜架が挨拶をしてきたのだが、辻は目を合わせないようにしていた。

辻の弱点は女性が苦手なのだ。女性恐怖症程ではないが、苦手なのだ。だから、女性とはあまり目を合わせないようにしている。

 

「辻……いい加減になれろよ」

 

「いや、無理だ。これだけはどうしても」

 

辻がまともに話せるのは自分の隊のオペレーターの女性だけなのだ。

俺ですら嫌でも慣れたのにな。大丈夫なんだろうか?こいつの将来は。

 

「やあ、ヒキタニ君。おはよう」

 

辻の後ろから葉山が俺に朝の挨拶をしてきたが、相変わらず苗字を間違えたままだった。

よく見たら葉山の後ろには『今の』葉山グループのメンツが揃っていた。

葉山、戸部、三浦、海老名、由比ヶ浜の5人が。

 

「おい、比企谷の苗字を「いい、奈良坂」……比企谷?」

 

俺は奈良坂が葉山に文句を言うのを遮って葉山の目の前に移動した。俺の後ろでは浅葱と夜架の顔をちらっと見たが、かなり怒っていた。恐ろしいな、あの顔は。

 

「それで葉山。俺に何か用か?」

 

「用って程でもないよ。ただ、クラスメイトに挨拶をしただけだ」

 

「……挨拶、ね……今まで挨拶をしてこなったのにな。俺としては何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうんだよ……。その辺り、どうなんだ?」

 

「どう何だと言われても……だから、ただの挨拶だけど……」

 

「そうか、なら安心だな。俺はてっきりボーダーに入った時のために媚でも売っているものかと勘繰ってしまった。すまんな葉山」

 

「ちょっと!!あんた、さっきから聞いていれば、何様なんだし!!」

 

よほど俺の言葉が気に入らなかったのか、三浦が激怒してきた。しかも1階の職員室の前でだ。

何事かと、生徒が集まってきたし職員室から何人か教師が出てきた。

 

「おい、どうしたんだ?さっきの大きな声は。何があった?」

 

職員室から出てきた教師が俺達に聞いてきた。ここは三浦に恥をかいてもらうか。

 

「いえ、クラスメイトと話していたらいきなり大声で怒鳴られたんですよ。そんなに怒る事があった訳でもないんですけど。高校生にもなったのに落ち着きがないなと周りに……葉山に迷惑を掛けますよ?三浦さん」

 

「……っ……!!!」

 

三浦は顔を歪めていた。自分の行動で葉山の評価が下がる事がようやく分かったようだった。

三浦の歪んだ顔を見れたので、そろそろ行くか。どうせ、教室で会うわけだしな。

 

「それじゃ葉山、教室で」

 

「……ああ、教室で……」

 

俺達は教室に向かって歩き出した。後ろをチラッと見て、葉山達を見たがぼう然としていた。特に戸部、海老名、由比ヶ浜の3人が。

 

 

 

 

 

 

「それにしても中々容赦がないな。比企谷」

 

「そうか?だけど、悪いのは向こうだぞ。それにあいつは俺の事を目の仇にしているからな。これ位しておかないとまた文句を言ってきそうだし」

 

葉山達から離れた所で奈良坂が話しかけてきた。先程の三浦へ嫌がらせの事を言っているようだった。

 

「確か職場見学の件だっけか?三浦が比企谷に暴言を吐いたのは」

 

「正確には三浦は俺を罵倒して、暴言を言ったのは雪ノ下だけどな」

 

奈良坂が職場見学の事を思い出して、三浦の事を言ったが、少しだけ違ったので俺が訂正しておいた。

 

「あ、俺ちょっとトイレに行ってくるわ。浅葱、夜架、放課後にな」

 

「うん。放課後にね」

 

「はい。放課後にお会いしましょう」

 

「奈良坂、辻もまたな」

 

「ああ、またな」

 

「それじゃな」

 

俺はトイレに向かうために浅葱、夜架、奈良坂、辻と別れてトイレに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

トイレから教室に着くと中が妙に騒がしかった。入って見るとその訳はすぐにわかった。

葉山の周りに女子が集まっていた。

 

「葉山君。ボーダー入るって、ホント?」

 

「ああ、なんとか試験に合格してね」

 

「そうなんだ~。葉山君ならすぐにA級隊員になれるよ!」

 

「それは分からないけど、出来るだけ努力するよ」

 

葉山とその周りに居る女子の会話が聞こえてきた。それにしても女子が葉山の周りに居るのに三浦が何かを言うかと思っていたが、意外に大人しかった。借りてきた猫のようだった。

しかし葉山程度がすぐにA級に上がれるわけないだろうに、葉山と話していた女子はボーダーの事をまるで分かってはいないようだ。

 

「……まるで分かっていないな……」

 

キーコン!カーコン!

 

俺の独り言は呼び鈴と同時だったため、誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 

この日の授業も何事もなく無事に終わる事が出来た。え?放課後まで飛ばしすぎだ?授業なんて誰が気にするんだ?そういう事で飛ばした。

しかし授業中に俺の事を見ていた由比ヶ浜の視線が鬱陶しかった。

 

「ヒキタニ君。少し話があるんだが、いいかな?」

 

「……無理だ。俺はこれから防衛任務がある」

 

「ちょっと、ヒキオ!隼人が話があるって言ってんのよ。あんたは黙って話を聞くし!」

 

教室を出ようとした所、葉山に呼び止められたが、話をする気は俺に無いのでそのまま行こうとしたら三浦に大声で俺に黙って聞けてと言ってきた。

そもそも俺に黙っていろと言って葉山だけが話していいとは我が儘がすぎるな。

 

「……俺はこれからボーダーで防衛任務があるんだ。話なら別に明日でもいいだろ?こっちの都合を考えないで、一方的に話し掛けてこないでほしいんだが」

 

「それはすまいね。でも早めに聞いておきたいんだ。結衣の事で」

 

葉山は由比ヶ浜が俺に向ける視線の事に気が付いていたようだ。まあ、仲のいいグループだから夏休みの間に会っていても可笑しくはない。

 

「由比ヶ浜なら千葉村以降会っていないが……」

 

ホントは花火大会の日に見かけたが、それ以降は特に連絡してこなくなった。これは言わなくていいだろう。

 

「ああ。その事は結衣から聞いたら知っているけど、聞きたいのはもっと別の事なんだ。場所を替えたいんだが、いいかな?」

 

「……お前の話は他の誰かに聞かれたら不味い事なのか?」

 

話をするだけなら教室でも十分なはずだ。なのに葉山は場所移動をしようとしていた。

 

「ああ。だから2人だけで話がしたい」

 

それを聞いて三浦は自分も話に加わるものと思っていたようで心底驚いていた。

由比ヶ浜は今にも泣きそうな顔をしていた。

海老名は顔を赤く「グ腐腐ッ……」と不気味に笑っていた。

戸部に関しては何が起こっているのか理解していなかった。

 

「……分かった。ただ、俺は防衛任務があるから場所は俺が選ばせてもらう。文句はないよな?」

 

「ああ、それで構わないよ」

 

葉山の了承を得て、教室を出た所で浅葱と夜架がいた。俺を待っていたようだった。

 

「あ、やっと出てきたわね。いつまで時間掛けてるのよ」

 

「お待ちしていました。主様」

 

「二人ともすまん。俺はこれから葉山と少し話してくるから先に行ってくれるか。そんなに時間は掛からないと思うから」

 

「……大丈夫なの?あいつと2人きりで……」

 

「浅葱先輩の言う通りです。ここは私達のどちらかを」

 

「いや、2人とも付いて来なくていいから……」

 

俺が葉山と2人で話す事を言った途端に浅葱はあからさまに心配してくるし、夜架は付いて来ようとしてくる。

何がそんなに心配なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出て向かった先は俺の行きつけの喫茶店だ。由比ヶ浜ともここで話したので丁度いいと思ったからだ。

浅葱と夜架は何とか説得して先に本部に向かうようにした。説得はかなり苦労した。

 

「それで、話ってのは何だ?」

 

「夏休み、と言うか花火大会の日に結衣が誘ったのに君は断ったと聞いてね。断った理由を聞きたいんだ」

 

「理由もなにも浅葱と行く約束をしていたからそっちを優先しただけだけど」

 

「……ちょっと待ってくれ。君と藍羽さんはどういった関係なんだ?」

 

「どんなって……それをお前に言う必要は無いだろ」

 

俺が浅葱と付き合っている事は言う必要はないと思う。しかし葉山は話してくれるものと思っていたようで、俺が言わないのが信じられないと言わんばかりな顔をしていた。

 

「……どうしても言ってはくれないのか?……」

 

「ああ、これは俺のプライベートな事だしな……それともお前は他人のプライベートにまでズカズカと入って来ていちゃもんを付けるのか?」

 

「……それは確かにそうだけど……」

 

「なら俺はもう行くけど、お前はどうする?」

 

「……俺はもう少しだけ、ここに居るよ」

 

「そうか。それじゃ、またな」

 

俺はそのまま店を出る事にしたが、葉山は残るようだった。それにしても俺が浅葱と付き合っている事はまだ他の人には知られない方がいいな。

それに来週はついに入隊日だ。嵐山隊のサポートと言えど大丈夫か、今から心配になってきた。

まあ、なるようになるだろう。

 

 

 




次回の更新は少しだけ間が空きます。

正月とか忙しいのですいません。

出来る限り早く更新していきたいです。

どうか、今年も読んでいって下さい。

では、また。

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