やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
夏休みも後一週間ほどになってきた。新学期が始まるのは憂鬱だが、それでも楽しみな事がある。
それは小町のボーダー入隊だ。これは楽しみでしょうがないが、まだ日がある。
それに比企谷隊は今年から嵐山隊と共にC級の入隊日のレクリエーションを担当する事になっているので大変だ。
それに葉山達が入隊してくるので、絶対に俺に絡んできそうなので、どう対応してやろうかと今は考え中だ。
どうして今年はこんなにも大変な事が続くのだろうか?普段の行いが原因だろうか?
しかしそれはないと思う。学校で授業は真面目に受けているし、防衛任務もしっかりとこなしているのに。
「それで、鏡夜。こっちにいるのがお前に紹介したい連中だ」
俺は今、自宅で夜架の弟の鏡夜にとある人物達を紹介しようとしていた。その人物達とは、川崎沙希、鶴見留美、戸塚彩加、そして比企谷小町の4人だ。
今年中には出来るであろう新設部隊『川崎隊』の顔合わせをした方がいいと小町が言っていたので、こうして集まってもらった。
「そうですか。比企谷先輩が前に言っていた人達ですね。皆さん、始めまして羽々斬鏡夜と言います。これからよろしくお願いします」
「えっと、隊長をやる事になった、川崎沙希、です。よろしく……」
「僕は戸塚彩加。オペレーターをするからよろしくね」
「小町は比企谷小町です。オールラウンダーをやります。よろしくお願いします!」
「……鶴見留美。スナイパー……」
鏡夜から始まった自己紹介は一応成功したと思う。まあ、今日が初対面だし、緊張しているのも無理はないが、これからコミュニケーションを取っていけば大丈夫だろう。
この隊にはムードメーカーと言ってもいい小町がいるので心配はそれほどしていない。
「とりあえず、自己紹介が終わったしB級ランク戦の話や何か質問でもしてみたらどうだ?鏡夜は何かあるか」
何となく間が空いたので話を振った。俺が話を振るとはな……こう言う場合小町がしてくれるといいんだがな。
「そうですね。男が僕1人なので彼女達と仲良くしていけるか、少し不安ですね」
「……あー鏡夜。男はお前だけじゃないんだよ」
「え?……そうなんですか?それだとしたら誰が?」
「戸塚は男なんだよ」
「……え!?!?……そうなんですか!?」
初見で戸塚を男だと見分けるのは無理がある。大抵の人間には戸塚は女に見えてしまうからな。
それにしても戸塚はよく女と間違われるな……肌は白いし一人称が『僕』だからな。
女性でたまに一人称が『僕』で通している人がいるからな。だから間違えるのだろうか?
「……ははは……うん。僕は男なんだ……」
「す、すいません!全然気づかいないで!!」
鏡夜は戸塚に対して思いっきり頭を下げて謝っていた。もはや頭が床にめり込んで行く勢いだ。鏡夜、それ以上は家の床が抜けそうだから止めてくれ。
「気にしなくていいよ。よく言われるから……」
声のトーンが最後の方がかなり低くなっていた。戸塚は最近気にし出したようだ。俺が始めに間違え出した時からだろうか?誰もが戸塚を女と間違えるようになったのは。
「ほ、他に何か聞きたい事はないか?」
無駄だと思うが、話題を無理に変えて何とかこの場の空気を変えないと不味い事になるかもしれない。
「だったら、いくつか聞きたい事があるんだけど。羽々斬に」
「あ、僕の事は鏡夜で結構ですよ。姉の夜架と言い間違ってしまうとややこしいので」
川崎が助け舟を出してくれた。助かった……と思う。これで戸塚が持ち直してくれば、いいんだがな。
「それじゃ、鏡夜は隊長をやるつもりはないわけ?」
「隊長ですか?僕は他の人に的確に指示を出せませんし、それに僕は前衛タイプですから、指示を聞いて行動するのが性にあっています。なので、隊長をやるつもりはありません。すいません」
「そっか……はぁ~じゃあ、あたしがやるしかないか……」
川崎は念のために鏡夜に隊長をやるかを聞いてみたらしいが、結果は駄目だった。夜架も指示を出すのは苦手って言っていたっけ。
双子姉弟で、そう言う所は似るのだろうか?
「それじゃ、えっと……鏡夜のポジションとメイントリガーを教えてくれる。作戦とか考える時に参考にしたから」
「はい。僕のポジションはアタッカーでメインは弧月です。川崎さん達のも聞いてもいいですか?B級に上がったらどのポジションになるとか、メインも気になりますから」
「まあ、そうだよね。あたしのポジションはオールラウンダーでメインは弧月を使うつもりだから。サブにはシュータートリガーを入れるつもり」
「小町はポジションは沙希さんと同じでオールラウンダーでメインはスコーピオンでシュータートリガーを入れます」
「私のポジションはスナイパー。メインはイーグレットにするつもり」
鏡夜が川崎達にポジションやトリガーは何にするのかを聞いてきた。川崎、小町、鶴見がそれぞれ答える。
これだと川崎隊の編成はオールラウンダー2人、アタッカー1人、スナイパー1人となる。俺から見ても川崎隊は偏った編成ではないので連携をしっかりとしていけば、B級ランク戦でも十分戦っていけると思う。
「そうですか。教えてくれてありがとうございます。作戦とか考えるのはあまり得意ではないですけど、頑張っていきたいです。皆さん、これからよろしくお願いします」
「えっと、その、こちらこそよろしく」
「皆さん!頑張ってA級目指しましょう!」
「うん。がんばる」
「うん。僕はオペレーターとして皆を支えていくから」
鏡夜が改めて、川崎達に頭を下げて挨拶をした。鏡夜は礼儀正しいな。
川崎、小町、鶴見、戸塚が鏡夜に続いて改めて挨拶をしていた。
「話し合いは終わった?」
台所から浅葱が顔を出してきた。時間を見てみると、昼食の時間まで経っていた。腹が減ってきたと思ったら、もうこんな時間だった。
「ああ、ある程度の話終わった。浅葱は何か作っていたのか?」
「うん。加古さんから新しく教わった炒飯を作っていた所よ」
俺はそれを聞いて全身から嫌な汗が出てきた。それに小町も顔が青ざめているのが見て分かる。
鏡夜、川崎、鶴見、戸塚はまだ食べた事がないからこれから始まる地獄が分かってはいない顔をしていた。
「藍羽の料理って、どの程度なの?比企谷」
「……炒飯以外は一般的なレベルだが、炒飯だけは最早この世の食べ物とは言えない代物だ。だから、気を付けて食べろ。最悪、腹を壊して2、3日寝込む事になるかもしれないからな……」
「そんなにヤバイの?藍羽の料理は……」
浅葱の料理の腕を川崎が聞いてきたので、俺は率直に話した。途端、川崎だけではなく鶴見や戸塚の顔は引きつっていた。
ホントに何故浅葱の料理で炒飯だけは美味しくならないだろうか?こればかりは不思議でしょうがない。
「……ちなみに浅葱。今日の炒飯は何なんだ?」
「今日のは『とろろとチョコレートの炒飯』よ。皆、遠慮しないで食べてね」
俺は浅葱の満面の笑みに断る事は出来ずに食べる事にした。川崎達は食べるか迷っていた。まあ、気持ちは痛いほど分かるぞ。
こんな炒飯は今まで見た事がないからな。
「お前ら、俺が責任を持って食べるから無理して食べなくていいぞ」
俺が助け舟を出したが、全員が顔を横に振り、浅葱の特製炒飯を食べ始めた。食べて少し経った頃に全員の顔が青くなってきた。
浅葱の炒飯の恐ろしさが今になってきたようだった。
念のために胃薬をストックしておいて正解だったようだ。これからも胃薬はストックしていた方がいいな。
そんな事を思いながら俺と川崎隊のメンバーは腹を壊した。