やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
夏休みが終わるまで10日を過ぎたその日に俺は風邪を引いてしまった。
「……ゴホッゴホッ……これは、雪菜の風邪が移ったな……」
雪菜にお願いされてしてしまったが、その時に風邪が移ったと思う。風邪を引いた病人とキスをするものではないなと痛感していた。
幸いに防衛任務は明日の夜なのでそれまでになんとか治しておきたい。
A級で固定給があるとは言え、撃破したトリオン兵の数で貰える給料を手放したくはない。老後の事を考えて貯金をしておきたかった。てか、すでに老後の事を考えている俺って、相当老けた考えをしているな。
まずは寝て、体力回復だ。その後で何か食べるとしよう。
「あさだぞ!おきろー!」
「おきろー!」
「へぶっ!?!?」
気持ちよく寝ているといきなりお腹の上に衝撃が走った。原因は俺の布団の上で暴れている2人の子供の所為だ。
「……後5分……寝かしてくれ……」
「だーめー!あさごはん!」
「あさごはん」
駄目か……しかたがない。ここは起きるしかないのか。防衛任務がない夏休みなのに早起きをしないといけないんだろうか?はぁ……、もう少し寝たかった。
静かになったので布団を出て見ると2人の子供はどこにも居なかった。
「ようやく静かになったか…………ん?今の子供達って誰だ?それにこの部屋は一体?」
俺は布団から出て違和感に気付いた。比企谷家にあんな小さな子供は居なかったはずだし、そもそもこの部屋は俺の自室で無くなっていた。
とりあえず部屋から出て誰かに会ってどう言う状況なのかを確認しないと問題だ。
部屋を出て、俺が居るのが1階ではないとすぐに分かった。下に降りる階段が在るからだ。下から複数人の声が聞こえてきた。まずは人に会う事が先決だな。
1階に降りて声が聞こえてきた部屋の扉を開けて見ると4人の女性がいた。年齢は20代後半位だと思う。
「おこしてきたよ~」
「おこしてきた~」
「偉いね。それじゃご飯にするから椅子に座って待っててね」
「「は~い」」
キッチンで料理をしていた女性が子供2人を褒めて椅子に座るように促して俺と目が合うと近付いてきた。
「まったく、父親になったんだからシャキッとしなさいよね」
「……え?……浅葱?」
「そうだけど。何?自分の嫁くらい覚えてられないの?」
俺の目の前にいる女性はなんと浅葱だった。しかし可笑しい。浅葱はまだ10代のはずなのに目の前にいるのはどう見ても20代は過ぎているように見える。
大人になっているからだろうか、凄く綺麗になっている。美少女から美女にクラスチェンジしたようだ。
それよりもまずは確かめないといけない事がある。
「浅葱。今日は何年の何月だ?」
「どうしたのよ。急に?頭でも打って寝ぼけてるの?今日は20〇×年の八月よ」
それは俺が高2から約10年以上経った日付だった。寝ている間に未来にタイムスリップでもしたんだろうか?
考え込んでいると1人の女性が近付いて来た。
「大丈夫ですか?旦那様」
「え……?夜架?」
「はい。夜架ですが、どうかなさいましたか?」
「いや、多分大丈夫じゃないな……」
近付いて来た女性はなんと夜架だった。10年以上経って大人になって、こちらも浅葱同様に綺麗になっていた。マジで、美人だ。
「どうしたのよ?八幡。頭をどこかで打ったの?」
「そうですね。今朝はなんだか変ですね。大丈夫ですか八幡さん」
「……シノン、雪菜……か?」
「そうだけど」
「はい。そうですよ」
大人になった浅葱と夜架と話していると更に2人加わってきた。しかもシノンと雪菜とは思いもしなった。2人とも綺麗になっていた。てか、何で比企谷隊がここに全員いるんだ?
それに気になっている事が別にある。それは夜架とシノンの足元に子供、雪菜が抱えている赤ん坊がいることだ。浅葱の言う事を聞いて椅子に座っている子供も一体何なんだ?
「すまん。聞いてもいいか?その子供達って一体……」
「結婚した私達と八幡との間に生まれた子供に決まっているじゃない。ホントどうしたのよ?自分の子供の事を忘れるとか。今日はどうしたの?」
「……いやいや、重婚は日本では出来ないだろ……」
俺は浅葱の言った事を理解出来ないでいた。俺が浅葱達と結婚!?しかも子供が出来ているとか、信じられないな。
でも、どの子も少し俺に似ている部分がある。立っているアホ毛とか、その辺りだ。
「ホント大丈夫なの?明日にでも病院にでも行った方がいいんじゃないの。それに今は日本でも重婚して大丈夫なのよ。少子高齢化の対策として日本政府が一夫多妻制を可決して、もう7、8年位経ったわよ」
「……そうだったっけ……?」
俺は浅葱からの衝撃発言に頭が付いていかなかった。俺のサイドエフェクトで処理速度を上げたが、それでも追いつかなかった。
「とりあえず、朝食を食べてよね。片付かないから」
「わ、分かった。それじゃ、いただきます……」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
考えるのを一先ず後にして朝食を食べる事にして、周りを観察することにした。
俺を起こしに来た子供2人が恐らく俺と浅葱との間に生まれたのだろう。しかも双子とは結構似ている。アホ毛の部分が特に……。
次に夜架の隣に居る子供に目を向けてみた。夜架譲りのサラサラした髪にツンと立つアホ毛がある可愛らしい女の子だ。まるで人形のように見えた。
続いてシノンが世話をしている子を見てみた。髪型はある程度母親似なところが見られるが、やはりアホ毛がるのは俺の血を継いでいるからだろう。この子も言うまでもなく可愛かった。
最後に雪菜が抱えている赤ん坊を見たが、アホ毛はまだなかった。だが、いずれ成長していけば、現れるだろう。言うまでもなくこの子も可愛かった。
「それじゃ、朝食を食べたことだし八幡は早く着替えなさいよ」
「着替える?なんで?」
「……なんでって、あんた本部長の仕事があるでしょ?ほら、服は掛けてあるから」
「お、おう。分かった。……え?!俺が本部長?!」
朝食を食べ終わったので、一息出来るからと思っていると浅葱から衝撃の発言に驚いて固まってしまった。
俺はまだ、ボーダーに居て本部長をしているとは思いもしなかった。そもそもよく引き受けたな俺。
浅葱の言う、掛けてある服は黒いスーツだった。二宮隊の隊服を思い出すな。ある意味コスプレ感があったからな、あの隊服は。
「そ、それじゃいってきます」
「あ、ちょっと待って八幡。ネクタイが少し曲がっているからそこに立ってて」
浅葱は俺の前に立ってネクタイを直し始めた。改めて近くで浅葱を見ると大人の魅力で更に綺麗になったと思うし、それに胸が一回り大きくなっている。どこまで大きくなるんだ?
ネクタイが直ったので改めて行くために玄関に向かった。
「それじゃ、行って来る」
「うん。いってらっしゃい八幡」
「行ってらっしゃいませ。旦那様」
「がんばって、八幡」
「しっかりですよ。八幡さん」
浅葱、夜架、シノン、雪菜にそれぞれ送られて玄関を開けた瞬間、視界が暗転した。
目を開けると始めに映ってきたのは馴染みのある比企谷家の俺の自室の天井だった。
「……夢オチか……まあ、そうだと思っていたけどな……」
それでも中々いい夢が見れたと思う。まあ冷静に考えれば、一夫多妻はないな……。
そんな事を考えていると部屋の扉が開いて誰かが入って来た。
「あ、ようやく起きましたか。八幡先輩」
「……雪菜か……どうして俺の家に?いや、そもそもお前のその格好は何だ?」
部屋に入って来たのは雪菜だったが、今の彼女の格好が気になってしょうがなかった。
彼女の格好はナース服を着ていてナースキャップもしっかりと被っていた。
「えっと、その……似合いませんか?」
「いや、似合わないと言うか……寧ろ似合い過ぎる位だ」
「そうですか……良かった……」
雪菜にナース服の事を褒めた途端、雪菜は顔赤く染めて照れていた。可愛いな。
「そう言えば、雪菜だけなのか?来ているのは?」
「いえ、皆さん来て居ますよ」
「え?全員、来ているのか?」
「はい。そうですよ」
雪菜だけかと一応聞いてみたが、まさか比企谷隊全員集合とはな……。
その時、またしても部屋の扉が開いたので、目を向けて見ると3人のナースがそこには居た。
浅葱、夜架、シノンの3人も雪菜同様にナース服を着て登場してきた。
「………………」
俺はあまりの状況に絶句してしまった。この後、どのように対応していけばいいんだろうか?気になる事から聞いて見るか。
「お前らはどうして、ナース服を着ているんだ?」
「そ、それは八幡、あんたを看病しに来たのよ!」
俺の質問に浅葱は答えてくれたが、その顔は恥ずかしさを隠して居るように見えた。恥ずかしいなら着なければいいのにとは言わないでおいた方がいいな。
「八幡と連絡が取れないと浅葱先輩から連絡が来て、皆で様子を見に来た」
「それはすまんな。でも、何でナース服を?」
俺の家に来たのはそう理由だったのか。しかし答えたくれたシノンもナース服を着て居るとは意外だった。着そうにないのに。
「小町さんが言っていましたよ。『お兄ちゃんはコスプレ萌えだから何か着て看病すればポイント高いですよ!』と」
小町め!余計な事を言ってくれたな!!それにしても夜架の小町のマネはかなり完成度が高いな。無駄に。
「やっぱり、迷惑でしたか……」
「いや、そんな事はない。来てくれて、ありがとな」
雪菜の申し訳ない顔をみたら、迷惑だとは口が裂けても言えない。
それにしても全員がまさか、ナース服を着るとは思いもしなかったが、これはこれでいい夢だなと幸せな気持ちになるな。
「それじゃさっき看病のために作った炒飯があるから食べてよ」
そう言って浅葱は出してきた炒飯は何故か緑色をしていた。恐ろしくて何の食材を使っているのか聞けない。
「……ちなみにこれは何炒飯なんだ?」
「これはね『風邪もすぐ治るスタミナ炒飯』よ。ほら、冷めない内に食べてよ」
一口スプーンで掬って俺の口に運んできたが、内心はこれを食べたら風邪は治るかも知れないが、腹痛を起こす未来が待っているんだろうな。
3人に視線を向けて見ると、3人が合掌していた。すでに俺のためにしているとはな。
俺は覚悟を決めて一口食べた。
「……グハッ!?!?」
浅葱の炒飯の不味さにはある程度耐性が付いたと思っていたが、これは今までに食べた事のない不味さだった。
風邪は何故かこの激マズ炒飯を食べたら思いのほか治ったが、2日ほど腹痛で寝込む事になってしまった。
流石は浅葱の炒飯だ。期待を裏切らない不味さだった。
後2、3回更新してから新学期(新章)に入ろうと思います。
これからもどうぞ。読んで下さい。