やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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朝田詩乃③

夜架との水族館でのデートと言っていいのかは分からないが、お互いに楽しめたので満足している。

夏休みも折り返しに差し掛かり、新学期に向けての準備などを始めないといけない。

それに去年の今頃に出水と米屋の夏休みの課題を手伝ったからそろそろ来ても可笑しくはない。

あいつらは課題を早めに終わらせる気はないんだろうか?その方が楽なのに。

 

そんな事を考えていたが、すぐ考えるのを止めた。別の事を考えていると撃ち抜かれかねない。

シノンに。

俺は比企谷隊の作戦室のトレーニングルームでライトニングを持って特訓に汗を出している。と言うかトリオン体なので汗は出ないが、冷汗が出そうになっていた。

その理由がシノンに夜架と水族館に行った事を誰かから聞いたらしく、今日は色々と聞かれた。

その際のシノンの顔は無表情でゴミでも見るような目をしていた。かなり怖かったです。マジで、恐ろしかった。

 

その事を許してもらう代わりにトレーニングに付き合わされている。と言ってもシノンにはあまり必要はないと思うけど。

何故なら彼女はすでに『ボーダー ナンバー3 スナイパー』の称号を持っているのだから、けれどシノンはそれで納得するような性格ではない。

自分が納得するまでとことんやる。それが朝田詩乃という少女だ。

 

 

 

 

 

「さてと、どこにいるのか……」

 

俺はライトニングを手に周りのビル群を見てシノンが居そうな場所を見定めていると、背中を預けている建物が撃ち抜かれた。

遅れて『パァーーーン』と発射音が聞こえてきた。

 

「マジか!?ここは不味いな」

 

すぐに場所移動を開始した。今の狙撃は予測して撃ってきたものだろう。このトレーニングにレーダーは使えないので相手の正確な位置は分からないはずなのだが、シノンは自分の今までに積んできたスナイパーとしての勘で俺がいる場所にある程度狙いを付けているようだ。

味方だったら頼もしいが、敵になるとこれほど厄介なヤツはいないだろう。

 

「……モグワイ。今のはどの位の距離からの狙撃だ?」

 

『今のは976mの距離だぜ。旦那』

 

「976!?どんだけ、長距離な狙撃だよ」

 

『シノンお嬢が使っているスナイパーライフルが良いのとお嬢の腕だからこその距離だな。ケケッ』

 

モグワイの言う通りだ。シノンのスナイパーとしての腕はボーダーで超一流なので問題ないと思うが、そもそもボーダーのスナイパーライフルで今の距離を狙うのは無理がある。

 

3つあるライフルはトリオン量に応じて性能が違っている。

大抵の隊員が使っている『イーグレット』は射程重視で威力や弾速もそれなりに高い汎用型だ。

俺も使ってる『ライトニング』は弾速がずば抜けて速く命中させやすいのが特徴だ。俺がこれを使っているのは自分のトリオン量や狙撃の腕が高くないのでそれをライフルの性能でカバーしようと考えたからだ。

最後に対トリオン兵用の大型ライフル『アイビス』。これはトリオン量が高いほど威力が増していくが、ランク戦では大きすぎるためか、使う隊員はいない。

 

しかしシノンが今使っているのはこの3つのスナイパーライフルのどれにも当てはまらない。

開発室が作った第4のスナイパーライフル『バリスタ』だ。

大きさはイーグレットとアイビスの丁度中間位の大きさだ。このライフルは3つのスナイパーライフルの性能を合わせた物だ。

 

少し前に材木座から試作品を渡されていたが、使わないで放置されていたのをシノンが見つけて使わせて欲しいと言ってきたので使わせている。

俺としても本職のスナイパーに使ってもらった方がよりいいデータが取れると思ったからだ。

しかし俺が思っていたよりライフルの性能は高かったらしく予想外にも俺は追い詰められていた。

 

「……おいおい、マジかよ……」

 

先ほどの狙撃は俺の炙り出すためだったのか。それの思惑に見事に嵌りシノンに左胸を撃ち抜かれてしまった。

ほんと、いい腕をしているなシノンは。

 

 

 

 

 

トレーニングが終わった後、俺はソファーで横になっていた。流石に5回連続のトレーニングは疲れる。

身体の方はトリオン体で疲れる事はないが、精神的に疲れる。

しばらくするとシノンがトレーニング室から出てきた。その後に続き2人ほど出てきた。

 

「あ、比企谷先輩。お疲れ様です」

 

「……ああ、お前もな日浦」

 

1人目は那須隊のスナイパーの日浦だ。

日浦が何故ここに居るのかと言うと、小町と雪菜を待っているからだ。3人でプールに行く約束をしているそうなので、2人の特訓が終わるまで暇だから俺とシノンの特訓に参加したのだ。

 

「……ハチ先輩。お疲れ……」

 

「お疲れさん。絵馬」

 

絵馬ユズル

影浦隊スナイパー

スナイパーの腕は高く中学生隊員の中ではトップの個人ポイントを持っている。天性の射撃を武器にチーム戦で敵の足止めや味方の退路の確保などで活躍している。

射撃の訓練では的に☆マークを作るなど遊びをしている。

そして二宮隊の元スナイパー鳩原さんの弟子である。

 

鳩原さんが失踪した時には落ち込んでいたので気晴らしに俺とシノンがしていた特訓に誘った。

それからしばらくは落ち込んでいたが今は大分落ち着いてきた。

 

「シノン、絵馬、日浦。何か飲むか?」

 

「私はオレンジで」

 

「……俺もそれで」

 

「私もオレンジでお願いします」

 

シノン、絵馬、日浦はオレンジジュースでいいようなのでコップを用意して注ぎ3人にそれぞれ配った。

しばらくしていると部屋の扉が開いて2人が入ってきた。

 

「お待たせ~茜ちゃん!」

 

「ごめん茜ちゃん。少し遅れて」

 

小町と雪菜は特訓が終わって帰ってきた。小町は元気一杯でなりよりだ。雪菜は遅れた事を申し分けなさそうな顔をして謝っていた。

 

「ううん、全然だよ。それじゃ行こうよ」

 

「そうだね。それじゃお兄ちゃん。小町達はこれからプールに行ってくるから」

 

「おう。楽しんでこい」

 

俺は小町と雪菜と日浦を見送った。今更だがナンパとか大丈夫なんだろうか?心配になってきたな……。

俺も付いて行った方がよかっただろうか?

 

「……それじゃ俺も行くね」

 

「そうか。またな絵馬。そうだ、聞きたい事があるんだがいいか?」

 

「何?ハチ先輩」

 

帰る絵馬を引き止めて俺はある事が聞きたかった。絵馬にとってはあまり聞かれたくないことかも知れないがな。

 

「……鳩原さんの事をお前はどう思う?」

 

「…………師匠が上層部に干されたのは分からないけど。俺じゃどうする事も出来ないから……」

 

絵馬は鳩原さんの事を思っているが、所詮子供では出来る事なんて限られている。それに深く関わるとクビにされかれない。

そうしたら会う事も調べる事も出来なくなってしまう。

俺は絵馬をそのまま見送る事にした。今の俺が出来ることが何なのか分からないのもそうだが、ボーダーをクビになったら、家計を苦しめる事になってしまう。

A級に上がって固定給を貰っているんだ。今更手放したくはなかった。すまんな絵馬。

 

「……八幡は鳩原さんの事、そんなに気に掛けているの?八幡も行きたかったの?ネイバーフッドに……」

 

「……すまんなシノン。それは俺の中で整理が付いてないんだ。また今度にでも話すよ……」

 

「……分かった。もう何も聞かない」

 

シノンが鳩原さんの事を聞いてきたが、俺はそれに対して答える事をしなかった。

俺がネイバーフットに行きたい理由と鳩原さんがネイバーフッドに行った理由が同じとは限らない。

それに俺がシノンに話さなかった理由は余りいい話ではないからだ。

 

「俺は帰るけど、シノンは?」

 

「私も帰る」

 

防衛任務も無いし、特に誰かとランク戦をする約束もないので帰る事にした。出水や米屋は今は防衛任務中だからだ。

こういう気分の時は気晴らしにランク戦でもしているが、いい相手がいないのでしかたない。

 

「……帰る前に八幡に伝えたい事がある」

 

「何だよ。急に……ん!?……」

 

シノンが伝えたいことがあると言われて顔を向けると視界にシノンの顔がドアップで見えた。

……え!?俺、今シノンにキスされているのか?彼女が居るのにキスとか……浅葱は出来るだけ応えてやって、と言われたがモテた試しが無い俺にとってはハードルが高い。

 

「……浅葱先輩と付き合っているのは知っているけど、どうしても自分の気持ちを伝えたかった」

 

夜架に続いてシノンにまで告白されるとは俺のモテ期が来たんだろうか?いや、流石にそれはないよな……?

でも、こうして女子に何度も告白されるとはそう思わずにはいられない。

 

「……シノン。お前の気持ちは伝わった。でも、俺はすぐに応える事が出来ないけど。それでもいいか?」

 

「うん。それでもいい。私が伝えたかっただけだから」

 

俺は聞きたかった事を質問して見ることにした。答えてくれるだろうか?

 

「シノン。一つ聞いてもいいか?」

 

「何?」

 

「どうして俺を好きになったんだ?」

 

「昔助けられた時に八幡がヒーローに見えて憧れていたけど、いつの間にか好きになっていた」

 

シノンから来た答えを聞いていて何だか恥ずかしくなっていた。ヒーローとは恥ずかしすぎるけど、悪い気分ではないな。

しっかりと自分の気持ちを決めようと思う。そんな日だった。


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