やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
三門市で八月中旬に行われる花火大会に、俺は千葉村で晴れて恋人になった浅葱と来ていた。
元々は浅葱の親父さんが俺に久し振りに会いたいと言った事が始まりだ。浅葱の親父さんは三門市の市長を勤めているために中々時間が合わないのだ。
花火が始まる前に少し挨拶をしておきたかった。浅葱に告白して付き合っている事はまだ誰にも言っていない。
この際だから言った方がいいと思う。昔から家族ぐるみの付き合いがあるとは言え黙っていると、後々何か問題が起こると対応しずらいからだ。
「八幡。入っていいってさ」
「おう。分かった」
俺が考え込んでいると、浅葱が有料エリアの警備員の人にあらかじめ用意していた入場証明書を見せてから入る事にした。
そこにはいくつもの長椅子があり、5人位は十分座る事が出来る長さがある。
とりあえず座って、買ってきたお好み焼きなどを食べようとした。
「う~ん。やっぱり影浦先輩のお好み焼きは美味しいわね」
「だな。お好み焼きはカゲさんの所が一番だな」
俺と浅葱はカゲさんがやっていた屋台から買ったお好み焼きを食べていた。やはりと言うか、カゲさんのお好み焼きはハズレがない。
それもそうだろう実家で散々作っているんだから。
「浅葱。それに八幡君もすでに来ていたのか」
「あ、お父さん」
お好み焼きを食べていると俺と浅葱の事を呼ぶ声が聞こえてきた。そちら方向を見てみるとヤクザ風の容姿をした男性の人と女性が居た。
女性の方は浅葱の母親の菫さんだ。男性の方は浅葱の父親の仙斎(せんさい)さんだ。
仙斎さんは見た目はヤクザと間違いそうになるが、三門市の市長をしている。物心が付いた時に見た時は泣いたのは良く覚えている。
「どうも、仙斎さん。ご無沙汰しています」
「そんなに硬くなるなよ八幡君。君はアイツの忘れ形見だからな。困った事があれば遠慮なく言ってくれ。力になるから」
仙斎さんは俺の親父と古い仲で昔から良くしてくれた。どのような仲なのかは知らないが、見た目とは裏腹にいい人だ。
4年前の大規模侵攻の時も母ちゃんや小町の事をよくしてくれた。
「お母さんと小町ちゃんは元気にやっているかな?」
「はい。今はもう元気にやっています。昔のようにはいきませんけど……」
仙斎さんが2人の事を聞いてきたので、元気な事を言った。それでも母ちゃんも小町も以前のような元気はない。親父が亡くなった事は2人共相当応えたらしい。
俺はそれ程だった。理由は親父は小学生に上がった小町を猫可愛がりしていた所為で俺にはそんなに構わなくなったからだ。
だから、俺はそんな親父に愛想がなかったかもしれない。
「……比企谷君?」
俺が家族の事を考えているとどこかで聞いた事がある女性の声が聞こえたきた。
声がした方に振り向いて見るとそこに居たのは雪ノ下雪乃の姉である雪ノ下陽乃だった。綺麗に浴衣を着こなしている。
「……どうも、雪ノ下さん」
「こんな所で会うなんて奇遇だね」
「そうですね……」
まさか、こんな所で雪ノ下さんに会うとは思いもしなかった。しかし、この人は何でここに居るんだろうか?とても女子大生が1人で居るような場所では無い気がする。
そんな時に仙斎さんが雪ノ下に話しかけた。
「これは雪ノ下建設のお嬢さん。今日はお父上の代理で?」
「はい。藍羽市長。父は多忙なため、私が代理で来ました。それで藍羽市長と比企谷君の関係を聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん。彼の父親と私が親友の間柄でね。昔から家族ぐるみの付き合いがあるんだよ」
「そうだったんですか。質問に答えてくださいまして、ありがとうございます」
「何のこれくらい、全然構いませんよ」
2人の会話を聞いていて、これが大人の会話と言うものなんだなと思った。それにしても雪ノ下さんは父親の代わりにここに来たのか。
社長令嬢は中々に大変なんだなと考えてしまった。
仙斎さんと雪ノ下さんの会話が終わった頃に花火が打ち上がり始めた。夜空に様々の色を咲かせた。
まさか、今年は浅葱が彼女になって見る事になるとは思いもしなかった。
と、なんだかキャラ違いな事を考えているといつの間にか花火は終わっていた。何だかあっという間に終わってしまった。
「花火も終わったし帰るか。家まで送って行くぜ」
「うん。ありがと」
「あ、八幡君。今晩、浅葱を八幡君の家に泊めて欲しいんだけど。いいかしら?」
俺はとりあえず浅葱を家まで送る事にしたのだが、そこに菫さんが入ってきて、とんでもない事を言ってきた。
「……えっと、それはどういう事ですか?」
「今夜は私も夫も家に帰れるか分からないのよ。それで浅葱を1人家に居させるのはさすがに心配で。だから八幡君の家に止めて欲しいのよ」
「それだったら、どこかホテルにでも止めた方がいいのでは?」
「それは無理なのよ。浅葱の着替えはすでに八幡君の家に送ってあるから」
なんで菫さんはとんでも無い事をさらりと言ってるんだ。そういえば、家にキャリーバックが有った事を思い出した。
あれは浅葱の着替えだったのか。家を出る前に小町に確認しておくのだった。しかしすでに時遅しと言うものだ。
「……分かりました」
「それじゃお願いね」
俺は反論する事を諦めた。昔からこの人には勝てない気がするからだ。
それにしても浅葱はさっきから黙っているけど、大丈夫なんだろうか?今夜は小町も母ちゃんも帰って来ないから俺と浅葱だけになる。
しかし、大丈夫だろうか?年頃の男女2人が他に人もいない家に居るというのは?
「でも、大丈夫なんですか?俺の家に泊めても?」
「大丈夫よ。だって、2人は付き合っているんだから」
「……俺、話しましたか?」
「いいえ。でも2人の態度を見れば分かるわ」
菫さんにはどうやら隠し事は無駄らしい。まあ、勝てる気がしないからなこの人には。
俺と浅葱は仙斎さんと菫さんに見送られて会場を出て、比企谷家に向かうことになった
「比企谷君。よかったら、駐車場まで一緒にどう?」
「……浅葱しだいですけど」
「私は別に構わないけど」
家に帰ろうとした時に雪ノ下さんが話し掛けて、駐車場まで一緒に行く事になった。正直な所、この人は嫌いではないが苦手な部類に入る。
駐車場に着くとそこには黒色のハイヤーが1台が止まっていた。この辺りでハイヤーを乗り回すのは雪ノ下家位なものだろう。
俺はハイヤーを前から後ろまでまじまじと見てしまった。
「そんなに見ても傷なんか見つからないよ?」
「……それもそうでしょ。1年前の事故の傷を残しておくほどバカではないでしょ?雪ノ下建設は」
このハイヤーを見たが傷はすっかり無くなっていた。新車のように傷一つ無かった。
しかもご丁寧にナンバープレートを変えていた。徹底しているな、これは。
「もしかして、雪乃ちゃんから聞いてないの?」
「言うわけないですよ。あいつが自分の不利になるような事をね」
雪ノ下雪乃とはそう言う人間だ。他人を信じずに自分こそが絶対の正義だと疑わない。
人間とは誰かと何かしら繋がっている。だが、雪ノ下雪乃は繋がりは不要と思っている。だから、あいつは強くなく弱い。
雪ノ下がボーダーに入ったら、ポイントを簡単に奪える相手になるに違いない。
「……なんか余計な事を言っちゃたからな?私」
「そんな事はないです。これは雪ノ下……あなたの妹の問題だと思いますから。だから、姉である貴女が気にする必要はありません」
雪ノ下さんは自分が余計な事をしたと思っているようだが俺はそうは思わない。どの道、入院中に弁護士が来た時からある程度は調べていた。
来た弁護士は『葉山』と名乗った。そこから事務所を調べたら雪ノ下建設の顧問弁護士をしている事まで分かった。
だから、あの車には雪ノ下の人間が乗っている事はすぐに分かった。
「……『何が貴方の事は知らないわよ』だよ。嘘付きめ……」
奉仕部に行っていた頃、雪ノ下は俺に『貴方の事は知らないわ』と言った事があったが、もしかしたら雪ノ下は俺が事故の被害者である事を顔を合わせた時点で分かっていたかも知れない。
だが、今更そんなのどうでもいい。俺が雪ノ下に関わらなければいいだけの話だ。
俺と雪ノ下雪乃との関係は終わる所か始まってすらいない。