やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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比企谷八幡&藍羽浅葱①

八月中旬の今日は浅葱との約束した花火大会の日だ。

この日、比企谷隊は深夜からの防衛任務でトリオン兵と戦っていた。

そして帰ってきたのが朝7時過ぎだったために今はものすごく眠たい……。家に着いて部屋着に着替えてからすぐ様にベッドに横になった。

寝てから約1時間位した頃にスマホに着信が来た。相手は『由比ヶ浜』と表示してあったが、出る気にはなれなかった。

何故なら、相手が由比ヶ浜だからだ。しかし、出ないといつまでも鳴っていそうだな……。

しかたないから出る事にした。

 

「はい。もしもし……」

 

『あ、ヒッキー?』

 

「いえ。違います」

 

俺はすぐに電話を切って寝る事にした。花火大会までに約8時間位あるので寝ておきたかった。

でないと折角、浅葱と出掛けるのに途中で寝むくなったら流石に失礼過ぎる。

今更ながら思う。男女で花火大会に出掛けるとかもはや『デート』だな。まあ、付き合ってるから当たり前なんだが、そう思うとなんだか少し恥ずかしくなる。

そんな事を考えていると、再びスマホが鳴り始めた。もちろん着信相手は由比ヶ浜だ。

……しつこい。朝から電話をしてくるとか、余程俺の安眠を妨害したらしい。

由比ヶ浜の好感度は始めから低かったが、これで更に下がった。

 

「……はい。もしもし……」

 

『ちょっと、ヒッキー!!!何でいきなり切るんだし!!!』

 

予想通り由比ヶ浜は怒っていたが、俺にはそんなの関係ない。なんで朝からこいつの声を聞かないといけない?

 

「……由比ヶ浜。朝から声がデカいんだよ。それとな俺はさっきボーダーから戻ったばかりで眠いんだ。朝から俺を不機嫌にさせるな」

 

『ご、ごめん……知らなかったから……その……」

 

「そんな事はもうどうでもいい。用件を言え」

 

『う、うん……今日さ、花火大会があるでしょ。よかったら、ヒッキーさあたしと行かない?』

 

「行かない」

 

由比ヶ浜の電話の用件は今日の夜にある花火大会の誘いだった。しかし俺はそれに対して『行かないと』と即答した。

それもそのはずだ。今日は浅葱と、その……『デート』なんだからな。

それに何で俺が嫌いな人間とどこかに出掛けないと行けない?

だからこそ、即答で断ったのだ。

 

『ちょ!何でだし!!理由を言うし!!』

 

「今日の花火大会は先約があるんだよ。だから、お前とは行かない」

 

『先約って、誰?』

 

「どうして、それをお前に言わないといけない?理由はなんだ?」

 

『そ、それは、その……き、気になるから』

 

気になるからって理由で教える訳ないだろうに。大方、俺と行く人物が俺と恋中になるか気になっているんだろう。

浅葱とは既に恋人なんだけどな。これは言わないでいいだろう。余計に面倒なことになりそうだし。

 

「理由になっていない。国語勉強し直して来い。じゃあな」

 

『ま、待ってーーー』

 

由比ヶ浜が何か言いかけていたが、俺はそれを無視して電話を切った。この際だから由比ヶ浜の番号を着信拒否に設定した。

これで二度と掛かってはこないだろう。大人しく雪ノ下と2人で行ってろ。

さて、準備の時間まで寝るとしますか。俺の安眠を妨害するものはいないからな。

 

 

 

 

 

俺は午後6時半を過ぎた頃に家を出た。準備はそれ程、掛かってはいない。

財布にスマホ、痒み止めを持っている。これ位ならそれ程荷物にはならない。

今日は家には誰もいない。母ちゃんも小町も。

母ちゃんは俺が浅葱と花火大会に行く事を知ると会社の知り合いと飲みに行くことにしたらしい。小町は那須の家で花火観賞兼お泊まり会をするらしいので今日は家に帰ってこない。

そう言えば、キャリーバックが有ったが小町が忘れたのか?まあ、思い出したら取りに戻るだろう。

 

「そろそろのはずだが……浅葱はもう来てるか……?」

 

俺は花火大会の会場を少し歩いた所にあるコンビニで浅葱を待っていた。浅葱が、当日は一緒に行かずに会場近くで待ち合わせしたいと言ってきたからだ。

人ごみの中に目を向けていると浅葱の姿を見つけた。向こうも俺に気づいたようで手を振って近付いてくる。

 

「お待たせ八幡」

 

「お、おう……」

 

俺は浅葱の姿を見て動揺していた。浅葱の今の姿は浴衣だった。

夏のイベントと言えば、女子は浴衣を着たいものなんだろう。薄緑と紫の二色を中心に所々に桜の花びらが描かれていた。

 

「どうしたのよ?」

 

「い、いや……何でもない」

 

俺が固まっていたので浅葱が心配して近付いて来て顔がアップになった。その顔は軽く化粧がしてあるようで、いつもと印象が違って見えた。

その時、小町が言ったある言葉を思い出していた。小町曰く『女の子の服装は早めに褒めるべき!だよ。お兄ちゃん』と言われた。

 

「その、浴衣……よく似合ってるな」

 

「……あ、ありがとう」

 

浅葱は俺が服装を褒めるとは思っていなかったらしく、少し言葉を詰まらしていた。

 

「早く行こうぜ」

 

「うん。そうだね」

 

俺と浅葱は花火が始めるまで会場に並んでいる屋台を楽しむ事にした。少し歩いていると浅葱が腕を絡めてきた。

 

「お、おい……」

 

「別にいいでしょ?私達は恋人なんだし。それとも嫌だった?」

 

「……そんな事は、ない」

 

「ホント、素直じゃ時があるよね。八幡は」

 

「ほっとけ……」

 

腕を絡めて少し歩いていると知っている人がやっている屋台を見つけたので声を掛けるために近付いた。向こうも俺に気がついたようだった。

 

「よぉーハチじゃないか」

 

「こんばんは。カゲさん」

 

影浦雅人。通称カゲ。

B級影浦隊の隊長でアタッカー。

ボーダー内で度々、暴力事件を起こす問題児だと思われている人だ。

スコーピオンを2つ使った『マンティス』と呼ばれる技を開発した人でもある。攻撃力は高く十分上位に入れるのだが、暴力事件でポイントが失効している。

実家がお好み焼きなのでよく食べに行っていた。

カゲさんは俺と同じMAXコーヒーが好きなのだ。マッ缶を飲んでいる人間が悪い訳がない。

カゲさんも俺と同じくサイドエフェクトを持っている。

『感情受信体質』と呼ばれるものだ。自分に向けられる様々な感情を痛みとして体に受けると言うものだ。

だからこそ、よく暴力事件を起こしているんだろ。

 

「いらっしゃい。ハチ君に藍羽ちゃん」

 

「かげさんの手伝いですか?ゾエさん」

 

北添尋。通称ゾエ。

B級影浦隊のガンナー。

カゲさんとは悪友な間柄だ。昔、カゲさんとは8回ほどタイマン対決の末にお互いに認め合った中だそうだ。

何だか熱血漫画に出て気そうな人達だ。

ランク戦ではグレネードでメテオラを曲斜的に放つ『適当メテオラ』を得意で、それで戦場を混乱されてカゲさんが戦いように援護している。

 

「そうなんだよ~去年に続いてね。カゲが強引だから」

 

「口を動かす暇があるな手を動かせ。ゾエ!!」

 

俺と喋っていた所為でカゲさんに怒られたゾエさんはテキパキと手を動き始めた。お疲れです様です。ゾエさん。

 

「それでハチ。買って行くか?」

 

「そうですね。それじゃおススメを2つ。お願いします」

 

「おう。ちょっと待っていろ。すぐに出してやるからな」

 

そう言ってカゲさんは手慣れた感じで素早く丁寧に作業をこなして、あっと言う間に出来上がった。

 

「ほらよ。2人前お待ちどう様。800円だ」

 

「それじゃこれで」

 

「ちょうどだな。今度、実家の方に食べに来いよ」

 

「分かりました。近いに内に行きます」

 

俺はそう言ってカゲさんからお好み焼きを受け取り、屋台から離れた。

 

「どこか、食べられる場所って有ったっけ?」

 

「それなら有料エリアに行こうよ。お父さんがそこに居るから。ベンチもあるし座って食べられるよ」

 

食べられる場所を浅葱に聞いた所、『有料エリア』で食べようと言ってきた。ここからそれなりに離れているので今から歩いていけば、花火が始まる前には着けるだろう。

 

「そうだな。だったら、他にも何か買って行こうぜ」

 

俺の提案に浅葱は頷き、同意してくれた。から揚げやリンゴ飴などを買ってから浅葱と有料エリアに向かって歩い行った。

知り合いに会うかと思ったが、そんな事はなかったようだ。

そもそも知り合いって言ってもほとんどがボーダー隊員だから防衛任務で会う事の方が低いか。

 

「……由比ヶ浜……?」

 

有料エリアに向かう途中で朝に俺を花火大会に誘って来た由比ヶ浜の姿を見つけた。向こうは俺には気付いてはいない様で、そのまま過ぎ去った。

一瞬、由比ヶ浜とは気が付かなかった。髪を下ろして浴衣を着ていたからだ。

しかし、由比ヶ浜は1人で来たのだろうか?雪ノ下か葉山グループ辺りと来たものかと思っていたが、後ろを振り返って見てもやはり1人だ。

 

「八幡、どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

俺が後ろを振り返るものだから浅葱が不思議に思ったらしく、俺に聞いてきたが適当にはぐらかした。

花火が始める前に有料エリアに着いた方がいいなと思ったので、再び歩き始めた。


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