やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
比企谷八幡⑩
千葉村でのキャンプのバイトは色々あったが無事に終わった。そこで俺は改めて雪ノ下、葉山、平塚先生の三人は俺にとって、『敵』以外の何者でもないことを再確認した。
今後、彼らが俺や俺の周りの人に危害を与えるようなら、その時は一切の躊躇なく絶望のどん底に叩き落としてやるつもりだ。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
何故なら、俺は今ボーダー本部の開発室のイスに寄りかかり意気消沈していた。
それは何故かと言うと、今朝に妹の小町から『今から家の大掃除をするからお兄ちゃんは邪魔だからお昼までどこか外で時間を潰してきて!』と言われたからだ。
「小町……お兄ちゃん、何か変な事でも言ったか……?」
そもそも家の大掃除なら一人より二人の方が早く済むのに、小町は何を考えているんだ?兄であるはずの俺ですら分からないことがあるとはな。
「八幡よ。さっきから何をブツブツ言っているのだ?」
「……黙れ材木座。俺は今、虫の居所が悪いんだよ。今、話し掛けてきたら弧月で三枚に卸すぞ?」
「ヒィ!?……お、落ち着くのだ八幡よ。何があったのかは知らないが我に怒りをぶつけるのだけは止めるのだ」
材木座は完全に俺の言葉にビビっていた。まあ、これまでの蓄積してきたストレスを何かに向けて発散してやりたかった。
俺は今、開発室でサブチーフの材木座から持たされた試作トリガーを使った感想や使い心地などを説明した。
「それで今日はどうしたんだよ?何か発明でもしたのか?材木座」
「ふっふっふっふっ……良くぞ聞いてくれた八幡。ついに我は開発に成功したのだ!!トリガースロットが合計で10個セット出来るトリガーを!!」
材木座はトリガーを高く上げて俺に見せてきた。トリガースロットは本来メインとサブで4個ずつで合計8個が上限だったが10個とは中々凄いと思わず感心してしまった。
「ほぉーそれは凄いな。8個より上はレイジさんのトリガー以外ないからな。そのトリガーは本部の技術で作ったんだよな?」
「もちろんだ!本部の技術の全てをつぎ込んだ!そして、これを八幡。おぬしに使ってもらいたい。使った感想を我に報告するがいい!この剣豪将軍材木座義輝に!!」
「……スロットの内容は書いておくから、その通りに頼むぞ?」
「任せておくがいい!!」
こいつの中二病は夜架のとはベクトルが違うから夜架以上に疲れる。今すぐに切り刻んでやりたいが、時間を見てみると昼前だった。そろそろ時間だな。
「……それじゃ俺は帰るから、またな材木座」
「うむ。さらばだ!我が盟友、八幡よ!」
開発室を後にして家に帰る途中で今日は何か忘れている気がしたが、その内思い出すと思って考えるのをやめた。
ボーダー本部から家に帰ってみると、家が妙に静なことに疑問を持った。家には小町がいるはずなのに静かすぎる。
「……ただいま~小町~居るか~……買い物にでも出ているのか?」
俺はとりあえず、居間の扉に手を掛けて開けた。その瞬間に『パンッ!!パンッ!!」と数回の破裂音と長細い紙が俺に乗ってきた。これは何が起こっているのかと居間を見てみるとそこには小町、浅葱、夜架、シノン、雪菜が居た。
「これは、一体?何だ?」
「お兄ちゃん……」
「八幡……」
「主様……」
「八幡……」
「八幡先輩……」
「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」
俺は未だに理解が追い付けていなかったが、とりあえずスマホで日付を確認してみると8月8日になっていた。
「……そうか。今日は、俺の誕生日か……すっかり忘れてたな……」
俺は自分の誕生日をすっかりと忘れていた。春頃から色々とあった所為だと思うし、何より雪ノ下や由比ヶ浜、平塚先生の言動にストレスを感じて疲れていたのもあるだろう。
「お兄ちゃん。自分の誕生日くらい、しっかりと覚えておきなよ。……でも、サプライズ的になったから小町的にはポイント高いよ!これは」
「あーそうだな。高い高い」
俺は小町の言葉を軽く流していた。しかし、朝から俺を家から追い出したのはこれのためだったのか。
比企谷隊全員いるとはな。ここ、二年くらいでボーダー隊員が増えて色々とやる事があったから、去年はやってなかった気がする。
「それにしても、結構頑張ったな……飾り付け」
部屋を見渡して見ると紙で作った飾りが綺麗に付けられていた。
さすがに朝からしていただけはあるなと思う。
「朝から皆で、作って飾り付けしたんだよ。お兄ちゃんがボーダーに入ってから誕生日に防衛任務入れるから家で盛大にやることがなくなったから、今年は盛大にやろうって浅葱お義姉ちゃんに相談していたんだ」
「そう、だったのか……どうりで最近、コソコソしていた訳か。……ありがとな…………やっぱり、こいつらといるのは居心地がいいな……」
「何か言った?八幡」
「何でもないよ浅葱」
危なかった~最後の方の独り言を聞かれていた恥ずかしさに穴に入りたくなるところだった。とりあえず誕生日を楽しむか。
「それと八幡。私達から誕生日プレゼントがあるから受け取って」
浅葱はプレゼント用のラッピングしてある包みを俺に渡してきた。俺はそれを受け取り包みから出してみた。
「これ、俺が欲しかったラノベだな。それにMAXコーヒーも買ってきてくれたのか。ありがとな」
「皆で話し合って買ったのよ。それぞれが買うと被るから不味いと思ってね」
「まあ、そうだよな」
それぞれが買って被ってしまったら、受け取る側も気まずいしな。渡す側は微妙な空気になるし。
まあ、渡す側がまとめて渡してくれば被る事もないな。
「プレゼントを渡したし、昼食にしよ」
浅葱はそう言って、台所に向かった。そこで俺はある疑問が浮かんだ。
「……浅葱の奴、まさか炒飯なんて作っていないだろうな?」
浅葱の料理の腕は俺がたまに教えているからそれなりだが、炒飯だけは別だ。何故なら教えているのが加古さんだからだ。
あの人の作る炒飯は独創的で壊滅的ほど不味い。これまでに犠牲になった人は数知れず。
「あ、それなら大丈夫ですよ。八幡先輩」
俺の疑問に雪菜が答えてくれるようだ。
「どうして、大丈夫なんだ?」
「飾り付けで時間を掛けたので、昼食はピザのデリバリーにしようと小町ちゃんと話し合っていたので」
流石は我が妹、小町だな。浅葱の炒飯の犠牲になった事があるからその辺は計算していたようだ。
「お待たせ~『苺と味噌と生クリーム炒飯』出来たわよ」
しかし、完璧に計画したであろう小町ですら浅葱の事を少し甘く見ていたようで、炒飯なんて出て来るとは考えていなかったようで、安心しきっていた表情は今は絶望のどん底に叩き落とされた人間の顔をしていた。
夜架、シノン、雪菜も似た様な顔をしていた。俺もそんな顔をしているんだろう。多分。
「……やっぱり、こうなるよな……とりあえず全員、覚悟を決めて食べるぞ」
浅葱を除く俺達はその炒飯を食べたが、これまた酷いミスマッチな組み合わせで口の中に途轍もない違和感を感じていた。
流石、浅葱だな。炒飯をここまで殺人料理に変えてしまうとはな。炒飯以外はマトモだと言うのにどうしても炒飯だけは激マズにしてしまう。
「……とりあえず、胃薬を準備しておいてよかった……」
本部からの帰りに薬局によって念のため胃薬を数人分買っておいたのは正解だったようだ。
その後、何とか浅葱特製の炒飯を完食して、ピザ等で口直しをしてからシノンが持ってきたテレビゲームを交代でやって、この日を思いっきり楽しんだ。
こいつらといるのは、何だかんだで落ち着ける。
分かりあえる仲間がいるのはいいな、と考えてしまう。
仮に奉仕部でもこんな関係が築けていただろうか?それは無いと確信して言える。
自分の事しか考えず、他人の事を何一つ分かろうとしない雪ノ下。
人の話をまったく聞かず、気持ちだけを他人に押し付けてくる由比ヶ浜。
あの二人とは俺の求める『ホンモノ』と呼べる関係は出来ないだろう。それだけは分かる。
だからこそ、俺はこいつらとの関係を守りたいと思う。それを壊そうとしたり、危害を加えるなら、容赦せずに全力で叩き潰す。
おまけ
ボーダー本部製作試作トリガー(スロット合計10個 メイン5 サブ5)
メイン 天月(試作) 旋空 韋駄天(試作) スコーピオン シールド
サブ ディード(試作) バイパー(改) テレポーター(試作) スコーピオン シールド