やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
千葉村でのキャンプ三日目の最終日の朝は昨日と余り変わらず走り込みをして、朝食を食べる所までは同じだった。
しかし、今日は特に何かをする訳でもない。
あえて言うならゴミ拾い位だろうか。自分達が出した物は自分達で綺麗にする。だから、朝から全員で泊まっていた旅館やその周辺を手分けして掃除している。
それでも小学生はブツブツと文句を言っていたが、葉山が小学生を上手く誘導して早めに終わる事ができた。
「比企谷君。ちょっといい?」
「どうしたんですか?鶴見先生」
ゴミを分別していると後ろから鶴見先生が話しかけてきた。恐らく、娘の事とボーダー入隊の事だと思う。
子の事を気に掛けない親はいないよな。
「私の娘……留美の事を気にしてくれて、ありがとうね」
「別に俺はそれ程すごい事はしていませんよ。全部、アイツの選択ですよ」
「それでも、ありがとうね。母親なのにあの子がいじめにあっていたなんて、知らなくて……それでも話してくれた時は嬉しかったわ。ボーダーに入りたいと言った時は最初は反対したんだけど、いじめの話や貴方の事を聞いて、それなら大丈夫と思ったからボーダーに入る事を了承したのよ」
「そうなんですか。ボーダーに入ってからも少しは気に掛けてやりますよ」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。それじゃ、比企谷君。忘れ物のないようにね」
鶴見先生はそれだけ言って俺から離れて行った。これで鶴見はボーダー入隊の試験を受ける事が出来る。
戦闘員もしくはオペレーターとして、年の近い人間と友達になれば鶴見は孤独では無くなるだろう。
ゴミ掃除の後に集合写真を撮る事になったので、小学生と一緒に並んで撮ったのもあれば、ボーダー組だけで撮ったりした。
写真を撮った後は三門市まで帰るだけだ。俺は今、駐車場より少し離れた場所で平塚先生と対峙していた。
周りには、俺達二人以外いない。
「それで、話とはなんだね?」
「それはこれですよ」
俺はスマホを出して、鶴見のいじめの話をする前の平塚先生の声を聞かせた。平塚先生は首を傾げて、意味が分からないでいた。
「これが何だと言うんだ?」
「分からないんですか?平塚先生は教師ですよ。それなのに小学生のいじめ問題を放置しておくのはよくないですよね?
それに雪ノ下は奉仕部として動くと言っていたんですよ。それなら顧問である平塚先生がその場にいなかったのは職務放棄と一緒ではないですか?」
平塚先生はようやく理解したようで、顔を歪めていた。
その理由がスマホに録音してある平塚先生の声だ。もしこれを学校に提出すれば、学校側は何らかの処罰を平塚先生にしないといけない。
「そのスマホを私に寄越せ」
「お断りします。いくら生徒と教師と言えど、それが人にものを頼む態度ですか?それにこれを渡したところで、俺に何のメリットも無いですし」
「いいから、それを渡せ!!」
「うわぁ!!……」
平塚先生は俺から強引にスマホを奪い去った。その際に俺は付き飛ばされて、地面に背中から倒れてしまった。
「この、この、この」
平塚先生は俺から奪ったスマホを何度も足で踏み潰していた。正直、ここまで俺の計画していた通りに動いてくれるとは、平塚先生は感情を何より優先するタイプの人間のようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……残念だったな、比企谷。これで中のデータは使い物にはならないな!」
「……自慢げに言っていますけど、平塚先生。今、自分が何をしたのか、分かっていますか?」
平塚先生は首を傾げて、何も分かってはいない様子だった。よくこんなので教師になる事が出来たな。
自分の思い通りにならなければ暴力は振るうし、自分勝手で他人の迷惑なんて考えもしない。だからこそ、俺を完全に怒らしたとも言えるな。
「平塚先生は俺のスマホを壊したんですよ?これは器物破損でしょ?」
「だからなんだ?君がスマホをたまたま落とした所にたまたま私が通り掛かって踏んでしまった。学生の君より教師の私の方が誰もが信じるだろう」
平塚先生のこの自信はどこから来るのか気になるが、今は置いておこう。
「確かにそうですね。でも、さっきの先生の行動をムービーに撮っていたとしたら、先生より俺の事を信じると思いますよ」
「何を言っている。君のスマホは私が先ほど壊したばかりだろ?」
平塚先生の言う通り、スマホは壊れた。ただし、『俺』のではなく『ボーダー』の支給品のスマホだ。
それに俺は一人でここには来ていない。俺は森の方を指差した。
平塚先生は顔をその方向に向けると驚愕した。
「藍羽……どうして、ここに?確か車に乗ったはずでは……?」
そこには先に車に乗ったと思わせておいた浅葱がいた。
浅葱には俺と平塚先生が駐車場から離れたら、気付かれないように後を着いてきて、ムービーに撮るように指示しておいた。
「どうして、ですか?八幡に頼まれたらからですよ。もしかしたら、平塚先生がスマホを壊すかもしれないから、それをムービーに撮っておいてくれって。それにしても平塚先生、貴女の行動は人間として最低ですよ」
「ま、待ってくれ!!これには深い訳があるんだ!!」
この期に及んで言い逃れをしようとしている平塚先生だが、俺はこれを待っていた。
ここからが俺の腕の見せ所だ。
「なら、俺のお願いを聞いてくれません?平塚先生」
「お願い、だと?……金か?それとも私の身体か?」
この人は何を言っているんだ?はっきり言って、タバコで身体を悪くしている人と身体関係は持ちたくはない!
いくら結婚出来ないからと言って、生徒と関係を持つか、普通?
「……違います。俺のお願いは、三つあります。一つ目が俺を二度と奉仕部部員と扱わない事。二つ目が平塚先生の奉仕部顧問を辞める事。三つ目が奉仕部顧問を辞める事を誰にも言わない事。これが俺のお願いです。聞いてもらえますよね?平塚先生」
「……比企谷。二つ目と三つ目のは、幾らなんでもやめてはくれないか?別のことなら、何でもするから、頼む!」
平塚先生は二つ目、三つ目のお願いをやめるために俺の頭を下げてきた。平塚先生にとって、奉仕部とはかなり大事らしいが、俺のとって奉仕部は目障り以外の何ものでもない。
あそこには、雪ノ下と由比ヶ浜の二人がいる。だからこそ、廃部になれば俺に絡んでこないだろと考えた。
「……それは無理ですよ。それに俺のお願いを聞いてくれないと先生は二度と教壇に立つ事は出来なくなりますよ?それでもいいんですか?」
「……教師を脅すのか?比企谷……!」
平塚先生は俺の事を何だと思っているのかが、何となくだが分かってきた気がした。
それに最初に奉仕部に入るように言った時に進級や卒業などを使って脅してきたのは平塚先生だったはずだが。
「脅すなんて、人聞きが悪い事を言わないでください。俺のは『お願い』です。つまり、選択権があるんですよ?でも、脅しには無いでしょ。まあ、聞いてくれないなら俺もそれなりの態度をしないといけないですけど。どうしますか?平塚先生」
「っ……!?」
丁寧に説明をした所、平塚先生が俺を強く睨み付けてきた。雪ノ下もそうだったが気に入らない事があると睨み付ければ何とかなると思っているのだろうか?
でも、そんな睨みは二宮さんや三輪に比べたら、大した事はない。
「睨んでも事態は変わりませんよ?早く決めてください。奉仕部顧問を辞めて教師生活を続けるのか。それとも教師を辞めさせられて、再就職を見つけるのか。二つに一つですよ。どうします?先生」
「…………分かった。奉仕部顧問を辞める。……これでいいか?」
「はい。今のも一応に録音しました。念のため、二学期になったら奉仕部が廃部になったか確認しますんで、そのつもりでお願いしますね。平塚先生」
話し終わると平塚先生はトボトボと車の方に歩いて行った。これでようやく開放されたと言えるだろう。雪ノ下ともこれで関わらずに済む。由比ヶ浜は同じクラスだが、基本教室にいる時は俺に話し掛けないので問題はない。
「これで済んだの?八幡」
「ああ、サンキューな浅葱。おかげで予定通りだ」
平塚先生の事はこれで問題はない。もし、もう一度何かしてくるなら動画で言う事を聞かせればいいしな。
俺が今回、お願いを聞いてもらうために出したのは音声の件だ。スマホを破壊した事には触れていない。
次は更に容赦をしないつもりだ。次は首が飛ぶかもしれないですね平塚先生。
平塚先生との話を終えて、後は林藤さんが運転する車に乗って三門市まで帰るだけなのだが、車の中はカオスになっていた。
俺を除く全員が爆睡していたのだ。それに俺も流石に疲れたのでもう少ししたら寝るつもりだ。
寝る前に林藤さんに話し掛けられた。
「いや~陽太郎の面倒は大変だったろ?比企谷」
「そうでもないですよ。俺は懐かれていましたし、雷神丸が結構面倒見ていましたから」
ペットに面倒を見てもらう飼い主って、なんだか情けない気がするな。本人には言わないでおこう。
「それでもご苦労さん。今は休んでいいぞ。着いたら起こしてやるから」
「それじゃお願いします。林藤さん」
俺はそう言って寝た。
林藤さんは約束通りに起こしてくれて、俺達は初日に集まっていた場所で解散となり、それぞれ家に向かって歩いて帰った。
キャンプのバイトは多少の問題事があったが、中々楽しめたので良しとしよう。
そして、夏休み間、雪ノ下や葉山グループのメンバーに会うことはなかった。
今回で千葉村編は終了です。
次回からは夏休み編をしていき、二学期、ボーダー入隊をしてから文化祭に入っていこうかなと考えています。
では次回をお楽しみに!