やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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鶴見留美①

キャンプの料理って、何?と聞かれたなら、大抵の人間がBBQかカレーと応えるだろう。

それにその二つのどちらかを作らないのはキャンプに来たとはとは言えないだろう。

 

そして、今回は作るのはカレーだ。

カレーは万能の料理と言っても過言ではないと俺は思う。小学生もしくは料理を余りやらない人でも説明通りのやっていけば、失敗することはない。

肉と野菜を適切に切り、煮込んでいって、カレールーを入れてさらに煮込めば、完成する。

さらに隠し味にリンゴ等の食材を入れても問題は無い。だが素人がやってしまうと、とても食えたものでは無いものが完成する。

かつての由比ヶ浜の木炭クッキーのように。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、何とか午後のオリエンテーリングが終わり、晩ご飯の準備に取り掛かった。そしてキャンプの初日の夜のご飯はカレーを作ることになった。

男子は火の準備で、女子は食材の準備を始めてた。

 

(ヤバイな……マジで熱い……そろそろミディアムレアくらいには焼きあがりそうだな……)

 

と、考えながら火を見ていたら、右の頬に冷気を感じたので見てみる。と紙コップを持っている浅葱がいた。

 

「はい、お疲れ。熱かったでしょ?」

 

「おう。サンキュー」

 

俺は浅葱から紙コップを受け取り、一気に飲み干した。氷でキンキンに冷やされた麦茶はとても美味かった。

 

「ヒキタニ君。そろそろ、代わろうか?」

 

俺が麦茶を飲んでいると葉山が現れて交代を申し出てきた。しかし、こいつはいつまで俺の苗字を間違える気だろうか?

でも、俺は葉山に言葉に甘えることにした。

 

「ああ、悪いな。そろそろ、俺自身が焼肉になるとことだったからよ」

 

俺は葉山にうちわを渡してからその場から離れ、近くのベンチに移動してから麦茶を飲んでいると葉山グループの女子二人が騒ぎ始めた。

 

「隼人って、アウトドアすごくうまいね!!」

 

「うんうん。葉山君ってアウトドア、似合ってるよね!」

 

三浦と海老名が葉山を絶賛していた。すると、三浦が俺を見て睨んできた。あいつは俺に対して『何、お前はサボっているんだよ!働け!』とか、思っているな。

それに対して俺は舌を出して、挑発した。三浦はさらに睨みを強くしてきたが、それくらい俺にとってどうってこと無い。

 

「ヒキタニ君が大体のことをやっていてくれたから楽だったよ」

 

葉山、フォローしてくれるのはいいが、いい加減に人の苗字を間違えるのを止めろ。

俺に対しての葉山のフォローは葉山自身の好感度を上げただけだった。

 

「さすが、隼人。ヒキオなんかを庇うなんて、ちょー優しい……」

 

何なんだろう?この差別は……。まあ、世の中ってのは常に理不尽が付きまとってくるからな。

 

「八幡先輩、お疲れ様です。どうぞ」

 

三浦達より一足先に来ていた雪菜が洗顔ペーパーを俺に渡してきてくれた。

 

「おっ!サンキューな。助かったぜ雪菜」

 

俺は洗顔ペーパーを受け取り、軍手を取って顔を拭いた。雪菜の横にいたシノンが話掛けてきた。

 

「いつもはやる気があんまり見られないのに今日はいつになくやる気だね?八幡」

 

「たしかに……いつもの八幡先輩とは違いますね……」

 

「お前らは俺にケンカでも売っているのか?」

 

シノンに続いて雪菜までもが失礼なことを言いやがって、俺だってたまにはやる気を出すってことなんだよ。

すると小町が夜架と小南と共に篭にたくさん盛られた野菜を持って現れた。

そして、三人とも笑っていた。うん、何となく想像は出来る。俺の話だな。

全く、そんなに俺のことが好きなのか?…………うん、それは無いな。俺がモテたことは一度も無いからな。

 

「おい、お前ら、一体何の話をしていたんだ?」

 

俺は夜架と小南に問いかけた。

 

「いえ、主様がボーダーでどうのようなことをしているかなどを少しだけ美化して話しただけです」

 

「別に~比企谷のあること、無いことを言っただけよ」

 

夜架は俺のことを美化したと言うし、小南は無いことまでも言いやがって、俺にケンカでも売っているのか?シノンや雪菜のように。

 

「お前らな……それで小町、一体何を聞いたんだ?」

 

「え?何も聞いてないよ~」

 

小町は白々しく誤魔化してきた。まったく、可愛いから許すか。

 

「とりあえず、カレーを作るぞ。米を炊かないといけなしな」

 

「小町、了解!」

 

俺が言うと小町は敬礼して、肉と野菜を運んで行った。

そんな時、葉山が近付いて来た。

 

「ヒキタニ君、分担はどうする?」

 

「あ?……あ~」

 

分担とは誰が何をするかの係分担の事だろう。肉や野菜を切ったり、米を洗い炊く事を言っているのだろう。俺は味見係を希望したい。

…………ちょっと待てよ。もし由比ヶ浜が野菜を切ることになれば、あの梨のように食べられる箇所が少なくなる可能性がある。

それは絶対に阻止しなくては。

 

「とりあえず、由比ヶ浜は肉や野菜を切る担当には入れないことだな」

 

「……そうだね。とりあえず、希望してそれで手が足りなかったら、そっちを手伝うってことでいいかな?」

 

葉山がそう言うと、全員が自分の好きな担当に向かった。

さて、俺も行って頑張りますか。

 

 

 

 

自分の好きな担当に分れたが、特にケンカすることなく始める事が出来た。米を研ぎ炊き、カレーの下ごしらえの時もハプニング無しで終える事が出来た。

必要最低限の材料しかないので由比ヶ浜が勝手にアレンジをして、カレーが食えないことは無くなって、ほっとしている。

俺は鍋が沸騰したので、カレールーを入れて、コトコト煮込んでいると平塚先生がやってきた。

 

「比企谷。暇なら見回りを手伝ってきたら、どうだ?」

 

「いえ、カレーを煮込んでいないといけないので……」

 

「……気にするな。それくらいなら私でも出来るから、お前は小学生と交流してこい」

 

そう言って平塚先生は、しっしっ、と俺を追い払いカレーを煮込み始めた。

平塚先生は考えが浅はかだな。

自分が小学生と関わりたくなくて、代わりに俺を向かわせるなんてな。

俺も小学生と余り関わりたくないので人気の無い場所を探していると雪ノ下を見つけてしまった。雪ノ下はある場所を見ていた。

雪ノ下の視線を追ってみるとオリエンテーリングでハブられていた少女がいた。

そして、その少女に葉山が話し掛けていた。

 

「鶴見ちゃん、カレーは好き?」

 

それを近くで見ていて、溜め息をつきたくなる。あ、幸せが逃げていくな……。

にしても、葉山。それは完全に悪手だ。

それはボッチに対する接し方ではない。声を掛けるなら、バレないように秘密裏にしなくてはならないからだ。そんなことをしたら下手をすれば、更にその子はいじめられる。

 

葉山は高校生グループの中心的人物だ。そんな人物が動けば葉山グループの人間が動くのは極当たり前のこと。

そして小学生と最も親しい葉山グループが動いたなら、必然的に小学生は動く。そうなればあの少女、鶴見留美は晒し者にされて、いじめを加速させてしまう。

葉山隼人はある意味、天才かもしれない。『人を追い詰める天才』。

しかも本人にはその自覚がまったくと言って無いのがたちが悪い。

 

「……別に、カレーとか興味ないし」

 

鶴見留美はこの状況で一番の最善手を打った。それは、逃げだ。むしろ、逃げることしか出来ない。

そして、鶴見は葉山から離れて行った。そして、俺が向かっていた方向、人気の無い場所に行った。

そして、俺と雪ノ下の大体、間くらいに立って深い溜め息を吐いた。

俺を見ていた由比ヶ浜がこちらに向かって歩いてきた。え?何でこっちに近付いて来るんだ?できるだけ近くには居たくは無いんだが。

 

「……ホント、バカばっかしかいない」

 

少女は小さく、本当に小さく呟いた。それに関しては大いに同意してしまう。

 

「世の中ってのは大概がそんなもんだ。でも、それを早く知れてよかったな」

 

俺がそう言うと、鶴見はこちらを品定めするかのような視線を俺に向けてきた。しかし、その視線はいい気分にはなれないな。

そうしていると雪ノ下が近付いて来た。

 

「あなたも、その大概でしょう?」

 

「確かにそうかもな。でも、あまり俺を舐めるなよ?大概とかその他大勢でも一人になれる逸材だぞ。俺は」

 

「そう、なら尊敬を通り越して軽蔑に値するわね。今度から軽蔑谷君と言った方がいいわね」

 

一々、ケンカを売ってくる奴だな、雪ノ下は。誰かと口ケンカをしていないと落ち着かないんだろうか?それなら陽太郎よりガキだな。

そんなことを考えていると、鶴見が近付いて、口を開いた。

 

「名前」

 

「はぁ?名前がなんだよ?」

 

近付いてきて、一番に名前って、単語だけで何を伝えたいんだ?分からん。

 

「名前、教えて。さっきので伝わるでしょ?」

 

「いや、今ので伝わるほど、俺達は仲良くはないだろ?まあ、俺は比企谷八幡だ。それでお前は鶴見だっけ?」

 

「そう、鶴見留美。あなたは?」

 

「私は雪ノ下雪乃。それで、そっちが由比ヶ浜結衣さん」

 

「よろしくね!留美ちゃん」

 

由比ヶ浜は空気を読んで、何も聞かずに会話に入って来た。

 

「なんだが、そっちの二人はあっちとは何か、違う気がする……」

 

小学生とは言え、主語が曖昧すぎて分かりづらいが、俺と雪ノ下、それと葉山達のことを言っているんだろう。

それに関しては大いに同意するが、俺と雪ノ下を同列にするのは気にいらないな。

 

「私も違うんだ。あの辺りと……」

 

「えっと、違うって、何が?」

 

由比ヶ浜が鶴見に聞くと、彼女は小さな声で答えた。

 

「……みんなガキばっがで。私はうまく立ち回って、たつもりだったけど。めんどくさいから、やめた……」

 

「で、でも小学生の友達って大事だと思うな~……」

 

「そうかな?でも、中学になれば新しい人も来るし。その人と仲良くなればいいじゃん……」

 

由比ヶ浜のフォローはまったくと言っていいほど役には立たなかった。鶴見はどこか、遠くを見る目をしていた。

その目には覚えがあった。昔の俺もしていた、僅かな希望を宿した目だ。

しかし、そんな希望などどこにも無い。

 

「そうはならないわ。その中学校には、今、あなたを省いている人達も来るでしょうから、このままだと何も変わらないわ。例え、新しい人が来たとしても、状況は一緒のままよ」

 

雪ノ下が鶴見の僅かな希望すらバッサリと切り捨ててしまった。小学生相手に容赦がないな。

でも雪ノ下の言っていることは間違ってはいない。

中学に上がったところで、小学生の同級生も一緒に進級するのだから、状況はさほど変わらないだろう。

変わったところで、またも標的にされるのがオチだ。実際問題、状況が変わる事は無い。

 

「やっぱり、そうなのかな……。中学校でも、こんな感じなのかなぁ……」

 

鶴見は小さい声を上げた。俺にはそれが悲鳴のように聞こえた。

それをかき消すように歓声が上がった。距離は10mくらいは離れているのに、そこだけ遥か遠くの出来事に見えた。


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