やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
森を駆け抜けて、集合場所に到着した。どうやら、他の奴らはまだ誰も来ていないようだった。
鶴見先生が見えたので指示を聞くために近付く。
平塚先生はと言うと車の側でタバコを吸っていた。結婚願望があるのにタバコを吸うとかないな。子どもを産むにしても身体は健康に越した事は無い。
あれでは嫁の貰い手が無いな。本当に結婚する気があるのだろうか?
「比企谷君が一番乗りね。お疲れ様」
「……比企谷。まさかトリガーを使ってはないよな?」
鶴見先生は俺を労ってくれるのに平塚先生は俺がゴールに一番に着いたものだからトリガーを使ってないか疑ってきた。
これじゃ結婚なんて夢のまた夢だな。
「使ってません」
「嘘を吐くな。いくらなんでも早すぎる」
「だから、使ってません」
「平塚先生。ここまで頑張った生徒に対して嘘呼ばわりはなんですか!それが教師のすることですか?」
「し、しかしこいつは……」
「もういいです。それじゃ比企谷君、お弁当と飲み物の配膳をお願いね」
「はい。わかりました」
鶴見先生は平塚先生に呆れて、俺に指示をしてきたので配膳の準備に取り掛かった。その時、車から陽太郎と雷神丸が出てきた。
「おっ!はちまん。おはよう!」
「やっと起きたか陽太郎。よく寝ていたな。キャンプの手伝い、期待しているぞ?」
「うむ。まかせろ!おれにかかれば、たいしたことはない!!」
陽太郎は胸を張って威張っていた。五歳児の威張りはそれほどイラつかないな。そう思っていると、林から米屋と出水が出てきた。
「よっしゃー俺の勝ち!!」
「くそっ!!俺の負けか……って比企谷、早っ!!」
「よお、遅かったな。ってことで出水の奢りで」
競争は出水の負けで終わって、その後に浅葱達も来て、それぞれ休憩しだした。
俺は浅葱にタオルを渡して話掛ける。
「よお、お疲れ浅葱。結構汗かいたようだな」
「それは、そうでしょ……私はオペレーターだし、そんなに動かないから……」
ゴールに着いた浅葱はそれなりの汗をかいて疲れていた。それから俺達は小学生の昼食の準備に取り掛かった。
昼食をある程度食べていると鶴見先生が俺達にあることを頼んできた。
「それじゃ今運んでもらったお弁当の他に、デザートに梨を冷やしてあるから皮剥きと配膳に分かれて仕事をしてください」
鶴見先生は冷えた梨が入った籠を葉山に渡してきた。
「それじゃどう分担しようか?」
葉山はどのように分担するか皆に聞いてきた。
「料理が出来る奴か、出来ない奴で分かれればいいだろ」
俺の提案を葉山は承諾してそれぞれ出来るか、出来ないで分かれた。
料理が出来る側は、俺、小町、浅葱、シノン、雪菜、小南、烏丸、雪ノ下、由比ヶ浜になった。
…………あれ?由比ヶ浜って料理出来たっけ?
出来ない側は、夜架、国近先輩、出水、三輪、米屋、陽太郎、葉山グループになった。
………葉山グループの人間は誰一人として料理が出来ないのかよ……。
「それじゃ、こんなものかな?」
「まあ、これくらいでいいだろ」
葉山の確認に俺はすぐに同意する。
そして梨の皮剥き隊は、鶴見先生からナイフやミニまな板、紙皿を受け取り、皮を向き始めた。
しかし、皮むきって、ナイフでやると案外、難しい。ナイフを固定して剥くものを切っていかなければならないからだ。
梨の皮むきに奮闘していると雪ノ下と由比ヶ浜の声が耳に入ってきた。
「由比ヶ浜さん。あなた、皮むきはしたことがあるの?」
「任せてよ、ゆきのん!!私だって練習してきたんだから!!」
そう言ってる由比ヶ浜の方から、皮むきの音が聞こえてきた。
しゅるしゅる……ざく、ざく、しゅるしゅる……ざく、ざく、ざく
…………ん?今、ざくって聞こえたか?
ふと、由比ヶ浜を見てみると、由比ヶ浜の梨は皮はもちろんなのだが、中の果肉までも切り落としていた。
由比ヶ浜の梨は、ボン・キュッ・ボンのナイスボディになっていた。食べられる部分が皮と一緒にゴミ箱の中にあった。ある意味、才能だな。食材を無駄にする。
そして哀れだな、梨よ。お前は誰にも食べられること無く、ゴミ箱行きとはな……。
「えっ?……なんでーー!?!?ママがやっているところ、あんなに見たのに?!」
(お前は見ていただけかよ!!それは練習したとは言わない!!)
と俺が思っていると雪ノ下が由比ヶ浜に説明をし始めた。
「由比ヶ浜さん、ナイフは回転させないで固定するのよ。……なぜ、言ったそばからナイフを回転させているのかしら?あなたには、このナイフが梨に見えているの?」
と雪ノ下と由比ヶ浜は絶賛百合百合コントの真っ最中なので俺はそれを邪魔せず、ひたすらに梨の皮むきを続けていた。
既に5個の梨の皮むきをしており、均等に切り分けてから皿に盛りつけた。
「すごっ!比企谷君って皮むき、上手だね!」
急に背後から国近先輩が話しかけてきた。一瞬、ビックリして梨ごと指を切り落としそうになったが、なんとか切り落とさずに済んだ。
「まあ、これくらいはできますよ。家では小町と交代で料理をしてましたからね。でも、俺がボーダーで忙しくなってからは外食が多くなりましたから料理をする機会が少なく成りましたね……」
「へぇ~そうなんだ~。それにしても料理男子って、結構モテたりするよ?」
国近先輩はそう言ってくる。確かにテレビでもモテるとか言っているが実際はどうなんだろうか?そもそも俺の知っている料理男子があまりいない。
レイジさんは……モテていると思うが彼女は居るのだろうか?
「終わったお皿ってありますか?」
「ああ、これを頼む」
烏丸が皿を受け取りにきたので、俺は切り終わった梨が乗った皿を烏丸に渡した。烏丸がそれを小学生に渡した後、すぐに俺の下まで来た。えっ?まさか新しいの寄越せってか?早過ぎるわ!!
しかし、烏丸の目的はまったく違っていた。
「比企谷先輩は妹さんの入隊についてどう思っていますか?」
烏丸がまさか、小町のことを気に掛けてくれているとは思いもしなかった。
「嬉しさ半分に不安が半分ってところかな……」
「それはどうしてですか?」
「嬉しいことは小町もボーダーに入れば、家計の手助けになるし、戦い方とか色々と教えることが出来るからな。不安は小町の可愛さに手を出す輩がいないか、心配だ!」
「そうですか……」
烏丸は少しだけ呆れ気味だった。どうせ、シスコンだと考えているに違いない。
「でも、一番心配しているのは小町がしっかりと戦えるか、だな……」
「それって、どう言う意味ですか?」
「俺達の親父はトリオン兵に殺されたからな。それでトラウマになっていないかと心配しているんだ。見た瞬間に昔のことを思い出して畏縮してしまうんじゃないか、とか色々とな……」
「比企谷先輩って、ただのシスコンかと思っていましたけど。妹さんのことをしっかりと見ているんですね」
「当たり前だろ?何故なら俺は小町の兄だからな!」
俺がそう言うと烏丸はましても呆れてしまった。
お前にだって妹がいるから俺の気持ちくらい分かるだろうが!と思っていると、ふと葉山が話し掛けていた女の子達が見えた。
あの四人は葉山と楽しそうに梨を食べていたが、一人だけグループから離れて食べていた。
彼女が一人でいるのは、自分の意志でなのか?それとも周りの悪意によるものなのか?
前者なら、それほど問題ではないだろう。自分の意志だから。
後者だったら、周りの人間はかなりの人でなしだ。
だが、これは彼女とその周りの問題だから俺は助けようとは思わなかった。
もしこの件に関わって、失敗でもしたら彼女の立場がかなり危なくなるからだ。それで彼女が自殺でもしたら、寝覚めが悪いどころではない。
だから俺は極力、彼女には関わろうとは思わないし、その辺りは教師の仕事だ。
それに彼女は助けを求めていない。それなのに助けようと動くのは『大きなお世話』だ。
なので俺は彼女を助ける事は無いだろう。そう思いながら、梨を食べ終えて、午後からのオリエンテーリングに備えた。