やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
八月始め。
今日は千葉村である小学生のキャンプを手伝うというバイトの日だ。集合場所に向かう前に俺は荷物の最終確認をしていた。
「着替えは……よし。水着も大丈夫だな」
俺は着替えはもちろんのこと水着など必要な物を確認してから鞄につめていく。
その確認が終わった時にスマホに非通知から電話が掛かってきた。
「非通知から?一体誰だ?……はい。もしもし比企谷です」
俺は電話の相手の確認のため出ることにした。しかしこの非通知の電話に出る事は間違ったことだと気が付くべきだった。
『やっと出たか比企……』
俺はすぐさま電話を切った。電話の声で相手は分かった。それは……平塚先生だ。
(何で俺の番号を知っているんだ?あの先生は……まさか職権乱用か?教師の風上にもおけないな……)
平塚先生はおそらく学校で俺の履歴書から番号を知ったと思われる。良いのかよ?教師が生徒の携帯の番号を見るとか?
(でも何か緊急の用事の可能性が…………ないな。あの先生に限って)
それはないと俺は確信できる。何故なら………平塚先生だしな。
「とりあえず着信拒否にしておかないとな……」
電話を切った俺の行動は兎に角早かった。先ほど掛かってきた番号をすぐさま着信拒否にした。これで二度とこの番号からの着信はないはずだ。
「どうしたの?お兄ちゃん。何かあったの?」
「いや、何でもない。それより準備は大丈夫か?小町」
「もちのロンだよ!お兄ちゃん。小町、今からキャンプ楽しみなんだ~!」
「そうか。それじゃ行くか」
俺はとりあえず集合場所に向かおうした時に今度は小町のスマホに着信がきた。
「どうも。こんにちは………今日ですか?すいません。小町とお兄ちゃんはこれからお兄ちゃんのバイトのお手伝いに行くので………いえ、ボーダーのじゃなくて別のことなんですよ。………いえ、気にしないで下さい。それではまた……」
「小町。今の誰から?」
「結衣さんからだよ」
由比ヶ浜からの電話に驚いてしまった。別に俺に掛かってきていないのに……。
「はぁ!?由比ヶ浜からだと!?……てか何で由比ヶ浜はお前の番号知っているんだよ?」
「それは此間、水着を買いに行った時にデパートで会ってその時に交換しからだよ」
「なるほどな……それで由比ヶ浜は何だって?」
「あ!それは聞いてなかった。てへっ!」
小町は右手を頭に当て、舌を少し出して可愛く誤魔化していた。
うん!可愛いからいいか。そもそもどうでもいいしな。
「あ!後、平塚先生って人がお兄ちゃんに何度も電話を掛けているのに繋がらないって怒っていたって、結衣さんが言ってたよ」
マジか!?着信拒否にして良かった。何度も掛けてくるなよな……もしかしたら家まで来そうだな。これは早めに家を出た方がいいな。
「小町。準備が出来たなら行くぞ」
「うん。いつでもいいよ」
小町の準備もいいので俺は小町と家を出て集合場所に急いで向かう。その途中で浅葱、夜架、シノン、雪菜の四人と合流して集合場所に向かった。
俺達が一番かと思い気や出水と国近先輩がすでに来ていた。
「よお出水。早いな」
「おっ!来たか比企谷。これで来てないのは米屋と三輪と小南と烏丸だけだな」
「そうだな。米屋あたり爆睡していて遅れそうだな」
「たしかにありそうだな。それ」
俺が出水と話していると三輪と米屋がやってきた。米屋は欠伸をしていた。起きてすぐにここに向かったな。
「よお三輪。遅くなった原因は米屋か?」
「ああ、そうだ。陽介の家の前で待っていたんだが一行に出て来ないんで家に上がったら爆睡していたんで叩き起こしてここまで来た」
「……それは大変だったな」
出水と話していた内容通りになるとはな……行動がある意味読み易いな米屋。
そして三輪、ドンマイ。
出発時間も差し迫ってきた時に俺達の前に一台の小型バスが止まった。そのバスの窓が開き、小南が身を乗り出して手を振ってきた。
「お~い!!皆~おまたせ~。これに乗っていくから早く乗って乗って!!」
全員がバスに乗ったのを確認したからバスは千葉村に向けて発進した。
「すまないな比企谷。陽太郎のこと任せて」
「別にいいですよ。林藤さん」
このバスを運転しているのは玉狛支部の林藤支部長だった。なぜか口にタバコを咥えていたが火は付けてはいなかった。
……まあ未成年の学生がいる前でさすがに吸わないよな。でも平塚先生は普通に吸っていたな。
「陽太郎のヤツがどこかに連れて行けって聞かなくてな。そしたら烏丸がキャンプに行くって言うものだから、興味を持ってな。それに小南も行くとなれば自分もってな」
「そうだったんですか。まあ俺としては子守くらい別に構いませんけど。帰りも林藤さんが?」
「ああ、その予定だ。降ろす場所はさっきの場所でいいか?」
「ええ、それで構いません」
俺は林藤支部長と帰りのことを話していると小町がいきなり大きな声で全員に聞こえるように話しかけた。
「お兄ちゃん!実は小町から一つ重大な発表があります!!」
「「「重大な発表?」」」
俺、出水、米屋、の三人の言葉が重なってしまった。
しかし小町は何を発表するつもりなんだ?ま、まさか彼氏ができたって言うつもりじゃないだろうな?もしそうならその男を見つけ出して二度と小町に近付かないように『お話』をしないとな。
もちろん、危険なことはしないさ……それで小町に嫌われたら、死んでしまいたいくらいに落ち込むからな。
「なんと……小町は九月からボーダーに入隊するのです!!」
「マジで!?ボーダー入るのか?小町ちゃん」
「入るんなら、俺と戦おうぜ!」
出水は驚き、米屋はさっそく戦おうとしているし、気が早すぎる。それに小町を痛めつけたらお前のポイントを根こそぎ奪ってやるぞ米屋。
「どお、お兄ちゃん!驚いたでしょ!!」
「あ~すまん小町。実は入隊のこと知っているんだ……俺」
「……へぇ?……えぇぇぇぇぇ!?!?…なんでお兄ちゃん知ってたの?!お母さんには言わないでって言ってたのに……」
小町には俺がボーダー本部で何をしているかを話したことがないからな。無理もないか。
「小町には言ってなかったけどな。俺はボーダーで本部長って人の手伝いでよく書類整理をしているから入隊希望の人間の履歴書をよく見てんだよ。それで小町が入隊しようとしていることがわかったんだよ」
「なんだ…せっかく驚かせようと黙っていたのにな……」
小町は視線を下に向けて本気でがっかりしている。すまんな小町。これくらいじゃ俺は驚かないんだよ。
「でも小町、まだ入隊できるとは限らないだろ?」
「それは問題無しだよお兄ちゃん。此間、玉狛でトリオン量を測ってもらったら小町はお兄ちゃんくらいのトリオンがあるって栞さんに言われたんだよ」
「マジか!?俺と同じくらいとか……スゲーよ小町」
こっちの情報は素直に驚いたな。それだけあればいろんな部隊が小町を勧誘しそうだ。
トリオン量は戦う上で相手とのアドバンテージになる。俺は今の所、ボーダー1のトリオン量であるが今後俺以上のヤツが入ってきても可笑しくはないからな。
「ところで小町。お前はポジションはどうするんだ?」
「それはもちろん!お兄ちゃんと同じオールラウンダーにする予定だよ!」
中々、嬉しいことを言ってくれる。オールラウンダーなら色々と教えてやれるからな。小町の入隊が楽しみだ。
その後、米屋と出水が小町と戦う約束をしたりなど話してるしと目的地である千葉村の駐車場に到着した。
「とりあえず今回のキャンプは、ボランティア側の引率者の言うことを守って行動するように。それじゃ俺は帰るから陽太郎のこと、頼んだぞ比企谷」
「はい。分かっています。帰りもお願いします」
「それじゃお前らしっかりとな」
林藤さんはそれだけ言ってバスに乗って三門市まで帰っていった。
俺達はひとまずボランティア側の人達が来るのを待った。どんな人達が来るのか。その人達とうまくやっていけるか……それが不安だ。
そして数分後、ボランティア側の人達が乗っていると思われる車が駐車場にやって来た。
車から降りてきた人物達を見て俺はあ然としてしまった。
「……え?ヒッキー……?」
車から降りてきたのはあの喫茶店で関係を清算したはずの由比ヶ浜だった。
この時点で俺は嫌な予感がした。