やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
では本編をどうぞ。
「きゃー見てよ雪菜ちゃん。この子、すごく可愛くない?」
「それだったら、こっちの子だって負けてないよ小町ちゃん」
俺の妹の小町と自隊のアタッカーの雪菜はお互いに抱えている猫を見せ合っている。
二人が抱えているのは自宅で飼っている猫ではない。
何故ならここは俺や小町の家でも雪菜の自宅でもないからだ。
ネコカフェ。
猫と戯れながら飲食を出来る場所だ。
ここに来ることになったきっかけは小町の期末試験の成績がよかったからだ。
期末試験が終わってテストが帰ってきた時に小町が『期末試験を頑張った小町にはご褒美があってもいいと思うのです』と言ってきた。
それで俺が『何が欲しいんだ?』と聞いたところ、小町は『ネコカフェに行きたい』と言ったので連れて来たのだがそこには何故か雪菜が居た。
雪菜に聞いたところ、小町に誘われて行こうということになったらしい。しかし兄である俺に一声も無いとか俺は小町に嫌われているんだろうか?と考えてしまう。
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いや、なんでもない」
小町は俺がボーっとしていたを気にして話しかけてきた。
(まさか小町に嫌われていないかと考えていたなんて言えないよな……)
しばらく俺も二人と同じく猫とじゃれていた。
しだいに猫が俺の周りに集まってきた。その数……五匹。
その五匹がそれぞれ頭、肩、足などに纏わり付いてきた。猫にモテモテ状態である。
「先輩って自宅の猫には好かれないのに、ネコカフェの猫には好かれるんですね」
「たしかにカーくんには懐かれないのに、ここの猫ちゃん達には好かれているね」
雪菜に小町の言う通り、俺は家で飼っている猫の『カマクラ』にはあまり懐かれていない。一応、俺も飼い主なんだが……未だに俺にはそれほど触らせてはくれない。
まあそれは今はおいて置くか……とりあえずネコカフェを楽しまないとな。
「そういえば雪菜はテストどうだったんだ?」
雪菜は成績優秀なので余程のことがない限り大丈夫だと思うが念のため聞いてみた。
「それについては大丈夫です。比企谷先輩が勉強を見てくれているので問題ありません。そう言う比企谷先輩はどうなんですか?」
「もちろん。今回も主席をキープした。小町は今回良かったんだよな?」
「うん。小町は今回いい出来だと思うよ。これなら志望校に合格できるって先生が言ってたしね」
「へぇーそれはすごいな……ちなみにお前の志望校ってどこ?」
「それはお兄ちゃんや浅葱お義姉ちゃんと同じ総武高校だよ。小町の第一志望は総武にしているんだ」
小町の志望校に俺は嬉しかった。これでまた小町と一緒の学校に行けるのだから……今の小町の成績なら大丈夫だと思うけど、二学期からは余裕で合格できるように俺も本格的にサポートしないとなと考えていた。
「まあ今はネコカフェを楽しめよ。雪菜は兎も角、小町は受験があるんだしな」
「小町、了解」
小町はまるでボーダー隊員のような返事をしてきた。俺はそれに苦笑で返してしまった。
小町にはあまりボーダーの話をした事が無い。親父が死んで一番悲しんだのは小町だった。特に親父に可愛がられていたのが強く影響していた。
なので俺としてはボーダーの話を極力小町の前ではしないようにしていた。
ふと、雪菜の方を見てみると白猫を抱き上げて優しく撫でいた。その表情はとても幸せそうだった。かなりいい笑顔になっている。
「比企谷先輩、どうしたんですか?私の顔に何かついていますか?」
「いや、何でもない……」
「お兄ちゃん。素直に言ったほうがいいと思うよ?」
小町は少しだけドスの効いた声で俺に詰め寄ってきた。
(怖いわ!!小町。いつの間にそんな声を出せるようになったんだ……お兄ちゃんお前の将来が心配だよ……)
小町のドスの効いた声に恐れて俺は少しだけ小町から離れようとしたが、小町は更に距離を詰めてきた。
「どうなの?お兄ちゃん?」
「いや、あのだな……これは……」
「………………………」
俺は言葉を濁して逃げようとしたが、小町の無言の圧量に負けてしまい話す事にした。
「……実は……雪菜に対して……すごく可愛いな、と思っていました……」
「私が、可愛いですか……?」
雪菜は顔を赤くして俯いていた。小町は俺を見てニヤニヤしている。
そのニヤニヤ顔、止めろウザい。
「いや、俺は普段のしっかりとしたお前を見ているから……その、ギャップで……」
俺の説明に雪菜は更に顔を赤くしていた。あいかわらず小町はニヤニヤしていた。
「……そう、ですか……私は可愛いですか……」
雪菜はぶつぶつ何かを言っているが声が小さくて聞こえずらかった。
「えーっと、雪菜?大丈夫なのか?」
「えっ?!は、はい。大丈夫です!!」
「そうか?あんまり無茶するなよ?」
「は、はい!!大丈夫です!!」
雪菜を心配していたんだが、大きな声を出す辺り大丈夫だなと思う。
「あ、お兄ちゃん。そろそろ時間だし帰ろうよ」
「もうそんな時間か?じゃあ帰るか」
小町が外を見てから時間を確認すると、すでに五時半を回っていたので家に帰ることにした。
小町の提案で一旦、雪菜を連れて比企谷家に帰ることになった。
家が見えた辺りで小町が俺の方を見てあることを言ってきた。
「お兄ちゃん。それじゃあここから雪菜ちゃんを家まで送ってきてね」
「いや、何でだよ。タクシーでも呼べばいいだろ?」
「……はぁ~これだからごみいちゃんは……」
「小町。人をゴミを見るような目で見るな!……分かったよ雪菜を送ってくればいいだろ?」
「もう、最初からそうすればいいんだよ。お兄ちゃん」
「小町ちゃん?これは、もしかして……」
「ファイトだよ雪菜ちゃん。小町は応援しているから」
「う、うん。私、頑張るね」
小町と雪菜が何を話しているのかは分からないが関わらないでいいか。
雪菜を比企谷家から姫柊家まで送る事になったのだが、隣を歩いている雪菜はさっきから何かぶつぶつ呟いている。だが、俺にはサイドエフェクトがあるので例え声が小さくともある程度は聞こえてきてしまう。
(雪菜はさっきから自分にガンバレだの当たって砕けだろ等を言っているが何のことだ?)
俺は雪菜に対して首を傾げ続けている。そして歩き始めて数分が経った頃、雪菜が話しかけてきた。
「あ、あの……は、八幡先輩……」
「お、おう。お前が俺の名前を言うなんてな。どうしたんだ?」
「いえ、深い意味はありませんけど……私もいい加減名前で呼んだほうがいいかなって思いまして……」
「そうか。まあお前がそうしたいならいいんじゃないか?それより顔赤くなってたけど大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です。心配掛けてすいません」
「ならいいけど。あまり無茶をするなよ。倒れたら元も子も何だからな」
俺は雪菜にそう言って頭を撫で始めた。雪菜は嫌がらずにそれを受け入れて嬉しそうに笑っている。本当にいい笑顔をしているな。
「そういえば八幡先輩って部活に入っていたんですね。知りませんでした」
「……それ、誰から聞いた?」
「浅葱先輩にです。たしか…奉仕部って言うんですよね?その部活」
「ああそうだ。だけどな、もう俺は行っていないんだ。行く理由が無くなったからな」
「行く理由ですか?」
雪菜の疑問に俺はこれまでに何が有ったのかを一通り説明した。途中から雪菜の顔は不機嫌になっていった。
「なんですか、その雪ノ下って人は先輩は何か悪いことでもしたんですか?それに平塚先生って人もです。生徒の自由を奪うとか教師の風上にも置けない人ですね!」
「まあでも、俺は二度と行く事はないからな」
「そうですよ。そんな部活行く必要はありません。あ、ここまでいいですよ八幡先輩。もう目の前なので」
「そうか?分かった。それじゃあお休み雪菜」
「はい!お休みなさい八幡先輩」
雪菜を家の目の前まで送って別れた後、俺はコンビニに寄ってアイスなど買って帰ることにした。
今日は雪菜の少し意外な一面が見れてよかったと思うし、何より俺の事を名前で呼ぶようになったのがよかった。
これからより一層の連携などが出来るからな。
(俺の目的のためにもA級1位を目指す。まずは隊としての力を付けていかないとな。何年掛かるか分からないが……必ずやり遂げて見せる)
しかしこの時の俺は何年掛かるか分からない計画がまさか年末にある人物との出会いで果たせるとはまったく思ってもいなかった。
次回からは千葉村編に入る予定です。
では次回をお楽しみに。