やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
5月1日 夜 警戒区域 南区域
明日はゴールデンウィークだ。待ちに待ったゴールデンウィークだ。
大事なことなので二回言った。
社畜根性で防衛任務を普段通りにこなせば、明日は学校がない。
実にいい響きだ。
家でごろごろしたり、溜め込んだ日朝アニメを消化する絶好の日、とわくわくする考えを巡らせながらふと空を見上げる。
「しかしこれは、明日は雨だな……」
そこには一面に雨雲が広がっていた。
『みんな、門が開くよ』
そんな折りに、通信が入ってきた。
「了解だ。浅葱、敵の数は?」
と比企谷隊オペレーターの浅葱に確認した。
『モールモッドが21体、バムスターが7体バンダーが9体だよ』
一瞬、返ってきた内容に思考が止まる。
(今日は、トリオン兵のバーゲンセールかよ!)
内心で悪態を吐きながらも指示を出す。
「夜架と雪菜はバムスターとバンダーを頼む。モールモッドは、俺とシノンで処理する」
「「「了解!!」」」三人の返事を聞いて、俺はシノンと共にモールモッドを相手にするべく、奴等が現れた場所へと目を向ける。
「トマホーク」
メテオラ+バイパーの合成弾を作り、それを3×3×3の27分割して一度上に向けて放ち、それを一気に下にいるモールモッドに落とす。
このトマホークの当て方は、隊員の間で『空爆トマホーク』と称されている。
これでモールモッドの半分は粉々になったので、シノンの狙撃と俺の弧月とバイパーで残りのモールモッドを手早く片付けた。
それとほぼ同時に夜架と雪菜もトリオン兵をすべて片付けていた。
「浅葱、トリオン兵の反応はどうだ?」
出てきたトリオン兵は倒したと思うが、取り残しがいるかもしれないの、そう思い浅葱に確認を頼む。
『問題なし、全て倒してあるわ。トリオン兵の反応はないわ』
その通信を聞いて少し気が緩んだ時だった。
「八幡。本部からあんたに通信が来ているわよ。繋ぐわね」
(本部から? 一体なんの通信だ)
疑問に思っている間に、通信が繋がる。
「比企谷隊長、密航者を捕縛せよ」
「――――はぁ!?」
俺は本部からの通信に困惑していた。
(密航者? 捕縛? その言葉から連想すれば、誰かが近界(ネイバーフッド)にボーダーの許可なく行こうとしてしるのか?)
が、考えても纏まるものでもない、と詳しく聞くことにした。
「それはどういうことですか? 詳しい説明をお願いします」
いったいどこの誰がそんな無謀なことやろうとしているんだ?
「余り時間がないので、簡潔に説明する。二宮隊鳩原隊員が一般人にトリガーを横流ししていることが判明した。そこで彼女の身柄を確保しようとしたところ、その付近で四つのトリガーの起動を確認し、一つが鳩原隊員のものと一致した。なので、至急彼女の身柄を抑える必要がある。これは重大な隊務違反に相当する。急いで指定座標に向かってくれ」
「了解! ただちに向かいます。お前ら、ここ任せてるぞ。いいか?」
「はい。主様、お気をつけて」
「無茶するんじゃないよ、隊長」
「油断はしないと思いますけど、気をつけてください、先輩」
と、夜架とシノンと雪菜からそれぞれ言われた。
「あぁ、じゃあ頼んだぞ!」
俺はそう短く返事をした後、グラスホッパーを使い指定座標に向かった跳んだ。
しかし、そこにはもう誰一人としていなかった。そう本部に報告しようと思った時、三人の影が見えた。
「……どうやら一足遅かったようだな、比企谷」
「はい。そのようですね、風間さん」
風間蒼也
A級3位 風間隊隊長で、ボーダー№2 アタッカーの大学生の先輩だ。ただ、この人他の大学生と比べると身長が低い。だが小型かつ高性能という言葉がよく似合う人だ。
「僕達より早く着いたくせに取り逃がしたんですか? だめな先輩ですね」
このくそ生意気な態度で毒を吐いてくるのは、風間隊アタッカーの菊地原士郎。
強化聴覚のサイドエフェクトを持つ男で、風間隊がステルス戦闘のスペシャリストと言われるのは、こいつのおかげと言えた。
「おい、菊地原! ……すみません、比企谷先輩」
歌川遼
風間隊 オールラウンダーでよく出来た後輩だ。過去に何度か飯を奢った事のある人物だ。
菊地原の吐いた毒の処理をよくしている。
「……ほぉ。言うじゃないか、菊地原。俺より遅いくせに随分とデカイことが言えるな。遅い分際で」
「…………チッ」
「聴こえているからな、今の舌打ち。後でズタズタに切り裂くぞ」
と菊地原に喧嘩を売っていると、風間さんが割り込んで来て。
「それで比企谷。密航者は全員ゲートの向こうに行ったのか?」
「おそらくは。足跡を見つけました。大きさや数から見て最低でも四人はいた事になります。一人は鳩原さんで、残りが不明ですね。靴の大きさから成人男性が少なくとも二人はいたかもしれません」
「……そうか。本部への報告はこっちでやっておくから、お前は防衛任務に戻っていいぞ」
「そうですか、ありがとうございます。後のことお願いします」
風間さんのその好意に甘えることにして、礼をして俺は防衛地点に戻った。
「よぉ、お前ら。ご苦労様」
「主様、そちらは終わったのですか?」
「あぁ。風間隊が来て、後のことは任せた」
「そう。隊長……密航者ってやっぱり、鳩原さんもいたの?」
「いや、わからない。俺が現地に着いた時には、もう誰もいなかったからな」
「先輩はどう見ますか? 鳩原さんや一緒にゲートの向こうに行った人達のこと」
「さぁな、情報が少ないからなんとも言えないな」
『八幡はさ、ゲートの向こうに行こうとは思わないの?』
「それは今のところはないな。親父の仇は取りたいが、親父を殺した国がどこにあるのかさえ、分かっていないからな。それに小町やお袋がいるしな」
『そっか……。まぁ、そうだよね。さて、防衛任務も後少しだししっかりとね、みんな』
「「「「了解」」」」
気になる事ではあったが、考えたところで答えが出るわけでもない。だから、意識を切り替えて俺達は任務に集中するのだった。