やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
「私とも戦いなさい」
そう言う雪ノ下に俺は訳が分からなくなっていた。
(こいつは何を言っているんだ?さっきのを見て俺に勝てるとでも思っているのか?)
「……聞いているのかしら? ……あぁ、耳が腐っていたのだったわね。ごめんなさい。気が付かなかったわ」
「……それが人にものを頼む態度かよ。それにさっきの戦いを見て俺に勝てるとでも?」
「私がさっきの二人と同じと思わないことね」
「いや、同じだろ。トリガーをたかが数分触っただけのお前と四年もの間戦い続けている俺とじゃあ差がありすぎるんだよ。そんなことも分からないのか、お嬢様?」
俺の皮肉が気に障ったのか、雪ノ下は怒った。三浦と同じで沸点が低いな……。
「いいから私と戦いなさい!!」
「嫌だね。そんな高圧的な態度の奴と戦う気にはなれんな……」
「あら、私に負けるのがそんなにも怖いのかしら?」
雪ノ下は俺に対抗して挑発してきた。しかし雪ノ下、そんな分かりやすい挑発に乗るほど俺は安くないぞ。
でもこのまま、職場見学の終了まで時間を稼げば戦わずに済むな。
よし、それで行こうと思った矢先に本部では余り聞かない男の声が聞こえてきた。
「戦ってやれよ、比企谷」
「何でアナタがここにいるんですか?迅さん……」
迅悠一。玉狛支部所属のS級隊員。
『未来視』と言うサイドエフェクトを持ち、顔を見た人間の未来を視る事が出来る。
ブラックトリガー『風刃』を持っているが、今までその能力を使って戦ったのを見たことがない。
さらに言うとこの男の趣味が最悪だ。
サイドエフェクトを使い、反撃されても大丈夫な女性の尻を触りまくる変態だ。
そして、いつも持ち歩いているぼんち揚げを片手に持っていた。
「……ぼんち揚げ食う?」
「いりません。てか、何で本部に居るんですか?また、セクハラをしに来たんですか?少しは自重しないとマジで殺されますよ」
「そんなことはしないさ。さっきの質問だけど今朝に今日は本部に行けば面白いものが見れると、俺のサイドエフェクトが言ってたんだ」
「ホント、お決まりのセリフですね。もっとレパートリーを増やしたらどうなんですか?いい加減飽きますよ……」
「なんだか、今日はいつもに増して目が濁っているぞ比企谷……」
俺が迅さんと話していると下の方から声がした。
「やっているようだな。はちまん!」
「……誰かと思ったら、陽太郎か。久し振りだな」
林藤陽太郎。玉狛支部所属の五歳児にして自称最強の隊員。
『動物との意思疎通ができる』サイドエフェクトを持つお子様だ。
比企谷隊の戦闘隊員が俺だけだった時に玉狛第一との合同防衛任務の前に遊びに行ったり、食事などしたり作ったりしたことがある。
そしていつも通り、陽太郎は相棒のカピバラの雷神丸に乗っていた。
雷神丸。玉狛支部所属のカピバラ。
陽太郎とは常に行動を共にする相棒で玉狛のマスコット的な存在だ。
陽太郎を背に乗せて移動している姿はもうお馴染みの光景だった。
でもこのカピバラは他のカピバラより段違いに動く、カピバラなのに。
「どうしてだ!はちまん!」
「……何がだよ」
「どうして、さいきんはたまこまにあそびにきてくれないのだ!」
「あぁ~すまんな。隊を作ったりA級に上がったりして忙しかったんだよ」
「そうなのか?また、はちまんのカレーをたべたいぞ」
「そんなによかったのか?俺のカレー」
「うむ。こなみのカレーよりおいしかったぞ」
「……それ、本人の前では絶対に言うなよ。……そうだな、近い内にカレーを作りに行ってやるよ。それでいいだろ?」
「うむ。それでいいぞ」
陽太郎とカレーの約束をしていると雪ノ下が催促してきた。
「もう、いいかしら。早く準備しなさい、比企谷君」
「だから、戦わないって言ってるだろ。それともお前は人の意思を無理矢理捻じ曲げてまで自分の要求を貫くつもりか?それでよく人ごと世界を変えるなんて言えるな」
「なんですって!!」
雪ノ下は周りが驚く位の大声をだした。周りの生徒が驚いていた。
「事実だろ?お前は自分の我が儘が叶わずに癇癪を上げているガキなんだよ。それにお前は此間、母親に酷く怒られたばかりだろ?」
「どうして、そのことを貴方が知っているのかしら?……あの時の会話を聞いていたのね……。知っていることがあれば全て話しなさい!!」
「断る。それに真相を知ったところで、もう遅いしな。そもそも、学生が出来る事を越えているんだぞ、その辺りを疑えよ……。だからお前はバカなんだよ……」
「バカなのは、貴方のほうでしょ」
「良く言えたな、学年次席にもなれないのに学年主席の俺に」
俺がそう言うと雪ノ下は苦虫を噛み潰したように顔を歪めていた。
しかし、と俺は考える。
(迅さんが俺に戦えと言うからにはそれに意味があるはずだよな。……よし、ここは迅さんの思惑通りに動いてみるか)
「……いいぞ」
「……何がいいのかしら?」
「だから、戦ってもいいぞと言っているんだ」
「さっきは断ったくせに、どういうことかしら?」
「気が変わったんだよ。それに自分の実力すら把握出来ていない奴を倒すのは楽だしな。それでお前は俺にどのトリガーを使ってほしいんだ?」
「普段から使っている物でいいわ」
「……雪ノ下。お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「当たり前でしょ。それ位はわかっているわ。バカにするのも大概にしなさい」
「……わかった。ただし、後で文句を言うなよ」
「貴方こそ、負けた時の言い訳でも考えておく事ね?」
雪ノ下はどこか勝ち誇った顔をしていた。そして、俺と雪ノ下はブースに入り、フィールドに転送された。
「高いビルが所々にあるな。……市街地Bと言ったところか?……しかし、雪ノ下のあの自信はどこから来ているのか、不思議だ……」
俺が考えごとをしていると雪ノ下が正面から走ってきた。
「おいおい、マジかよ。普通に正面から来る奴がいるか?」
さすがの俺も驚きを隠せなった。
普通は実力差が空いているなら奇襲などを仕掛けるのに、雪ノ下はまったくしてこようとはしなかった。
「バイ……」
俺はバイパーを使おうとして、途中でやめた。
(迅さんの思惑にあえて乗っかってみたが、この戦いに何があるのだろうか?)
俺は考えて、弧月を抜刀して待ち構えた。
雪ノ下の初撃は俺の頭を狙ったものだった。トリオン体の弱点をしっかりと把握しているな……。
トリオン体の破壊は頭、つまり伝達神経を破壊するか、または心臓に当たるトリオン機関の破壊か、もしくはトリオン漏れでトリオン切れのいずれかだ。
雪ノ下はそれを的確に狙っての連続攻撃をしてきた。俺はそれを弧月でしっかりと捌いていく。
しかし、雪ノ下のこの槍捌きはとても素人の動きではなかった。
「それにしても、雪ノ下。お前のその槍捌きは誰かに習ったのか?」
俺は疑問に思った事を雪ノ下に聞いてみた。だが、それをバカ正直に答えるとも思えないが……。
「護身術で槍術を習っているのよ。でもね、私は昔から体力だけがなくて、長続きしなったのよ。でも、トリオン戦闘体なら私の実力を十分に発揮できるわ」
雪ノ下はバカ正直に答えたよ。……やはり、バカだ!
「……そうか。だったら、体力をつける努力をしろよ。聞いているこちらとしては、ただ言い訳しているように聞こえるからな」
「うるさいわね。それより貴方、さっきからなんのつもり?」
「何のことだよ……」
「……あえて惚けるのね。貴方が先ほどから私に攻撃しないで、ただ攻撃を凌いでいることよ。私を舐めているのかしら?だとしたら、後悔することになるわよ」
「安心しろ。お前を決して舐めている訳ではない。そもそも、俺はこの戦いで使うトリガーを弧月だけと決めているからな」
「それを舐めていると言っているのよ!」
雪ノ下はなんだか、ご機嫌斜めのようだ。
「別にお前が普段のトリガーを使えと俺に言ったからって、使うトリガーを決めるのは、俺自身だ。もし、ほかのトリガーを使わせたいなら、俺を本気にしてみろ……できるならな」
「……いいでしょう。その舐めた口を二度と利けなくしてあげるわ!!」
「いいかげん、ワンパターンなんだよ雪ノ下……」
雪ノ下は勢いよく突っ込んできたので俺はあるトリガーを雪ノ下の足元に配置した。
故に雪ノ下の槍は、俺に届くことはなかった。
「なっ?!」と声を出して雪ノ下は上に高く飛んでいった。雪ノ下が飛ぶ原因となったのは足元にある青い板のようなものだ。
グラスホッパー。空中移動を可能にする、オプショントリガーだ。
雪ノ下はそれを踏んで飛んでいったのだ。飛ぶ準備が出来ているならいいが、それを踏まされた人物は対処が遅れてしまう。
ちょっとしたトラップにもなるから便利だ。
俺は雪ノ下からバックステップで距離を取ってから弧月を構えた。
「旋空弧月」
俺は飛んだ雪ノ下に向けて弧月の専用オプショントリガー『旋空』を使い、斬撃を四回放った。
雪ノ下はその内二回、槍を使って防いだが残り二回を頭と左胸に喰らいトリオン体に亀裂が走った。
『トリオン体活動限界ベイルアウト』
音声と共にトリオン体が崩れ、雪ノ下は光になって飛んで行った。
それからブースを出て雪ノ下に向かって俺はいいたい事を言った。
「わかったか、雪ノ下。これが俺とお前の実力の違いだ……」
「……貴方は卑怯な手を使ったわね」
俺は首を傾げながら、雪ノ下に訊いてみた。
「一体何のことを言っているんだ。お前は?」
「貴方はさっき、他のトリガーは使わないと言ったのに使ったじゃない!!これが卑怯以外になんだと言うの!!」
「……お前って、ホントにバカだな。そんなの嘘に決まっているだろ……」
「嘘、ですって……それこそ、卑怯だわ!!」
「……はぁ~。嘘も戦術の一つだと思うけどな……。それに戦っている相手の言葉を真に受ける奴があるか」
俺が言うと雪ノ下はそれでも納得がいかない顔をしていた。
「納得がいかないって顔をしているな。だがな、雪ノ下。お前はボーダーについて何も分かっていない。俺達、ボーダー隊員は負けられない戦いをしてるんだよ。負ければ全てが終わる……。それを俺達は必死にこの街……三門市を守ってるんだよ。正々堂々な戦いがしたいなら、どこか別の場所でチャンバラごっこでもやってろ」
それだけ雪ノ下に言い残して、俺は迅さんに今回の事を聞くことにした。
「迅さん。今回の戦いに何の意味があるんですか……?」
「あぁ、それな。実は小町ちゃんの事なんだけど。陽太郎、あれを比企谷に渡しな」
「うむ。はちまん、これをやる」
陽太郎が渡してきたのはMAXコーヒーだった。
「……陽太郎が何でマッ缶を?」
「まちがって、かった。でも、じんがひつようになるからもっていろっていった」
「……そうか。でも、ありがとな。有り難く頂くぜ」
俺はその場でマッ缶を一気飲みした。
「ぷはぁ~。マッ缶、最高!……ありがとな、陽太郎。カレー、楽しみにしていろ、飛びきり美味しいのを作ってやるからな」
「うむ。たのしみにしているぞ!」
「それと迅さん。この戦いが小町とどう関わってくるんですか?」
「それは玉狛に来た時にな……。陽太郎、そろそろ帰るぞ。ボスの用事もそろそろ終わるそうだからな。それじゃ、またな比企谷。太刀川さん達もね」
「次、来る時は連絡しろよ。迅」
太刀川さんに挨拶をしてから、迅さんと陽太郎は居なくなった。
そして、職場見学はこうして終わりを告げ、生徒は流れ解散になったが、俺はこの後すぐに任務があったので作戦室で仮眠を取った後に防衛地点に向かった。