やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
「なんだか楽しそうだな、比企谷」
生徒の後ろから聞きなれた人の声が聞こえてきた。その人は……。
「太刀川さん」
太刀川慶。A級1位太刀川隊隊長でアタッカー。
ボーダー№1アタッカーで個人総合1位の怪物的な実力者だ。
万能ブレードの弧月を二刀流にした超攻撃型で忍田本部長の弟子。
さらに戦闘狂なことでも知られている。
「よぉ、比企谷」
「出水」
出水公平。太刀川隊シューターであだ名が弾バカ。
高度な戦略と技術を兼ね備えるナチュナル系天才シューター、合成弾の名手でもある。
ボーダー屈指のトリオンを持ち、四種類ある弾を自在に操る男だ。
二宮さんの師匠でもある。その時、二宮さんが出水に頭を下げて弟子入りをしたという話は結構驚いた。
ボーダーの中で親友と言ってもいいくらいの奴だ。
「どうも、比企谷先輩」
「お荷物君」
お荷…じゃなくて唯我尊。太刀川隊ガンナー。
ボーダーのスポンサーの息子でコネでA級に入った経歴を持つ後輩だ。
ただ、こいつは兎に角弱い。A級最弱と言ってもいいくらいに弱い。
「酷いです比企谷先輩!僕の名前は唯我尊です!間違えないでください!」
「いや、比企谷の言っていることは正しい」
「出水先輩も酷い!」
「ところで、比企谷。さっき笑い声が聞こえたんだがなんだったんだ?」
「あぁ、それはな……」
「先輩達!無視しないでください!」
俺はこれまでの起こった出来事を掻い摘んで説明した。
俺の仮想訓練のタイムから三浦の暴言などを出水達に詳しく話した。
それを聞いた出水が……。
「いや、それはバカだろ。お前が冴えないザコだったらボーダーの9割以上の人間がそうなるぜ。それ言った奴、頭大丈夫か?」
「大丈夫じゃないから、あんな発言ができるんだろ。常識ってものが頭から抜け落ちているんだよ。それで出水。お前達は防衛任務終わったのか?」
「ああ。ついさっきな」
俺と出水が話していると太刀川さんが話しに加わってきた。
「比企谷。ちょっと頼みがあるんだが……」
「お断りです。他を当たってください」
「釣れないこと言うなよ。……頼む比企谷。でないと風間さんにシバかれる!」
「大人しくシバかれてください。……いい加減、大学生のレポートを高校生にやらせるの辞めてくださいよ。だから風間さんにシバかれるんじゃないですか……」
太刀川さんはよく大学レポートを歳下の知り合いにやらせている。戦闘に関してはずば抜けてすごいのだが、勉強はてんで出来ない。それでよく風間さんにシバかれている。
とりあえずは三浦のことだな……。俺は三浦に話し掛けた。
「まぁ、俺は鬼ではないし、チャンスをやってもいいかなって思っているわけなんだよ」
「チ、チャンスってなに?」
三浦は若干涙目になっている。三浦は俺の話を聞きながらビクビクしていた。そんな態度をとる位なら最初から俺を罵倒しなきゃよかったのに……。
「それはお前と葉山が俺と戦うことだよ」
「……えっ!?それってどう意味だし……?」
「このままだと俺の気が収まらないからな。だからお前らと戦いたいんだよ。だから、二人が俺と戦えば、勝敗関係なしに俺は三浦の暴言等を上層部には報告しない。ってのでどうだ?」
「そ、それだけで優美子のことを許してくれるのか?」
葉山はまだそのことに拘っていたのか?
「許す、許さないじゃなくて、ただ俺は報告しない……それだけ」
「優美子、受けるべきだ。俺も優美子と一緒に戦うから頑張ろう!」
「隼人……。うん、あーし頑張る。ヒキタニのやつなんかに負けない!」
「決まったか?それじゃあ、俺のトリガーを決めてくれ」
「俺達が決めるのか?何で……?」
「ハンデだよ。俺は四年近くトリオン兵やボーダー隊員と戦ってきたからな。すこしでもフェアにするためだ。選びな」
(まぁ、ハンデとか言っているけど、そうじゃないんだな、これが)
俺が考えていると、三浦と葉山は俺から少し離れた場所に移動して話し合いを始めた。
でもまぁ俺はサイドエフェクトのおかげである程度は会話が聞こえるけどね。
「隼人。バイパーなんてどうかな?」
「どうしてだ?」
「ヒキタニって刀使ってたじゃん。だから使い慣れてないものの方がいいと思うんだよね。それに結衣がかなり難しいって言ってたし」
「それでバイパーか……。よし、そうしよう」
話し合いが終わったようで葉山が俺に近付いてきて使うトリガーを言ってきた。
「ヒキタニ君にはバイパーを使ってほしい」
「……バイパーでいいんだな?」
「あぁ、それで構わない」
「それじゃ、準備するから待っていろ……」
俺が準備を始めようとした時にトリガーを渡された。
「どうぞ。これを使ってください、比企谷先輩」
「おう。サンキュー時枝」
時枝充。嵐山隊オールラウンダー。
嵐山さんや木虎を援護したり敵の攻撃をガードしたり、咄嗟の判断力に優れた名サポーターと言える後輩だ。
家でネコを飼っているのでネコなどの話で盛り上がる事が多々ある。
「いえ、それで聞きたい事があるんですが、いいですか?」
「なんだよ、改まって。俺に答えられることならいいぞ」
「じゃあ、比企谷先輩はさきほどの女子生徒が暴言を言うことを予想してたんじゃないんですか?だから何も言わなかった、違いますか?」
「……。何を言うのかと思ったら、そんなことか。いくら学校でのデカイ態度がウザイからって、俺がクラスの女子を罠に嵌めてボコボコにするわけないだろ。俺だってそこまで鬼ではないぞ」
「間がありましたね。実は考えていたんですね」
「……うぐっ……時枝お前、わかってるなら口に出さなくていいから」
「やっぱり、比企谷先輩は鬼畜ですね!」
「少し黙ってろ、佐鳥……」
佐鳥賢。嵐山隊スナイパー。
スナイパーの中でも抜群のセンスを誇る後輩だ。
ツイン狙撃と言う、イーグレット二丁で行う同時狙撃を得意とする後輩で口癖が『見ました?俺のツイン狙撃』だ。
毎度、聞いてくるのでウザくなっている。
「それはないですよ、比企谷先輩。鬼畜なのはホントのことなんですし」
「わかった。佐鳥、今から俺と十本勝負しようぜ!」
俺は笑いながら佐鳥に言った。ある意味、恐怖の笑顔だな……。
「い、いや、俺はスナイパーですし、それに比企谷先輩、目が笑ってないですよ。怖すぎです!」
「佐鳥、切り裂かれるのか、蜂の巣になるのか、炸裂するのだとどれがいい。嫌いなのを選ばせてやるぞ…」
「嫌いなのを選ばせるんですか!?やはり怖すぎです、比企谷先輩!」
嵐山隊と話していると周りから視線を感じた。
視線の元は由比ヶ浜だった。大方、俺が哀れなボッチだと思っていたんだろう。
まぁ、実際にクラスじゃボッチだけどな。
「それじゃ、準備も整ったし始めるか」
「その前に確認させてくれ。俺達が君と戦えば上の人には言わないってことでいいんだよな?」
「……あぁ、そうだ。お前ら二人が俺と戦ったら、俺は上層部に報告しないことを約束する」
「わかった。始めよう」
葉山は納得してブースの個室に向かった。
あの二人はまだ気が付いていない。このゲームは始めから勝てないという事に……。
俺の提案を受け入れたとしても三浦が罰を受けるのは変わらないという事に。
今からあの二人が絶望するのが楽しみだ。
……なんか俺、悪役みたいになってきてる。はぁ~、溜め息が出てくる。