やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
ボーダー本部。
それはネイバーの第1次大規模侵攻跡地に建設された巨大な建物。
そこにはボーダー隊員のための様々な設備が存在する。
今日はその設備などを使えると興奮している生徒が大勢いた。
まぁ、ラノベみたいなことが出来るんだから人気があるのも納得だな。
そして今、壇上で忍田本部長がボーダーについて話していた。
「ボーダー本部長、忍田真史だ。君達の入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員……訓練生として入隊するが、三門市、そして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研磨し正規隊員を目指して欲しい。君たちと共に戦える日を待っている。私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」
忍田本部長のその言葉を聞いて周りがざわつき始めた。
嵐山隊。
ボーダーで広報を担当しているA級部隊。
編成はオールラウンダー3人、スナイパー1人。
様々な状況に対応できる部隊と言えるだろう。
五つ星のエンブレムが特徴の赤い隊服を着た四人が現れた。
「やあ、みんな!今日の職場見学を案内する嵐山隊隊長の嵐山准だ。よろしく!」
嵐山さんの挨拶に女子連中はキャーキャーと騒いでいる。相変わらず爽やかだなあの人。
嵐山准。嵐山隊隊長にしてオールラウンダー。
正義感に溢れる広報部隊長だ。
広報というめんどくさい仕事をこなしている凄いイケメンだ。
ただ一般にはあまり知られてないが、かなりのブラコンとシスコンだ。シスコンだけは共感できるな。
「これから入隊指導を行う前にボーダーのトリガーについて説明しよう。まずトリガーを起動して換装したら、左手の甲を見て欲しい。数字があるのが分かるだろうか?そのポイントを4000まで溜めるのが正規隊員になるための条件だ」
嵐山さんが説明すると、生徒が次々とトリガーを起動してトリオン体に換装し始めた。
「まず最初の訓練は対ネイバー戦闘訓練だ。仮想戦闘モードの部屋の中でボーダーの集積データから再現されたネイバーと戦ってもらう」
嵐山さんの説明の後に周りの生徒がざわついた。まぁいきなりの戦闘だし無理もないか。
(俺の時もやったな、これ。大体のセンスがこれでわかるからな。まあ、訓練の結果が良くても実践で動けないと意味がないけど。これで一分を切ればそこそこ優秀の部類に入るだろう)
俺が考えていると、次々と生徒が大型ネイバーに向かって行った。
俺が隅のほうで嵐山さんに見つからないようにしていると一人、俺に近付いてくる人影があった。
「てっきり、サボるものかと思っていましたよ。比企谷先輩」
「お前は俺をなんだと思っているんだ?木虎」
木虎藍。嵐山隊オールラウンダーでエース。
たゆまぬ努力を糧に駆け上がったエースだ。
入隊時はガンナーだったが、トリオン量が少なくそれで戦うのは難しくなり、B級に上がってすぐに対人戦で勝てなくなった。
それで当時俺が戦った人にアドバイスしているというのを何処かで聞き付けて、木虎も俺にアドバイスを求めてきた。
隊を作った当時は戦闘員が俺だけだったので個人の隊員と組んだりして防衛任務に当たっていた。まだ嵐山隊に入る前の木虎とも一緒に防衛任務をしたことがある。その時に木虎とは知り合った。
それで木虎にオールラウンダーになることを進めたり、スパイダーのことを教えたりして、まだB級だった嵐山隊に入りA級に上がった。
「それは鬼畜のサボり魔……ですかね?」
「何だよそれ……。俺は鬼畜でもサボり魔でもないぞ」
「それより比企谷先輩。今度、私と戦ってください」
「話を急に変えてくるなよ木虎……。そういえば、このところ広報で忙しかったな。わかった。お前の都合にできるだけ合わせるから連絡してくれ」
「わかりました。その時はお願いします。負けませんから」
「ホント木虎、お前はチャレンジャーだな。んじゃ、そろそろお前は嵐山さんの所に戻ってくれ。お前が近くにいると目立つからな」
「わかしました。約束、守ってくださいね」
木虎はそう言い残して嵐山さんの下に戻っていった。
訓練を見ていると葉山達が戦っている。
葉山はアステロイドで三浦は弧月か、由比ヶ浜はバイパーだった。由比ヶ浜の弾はまったく当たってない。
(素人がバイパーなんて扱いが難しいもの使うなよ……やはり由比ヶ浜はアホの子だな)
由比ヶ浜や他の生徒を見ていると雪ノ下の番になっていた。使っていたのは、ボーダーでも珍しい弧月:槍だった。
『3号室終了 記録23秒』
終了のアナウンスが流れてきた。
部屋から出てきた雪ノ下は俺に近付いてきて、勝ち誇った顔をしている。
「あら、比企谷君。貴方はやっていないの?でも、やったとしても私の記録には到底、勝てないでしょうけど」
「そうだなー。流石は雪ノ下だなー(棒)」
俺の言い方が気にいらなかったようで睨んできた。だったら言わなきゃいいのに、こいつは学習能力皆無なのか?
「いや~なかなか、いい記録だね。初めてであそこまでのタイムは出せないからな」
「ありがとございます。それで今までの最高記録とは何秒なのでしょうか?」
雪ノ下が嵐山さんが質問している。ここに来ても負けず嫌いか?
「そうだな。ウチの木虎が9秒。緑川と言う中学生が4秒で、最高記録は2秒だよ。これまで破られたことはないんだ」
「2秒、ですか……」
雪ノ下が言うのを見て、嵐山さんがフォローした。
「しかしこれは訓練の記録であって、実践ではないし記録だけが全てではないから。だから、気にする必要は無いんだよ。……比企谷?」
雪ノ下と話していた嵐山さんと目が合ってしまった。嫌な予感がするな……。
「なんだ比企谷、来ていたのか?」
「どうも、嵐山さん。お疲れ様です……」
「……嵐山さん。これとはお知り合いなんですか?」
俺を物扱いするとは相変わらずの雪ノ下だった。
「あぁ比企谷はA級部隊の隊長を務めている男でさっきの記録の2秒を出したのが比企谷なんだよ」
嵐山さんが俺のことを即効でバラしてしまった。
「貴方が隊長で2秒を?……ありえないわ」
「それなら比企谷。実際やって見てくれ。そうすれば、彼女も納得するだろう」
嵐山さんにお願いされたら、断れない。しかたない……。
「自分のでいいですかね?」
「あぁ構わないぞ。ただ、本気で頼む」
俺はトリガーを起動しトリオン体に換装して仮想訓練室に入った。
仮想の大型ネイバーが現れた。俺は左手で鞘を持ち、右手を柄に軽く添えて待っていた。
『仮想訓練開始』
アナウンスが聞こえてきた瞬間に俺はジャンプをして大型ネイバーを飛び越える前に弱点の目を切った。
『1号室終了 記録0.5秒』
アナウンスが流れてきて、記録を読み上げた。
(まぁ、これくらい当たり前か。2秒を出したのが約4年前だしな……)
俺が考えていると、雪ノ下が近付いてきて、とんでもない事を言った。
「比企谷君。……いくら何でもズルはよくないわ」
「いや。ズルなんてしてないから」
「嘘ね。貴方のような人間にあんな記録出せるはずないわ」
雪ノ下の声を聞いて、三浦がそれに乗ってきた。
「へぇ~、ヒキタニってズルしたんだ~。それでA級に上がったとかクズだし。じゃあ隼人、あーしたちもすぐにA級にあがれるんじゃない?」
「ど、どうだろうね。もしかしたら難しいかもしれないよ……」
「そんなことないって隼人。どうせ、ズルしてA級に上がったヒキタニが居るんだしあいつの隊はみんな、ズルしているんだよ。それにあんなキモくて冴えない奴がマトモなやり方でA級になれるわけないし!!」
三浦はそう言って、周りの人間を巻き込んで笑っていた。だが、俺は特にいい返すこともせず、ただ傍観していた。
「どうしていい返さないんですか。比企谷先輩……」
木虎がかなり不機嫌になって俺に聞いてきた。
「いい返さないってどういう意味だ。木虎?」
「比企谷先輩は、今バカにされたんですよ。それを何もしないで悔しくないんですか?」
「あぁ、そのことね。別になんとも思ってないけど?」
「なんとも思っていないって、どういうことですか!!」
「何をそんなに怒っているんだ木虎?別に職場見学の後に三浦が自宅謹慎になるか停学処分になるか退学かもしれないな。だからそんなに怒る必要ないから」
俺が言った途端に周りがシーンと静かになった。
「そ、それは、どういう意味なんだい?ヒキタニ君」
葉山が俺に聞いてきた。そんなことも分からないのか?こいつは……。
「どういう意味って、そのままだけど?三浦はボーダー隊員である俺をバカにする発言をした。それを俺が上層部に報告すれば、ボーダーは組織として抗議文を学校側に送る。そうなると、送られてくる原因となったのは三浦の発言だ。ならば、三浦に罰を与えるのは、至極当たり前のことだと思うけど?」
「……。頼む!!ヒキタニ君、優美子を許してくれないか。優美子も悪気があったわけじゃないんだ。だから頼む!!」
葉山は頭を下げて謝ってきた。だから俺の苗字は『ヒキタニ』ではなく『ヒキガヤ』なんだが…。
「隼人…」
三浦は葉山の事がまるで自分を助けてくれる王子様にでも見えているのだろうな……。
「なるほど。友達のために自分が頭を下げるか。友情があっていいもんだな」
「それじゃあ、許してくれるんだね」
「あぁ、もちろん。上層部にはきっちりと報告しておくから、安心してくれ」
俺は満面の笑みを浮かべて、葉山にそう答えた。
「ヒキタニ君。なんで、そうなるんだ?」
葉山は信じられないというような顔をしていた。こいつ、わざと俺の名前間違ってないか?
「なんでって、それは葉山。お前が間違っているからだ」
「ま、間違っているって、どういうことだ?」
「分からないのか?それはな、三浦が俺に謝ってないからだよ。そもそも、三浦が暴言を吐いたのになんでお前が謝るんだ?俺にはそれが理解出来ないんだけど」
俺が言ったことで葉山は理解したようだった。
友達のためと言いながら、葉山は一人で謝ってきた。この場合は三浦が謝るべきなのに、そうはしなかった。
その時、生徒達の後ろからある男の声が聞こえてきた。
「何だか、楽しそうなことになっているな比企谷」
俺が声のした方に目を向けると、そこには黒いロングコートを着た三人がいた。